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黄央高校 戦浄録

天坂コーキ

第6話 若き二人の行き帰り 4

ミレイはイヅルに支えられて生徒会室を出た。そして廊下に出ると、イヅルに礼を言って一人で立つ。
イヅルはまだミレイを心配したが、彼女は毅然と首を振った。

「大丈夫だ、もう一人で歩ける。それよりも、退魔師達はどうしている?」

「生徒会室に待機してもらっているよ。稀宮きのみや先生が簡単な説明を始めてくれているから、大丈夫だとは思うけど……今はもう、それどころじゃなくなっているんだよね?」

いつもは穏やかに微笑みをたたえている顔を曇らせて尋ねるイヅルに、ミレイはハッキリとうなずいた。

「そうだ。サキがさらわれた」

「さらわれた!?え?いったい誰に……」

イヅルの言葉が終わる前に、彼のポケットからメロディーが聞こえてきた。
ミレイが手で促すと、イヅルはケータイを取り出す。

「希宮先生からだ」

「これからそっちへ向かうと伝えろ。それと、少々やっかいな問題が起こったともな」

イヅルはうなずくと、窓際へ寄ってからケータイを耳に当てた。
それを見てからミレイも自分のケータイを取り出すと、すごい速さで操作し始めた。

いくつかのメールを確認し、それに対して次々に返信していく。そしてひとつのメールに対して長文を打ち込んでいるときに、イヅルが声を上げた。

「え?影ですか?それって何の……」

ミレイが顔をあげると、イヅルは話しの内容を測りかねているのだろう、戸惑ったような視線を向けてきた。
ミレイが視線で問いかけると、イヅルはケータイを操作してスピーカーモードにする。

『影のような人間よ、それが廊下から入って来たの。どうやら、一階から上がってきてるみたいよ。大して強くないんだけど、数が多すぎるわ。とにかくすぐに合流しましょう。生徒会室まで迎えに行くから待っていてね』

声の主は、やはり教師の希宮シウンである。落ち着いてはいるが普段の教師としての声とは違い、退魔師としての怪異に対する厳しさを含んだものになっている。
そのシウンの声の奥から、退魔師達が何やら騒いでいるのが聞こえる。
影と呼んでいた何かに対する罵声なのだろう。テンション高めの怒鳴り声も混じっているようだ。

ミレイは、彼らと合流するまでにかかる時間とそれから移動する時間を考え、どうすれば一番効率がよくなるか、すぐに答えを出した。

「先生、ミレイです。私たちの方から、すぐにそちらへ向かいます。先生達は目の前の階段を押さえておいて下さい」

「そうね、わかったわ。影は普通の浮遊霊程度だから簡単に倒せるけど、それでも何かあるかもしれないわ。油断しないでね。じゃあ、待ってるから」

ミレイの意図が伝わったのか、シウンはすぐに了承した。
通話が切れると、イヅルはケータイをしまってから数珠を取り出した。
長い紐で結ばれた数珠を左手首に巻き付けてから、その具合を確かめる。

ミレイは自分のケータイで、書き途中だった長文を消してから短く書き直し、送信する。

「ではイヅル。先導を頼むぞ」

「わかったよ。僕のそばから離れないでね」

そう言ってミレイに数珠を巻いていない方の手を差し出した。
ミレイはその手を見つめる。

「必要ないと言ったろ?私はもう一人で歩ける」

「それでも、何かあるかもしれないからね。前を向いてばかりだと、ミレイさんがつまづいた時に助けられないかもしれないから」

何の気負いもなくイヅルは言う。ミレイはその顔を見返し、諦めたようにその手を取った。

「急ぎはするが、引っ張るなよ。まだ走れるほどには回復していないのだからな」

その言葉に、イヅルはもちろんだよとうなずいた。

――――――――

ミレイがイヅルと手をつないで歩きだしてすぐに、前方の曲がり角から人影が現れた。
イヅルは退魔師のか誰かかと思ったが、すぐにそうではないことに気が付いた。なぜならそれは、明確な実体を持っていなかったからだ。

遠目に見れば、そこにいるように見えなくもないが、近づいてくれば、それの向こうが透けて見えることがハッキリとわかる。
それはまさしく、人の形をした薄暗い影だった。

影はこちらが見えているのかいないのか、特に速度を変えることなく早足で向かってくる。
イヅルは立ち止まって真言マントラを口の中で呟きつつ、数珠を手首から垂らした。

影は二人に接触しそうな位置を通ろうとする。イヅルはミレイを庇いながら、避けるように道を開ける。
すると影はすれ違いざまに、二人に向かって手を伸ばしてきた。

イヅルが、やっぱり見えているのかと思う間もなく、数珠が反応して影の手を打ち払う。するとそれだけで、影の手から先が吹き飛んだ。
イヅルがその結果に驚く間もなく、影は破れた水風船のようにその中身を吐き出しながら潰れていった。

あまりにも脆いその影に、逆にイヅルは戸惑った。こんなに脆いものがなぜ存在していられるのか、誰が何の目的でこんなモノを呼び出したのか、様々な疑問が浮かぶ。

「イヅル、行くぞ」

立ち止まって考え始めたイヅルの背中に、ミレイが声をかけた。
イヅルはハッと顔を上げると、ミレイを振り返った。「ごめん」と小さく謝り、再びミレイの手を引いて歩き始める。そして今はミレイを守ることの方が重要だと、気を引き締め直した。

少し歩くと、先ほどと同じ曲がり角からまた影が出てきた。今度は二体いる。
イヅルは真言を唱えると、今度は影が近づく前にそれに向かってたまの一つを弾き飛ばした。
珠は狙いたがわず影の一体を貫きいて消滅させる。もう一体にも同じように珠を打ち出そうとしたところで、その後ろから現れた木刀が貫き壊した。

「大丈夫だった?」

「先生!」

影の後ろ、曲がり角から姿を現したのはシウンだった。

「階段のすぐ下は確保したわ。志島じじま君、五光院ごこういんさんは大丈夫?」

「はい、ミレイさんは怪我は無いみたいなんですが……」

イヅルが話し始めたちょうどその時、ミレイの手の中のケータイが鳴った。

「私だ」

ミレイはノータイムで出ると、そのまま話し始めた。

「……愚か者。そんなわかりきった事を聞くな。それと……ちょっと待て」

ミレイはケータイを手で押さえてから、シウンへ顔を向けた。

「希宮先生、影達がどこから生まれているかはわかりますか?」

その質問にシウンは首を振った。
ミレイはそれにうなずくと、再びケータイに話しかける。

「キスイ、貴様の仕事がはっきりしたぞ…………愚か者。ここには貴様よりよほど頼りになる猛者たちがいる。貴様は、この得体の知れない影の発生場所をつきとめろ…………うむ、どうやらこいつらは下から上がって来ている。一階のどこかの可能性が高い…………まかせたぞ」

通話が終わり、ミレイはケータイを閉じた。

「先生、我々はまた会議室へ戻りましょう。そこに籠城しながら、予定通り一連の事件の説明をします」

「え、それでいいの?外にいるキー君とか、あと、サキさんはどうなったの?」

「それもそこでお話します。どうやら、今年に入って起こった事件は全て仕組まれたもののようです。私もまだ考えがまとまっていませんので、ぜひ専門家の方々の意見をお聞かせ頂ければと思います」

シウンはミレイの言葉を反芻はんすうしてから、イヅルを見た。

「君も、それでいいのね」

「はい、恥ずかしながら僕には何が起こっているのかさっぱりです。だから、そういう時はわかっている人の言葉に従うことにしています。もちろん、僕はミレイさんのことを信頼していますし」

イヅルはそう言い切ってからミレイを見ると、ミレイはそれにうなずき返した。

「先生、いま我々のすべきことは、現状の確認と情報のまとめ直しです。脱出するのは後でもできます。悩むのは会議室へ行ってからにしましょう」

ミレイの提案に、シウン悩みながらもうなずいた。

「そうね、ここでウンウンうなってても仕方ないか。そうと決まれば行きましょう」

シウンはそういうと、2人を先に行くように促した。
ミレイはイヅルの手を離すと、今度はしっかりとした足どりで歩き出した。
しかしその内面では、サキの行方や影の男のことなど、様々な不安が渦巻いていた。

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