異世界の村で始める獣人とのハーレム生活

りょう

第46話十五年前 開かずの間に眠る力

 人と獣人が手を取り合い始め、長い間の亀裂が解消され始めたと誰もが思っていた。まだ完全な形とは言えないが、ナルカディアの影響は大きかった。
 だがそれも、つかの間の平和でそれから五年後に再び亀裂が生じる事になる。

『今から十五年前、ナルカディアにはある噂が出始めるようになっていたの』

「噂?」

『この地には人々を滅ぼすための凶悪な兵器が眠っているという噂。最初は私もそんなのは嘘だと思っていたし、仮にあったとしても人を滅ぼすような事なんてするつもりはかった』


「その噂は本当だったのか?」

『ええ。この城の地下深くにそれは存在していた』

「もしかしてそれが、例の事件を起こす事になったのか?」

『そう。そしてそれを起こしたのが私なの』

「母さんが?」

 獣王妃アライアが住む城の地下深くには、決して触れてはならぬものがあった。それは決して代々から継がれているものではなく、初めからそこにあってしまったのだ。

『アライア、それは本当なのか?』

『ええ。この城、いいえ、この国が建国される前から海の底には兵器が眠っているらしいの。そしてそこに繋がる扉がこの城にはあるの』

『あの開かずの間と呼ばれている扉か? でもそもそもナルカディアを建国したのはおれ達だ。誰かが意図的にそこに作ったとでも言うのか?』

『それもあり得なくはない話なの。皆がナルカディアに賛成しているわけではないから』

『それはそうだけどなぁ』

 アライアの中では、その話が嘘だとは思えなかった。確かにこの国は人と獣人の架け橋となるため作られたもの。しかしその場所が何故こんな海底の場所なのか。建国を進めていたのは自分ではあるものの、もっと表に出ても良かったのではないかと思っていた。

「誰かがわざとこの海底に作らせるように仕向けて、人を滅ぼそうと企てていたって事か? でもそれと母さんには何にも関係ないはずでは」

『開けてしまったの。その開かずの間を自分の手で。反対されたんだけど、これ以上悪い噂が続くのは嫌だったから』

「じゃあそれが結果的に、十五年前の事件につながって」

『異形の魔物達が世界へと散ってしまった。まだ楓は知らないかもしれないけど、それは確実に世界を蝕んでいる』

「実際俺もこの島で遭遇してしまっている以上、それについては否定できないけどさ。一つ気になっている事があるんだけど」

『どうしたの?』

「母さんが扉を開けた事によって事件が起きたなら、一番危ないのは母さんのはずだ。なのにどうして」

 ナルカディア王国。今から十五年前に滅亡。しかし未だに残されている謎が一つあった。かの惨劇の首謀者と言われているアライアのその亡骸が城の謁見の間にずっと眠り続けている事。
 そして、

「母さんの亡骸がここにあるんだ。それにずっと気になってたんだけど、この城が核と言われている場所なんだろ? なのに、どうしてここはこんなにも綺麗なんだ?」

 全ての元凶とも言われているこのナルカディア城が、未だ建築物として成り立っている事。
 それらが未だに残る謎だった。

 ■□■□■□
 楓がルチリアちゃん達とどこかへ出かけてしまってからしばらくが経つ。私はモカさんと二人で村の留守番になっているのだけれど、何分世界が違うのでなかなか話す事がなかった。

「あ、あのモカさん。何か話をしませんか? なんか静か過ぎるのも寂しいんですけど」

「え、あ、すいません。私も慣れていなくて」

 ずっとこの調子が続いている。私もこんな機会だから、この世界の事を聞きたいとは思っているものの、やはり話題が出てこない状態だった。

「あ、あのシズクさん?」

「シズクでいいですよ。そんな丁寧に呼ばれるような身ではないので」

「でしたら、私の事もモカと呼んでください。今は一人の獣人ですから」

「え、えっと。じゃあモカで」

 楓が言っていたけど、彼女は一国の王女らしい。訳あってこの島に逃げてきたらしいけど、最近よく楓と絡んでいるように見える。

「えっと、シズク。私から一つ聞いてもいいですか?」

「私あまり答えられる事ないけど」

「か、カエデの事についてなんですけど。シズクは知っているのですか、彼が獣人の血も継いでいて、元はこの世界の出身だって事を」

「え? えっとそれは」

 以前その話は楓自身から聞いてはいたものの、本人は信じていなかったようだし、私もそんなのは嘘だと思っていた。

(でもどうしてその話をモカが?)

「もしかして本当にカエデはそうだと言いたいの?」

「その様子だと聞いたけど、信じてはいないみたいですね。でもそれは真実なんですよ。それを彼は今日確かめに行っています」

「そんな……。でもどうしてそんな事が言い切れるの?」

「彼の目、気にした事ありますか?」

「目?」

 そういえば目が悪いからコンタクトしているとかそんな話をかなり前に聞いた事がある。でもそれと、いったい何の関係が。

「カエデの目は実は私達と同じ色をしているんですよ。それを何か特別なもので隠しているようですが」

「同じ色って、その緑色の事? そんな馬鹿な」

「何も知らなかったあなたにとっては、残酷な話かもしれませんが、紛れも無い事実です」

 私は言葉を失った。今までずっと側にいてくれた彼が、人ではないだなんてそんな話、簡単に受け入れられるようなものではない。でもどうして楓も同じように知らなかったのだから、私以上に苦しいはず。

「楓はその話を……受け入れられるのかな」

「彼は今恐らく自分の母親と会っています。そこで彼は、その話以上の事を受け入れなければならないんです」

「この話以上の事?」

「そうです。彼の母親は……」

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