異世界の村で始める獣人とのハーレム生活
第58話悲しみ乗り越え立ち上がる
千鶴が亡くなった原因は交通事故だった。それも二人でデートしていたあの時。
『待ってよ楓君』
『ったく、そんなに沢山買うからだよ。ほら、信号変わる前に渡らないと危ない……』
最後の会話がそれだったのを覚えている。俺が先に信号を渡り終えて、その後に千鶴が遅れて渡っていたんだけど、丁度買い物の帰りとあって、彼女は手荷物が多くてなかなか歩くスピードが遅かった。かくいう俺も彼女の買い物分を持っていたので、相当な分の買い物をしていた。
(でもその時間さえも、俺には幸せで……)
その時間が失われる事になったのが、何よりもショックだった。
「だから……忘れたかったんだ。あの日、あの時、あの場所での事をなかった事にするために、千鶴の存在を俺の中から消していたんだ」
「私楓が千鶴ちゃんを亡くしてからも、ずっと側にいたから分かるよ。本当は忘れられてなんかいなかったんでしょ?」
「そうかもな」
だからこそ俺は、ルチリアが死んでしまった事が辛い。約束も一生果たせなくなったし、ルチリアのあの声をもう聞けない。何より彼女は、俺の名前の呼び方や声が千鶴にそっくりだった。だからこうして惹かれたのかもしれないし、本当は昔から好きだったのかもしれない。
「カエデ君、部屋から出てきてください。辛いのは分かりますが、私達にはしなければならない事があるじゃないですか。ルチリアさんの為にも」
「分かっているさ。犯人を見つけないといけないのも。でもそうだとしても、ルチリアはもう戻ってこない」
「悲しいのはお前だけじゃないぞカエデ!」
また別の声がする。ポチだ。という事は恐らくミルフィーナも来ているのだろう。
「苦しいのはお前だけじゃないんだ。ずっとあいつと一緒に過ごしてきた私たちだって悲しいに決まっている。それなのにお前一人だけでそんな悲しんでたら、痛みを分け合えることができないじゃないだろ」
「ポチやミルフィーナの方がもっと辛いのは、俺だって分かっているよ。だけど俺は……」
「しっかりしてくださぁい! カエデさんは一人ではないんですよ?」
「一人じゃない……」
千鶴を亡くした時も雫がそうやって声をかけてくれた。そして俺も雫が妹を亡くした時、同じ言葉をかけた。そう、どんなに辛くたって人間一人きりな時なんてない。
(何だよ俺、答えなんて最初から分かっていたんじゃないか)
一人でずっと苦しみ続ける必要なんて、どこにもなかった。千鶴の事だけじゃない。ルチリアの事だって、苦しんでいるのは俺だけじゃない。
そう、俺は一人なんかじゃないんだ。
「なあ雫」
「何?」
「俺さ、千鶴を亡くした時も、そして今もこうして雫が近くにいてくれるのがすごく嬉しいんだ。本当は千鶴がいなくなった時に、すぐに死にたくなった。でも雫は俺をずっと励ましてくれてたよな」
「そんなの当たり前じゃない。楓はずっと私に対してそうしてくれていた。小学校の時から十年以上ずっと。だからあなたが私にそうしてくれたように、私もあなたにそうしてあげたかった」
「……ありがとうな、雫」
「礼なんて言わないでよ。それに今回感謝するべき人は他にもいるでしょ?」
「ああ、そうだな……」
俺はすっかり疲れ切ってしまった体を何とか動かして、ようやく部屋の扉を開ける。
「カエデ君……」
「カエデ」
「カエデさん……」
「三人もありがとう。今の説教、すごく心に響いたよ」
「礼なんて言わないでくださいよ……。ルチリアさんの事は、私や他の皆だって同じ気持ちなんですから」
「そうかもな……」
「カエデ、私はルチリアがいなくなった事を、信じられないんだ……。どうして助けられなかったのか、ずっと後悔している」
「ポチ……」
いつぞやか俺に見せた表情をポチは見せる。彼女はどんな時も強気で、口調も女の子らしいとは言えなかった。でも時々見せるその彼女の弱さは、誰よりも仲間想いだという証拠だ。
「ポチ、俺達で絶対にルチリアの仇を取るぞ。もう悩む必要なんてどこにもない」
「仇って、いいのか楓。戦わない手段を選ぶって決めたのに」
「大切な仲間を奪われたんだ。俺達もそれなりの仕返しはしなければならない。それは他の誰でもない、ルチリアの為だ」
「……そうだな」
俺は皆の元に寄ろうとするが、フラフラしてその場に倒れてしまう。
「楓、大丈夫?!」
「多分ずっと寝ていなかったんだろうな。少し寝かしてあげよう」
「カエデ君、今私が休憩場所に運びますからね」
「本当世話焼けますねぇ。でも、仕方ないですよねぇ」
倒れこんだ俺を誰かに持ち上げられる。俺は最後にその会話が耳に入ったと同時に、意識が闇の中に消えていった。
(ルチリア、俺は絶対にお前の無念晴らすからな)
ルチリアが亡くなって、新たに団結する事になった俺達は、その三日後にポカルミ村に戻って改めてモカのラビリンズ王国の奪還作戦を練る事になった。
今回の鍵になるのは恐らく本に載っていた地下遺跡。それについて載っている本は、モカが保護のために安全に保管している。その中身はどうなっているかは、やはり王家の秘密でもあるので教えられないということ。
「もしかしたらカルマ達が私を狙ってきている本当の理由はそこにあるかもしれませんので、私も徹底的に解析します」
モカにその本の事を任せている間俺達は、来るべき闘いのために今まで以上に訓練をした。その中で俺はルチリアの意志を継ぐために、槍術を徹底的に覚え、雫も僅かながら戦えるようになった。
そしてそれから一ヶ月の時が経ち、
「それは本当なのかモカ」
「はい。本当の狙いがそれならば、私達も早急に動かなければなりません」
俺達の世界を変える革命の第一歩が本格的に始まる。
『待ってよ楓君』
『ったく、そんなに沢山買うからだよ。ほら、信号変わる前に渡らないと危ない……』
最後の会話がそれだったのを覚えている。俺が先に信号を渡り終えて、その後に千鶴が遅れて渡っていたんだけど、丁度買い物の帰りとあって、彼女は手荷物が多くてなかなか歩くスピードが遅かった。かくいう俺も彼女の買い物分を持っていたので、相当な分の買い物をしていた。
(でもその時間さえも、俺には幸せで……)
その時間が失われる事になったのが、何よりもショックだった。
「だから……忘れたかったんだ。あの日、あの時、あの場所での事をなかった事にするために、千鶴の存在を俺の中から消していたんだ」
「私楓が千鶴ちゃんを亡くしてからも、ずっと側にいたから分かるよ。本当は忘れられてなんかいなかったんでしょ?」
「そうかもな」
だからこそ俺は、ルチリアが死んでしまった事が辛い。約束も一生果たせなくなったし、ルチリアのあの声をもう聞けない。何より彼女は、俺の名前の呼び方や声が千鶴にそっくりだった。だからこうして惹かれたのかもしれないし、本当は昔から好きだったのかもしれない。
「カエデ君、部屋から出てきてください。辛いのは分かりますが、私達にはしなければならない事があるじゃないですか。ルチリアさんの為にも」
「分かっているさ。犯人を見つけないといけないのも。でもそうだとしても、ルチリアはもう戻ってこない」
「悲しいのはお前だけじゃないぞカエデ!」
また別の声がする。ポチだ。という事は恐らくミルフィーナも来ているのだろう。
「苦しいのはお前だけじゃないんだ。ずっとあいつと一緒に過ごしてきた私たちだって悲しいに決まっている。それなのにお前一人だけでそんな悲しんでたら、痛みを分け合えることができないじゃないだろ」
「ポチやミルフィーナの方がもっと辛いのは、俺だって分かっているよ。だけど俺は……」
「しっかりしてくださぁい! カエデさんは一人ではないんですよ?」
「一人じゃない……」
千鶴を亡くした時も雫がそうやって声をかけてくれた。そして俺も雫が妹を亡くした時、同じ言葉をかけた。そう、どんなに辛くたって人間一人きりな時なんてない。
(何だよ俺、答えなんて最初から分かっていたんじゃないか)
一人でずっと苦しみ続ける必要なんて、どこにもなかった。千鶴の事だけじゃない。ルチリアの事だって、苦しんでいるのは俺だけじゃない。
そう、俺は一人なんかじゃないんだ。
「なあ雫」
「何?」
「俺さ、千鶴を亡くした時も、そして今もこうして雫が近くにいてくれるのがすごく嬉しいんだ。本当は千鶴がいなくなった時に、すぐに死にたくなった。でも雫は俺をずっと励ましてくれてたよな」
「そんなの当たり前じゃない。楓はずっと私に対してそうしてくれていた。小学校の時から十年以上ずっと。だからあなたが私にそうしてくれたように、私もあなたにそうしてあげたかった」
「……ありがとうな、雫」
「礼なんて言わないでよ。それに今回感謝するべき人は他にもいるでしょ?」
「ああ、そうだな……」
俺はすっかり疲れ切ってしまった体を何とか動かして、ようやく部屋の扉を開ける。
「カエデ君……」
「カエデ」
「カエデさん……」
「三人もありがとう。今の説教、すごく心に響いたよ」
「礼なんて言わないでくださいよ……。ルチリアさんの事は、私や他の皆だって同じ気持ちなんですから」
「そうかもな……」
「カエデ、私はルチリアがいなくなった事を、信じられないんだ……。どうして助けられなかったのか、ずっと後悔している」
「ポチ……」
いつぞやか俺に見せた表情をポチは見せる。彼女はどんな時も強気で、口調も女の子らしいとは言えなかった。でも時々見せるその彼女の弱さは、誰よりも仲間想いだという証拠だ。
「ポチ、俺達で絶対にルチリアの仇を取るぞ。もう悩む必要なんてどこにもない」
「仇って、いいのか楓。戦わない手段を選ぶって決めたのに」
「大切な仲間を奪われたんだ。俺達もそれなりの仕返しはしなければならない。それは他の誰でもない、ルチリアの為だ」
「……そうだな」
俺は皆の元に寄ろうとするが、フラフラしてその場に倒れてしまう。
「楓、大丈夫?!」
「多分ずっと寝ていなかったんだろうな。少し寝かしてあげよう」
「カエデ君、今私が休憩場所に運びますからね」
「本当世話焼けますねぇ。でも、仕方ないですよねぇ」
倒れこんだ俺を誰かに持ち上げられる。俺は最後にその会話が耳に入ったと同時に、意識が闇の中に消えていった。
(ルチリア、俺は絶対にお前の無念晴らすからな)
ルチリアが亡くなって、新たに団結する事になった俺達は、その三日後にポカルミ村に戻って改めてモカのラビリンズ王国の奪還作戦を練る事になった。
今回の鍵になるのは恐らく本に載っていた地下遺跡。それについて載っている本は、モカが保護のために安全に保管している。その中身はどうなっているかは、やはり王家の秘密でもあるので教えられないということ。
「もしかしたらカルマ達が私を狙ってきている本当の理由はそこにあるかもしれませんので、私も徹底的に解析します」
モカにその本の事を任せている間俺達は、来るべき闘いのために今まで以上に訓練をした。その中で俺はルチリアの意志を継ぐために、槍術を徹底的に覚え、雫も僅かながら戦えるようになった。
そしてそれから一ヶ月の時が経ち、
「それは本当なのかモカ」
「はい。本当の狙いがそれならば、私達も早急に動かなければなりません」
俺達の世界を変える革命の第一歩が本格的に始まる。
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