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黄央高校 戦浄録

天坂コーキ

第6話 若き二人の行き帰り 27

夜の校庭に、色とりどりの光が舞った。
赤、青、緑、黄色。そして眩しいくらいの白。

手持ちの花火に火をつけて、少年少女が笑いあう。

残りが少なくなってきた頃に、3人組の少年達が打ち上げ花火を並べはじめ、そこに2人の少年が加わり、さらに1人の大人が監督に来る。
6人でわいわい言いながら並べる様子を、2人の少女が見守っていた。

「楽しそうだな。みんな子供みたいだ」

倉庫小屋の基礎部分に腰かけて、ミレイが言った。

「ミレイさんも楽しんでますよね?」

「そうか?……うん、そうだな。私も楽しい。これで本当にみんながそろったんだ。こんなに嬉しいことはないさ」

ミレイは隣に座るサキに笑いかけた。サキは自分の胸に手を当てて、ミレイへ微笑みを返した。

「私も、ほんとうに、嬉しいです。今までは、ここ・・にいるのに、どこか遠い景色を見ているような毎日でした。でも、今はもう違います。私は、ここにちゃんといます」

そう言った後、今度は深く頭を下げた。

「ミレイさん。今まで本当にありがとうございました。ほとんど記憶を無くしてた私と一緒にいてくれて、助けてくれて。ミレイさんのおかげで、私はここに居られるんです」

「何を今更言っているんだ、私もお前に散々助けているじゃないか。家事も、生徒会も、会社も、サキがいるから上手く回っているんだ。私こそお前に感謝しているよ」

「そんな。私じゃなくても、できることばかりですよ」

「いや、私にとってはサキでなくてはダメなことばかりだ。感謝していると言うなら、これからも私の力になって欲しい」

ミレイの真摯な言葉に、サキははっきり頷いた。

「私でよければ、お役に立たせていただきます」

「うん、よろしく頼むよ」

「ふふ、それじゃあ、明日はみんなでパーティーでもしましょうか?ミレイさんが大好きな塩味の効いた玉子焼きも沢山作りますよ」

「それは楽しみだな。どうせなら、カツ丼でも作ってみようか?」

「いいですね。じゃあ私がカツを用意しますので……」

「私はまた白米だけ準備すればいいんだな?」

じっとりと汗ばむような闇の中、少女達は楽しげに笑いあう。
それは友人同士というより、姉妹のように仲のいいものだった。

「ところで話は変わるが、戻って来た時、ずいぶんキスイと仲が良さそうに見えたが、何かあったのかな?」

「そ、それは……!」

ミレイが意地悪そうな笑顔で聞くと、サキは顔を赤くして下を向く。

「ほらほら、言ってしまいなさい。私とサキの仲だろう?」

「う……うん、あのね。私が1人に戻ってからのことなんだけど……」


―――――――――

「だから違いますって。この配置だと、ここの次はこっちに火が来ることになるんで、こう並べた方がキレイに見えますって」

メガネの少年ソウジが力説するが、キスイは首を振る。

「いや、デカいのを連続で上げるべきだろ。その方が迫力あっていい」

「僕は順番に大きくなってった方がいいと思うけどな」

「そうですね。ボクもそう思います」

イヅルの意見に、気弱そうな少年トキが賛同する。

「どうでもいいけど、早く並べてくれませんかね?配線がちっとも組めないんスけど」

「こんなに花火同士が近くて大丈夫?燃え移ったりしない?」

ゴーグルを首から下げた少年モモヤが導火線を並べ、唯一の大人であるシウンが注意をする。

自分が作った訳でもない店売りの花火だと言うのに、全員が真面目な顔で議論し合っている。
こちらはまだしばらく、時間がかかりそうだった。

――――――

「――って言われたんですよ」

「ほう、なかなかアイツもやるなあ」

少女達が2人で盛り上がっているところへ、花火をセッティングしている方から、2人の少年が歩いて来た。

「ミレイさん、サキさん。そろそろ打ち上げ花火が始まるよ」

「なかなか楽しそうだけど、なに話してたんだ?」

「内緒です」

「内緒だ」

笑いあう少女達に、少年達は肩をすくめる。

「まあ立ち話もなんだから、座るといい」

「なんでこんな時まで偉そうなんだよお前は」

「まあまあ。とにかく座って待とうよ」

ミレイが場所をずれて、1人分の隙間を開ける。
そこにキスイが座り、反対隣にイヅルが座った。

「先生とモモヤ君達は来ないんですか?」

「あいつらは近くで見たいんだと。先生は監督だから、火から離れられない」

校庭の中ほどで、懐中電灯の光が動いている。
方針はまとまったので、あとはセッティングするだけだ。モモヤが張り切って指示を出しているのが、キスイ達にも聞こえてくる。
時々調子に乗りすぎたのか、シウンの注意が飛んでいるようでもあった。

「なあ、来年はどうするつもりだ?」

キスイが、何気なく問いかけた。
暗闇の中全員が一瞬黙り込み、その言葉の意味を考えたようだ。

「来年ですか?またみんなで花火をやりたいですね。校庭は使えなくても、お屋敷のお庭なら使えると思いますし」

サキの提案に、ミレイが頷く。

「そうだな。どうせなら本職を呼んで、もっと本格的な打ち上げ花火を用意させてもいいな」

「ええ?そこまでしなくてもいいですよ。またみんなで、こんな感じで集まれるだけでいいじゃないですか」

「む、そういうものか?」

張り切ろうとしたところを止められて、ミレイは若干不満げだ。
その横で、イヅルが静かに口を開く。

「僕は来年から役者に力を入れるつもりだから、みんなとはあまり会えなくなるかもしれない。でも、花火には絶対に参加するから、ちゃんと声をかけてよね」

「そうでした、みなさん卒業しちゃうんですよね。ちょっと寂しいです」

「サキよ、大丈夫だ。きっとキスイが残ってくれるさ」

「残らないぞ!ちゃんと卒業するからな!てか俺はもう大学の方から誘いが来てるからな?」

「なんだと!?夏の今まで受験勉強をしていなかったのは、浪人する言い訳のためではなかったのか」

「お、ま、え、は。俺を何だと思ってたんだよ」

「キスイって、意外と文武両道してるんだよね」

「意外とって何だ意外とって。てかイヅル。お前こそ高卒で役者一本に絞っていいのか?」

「もちろん僕も大学行くよ。普通に受験してね。その方がテレビ受けもいいし」

「色々こすい・・・こと考えてるな。ファンが泣くぞ」

「ファンのためにやってることだから大丈夫さ」

イヅルのイケメンスマイルに、キスイは肩をすくめた。

「ミレイも大学へ進むんだろ?」

「もちろんだ。だがそれと並行して、新しく事業を興そうと思っている。この学校での経験を生かした、民間の退魔団体を組織するつもりだ」

「へぇ、マジかよそれ。すごいこと考えてるんだな」

「何を他人事みたいに言ってるんだ。貴様も所属するんだぞ」

「……は?何言ってんだよ。聞いてないぞそんなこと」

「もちろんだ。今言ったんだからな」

得意気なミレイと対照的に、キスイは眉間を指で押さえてうつむく。

「あのなミレイ。お前の横暴は今に始まったことじゃないが、さすがにそれは……」

「サキも運営に参加するぞ」

キスイが視線を送ると、サキは恥ずかそうに頷いた。まさかと思いつつ、そのままイヅルの方を見れば、彼もまた笑って頷いた。

「ミレイさんに頼まれたら、断れるわけないじゃないか」

「と、いうわけだキスイ。卒業後もよろしく頼む」

「もう、勝手にしてくれ」

キスイは顔を両手で覆ってうめいた。

――――――

俯いていたキスイの目の前で、懐中電灯の光が踊った。
顔を上げると、懐中電灯を振りまわしているモモヤが見えた。

「打ち上げ始めまーーーッス!」

元気な声に手を上げて答えると、懐中電灯の光が消えて、校庭は暗闇になった。
夜の校庭には、夏の虫が鳴く声だけが響いている。

無言で見守る4人の前で、小さな光が灯った。
それはすぐに消えたが、次の瞬間、軽い音とともに何かが上空へ放たれた。
眩しい一瞬の閃光が、破裂音ととに散る。

「   」

突然の音に、サキが思わず悲鳴を上げる。
しかしそれは続く破裂音に紛れて、隣のキスイにしか聞こえなかった。
キスイは大丈夫だとでも言うように頷き、サキも恐る恐る花火を見上げた。

軽い発射音は3連続で放たれ、3連続で炸裂する。
それが3度繰り返された後、今度は噴水のような火花が上がり始めた。

「うわあ、キレイ」

3つの火花の噴水が、虹のように輝いている。
その光に、サキは目を奪われていた。

打ち上げ花火ショーは、その後およそ3分ほど続けられた。
牡丹や向日葵の大輪が空に咲き、無数の菊花が闇を照らした。
カラフルな炎が地面から吹き上がり、眩しい光が空から降り下りてきた。

暗い夜空に輝く星々。
それを一瞬見えなくするほどの眩しい光が、色とりどりに咲き乱れる。

少年少女は夏の輝きを、その目と心に焼き付けた。

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