異世界の村で始める獣人とのハーレム生活

りょう

第45話二十年前 歴史が変わりし時

 物語は遡る事二十年前。ナルカディアでは人と獣人の血を継ぐ一人の子が生まれた。

 名はカエデ。

 母親のアライア、父親の花村紅葉。その名の通り母親は獣人であり、父親は偶然この異世界へやって来てしまった人間だった。二人の出会いはそれよりさらに数年前になるのだが、それはまた別の機会に。

『コウヨウさんは、わたしが獣人でありながらも、分け隔てなく接してくれたの。この世界に同じように人間がいるという話は知っていたけど、皆私達のことを嫌っていた』


「でも俺の父さんはそもそも住んでいる世界が違ったから、そんな事情も知らなかったって事だな」

『そうよ』

 まるで今の自分のようだと俺は思った。この世界に来てだいぶ経つが、未だにそういう毛嫌いするような事は一度もないし、事情を知ってからもそんな気は一度も起きていない。

(カグヤさんはそういう確信がどこかにあったんだろうなぁ)

 だからこの場所へ俺を呼び、あんな事を頼んできたのだろう。

「でもこの世界で人間と獣人の隔たりが起きたのって、その十五年前にこの都市が起こした事件がキッカケだって聞いてたけど」

『いいえ。それはもっと前からあったのだけど、明るみになったのはその十五年前の事件だった』

 獣人と人との間に子供が生まれたというニュースは、あっという間に世界を揺らがした。昔から存在していた隔たりがようやく解消されたと言うものもいれば、その事実に対して否定的なものもいたと言う。
 だがそれを一つにまとめようとしていたのが、アライアであった。

『皆さん、確かに人と獣人の間には亀裂がありました。しかしここに生まれた小さな一つの命が、その歴史を確かに変えてくれました。私の夫のコウヨウも、変わってくれる事を何よりも望んでいます』

 アライアの言葉は、小さな都市から世界へと伝わっていった。今すぐに変えることは不可能なのかもしれないが、それは新しい始まりの一歩にもなるはずだった。

『名前はカエデにしましょう』

『何かその名前にしたい理由でもあるのか?』

『うーん、たまたま浮かび上がった名前がそれだから、かしら。それともコウヨウには他に案でもあるの?』

『いいや、それでいい。ここまで一番頑張ってきたのはお前なんだからな。名前くらい決めさせてやらないとな』

『何よ格好つけてばっかりで』

 二人がこうして結ばれるまでにも幾多の困難があった。それはやはり人と獣が結ばれるだなんて、常識として考えられなかったからだ。でも二人は諦めようとしなかった。たとえ法律があろうとも、どんなに人に反対されようとも、二人の道は迷う事なく一本道だった。

『でも、ありがとう』


『何だよ急にお礼だなんて。珍しいな』

『こんな私にここまで付いてきてくれて』

『そんなの当たり前だろ。俺はお前が好きなんだから』

『だから、ありがとうって言ったの』

 ■□■□■□
「な、何か新婚ホヤホヤの夫婦みたいだな」

『新婚だもの』

 俺が生まれるまでの話を一通り聞いて、ちょっと俺は引いてしまった。でもその言葉は、そこまで乗り切ってきたからこそのものだったのかもしれない。

(でもきいているこちらとしては、すごく恥ずかしい)

「そういえば俺から聞きたい事があるんだけど、ルチリアって覚えているのか?」

『ルチリアちゃん? もちろん覚えているわよ。よく遊びに来てたもの』

「じゃあルチリアが、そのこのナルカディア出身だったと言う事も?」

『勿論。ルチリアちゃんのお母さんとは、よくお茶会したもの』

「へえ」

 ルチリアの母親が、獣王妃と接触があったと言う事は、彼女もそこそこの金持ちのところの子供だったのだろうか。まあ、それはいいとして。

「じゃあやっぱりルチリアは、事件に巻き込まれて記憶を失くしていたのか」

『ルチリアちゃん、記憶喪失だったの? あ、でもそれも仕方のない事なのかな』

「どういう意味だよそれ」

『だってルチリアちゃんのご両親は……』

 獣王妃であるアライアの言葉は、世界を大きく変えるキッカケとなり、それから数年は人と獣が大きな争いを起こす事は起きなかった。

『私ルチリア。あなたは?』

『僕はカエデ』

 まだ幼かったカエデとルチリアが出会ったのも丁度その頃である。のちにポチとミルフィーナも加わり、仲良し四人組が誕生する事にもなる。

『へえ、じゃああなたがよく取り上げられてた獣王妃様の子供なんだ』

『ジュウオウヒ? 僕詳しくは分からないけど、それお母さんの事なの?』

『そう。カエデ君のお母さんとお父さんはすごい人なの』

『へえ、そうなんだぁ』

 この時まだ幼かったカエデにとって、自分の親の事を詳しくは知らなかった。だから何故自分は他とは全く違うものとして生まれて、瞳の色も違うのかよく疑問に持つ事が多かった。

「俺そんな記憶ないけど」

『覚えてないだけで、私によく泣きついてきたわよ。お母さーんって』

「いや、まだ幼かったんだろうからそれは当たり前だと思うけど」

『でもあなたもそんな生活環境に何年か過ごしているうちに慣れてくれたの。自分はそういう生き物なんだって。それで私も安心していたんだけど、その矢先に』

「例の事件が起きたのか」

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