シャッフルワールド!!

夙多史

間章(3)

 儚げに漂う白の球体は、〝彼女〟の通るべき道を指し示すようにぼんやりと輝いていた。
 どのくらい進んだだろう?
 たった一秒のような気もすれば、もう一ヶ月近く歩いているような気もする。
 ここは〝彼女〟の精神世界。距離や時間という概念はあってないに等しい。体感的な時間感覚も曖昧である。
〝彼女〟は歩く。
 ただしこれはイメージに過ぎない。
 実際の肉体は『どこでもない場所』に存在している。
 そこから世界を越える。
 次元を渡る・・・・・
 周りの球体は〝彼女〟が経験した世界の象徴。
 その〝思い出〟の数だけ〝彼女〟は世界を渡ってきた。
「上手く、辿り着ければいいけど……」
 異変を感知した世界の、その時間軸へ。
 そもそも、無数に存在する世界において時間は均一ではない。世界同士の繋がりがあるならば別だが、そうでなければそれぞれ時間の流れる速度は違ってくる。
 とある世界からとある世界に渡り、そこで一日を過ごして元の世界に戻ってみれば百年が経過していた、ということも珍しくない。だからこそ〝次元渡り〟の能力者たちは、自分自身を渡った世界との接点とすることでその時差を埋めている。つまり一度渡った世界であれば、たとえそこより数百倍の速度で時間が流れる次元にいたとしても、戻った時には〝彼女〟たち自身に経過した分だけの時間軸に出現することができる。
 だからと言って、時間軸を自由に選択できるわけではない。
 過去や未来も一種の異世界だが、次元の壁と時間の壁は全く違う。次元の広がりを横方向とするならば、時間は縦方向。〝時渡り〟はまた別の異能だ。
 そういえば、どこかの世界に似たようなお伽噺が伝わっていた気がする。確か亀を助けた男性が海底の楽園に招かれる話だったはずだ。
 それはどこの世界だったか?
 思い出せない。
 けれど、とても懐かしい感じがする。
「……急ごう」
 異変が起こっているのは、その懐かしい場所だった。
 僅か一年半の記憶しか持たない〝彼女〟にとっては、知らないはずの場所だったのだが……。
「あの時感じた魔力……間違いない。今度こそは守ってみせる。簡単に侵せるとは思わないことね――」
 かつて『それら』によって塗り潰された〝思い出〟を嘆きながら、〝彼女〟は幾度となく討ち倒してきた仇敵の総称を口にした。

「――『魔王』!」

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