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黄央高校 戦浄録

天坂コーキ

第6話 若き二人の行き帰り 最終話

「……という訳で、無事に戻って来れたんだ」

冷房の効いた会議室の中には、前日に引き続きいつものメンバーとそれにシウンを加えた5人が集まっていた。キスイは彼らに、サキを救い出した経緯を詳しく語った。
最後まで黙って聞いていたミレイは、少し考えてから口を開いた。

「なるほどな。だいたいわかったが、いくつか質問してもいいか?」

「ああ、もちろんだ」

「まず、お前は根の国の管理者とやらになったんだろう?こちら・・・へ出てきても大丈夫なのか?」

「昨日確認した限りでは、すぐにどうこうなる問題ではなさそうだ。管理者の、というか草薙くさなぎの所持者の仕事は罪人の処罰だし、それは昨日全部やってきた。また新たな罪人が溜まるまで、それなりの時間がかかるだろうよ」

キスイが言うと、サキが横で手を上げて発言の許可をとる。

「管理代行をやってた記憶はかなり曖昧あいまいなんですが、基本的にはあちら・・・にいる方たちで何とかできることばかりです。先代管理者であるスサ様が復帰するとも言ってましたので、キスイ君が向こうへ戻る必要はないでしょう」

「ふむ、そうなのか。こちらの我儘であの世が大変な事になっては大問題だからな。キスイ、今から行って確認してきたらどうだ?」

「大丈夫だって言ってるだろ。そんなにお前は俺を追い払いたいのかよ!」

「もちろん冗談だ。次に確認したいのは、そのエンドマークという男についてだな。確かキノミヤ先生は知っていたようですが?」

ミレイが水を向けると、シウンが一歩前へ出る。

「そうね。エンドマークさんは退魔協会の大先輩で、私の命の恩人でもあるわ。彼の能力は魔法の靴を具現化することで、その靴があれば何処へでも行けるというもの。まあ、人間が生きていれらない所はさすがに無理でしょうけど」

そう説明したシウンに向けて、イヅルが問いかけた。

「異界に行けるだけで十分すごい人に思えますけどね。それで、その人はどんな人なんですか?キスイの話を聞いただけでは、つかみどころがなくてよく分からないのですが」

「それがね、私もそこまで詳しくないのよ。退魔協会に入ったのだって、あの人のことをもっと知りたかったって部分もあったんだけど、協会でもあまり会えることはないのよ。いつも世界中・・・を飛び回ってて、ほとんどレアキャラ化してるわ」

「何処へでも行ける靴でしたっけ?そんなのを持ってたら、確かに捕まえることは難しいでしょうね」

「噂だけなら沢山あるんだけどね。恐怖の大王事件を解決したとか、外国の1軍隊を1人で手玉にとったとか。あとはうっかり都市を半分吹き飛ばしたとか、巨大ロボに乗っているとか」

「えっと、それはとてもスゴイ人なんですね」

「いやいやいやいやいや、それは無いだろ。あいつの能力って、何処へでも行ける靴だけなんだろ?そんなのでどうやって軍隊相手にするとかできるんだよ」

キスイのツッコミに、しかしシウンは首を振った。

「それが、どうやら全部に関わっているらしいの。どのくらい真実なのかは分からないけど、その話をしてくれたのは、それぞれが協会の偉い人達なのよ。全部がウソってことは無いはずよ」

「……マジかよ」

キスイが見たエンドマークは、とてもそんなことができるようには見えなかった。
何より、キスイの行動をただ見ているだけで、自分から何かしてはいなかった。

「あいつは、終わらぬ物語を終わらせるのが仕事だって言ってたな。退魔協会って、そんな指示を出してんの?」

「いいえ。協会はあの人を管理するのを諦めているみたい。でも、10年以上前に何か大きな事があったらしくて、それからは大人しくしてるって話よ。さっき言った噂話も、ほとんど昔のやんちゃだった時の話みたいね」

「黒歴史ってことか。ああ、それで大人しくなったのか」

キスイは思い当たることがあって、口の中で小さくつぶやいた。

「キスイ、何か知っているのか?」

耳ざとく聞きつけたミレイが視線を向けるが、キスイは首を振った。

「ちょっとした内緒話をされたんだよ、だから言えない。それに大したことじゃないさ」

キスイは1人で、納得したという顔をしている。シウンはその内緒話が気になっているようだが、何も言おうとはしなかった。
ミレイもそれ以上追求するつもりはないようで、すぐに話を切り替えた。

「それでは、次だ。今回の一連の異変は、もう解決したという認識で間違いないな?」

「根の国がらみのことはそうだな。俺は完全に剣を継承したし、いっちゃんも救出した。イツクシマもニシムラも、もうこちらに手出しはして来ないだろうよ」

キスイの言葉の後に、サキが手を上げてから発言する。

「キスイ君の言った御二方について、少し調べてみました。イツクシマさんは8年前に事故で亡くなっていて、ニシムラさんの方は、14年前に失踪していたようです。恐らく御二方とも死後にその適正が認められて、剣の候補者に選ばれたのだと思われます」

「死してなお世界に繋がれるか。よっぽどの業を背負っていたのだろうな」

「そうね。神に選ばれる人間は、得てしてどこか突き抜けたところを持っているわ。その2人もまた、なにか大きな力を持っていたのかもしれないわね」

「……だとすると中学生の時にアイツらと競ってた俺はどうなるんだよ」

頷きあうミレイとシウンには、キスイのつぶやきは届いていなかった。

――――――

「……さて、そろそろ質問は出尽くしたかな」

およそ10分後、ミレイが言った。

「私からこれ以上質問はないが、他はどうだ?」

ミレイからの問いかけに、イヅルとシウンは首を振った。

「そうか、ではこれで終わりだな。サキ」

「はい、議事録は後で退魔協会の方へも送っておきます」

「うん。それとイヅル、キスイ。浄霊部と風紀委員会へは、お前達から連絡しておくように」

「はい、わかりました」
「了解だ」

「シウン先生には学校への連絡をお願いしたいのですが」

「わかってるわ。任せて」

ミレイは各人を見回して頷いた。

「では、報告会を終了する。お疲れ様でした」

――――――

会議室から出ると、校内はムッとした熱気で満ちていた。
いつものメンバーは生徒会室へと歩き出し、職員室へ向かうシウンと別れる。
クーラーの効いた部屋から出ると、途端に汗が吹き出してくる。

キスイは手でワイシャツの中に風を送りながら、前を歩くミレイに声をかけた。

「さて、異変はこれで片が付いたし、お前もそろそろ終わりじゃないのか?」

「ああ、私もそれを考えていた」

「えっ?いったい何の話ですか?」

ミレイの横を歩くサキが、キスイへ振り返って尋ねる。

「生徒会の話だよ。本当だったら、夏休みに入る前に次の学年へ引継ぎをするはずだったんだ。でも、異変がまだ終わっていないからって、選挙もやらずに続けていたんだよ」

「そういうことだ。元より今回の異変は、我々の因縁でもあったからな。他人に任せることはできないと、強権を発動していたというわけだ。だが、それが片付いた以上、我々がいつまでも居座るわけにはいかない。夏休み明けと同時に、生徒会の解散を宣言することにしよう」

すがすがしい顔で言い切ったミレイ。しかし対照的にサキは、その顔を曇らせていた。

「そうですよね。もう終わりなんですよね」

「どうしたのサキちゃん。終わりって言っても、僕らがいなくなるわけじゃないよ」

「それはそうですけど、でも……」

イヅルのフォローにも、サキはやはり暗い顔のままだ。

「でも、来年はみなさん離れ離れじゃないですか。私はやっぱり、それが寂しいです」

俯いたサキの頭に、手が乗せられた。

「大丈夫だろ。また何かあるたびに、みんなで集まればいいさ。ミレイん家は広いから、たむろするには十二分だろ」

「うむ、そうだな。その通りだ。それに、私もあの家から出るわけではない。家に帰れば、私とはちゃんと会えるぞ」

「僕も時々遊びに行くよ。学校にもさ、こっそり顔を出すかもしれないし」

サキの手をミレイが取り、イヅルが肩に手を置く。
サキは全員の顔を見て、微笑もうとして、失敗した。

「はい、あ、ありがとうございます」

目の縁には涙がたまり、顔は赤くなっていた。

「な、泣くなよサキ。ほらその、だ、大丈夫だって」

「そうだぞ、サキ。私達はいつでも一緒だ」

「みんな、これまでも、これからも、離れたりはしないよ」

「ぐす……そうですよね。はい。あり、ありがとうございます。これからも、よろしく、お願いします」

涙をこぼすサキの様子に、慌ててキスイはタオルを差し出す。

「ほら、これで顔を拭けって。少なくともまだ、俺らが卒業するのは先の話だ。だから、それまで時間はまだある。だから、心配するなよ」

「そうですよね、ありがとう」

サキは渡されたタオルで涙をぬぐい、それからキスイを見上げる。

「キスイ君。これからも、よろしくお願いします」

「お、おう。こちらこそよろしく」

サキは今度こそ微笑むと、タオルを握りしめて廊下を走り出した。

「あ、おい。走ると危ないぞ」

制止の声も聞かず、生徒会室へと向かっていく。キスイもそれを追うように足を速めた。
ミレイとイヅルはその様子を見送ってから、お互いに顔を見合わせた。

「キスイ君!」

生徒会室の前で、サキが振り返る。

「これ、汗臭いから、洗ってから返しますね」

「いや、いいから、そのまま返してくれ」

「ダメです」

サキはそうそう言うと、生徒会室の中へ入ってカギを閉めた。

「なんで!?いいから、ちょっと開けろよ」

「イヤです」

「だからなんでだよ」

「ダメなものはダメなんです」

「だからそれは何でなんだってばよ」

生徒会室の扉を挟んで言い合いする2人を見ながら、ミレイとイヅルは微笑み合う。

「まったく、一気に平和になったものだな」

「そうだね。ハッピーエンドってことで、いいんじゃないかな?」

校舎の外では真夏の日差しが照り付け、木陰では蝉がワシャワシャと絶え間なく鳴いている。
彼らの夏は、まだまだ終わらないようだった。

~黄央高校戦浄禄 完~

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