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黄央高校 戦浄録

天坂コーキ

黄央第4話 陰の剣 5

見えない何かに租借されたビーズは、一度あつまった後ゆっくりと広がり、形をとり始めた。

それは、まるでCG作成の1段階。白い点のみで構成された『人形ひとがた』だ。

人型は祭壇の上に、上半身だけが乗っていた。
そしてその腕が、祭壇の板を荒々しく払いのける。

呪具やビデオテープが、音を立てて床に落ちた。

コウメが小さく悲鳴を上げて後ずさると、その声が聞こえたかのように、人型が振り向いた。

板が落とされた祭壇は、まるで木枠に囲まれた井戸だった。
深い深い深遠へと繋がる井戸。

そこから、人型が足を持ち上げてずるり・・・と這い出てきた。

祭壇から出ると、人型は床にヒザをついた。
まるで重力の存在に、たった今気づいたかのように。

うずくまる人型から目が離せないコウメの背後から、シウンの声が飛んだ。

「コウメちゃん、今よ!」

「あ、はい!『電位デンイの鎖よ!御身のコンはそこにあり!その身をもってハクを成せ!』」

祭壇に置いてあったビデオテープに、何かがすごい勢いで当たった。

キスイが目を凝らすと、それは青いビーズの玉のように見えた。

いくつもいくつも、はぜるような音が連続して鳴り渡り、ついにビデオテープのケースに穴が開いた。
その穴から、黒いテープが甲高い摩擦音を響かせて、空中へと舞い上がる。

魚の枠を構成していた青いビーズが、次々とテープを引き出していく。

舞い上がったテープは人型へと向かい、束縛するように巻きついていった。

足先から頭へ、そして黒髪のように長く垂れ下がる。
ミイラのように、人の体の線がなめらかに示され、その首の後ろにビデオテープのケースが、イビツな突起として埋もれていた。

「ブブ……おもい……ブッ……からだ……」

喉の部分のテープが震え、ひどくかすれた女の声を発した。

「参の珠術じゅじゅつ依り代縛りよりしろしばり!現世に固定しちゃいましたよ!」

覚悟しなさい!とコウメは見栄を切った。

「ブブ……みにくい……ブブッ……みないで」

テープの女が顔を覆ってうつむくと、髪の毛のようなビデオテープが大きく広がった。
それは意思を持っているように一斉にコウメへと襲い掛かる。

「えっ?」

突然のことに棒立ちだったコウメは、あっという間にビデオテープの髪の毛に包み込まれた。

コウメの四肢に、首に、ビデオテープがきつく巻きついている。

「千住!」

出遅れた!とキスイは歯噛みする。

慣れないレベルでの展開だなんて、言い訳にもならない。
悪心切りあしきりなら、物体こそ切れないが、テープに憑いた意思は切れるはずだ。

キスイがコウメへ駆け寄ろうとした時、その向こうにいるテープの女が大きく悶えた。

「……ああ!こっちを見ないで!」

テープ女の声がはっきり聞こえ、瞬間、首筋に氷を当てられたような悪寒が走った。
キスイは急ブレーキをかけ、後ろを振ろうとしたところで、鋭い声が飛んでくる。

「キスイ!」

シウンの、警告の声。
キスイは先ほど言われたことを思い出す。

(首だけで振り返ってはダメ)

これも呪いの一部だというのなら、目の前のテープ女から、目を離してはいけない。

じくじくと首筋に当たり続ける悪寒と戦いながら、キスイはゆっくりとテープ女に近づく。

「お願い。こんな私を見ないでぇ……」

顔を手で覆うようにうつむくが、コウメを縛るテープはむしろきつくなっているようだ。

キスイはテープの女を視界から外さないようにして、コウメへと伸びているビデオテープへと悪心切りを振り下ろした。

キスイが刃を通したところから先、コウメに巻きついた部分のビデオテープから、黒い煙のようなものが出て行ったように見えた。
そして、古くなって弾力を失ったかのようにボロボロとはがれ落ちる。

「キスイ君……ありがと」

小さく咳き込みながら、コウメが言う。

「お前の仕事は終わりだよ。次は俺の出番だ」

キスイがテープの女を正面に見据えて構える。

「私を……見るなぁ!」

テープの女が叫ぶと、黒い煙のようなものが辺りに立ち込めた。
テープの女がその煙を吸い込むと、より大量のテープが繰り出され、その背後に広がった。

「あの煙みたいなの、いったい何なの?」

「あれは、みんなの負の感情だよ」

コウメのつぶやきに答えたのは、後方にいたイヅルだった。

「恐怖とか、後悔とか、怨恨とか。あの呪いのビデオを見たみんなの負の感情が、結界の外から流れ込んでくるのを感じる」

「結界の外側から!?」

「さすがに深度レベル3で出てきただけのことはあるよ。結びつきがすごく強力になってる」

イヅルが視線をシウンに向けると、シウンはうなずきを返した。

「キスイ、今ならアイツを倒すだけで、みんなを救えるはずだ」

「それが狙いだったのか。わかった、まかせろ」

キスイは悪心切りを構え直すと、距離を測るように少しずつテープの女に近づいていく。

「……見ないで……消して……いなくなってよ」

黒テープのはためく音が聞こえる。
器であるテープが、女の精神を縛りつけている。

「……私なんていなくなればいい……見えなくなればいいい……見たくないんでしょう?いなかったことにしたいんでしょう?」

テープの女に集まる黒い煙が、どんどん濃度を増してゆく。

「……消えてやるわよ……いなくなってやるわよ!……でも、私はずっとあなたたちのことを見ていてやるからね……忘れないわ!」

テープの女の首筋からは、次々とビデオテープが吐き出されている。
まるで黒い煙がテープになっているようで、その量は明らかに、ビデオテープ2本分を越えている。

「あなたたちが忘れても……私は忘れないわ……見ていてやるから……あなたたちのことを……あなたたちのすることを……ずっとずっと……死んでも見ていてあげるわぁ!」

ビデオテープは空間を埋め尽くすように漂いはじめ、キスイの視界からテープの女の姿を覆い隠した。

キスイの首筋に当たる悪寒が、急激に強くなる。

(後ろにいるのか?たった今まで目の前にいたのに。いや、これは奴の呪いのせいだ。振り返ってはダメだ)

目の前を漂うテープに切りつける。
切りつけた周囲は崩れて消えるが、ビデオテープのヴェールは厚く、向こうを見通すことはできなかった。

「くそったれ!ソッコーで切る!」

テープの女がいたはずの方向へ、道を切り開きながら進む。
しかし、切っても切ってもビデオテープの向こうは見えず、テープの女にはたどりつかない。

すぐ近くに人の気配を感じ、その方向へと悪心切りを向ける。
そこには、結界手2人の驚いた顔があった。

「なっ!端まで来てただと!?」

慌てて体ごと振り返るが、そこはやはり、ビデオテープのヴェールに覆われて何も見えなかった。

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