異世界の村で始める獣人とのハーレム生活

りょう

第42話眠る記憶は苦痛へと②

「二人とも知っていると思うけど、ここは昔魔物の襲撃によって滅びた都市。ルチリアはよく知っているよね」

 都市に入るなりポチは説明を始める。俺は以前ここに来るなりすぐにノイズが頭に走ったが、今はそのような様子もない。

「うん。本で読んだりしたくらいなのよね。二人は知っているの?」

「知っているも何も、私達は生まれている年だよ」

「それはそうなんだけど。私何もその事について、覚えてないんだよね」

「まあそうだろうな。私はしっかり覚えているよ。それはミルフィーナも同じ」

「そうです。そして本来ならルチリアちゃんもぉ覚えていなきゃいけない事なんだよぉ」

「覚えておかないといけない? どういう事?」

 その質問には答えずに歩みを進める。その答えに関しては俺もカグヤさんに聞かされていたけど、多分それは今俺が答えるべきではない。

(こうして見ると、何か懐かしさを感じるような、感じないような……)

 ここが本当に生まれた場所なら、もしかしたら母親の遺品とかも残っていたりするのだろうか。

「カエデ、正面に城みたいのが見えるのが分かるか?」

「ああ、前回来た時もずっと見えてたけど、あえて調べなかったな」

「あそこは王妃様、つまりお前の母親が暮らしていた場所だ」

「つまり俺はあそこで生まれた、って事か?」

「そうなる」

 前回はノイズなり何なりで触れていなかったが、この都市で一番存在感を放っているのが、入口から見ても分かるくらいの大きさの城だ。恐らくこの都市の要となる建物だったのだろう。

(あそこに行けば、真実が見えるという事なのか?)

 ポチ曰く、この後あそこに行くらしいがその前にしなければならない事があるらしい。

「懐かしいなミルフィーナ。私達よくここに遊びに来てたよな」

「うん。ルチリアちゃんもカエデ君も一緒に遊びましたよねぇ」

「え? 私そんな記憶ないし……。カエデ君都市の遊んだ記憶は微かにあるけど、それはここなわけが」

「ここだよ間違いなく。私達にとっても思い出の場所だし、ルチリアにとっても大切な場所だ」

「私にとってって……。それだとまるで私がこの場所で生まれたみたいな」

「その通りじゃ、ルチリア」

 突然聞き慣れた声が聞こえる。

「この声、カグヤさん? どうしてこんな所に」

「ポチに頼まれてのう。妾がお主達の事をよく知っているから、話してやってほしいと」

 建物の陰からカグヤさんが姿を現す。もしかしたら、とは思っていたけど

「わざわざ何で……。そ、それより今言った事はどういう意味なんですか?」

「どうも何も、そのままの意味じゃ。お主は元々この都市に暮らしておった。そこに居るカエデと同様にな」

「私が……ここに?」

 ■□■□■□
「そ、そんな訳ないじゃないですか。私は両親の記憶がないですけど、ここに住んでたならそれ位は覚えているはずですよ」

 カグヤさんから放たれた事実に、ルチリアはただただ戸惑っていた。そうなるとは分かっていたけど、俺はその事を知らされていたので何と声をかければいいのか分からない。

「ど、どうしてカエデ君は驚かないの? 私と一緒に調べたりしていたんだから、少しは私の事を知っているはず。なのにどうして」

「悪いルチリア、その話だけはカグヤさんに少し前に聞かされていたんだ。勿論信じていなかったけど」

「私を騙してたの? 何も隠し事をしていないって言っていたのに」

「ごめん、それだけは俺も嘘をついていた」

 胸が痛む。俺も彼女を騙していたと言われればそれに値してしまう。たとえそれを信じていなくても、俺は彼女に嘘をついていたのには変わりない。

「そんな……。どうしてよカエデ君」

「カグヤさんに黙っていてくれって言われたんだ。二人でいろいろ調べたあの日から数日後に、ルチリアの事がどうしても気になって」

「だからってそんな……!」

「落ち着くんだルチリア。カエデだって好きで黙っていた訳じゃないんだと思う。それに私達の方がずっと騙していたんだから」

「じゃあもしかして私の両親の記憶が無いのって、ここで暮らしていた記憶が無いからなの?」

「そうじゃ。そしてこの都市で起きた災害で生き残ったのは、お主とカエデ、たった二人なのじゃ」

「私とカエデ君が? それじゃあまさか……」

 その言葉が何を意味しているのか、どうやらルチリアも理解してしまったらしく、途端にその場に崩れてしまう。

「私はお父さんもお母さんもいないの?」

「そうじゃ」

「でもお父さんは私にはいた。それもまさか」

「義理、という事じゃ」

 次々と突きつけられていく現実。俺もそれを改めて聞かされ、今すぐここから逃げ出したい衝動に駆られる。でも俺は、少しでも成長しなければならない。

『楓』

「え?」

 どこからか俺を呼ぶ声がする。どこか懐かしいその声に俺はつい声を出してしまう。

「カエデ、どうした?」

「声が……」

『楓、やっと……』

「声が聞こえる……」

「カエデ……君?」

『来て』

 誰かが俺を呼ぶ。俺はその声に誘われて自然と歩き出してしまった。

「どこに行くのじゃカエデ」

「行かなきゃ」

 行かないと。この声が待っているその場所へ。

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