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黄央高校 戦浄録

天坂コーキ

黄響曲 第二番 後

「それで、トキ君。キミはこの中に何か見えたって言ったよね?」

 イヅルが音楽準備室を目で示して言う。

「は、はい。人がいるのが見えました。多分きのう会った、2年の先輩だと思います。自信ないですが」
「そいつの顔を憶えているんだよね。なら本人で間違いないかわかるよね?」
「えっと、そうなんですけど、顔がなんだかぼやけててハッキリとはわからないんです。なんか間にうすいモヤがかかっているような」

 トキがモヤを手で振り払うようにあおぐと、準備室への扉が押されたようにたわみドアノブが外れた。

「壊れたね」
「え、あの、何が?まさか、僕が?え?」
「トキ君、まあ落ち着いて。君が悪いわけじゃないよ」
「イヅルは落ち着き過ぎだ。ったく、前回も備品を壊したって怒られたばかりなのに」
「扉に触ってないのに、今の僕のせいなんですか?ご、ごめんなさい?」
「予測で謝るなよ。今お前がやったのは、目標に手を触れないで物理的な力をくわえることができるんだ。テレビの特番とかで超能力特集とかたまにやってるのがあるだろ?サイコキネシスってやつだ」

 サイコキネシス、と呟きながらトキは自分の手を見つめた。
 何もないと思っていた自分が、いつの間にか手に入れた力。でもそれは目に見えなくて、信じられなくて。

 顔を上げると、そこには二人の先輩がいる。自分は信じられなくても、この人たちの言うことなら、信じられると思う。トキは自分に小さくうなずいた。
 トキの目の前、鍵を壊された扉が嫌な音をたてて開いた。キスイとイヅルは扉の前から飛びのき、トキは慌ててそれを追って下がった。

 空気が変わった。

 雰囲気という意味だけでなく明らかに変質した。重くなったと表現するべきか、まるで水中にいるような圧迫感がする。
 トキが不安に思っていると、キスイに頭を軽く叩かれた。キスイは自分の後ろを指さし、下がっていろと言うかのようにトキを引っ張った。

(すいません……あれ?)

 トキはキスイとイヅルを交互に見るが、自分の声が届いた様子はない。そして、二人の声も聞こえない。

(何か変です!)

 窓の西日も目の前の二人も、さっきまでとは全く変わらない。普段と違うところは一つだけ。
 音が何も聞こえない。

(あれ?この感じは、昨日の?これって……大変です!)

 トキは、昨日この感覚の後に起こったことを思い出し、慌てて振りかえる。キスイとイヅルは身振り手振りだけで会話をしているようだった。

(やっぱり、この先輩達ってすごいな)

 トキが憧れの目線で二人を見ていると、イヅルの持っている珠が薄く光っているのに気がついた。トキの手の中にあるお守りも同じように光っている。それを強く握りしめた。

(昨日は何もできなかったけど、今日の僕は一人じゃない)

 トキは自分は特別な人間だとは思っていない。むしろ平凡すぎると思っている。自分には、誰かに誇れるような力なんかないと。
 しかしキスイはトキに、自分の力を認めろと言った。トキにチカラがあると言ってくれた。キスイの言葉なら信じれると思った。信じたいと願った。
 だから、

(僕も変われる。やってやるんだ!)

(うるさい!静かにしろ!!)
(ひぇっ、ご、ごめんなさ……え?)

 反射的に謝ろうとして、トキは見た。音楽準備室の扉がいつの間にか開ききっている。

(だから、静かにしろと言っておるのだ!)
(ごめんなさい!って、なんで怒鳴るんだろう。僕らは喋ってなんかいないのに。声が出てないのに)

 薄暗い音楽準備室の扉から姿を現したのは、人に見えない人がだった。

 二年のジャージを来た人間。しかし顔がまるで人物画のように平面的で、しかも強く丸められた紙のようなシワがついている。
 絵の中の口が、シワをのばしながらゆっくりと動く。

(貴様らの、その、ドクドクという音がうるさい)

 絵の顔がトキの方を向いた。シワのすき間に隠された目が、少しずつ開いていく。パリパリという音が聞こえてこないのが不思議なほど、それははっきりと見えた。
 暗い闇から覗く、寒気をもった視線。それがトキの目が合う寸前に、トキの視界が塞がれた。

「あいつの目を見ちゃいけない」

トキの後ろから声が響いた。

(キスイ先輩?)

 キスイが後ろからトキの頭を抱えるように目を塞いでいる。トキの頭の横に、キスイの顔が並んでいるようだ。

「あいつの目を見るな、呪われる。足元を見ながら逃げてろ」

 手が離れ、視界が元に戻る。

(音楽室のベートーベン。言葉が通じるヤツじゃないのは知ってるが、一応言っておく。黄央高校の風紀を乱すヤツは、この風紀委員の大宮騎翠が、お前の『悪心』を切り祓う!)

 キスイが何かを言い、左の拳を握りながら紙の顔に向かって行くのが見えた。振り降ろされたキスイの左手は、紙の顔に届く前に、見えない何かにぶつかって止まった。
 続けて右足を振り上げたが、やはり絵人に当たる前に止まってしまう。それどころか、振り上げたままの足を絵人にしっかりと掴まれてしまった。
 絵人は動けないキスイの目を、皺のよった目で見上げるようにのぞきこもうとした。

(センパイ、危ない!)

 思わず飛び出そうとしたトキの顔の横を、青白い炎が走り抜けた。それは絵人の額に見事に当たり、絵人はキスイの足を放してよろめいた。
 トキが後ろを見ると、イヅルの周囲にいくつもの珠を浮かんでいるのが見える。
 イヅルはキスイと頷きあうと、何かを唱え始めた。浮かぶ珠が八方に散る。それが部屋の床と天井のすみに収まり、光りを発した。
 イヅルが結界を創ったのだ。トキにもわかるほどちゃんとした結界だ。
 結界は淡い存在を明確に浮き上がらせる。結界の中、絵人とキスイの周囲にひらひらしたモノが姿を現した。
 トキには宙を舞うそれが紙に見えた。ただの紙ではなく、音符がいくつも描かれた五線譜だ。
 五線譜が舞うなかで、キスイが腰の左側に手をあて、まるで剣を抜くように大きく振り上げる。すると、キスイの右手に、ひとふりの剣が本当に握られていた。

 五線譜は、絵人を守るように舞っている。
 キスイは剣を左手に持ちかえると、五線譜を気にもせずに絵人へ向かっていった。振り下ろされた剣に一枚の五線譜がひっかかると、周りを飛んでいる紙が吸い付くように剣に巻き付く。そしてキスイの剣は空中に固定されたように動かせなくなった。
 動けないキスイを助けるために、青白い炎を纏った珠が飛ぶ。珠は五線譜を避けて飛び、絵人にぶち当たる。絵人がよろめくと五線譜の存在そのものが薄くなり、キスイは紙を振り落とすことができた。
 それは音がない分、とても淡々とした攻防だった。片方は悪意を断ち切ろうとし、もう片方は悪意を植え付けようとしている。
 キスイはイヅルと連携しなければいけない分、行動に変化を起こせない。
そうトキが気づいた時、キスイの行動が変わった。
 近づく絵人から逃げるだけで、攻撃を仕掛けないのだ。後ろを振り返ったトキはその理由に気付いた。イヅルの珠が尽きたのだ。キスイと絵人の足元に、光りを失った珠がいくつも散らばっている。
 絵人もやがてそれに気付いたようだ。ざらついた笑みを顔に浮かべて、皺のよった口を動かした。

(もう遊ぶ余裕はないようだな。性悪なイタズラ坊主たちのためにフィナーレを奏でてやろう)

 そう告げると、絵人は大きくのけぞり、両手を振り回した。
 絵人の指揮に合わせて無数の紙が舞い始める。それは絵人を包み込み、竜巻のように回り出す。紙嵐の中心で、指揮者である絵人の右手が大きく振られる。五線譜がヘビのように連なって飛び出した。
 自分に向かって螺旋を描きながら飛んでくるそれを切り払おうと、キスイは左腕を振るう。しかし最初の数枚が剣にまとわりつき、後から続く五線譜がすべるように左腕にまきついた。
 五線譜のヘビはキスイを紙嵐に引き込もうと強く引いた。しかしキスイは踏みとどまり、逆に五線譜を引っ張り返す。すると紙嵐につながる紙が一枚破れ、それに続くように左手にまきついた五線譜も剥がれ落ちた。
 キスイは飛びずさって距離をとる。後ろからその様子をハラハラしながら見ていたトキは、キスイの左腕がどこかおかしいことに気がついた。
 そこに見えるのに、存在感が薄い。というより、本当にうすっぺたくなっている。

(センパイの肩が絵になった!)

 キスイが持っていた剣が床に転がった。すぐに拾おうとするが、絵人はそれを許さなかった。
 紙嵐から飛び出る蛇は突然に、そして容赦なくキスイを狙ってくる。キスイはそれを大きく飛んでよけるしかない。次々とせまるヘビを距離をとってよけ続けた。
 よけられ続けることにイラだったのか、絵人は大きく両腕を振り上る。

(これでどうだぁ)

 そして両腕が振りおろすと、五線譜のヘビが猛スピードでキスイに迫った。
 キスイはギリギリで反応し、床を強く蹴って跳んだ。しかしキスイの着地地点に、次の五線譜が来た。
 着地直後で動けないキスイの右足に、五線譜がするりと絡み付く。すぐにそれを振り払うが、絵になった足では自重を支えられず、キスイは左膝をついた。

(うははははは。そこで静かになるがいい!)

 絵人は腕を振り回し、紙が舞うテンポを上げる。すると大量の紙が渦となってキスイに向かって行った。

(危ない!)

 そう思った時にはもう体が動いていた。
 トキは両手を前に突き出す格好で、キスイと五線譜のヘビの間に立ち塞がる。

(止まれ!)

 五線譜のヘビをにらみつけ、ただそれだけを念じる。

(止まれ止まれ、止まれ!)

 向かってくるヘビを、同じくらいの強い力で食い止める。盾となって、押し止める。そう強くイメージしながら、せまり来る五線譜のヘビをにらみ続けた。
 五線譜の蛇がトキの顔に狙いを定め、一気に突き進んできた。そしてトキの前髪に紙の端が届くその寸前、ヘビの頭だけが壁にぶつかったかのようにいきなり止まり、残りが後ろからそれに突っ込んだ。
 ハラハラと紙が床に落ちてゆく。

(僕に、できた?)

 消えてゆく五線譜を、トキは信じられないという顔で見つめた。
 その時、床に散らばっている珠が、淡く光り出した。空間が少しだけ緩んだ。

(まだだ、トキ!あいつの顔を剥がせ)

 背後から、キスイの思念が届いた。

(え、あの……)
(お前ならできる!お前があいつを救ってやれ)

 トキは絵人をみる。顔は絵、おり皺のついた男の顔。でも、体は二年の先輩のもの。
 呪いに捕われて、顔と意志を乗っとられている人。トキは見ている。彼が顔を奪われる瞬間を。あの時は扉という壁があり、トキの力は届かなかった。でも今は、邪魔するものは何もない。

(僕の力は、あの紙を剥がし取れる、取れる、取れる!)

 心の底から強く念じると、絵人の顔の端が歪んだ。紙がゆっくりと隅からめくれていき、その下から人の顔が見えた。

(何をするかぁぁ……!!μ■⇒▲↓▼#】∽)

 絵の下に、本当の顔が半分ほど見えたとき、絵人から言葉にならない思念が発せられた。

(μ■⇒▲↓▼#】∽)

 『呪う』、ただそれだけの意思が半分。もう半分は、嫉妬から来る怨み、そしてやましさ。それを感じて、トキは目を彼――半分は絵、半分は人の顔の――と合わせてしまった。

 目が見えなくなった、そんな気がした。見えているのに理解できない。
音は元から聞こえない。ましてや心など、見えるはずがない。理解できるはずがない。許されるはずがない。終わりだ。何もかも終わりだ。明日は来ない。自分はなんて愚かな生き物なのだ。なんて劣った人間なのだ。
 そもそも他人アイツが悪いんだ。自分はこんなに頑張っているのに、大して努力もせずに自分を追い越していく。
 他人アイツさえいなければ。憎い、憎い、憎い。

 自分は世界と切り離されてしまった。そんな孤独感が全身を支配した。トキは体から力が抜けていくのを感じる。

(失敗した。やっぱり、僕は、僕はダメな人間だった。強くなれない。情けない。せっかく期待してもらえたのに、それに応えることができなかった。足を引っ張ってしまった。情けない。悲しい)

 暗く寒い場所から、誰かの言葉が聞こえてくる。

 オマエのせいで、オマエが悪い。
 オマエが、オマエが。オマエが!オマエが!!

 それは心無い、根拠のない非難の言葉。相手を一方的に悪と決めつける悪意。

(僕は悪くない。僕じゃない!悪いのはオマエの方……っ!?)

 トキが自分への悪意に悪意をぶつけようとしたその時、右手に痛みが走った。
 右手を見ると、握しりしめた手のすき間から淡い緑の光が溢れている。それはイヅルから渡されたお守りの光り。
 トキに悪意をもたずに、何をしたいのか聞いてくれた、そして守ってくれた人達がいた。まだ見放されていない。まだ守ってくれている。許してくれる。
 それはこごえそうだったトキの心に、温かい気持ちを呼び起こした。

(僕は、負けません)

 足に力をいれ、構えなおす。再び戦う意思を持って、両手に念を込める。

(薄っぺらい言葉なんか聞くもんか!僕だってやればできるんだ!そうさ、プリンのフタを開けるくらい簡単だ。剥がれろ!剥がれろ!剥がれろ!)

 絵の顔は大きく歪み、めくれる部分が広がっていった。
 敵に集中しているトキの後ろで、キスイが立ち上がった。無事な右手には、落としたはずの剣、『悪心切り』が握られている。
 キスイは細く短く息を吐くと、絵にされている左手に悪心切りを当てて切り裂いた。
 すっぱりと割れた絵の下から、無事な左手が姿を現す。同じ様に右足を元に戻してから、キスイは正面を向いた。
 絵の顔はしぶとかったが、やる気に満ちたトキの力に抗いきれずについに剥がれた。

 音が空間に戻ってきた。取り憑かれていた二年は倒れ、トキは両膝をつく。
 絵の顔はクシャクシャになりながらも、まだ恨みのこもった目線を向けた。
 目標を達成して力が抜けたのだろう。倒れそうになるトキの肩を、キスイはしっかりとおさえた。

「頑張ったな。えらいぞ」
「はい、先輩達の、おかげです」

 トキは微笑むと、床に膝をついた。キスイはトキから手をはなし、宙に浮く一枚の紙を見上げる。

(わたしぃ、わぁ……)

「泣き事を聞いてる暇はない、さよならだ」

 大きく一歩踏み込んで、絵を貫いた。

(わたし、わ、わた、し、わしわ、だれ)

 悪心切りが刺さった紙から、色だけが空中に固定され、紙は床に落ちる。キスイはポケットから素早く、黒い小ビンを取り出した。
 色は粉のように細かく砕けると、紐状になってひゅるりと小ビンに吸い込まれた。
 すべての粉が吸い込まれたのを確認してから、キスイは小ビンの蓋を閉めた。

◇◇◇


 湿った闇の中、2つの声が玄室に反響した。玄室に灯るロウソクが人影を照らす。

「ここは何ですか?」

 トキが聞いた。
 見た目は天然の洞窟に作られた人工の玄室。小さな部屋の中央には、小さなテーブルくらいの岩が祭壇のように残されている。
 普通の学校の地下に、このような所があるとは誰にも想像できないだろう。

「ここは封じたモノを保管しておく場所だ」
「保管、ですか。なんで成仏させないんです?」
「俺らじゃ、回向えこうなんてできない。プロに来てもらうまで安全に保管しとくんだよ」

 キスイの説明に、トキは頷いた。
 回向とは、成仏待ちの魂達を、冥土へ送る儀式のことだ。輪廻の環を回転させるという意味で回向というらしい。
 キスイは説明しながら、玄室の棚に並んだ色々な道具を次々と手にとる。はた目には区別できないような物達を、これだ、とか、これじゃないとか言いながら、祭壇の上にコトコトと並べていく。
 トキはキスイを後ろから見ているだけだ。

「こんなもんかな」

 祭壇の上には、様々な道具が同心円を描いて並ぶことになった。

「トキ、奴を封じたビンをくれ」
「あ、はい。どうぞ」

 トキがビン差し出すと、キスイは同心円の中央にそれを置いた。

『我等今宇宙に有りし個の一つ、想い巡りて彼は此処に居り』

 そう唱え、ビンのコルク栓を引っこ抜いた。ポン、という小気味よい音を立てて、コルク栓が外れる。
 あ、とトキが思う間もなく、ビンから細いモノがスルスルと出てきた。見ているとそれは、糸玉のように球状になった。

「これは、大丈夫なんですか?」
「ああ。ここなら形をとれない。見たところコイツは“流行はやりモノ”だな」
「流行りものって、あの」
「簡単に言うと、ウワサのお化けだ。霊核は『憑物』で、霊性は『噂』か?あとで確認してもらわなきゃいけないが、そこまで危ないヤツじゃない」

 霊核は知らなかったが、霊性ならトキも習った事がある。

「『噂』は、強悪なものが多いが、漠として消えやすい。です」
「無責任な言葉が集まっただけだからな。でもコイツ……」
「え、あの、何か、あるんですか?」
「あ!そうだ。アイツの『場』は何だかわかったか?」

 キスイの急な話の転換に、トキは少し戸惑った。

「え、場?ですか?多分、停滞だと……」
「わかってたか」
「あの時、骨振動で先輩の声が聞こえましたから。空気が振るえなかっただけかなって」

 骨振動。人の声は波であり、それは骨を伝わり自分の耳に届く。自分の聞いている自分の声と、カラオケなどで聞くマイクを通した自分の声が違うのは、空気と骨とで振動の伝わり方が違うせいである。
 この振動を直接的な接触によって他人に伝えることもできる。耳の不自由な人にでも、この方法なら言葉を届けることができるのだ。

「あ、あの。最後に先輩の心が飛んで来たアレはどういうものだったんですか?」
「あれはイズルがやったんだ。あの珠を通じて、念話テレパスみたいなことができるんだと」

 トキは胸のポケットを探り、イズルからもらった珠を取出した。トキを救ったそれは、大小二つの欠片に割れてしまっている。
 これがなかったら、自分はどうなっていたか、とトキは思う。どちらにしても、役には立てなかっただろうか。
 そんな事を考えていると、トキの手の平からキスイが小さい方の欠片を取り、玄室内にあった小指ほどの小ビンに入れた。

「大きい方は置いていけ。呪いを吸ってる。これで我慢してくれ」

 キスイに小ビンを渡され、トキは割れた珠を、浮いている霊核の下に置いた。トキは両手を合わせ、小さく祈った。
 そんなトキを見ていたキスイが言った。

「トキ、風紀委員会に入る気はないか?」
「え!?そんな…僕がですか!?」

 突然のことに、トキはうわずった声をあげた。

「能力を使いこなす為に教えることが沢山ある。使いこなせれば、お前は強くなれる」

 それに、とキスイは続ける。

「これから忙しくなりそうなんだ。手伝って欲しい」

 キスイにそう言われて、トキはやはり戸惑った。
 自分に、キスイが必要としているような力が本当にあるのか。期待が外れたら、キスイは自分の事をどう思うだろう。
 そう考えた時、キスイに言われた事を思い出した。

『能力を使う為には、まず自分を信じろ』

 今までの、なにもなかった自分ではない。
 役に立てるかどうかはわからないけど、ひとつだけ、自分は『力』をもっているんだ。

「ぼ、僕でいいなら。が、頑張ってみます」

 イズルそう言って頷いた。

第二話  黄響曲  了

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