話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

黄央高校 戦浄録

天坂コーキ

間章『お昼休み』

昼休み。
前日にメールで呼び出されていたキスイがドアを開けた時、生徒会室の中にはサキしかいなかった。

「あれ?ミレイ……会長はどこ行ってんの?」

「会長は風紀委員の顧問から呼び出しがありまして、今は職員室にいます」

「そっか。そんなに時間かからないよな」

そう言って、両手に提げた袋を長テーブルに置いてから、ドアを閉める。

「それは何ですか?」

「学食のカツ丼をテイクアウトしてきた。どんぶりを持ち込みしてな。イヅルからのリクエストって言ったら、オバチャンよろこんで大盛りにしてくれたぜ」

その言葉通り、袋の中から大きなどんぶりをそれぞれひとつキスイは取り出した。
できたてのカツ丼は食欲のそそる匂いを小さな部屋に充満させる。

「イヅルもすぐに来るし、先に食っててもいいかな」
「ダメです!」

半ば独り言だったキスイのつぶやきに、サキが間髪いれずに反応する。

「食事はみんなそろってからです。お茶を入れますので、それでも飲んでまっててください」

メガネを光らせ強弁するサキに、キスイは「お、おう」と頷いた。

サキはお茶をキスイに出した後、隣接するテーブルに重箱を積み上げた。

「それ、お前等の昼飯か?すごいな」

「そうですよ。今日はみなさんとの会食とのことで、ミレイさんも張り切っていましたから」

サキは楽しそうにほほえんだ。

「え?それもしかしてアイツが作ったのか?」

「ええ、ミレイさんが作ったのもいくつかありますよ。食べてみたいですか?」

「ああ、ちょっと興味あるな。アイツが料理するとか考えたことなかったからな」

「それならきっと驚きますよ」

そう言うサキの笑顔の中に、キスイはちょっとした何かを見た気がした。

数分後、二人分の話し声とともに生徒会室のドアが開いた。

「やあ、待たせたな。もう準備は整っているな?」

花の舞う風の如く颯爽と、優雅に声を響かせて、黄央高校生徒会長、五光院美麗偉が生徒会室に足を踏み入れた。

「ゴメンな。ちょうどミレイさんと会ったから、ちょっと話し込んじゃったよ」

爽やかな笑顔をたたえて、おだやかな声で謝罪しつつ、浄霊部副部長の志島井弦がその後に続く。

長身の美男美女の二人が話しながら並んで歩くさまは、さぞかし生徒達の目を引いたことだろう。

二人がその部屋に入って最初に目にしたものは、

「おう。もう食ってる。心配するな」

カツ丼を口いっぱいにほおばっている、風紀委員副委員長、大宮騎翠の姿だった。

「ごめんなさい、あまりにもいい匂いだったもので……」

生徒会書記である砂庭咲が、キスイの丼のふたにおかずを取り分けながら謝った。

「遅くなったのはこちらだ。別にかまわんよ。だが」

「わかってるよ。ほら、カツを持ってけよ」

ミレイはキスイを横目で見てから、言った。

「サキ、半分ほど回収しろ」

「半分も持ってくのかよ!?」

丼ごと身を引くキスイに、サキが新たな取り箸を持ちながら笑顔で迫る。

「大丈夫ですよ。代わりにおかずをたくさん持っていっていいですから」

「ならサキさん。僕の分も少し持っていって。僕もそっちの美味しそうだから、食べたいからさ」

イヅルが自分の丼のふたを開け、サキに差し出した。

「イヅル。お前はとりあえず私の隣に来い。キスイはそこでいいからな」

「おい、俺だけ別なテーブルかよ。別にいいけどさ」

不満げなキスイの声など聞こえないかのように、ミレイは食事の準備を始める。
イヅル、サキの準備ができたのを確認し、三人は声を揃えて言った。

「いただきます」

4人の食事は和気藹々としていた。
キスイはおかずを次々と口に運んでは「うまい」を連発し、イヅルもそれに続いて料理の味を褒めた。

「で、けっきょくどれをミレイが作ったんだ?」

「えっと、それは……」

「白米だ」

サキが答える前に、ミレイが言った。

「はく……まい?」

「ん、そのとうりだ。食事の基礎にして主役である白米を、この私がてづから研いで釜に入れて、それからボタンを押したのだ。ま、簡単な仕事だったがな」

「……本当に簡単だな、おい」

あきれるキスイに続いて、イヅルが微笑みながら言った。

「でもそれだけじゃないよね?このタコさんウィンナーとかも、ミレイさんが切ったんだよね?」

「え?マジで?」

「む、まあそうだ。よく分かったな」

「切りかたが違うのがいくつかあったからね。たぶんそうじゃないかなっておもったんだ」

「やっぱりその、私の切りかたは……変だったかな?」

「そんなことないよ。ほら、ちゃんと切れてるよ」

「そうか、よかった」

2人の会話を聞きながら、キスイは重箱にわずかに残ったウィンナーを見る。
そこに並んでいるのは、寸分たがわず4つ足に切られたものだけだが、イヅルがハシでつまんでいるそれだけが、いくつもの足に――おそらく10本あるのだろう――細かく切られていた。

「俺、アレは見てないなあ」

「キスイさん、どうかしましたか?」

「なんでもない」

キスイは口の中に残ったものを、お茶で流し込んだ。

全員が食事を終えたあと、まだお茶を飲んでるミレイに向けてキスイが聞いた。

「聞きたいんだが、俺が呼ばれたのは、カツ丼以外に何か理由があったのか?」

ミレイはゆっくりとお茶を飲んでから、答えた。

「昔からの友人達と食卓を囲みたいというだけでは、理由にならないか?」

「それなら教室でやればよかっただろ。わざわざ他に人のいないここを選んだのはなんでかって聞いてるんだよ」

困ったような、あきれたような表情のキスイを応援するように、イヅルもうなずく。

「そう、僕も気になってたんだ。僕らだけで集まるのって、それこそ子供の時以来じゃないのかな?」

「そこまで深い理由はないのだよ。ただ、ちょっと気になることがあったというだけだ」

ミレイが合図すると、サキは一つのファイルを取り出した。

「最近、校内で霊に関する噂が増えていてな。ここの守護結界の状態などをちょっと業者に調べてもらったのだよ」

キスイとイヅルに、同じ書類のコピーが渡される。
細かい数字や文字がならんでいて、キスイは思わず顔をしかめた。

「“異常なし”ばっかりだけど、何か問題があったのか?」

ミレイは何も言わずに、イヅルに顔を向けた。

「守護結界には異常がない。そう書いてあるけどキスイ、確かに霊関係の目撃情報が増えてるんだ。浄霊部の方でも、生徒からの相談がけっこう来てる。風紀委員の方でも、そういう話があるんじゃないかな?」

イヅルに言われて、キスイはなんとか思い出そうとしてみる。

「たしかに、委員会のメンバーから、“見つけたからなんとかしといた”って言われることは増えてるかもな。そういや、いつもは校外での話が多かったけど、よく思い出してみると最近は校内ばっかかもしれない」

「ようやく、事態が飲み込めてきたようだな」

ミレイは立ち上がり、ロの字型に並んだテーブルの外周をゆっくりと歩き出した。

「なぜこのような状態になっているのか、私達にはわからない。だからこれからも、霊がらみの騒動が増えていくことだろう。もしかしたら、何かしら大変な事態に陥るかもしれない。しかし、それはあくまで可能性の話でしかない」
「学校側としては、そんな不確定なことで授業に支障をきたすことはできないだろう。先ほど風紀委員の担任と話をしてきたが、専門の業者を呼ぶかどうか話し合ってくれるそうだ。だが、すぐに対応するのは難しいだろう」
「だから、それまでは、私達だけで対応するしかない。キスイ、イヅル。お前達には、いつも以上に負担をかけることになる。いつまでかは分からないが、それでも、私を助けてほしい」

ミレイは真剣な顔をしていた。

キスイとイヅルは、力強くうなずき返す。

「ああ、言われるまでもない」

「うん、僕らにまかせてよ」

「わたしも、ミレイさんをお助けします」

メガネを直しながら、サキも答えた。

「ありがとう。みんなと話せてよかった」

ミレイは微笑みながら、自分の席へと戻った。

「さっきの話の続きになってしまうが、守護結界の新たな『はしら』が一つ、近日中に届くらしい。かなり早い対応だが、学校側としても何か手を打ちたかったのだろう」

「一つだけか。こないだの音楽室の事件のアレで、あそこの『柱』も浄霊しちまったみたいなんだよな」

キスイは申し訳無さそうに頭をかく。

「音楽室は、部屋そのものが『柱』だったよね。あの時の悪霊は、柱の力を使って産まれたみたいなんだ。あれは浄霊しなくちゃならないものだったから、しかたがなかったよ」

イヅルのフォローに、ミレイもうなずく。

「もとから音楽室は『柱』としても弱かったのだ。だから新しい柱は別なところに置くつもりだ。音楽室の柱の代わりとしてな」

「大講堂の方はどうするんだ?」

「『騒音ロッカー』ですが、彼はまだ成仏していません」

キスイの疑問に、サキが新しいファイルをめくりながら答えた。

「成仏してない?俺は確かに、ヤツの執着を切り離したはずだぞ」

「なんでかは分かりませんが、彼は今もまだ大講堂にいるみたいなんです。でも前と様子が違うようで、“ヘッドホンをして1人でぶつぶつと何かを言っていた”“自分の世界に入っているようで、周りが全く見えてないようだった”という報告がいくつもとどいています」

「どういうことだ?」

「いままでそんなことはなかった?」

「そうだ。俺が執着を切り離した霊はみんな、いつの間にか成仏していってた。こんなことは初めてだ」

「それも、一連の騒動と関係があるのかな?」

キスイとイヅルは視線を合わせ、お互いに首を振った。
ミレイが手を叩きながら立ち上がった。

「ほらほら、わからないことをいつまでも悩むな。用意する柱が一つで足りたことを喜ぼう。もうすぐ昼休みも終わりになる。全員、自分の教室に戻るぞ」

ミレイの号令で、全員がイスから立ち上がる。
それぞれテーブルを片付けてから、生徒会室から退出した。

「ミレイ。俺はとりあえず委員会のメンバーに改めて注意するように言っておく。俺達はお前の手足だ。お前の望むように動くさ」

「ミレイさん。僕も浄霊部のみんなに言っておくよ。だからミレイさんは、安心してまかせておいて」

廊下に並んだ2人の言葉に、ミレイはうなずいて応える。

「ありがとう。頼りにしてるからな」

キスイとイズル、ミレイとサキは、それぞれ手を振って廊下で別れた。
校庭からは、生徒達の声が聞こえてくる。窓からは、教室棟の廊下を歩く生徒達が見える。

普段どおりの昼休みは、普段どおりに終わりを向かえるだろう。
そして普段どおりの午後の授業が始まるのだ。

その背後に、なにか違うモノを抱えたまま。

「黄央高校 戦浄録」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「現代アクション」の人気作品

コメント

コメントを書く