クロージングタイム

巫夏希

クロージングタイム


 僕はテレビのリモコンを操作して、テレビの電源を切った。
 時刻はもう午前三時を回った辺り。今日も面白いともつまらないとも言えないラインナップだった。テレビ局のセンスを疑うが、僕は消費者であるからそこまで強く言うことはしない。強いて行動に示すなら視聴しない、ってことだけ。
 去年から視聴率計測を全国全世帯で実施することになって、視聴率の誤魔化しがきかなくなった。それによって長らく二十パーセントを誇っていた高視聴率番組が一気に五パーセント台にさがって打ち切りを余儀なくされたり逆に打ち切りラインギリギリを走っていた番組が実は十五パーセントも数字を持っていて打ち切り回避どころかゴールデンに進出したり――そんな面白い現象が発生している。

「ほんとうにおもしろい……」

 今は、そっちの方が面白い。
 偽りの視聴率から真実の視聴率へ。
 それが、その移り変わりがとても面白い。
 例えばバラエティの人気というのも嘘かもしれないし、ドラマの興隆も嘘かもしれない。今までは機械がある場所だけしか視聴率というのは取れなかったらしいから、解らなかったのだ。
 だが、今は違う。
 全部のテレビに備え付けられた機器。それによって視聴率を計測する。誤魔化しは当然利かない。仮にテレビ局が誤魔化したところで、結局それは視聴者に気付かれてしまう。
 視聴率はテレビ局にとって死活問題だ。スポンサーの継続に繋がるし、新規スポンサーの獲得にも結果的に視聴率は繋がってしまう。テレビ局にとって視聴率は目に見える指標の一つなのである。
 まあ、気持ちも解るけれどね。
 でも、誤魔化しはダメだよ。結局気付かれたら損をするのはテレビ局だ。
 だから、本気で勝負すればいいのに。
 少し昔、本気じゃなければテレビじゃないというのをキャッチコピーにしていた番組があったけれど、まさにその通り。まあ、あまり視聴率は良くなかったと記憶しているけれど。深夜のバカ騒ぎは面白かったのだけれどなあ……。
 ……おっと、もう寝ないとね。
 そう適当に思考を切り上げて、ベッドにもぐって、僕は眠りにつく。
 明日の夜も、どういう番組が面白いか、それを楽しみにしているから。
 さあ、それではまた明日。



 ベッドに眠る少年の絵が徐々に引いていき、中央に白いフォントでロゴが表示される。
 アナウンサーだろうか、聞き取りやすい声で、アルファベット四文字を二回繰り返す。
 そして、アナウンサーは告げた。

「これで本日の放送は終了いたします。それでは皆様、おやすみなさいませ」

 その言葉の直後、画面にはカラーバーが表示された。


コメント

  • ノベルバユーザー598104

    本気になるときはもはや人材も資金もなくなってそう。他分野からの参入が生き残る道かな

    0
  • ノベルバユーザー601496

    人から自分がどう見られるのか、どう振る舞ったらいいのかがよくわかっています。
    面白かったです。

    0
コメントを書く

「文学」の人気作品

書籍化作品