異世界の村で始める獣人とのハーレム生活

りょう

第28話生きて

 痛みは感じなかった。あれほどの大きさの木が倒れてきたのだから、もしかしたら即死だったのかもしれない。


「……ってあれ?」

 と思ったのだが、一度閉じた目は何事もなかったかのように開かれた。そして目の前にあるのは地面。誰かが突き飛ばしでもしたのだろうか。

「フォルナちゃん! しっかりして、フォルナちゃん!」

 モカの涙混じりの声が聞こえる。俺は身体を起こして声がした方を見た。そこには大木の下敷きになっているフォルナの姿が!

「フォルナ!」

 俺は急いで彼女の元に寄り、大木を何とか動かそうとする。

「カエデ、フォルナちゃんが」

「分かってる。モカも手伝ってくれ」

「はい!」

 モカの手も借りて何とか大木をどかす事に成功する。肝心のフォルナは、意識を失ってはいるものの、息はある。ただし問題があるとしたら……。

「足が……」

 初めて戦ったときに負わせた傷が更に悪化してしまっている。それどころかこのままだとフォルナの足は、

「い、急いで村に運びましょう!」

「ああ」

 二人で何とかフォルナを担いで元来た階段を上る。ここに来るまでそれなりの段数があったので、もしかしたらかなり体力を消耗する事になるかもしれないが、今はそんな事は気にしない。

「くそ、どうしてこんな事に」

「今は気にしていては駄目です。とにかく今は急いでフォルナちゃんを……」

「待ちたまえそこの二人」

 運び始めてすぐ、聞き覚えのある声が聞こえる。だが俺は立ち止まらない。

「無視とは大したものだな。娘を怪我させた張本人が、よくものうのうとそんんな事ができる」

 俺達 の背後に現れたそいつは、矢を一つ俺達に向けて放ってきたが、何とかすんでんのところで避ける。

「モカ、急ぐぞ。このままだと俺達も危ない」

「誰なんですか、彼は。娘とか言っていましたけど」

「事情は後だ。とにかく急ぐぞ」

 それでも俺達は歩みを止めず、この階段を駆け上がる。このまま止まっていたら何をされるか分からない。というかここ、フォルナしか知らないはずじゃ。

「逃すわけにはいかない!」

 とにかく今は逃げなければ。逃げて何としてもフォルナを……。

「うっ」

 足に矢がかすめる。当たらなかっただけましだが、このままだと逃げるスピードが遅くなってしまう。

「カエデ、大丈夫ですか?」

 前で担ぐモカが心配する。

『大丈夫、それより敵が近くまで来ているから急げ」

 階段を駆け上がる事数分、何とか遺跡からの脱出に成功。だが敵が迫っている以上、ここで止まっている暇もない。

(何とかなる方法はないのか?)

 助けを呼ぼうにもまだ村までは距離がある。おまけに駆け上がってきた事もあり、俺もモカも体力の限界が来ている。

「とりあえず一旦隠れるぞモカ」

「はい!」

 とりあえず体力の回復と敵に見つからないようにするために、入口から少し離れた所にある洞窟に身を隠す事にする。

「このままだと絶対危ないよな……。早くなんとかしないと」

 フォルナとと一緒に無事に帰還するための俺 達の戦いは、まだ先が長い。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 洞窟で身を隠すこと数十分。意識を失っていたフォルナが目を覚ます。

「よかったフォルナちゃん! 目を覚ましてくれたんですね」

 それに気がついたモカが真っ先に飛びつく。とは言っても相手は怪我人なので、控えめになっている。

「ここは……。私は確かカエデを助けて……」

「あの後俺達がお前を運んできたんだよ。またあいつらが俺達を攻撃してきたから」

「あいつらって、まさか……」

「お前の元仲間だよ。攻撃してきたのは族長だけどさ」

「カエデ、その怪我は?」

「矢が少しかすめただけだから大丈夫だ。それよりさ……俺を庇ってまで助けてくれて、ありがとうなフォルナ」

 意識を取り戻したことに一安心した俺は、恥ずかしながらも礼をフォルナに言う。

「カエデ……なんか気持ち悪い」

「なっ人が礼を言っているのにそれはないだろ!」

「か、カエデ声が漏れてしまいますよ」

 とりあえず、心配事は一つ消えたので次の問題をどうするか三人で考える。

「流石にしつこく探しているとは思えないけど、油断はできないよな」

「あいつらは何をしてくるか分からない」

「お二人とも怪我をしていますから、急ぐわけにもいきませんからね」

「俺は構わないんだ。それよりフォルナだよな」

 先程確認したのだが、やはりフォルナは歩く事はおろか、立ち上がる事もできないほどの重症だった。馬にとっては足は重要なのに、俺なんかのせいでフォルナが……。

「そういえばモカは、昨日戦っていた時と同じくらいの速で移動ってできるのか?」

「勿論できますよ。その為の足ですから」

「じゃあ今からポカルミに戻って、ルチリア達を呼んできてくれないか?」

「分かりました。その間お二人は?」

「ここに隠れている。だから頼んだぞ」

「はい」

 とりあえず助けを呼びにモカを向かわせる。その間俺とフォルナは二人きりなのだが、フォルナは足の痛みを堪えているのかほとんど喋らない。

「なあフォルナ、一つ聞いていいか?」

「何」

「どうしてあの時、俺を庇ってまで助けてくれたんだ」

「……気がついたら体が勝手に動いてた」

「それだけか?」

「うん」

 最初は敵だったのに、フォルナがこんな事をするなんて俺は思っていなかった。気がついたら体が動いてた、ただそれだけの理由で彼女の大切なものを奪ってしまうなんて、男として俺は情けない。

「ごめんなフォルナ、俺なんかの為に」

「気にしていない。私がやりたい事をしただけ」

「フォルナ……」

 俺は思った。いつか彼女に恩返しをしなければならないと。そうでもしないと、この申し訳なさはずっと消えずに残る。それだけは嫌だった。

「カエデ」

「ん?」

「生きて」

    だけど突然フォルナがそんな事を言い出したので、俺は彼女の方を見る。

「え?」

「……私は……もう駄目だと思うから……」

 その言葉とともにフォルナは、起こしていた身体ををゆっくりと横に倒した。そして彼女の体からは血が流れ出す。

「フォ……ル……ナ?」

    あまりの突然の事で言葉を失ってしまう。

(誰が……こんな事を)

「我々にとって足を失うという事は、事実上の死を意味する。それを理解していなかったようだな」

 背後から声がする。よく見ると血が流れている所には矢が刺さっている。
 いつの間にこんな事を……。

「お前がやったのか?」

「苦しんでいる娘を生かすのは、親としては見ていられないからな」

「ふざけるな!」

 俺は怒りをぶつけながら振り返る。だがそこで待っていたのは、族長だけではなく沢山の兵達。

「何もふざけてはいない。お前みたいな人間がここにいる事自体がふざけているんだ」

 一斉に俺に構えられる弓。くそ、こんな所で俺までやられて……。

「やらせないわよ!」

 万事休すかと思えたその刹那、更に後ろから声がしたかと思うと、何人かの兵が吹き飛んでいくのが見えた。

「ちっ、援軍か」

 敵兵をあらかた片付けたその声の主は、族長と俺の前に立つ。

「遅せえよルチリア」

「これでもハイスピードで来たつもりなんだけどなあ」

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