アカシック・アーカイブ
FILE-14 精魂融合
後ろ足で立ち上がった巨大熊のようなオーラを纏い、恭弥が獣のごとき膂力で単眼の怪物へと切迫する。
精魂融合。
ガンドの術者が己の肉体を極限以上に強化するために使う術式。精霊と呼ばれる霊魂と一時的に合体することでその恩恵を得ることができるのだ。
それは動物であったり過去の英雄であったり、初めから霊体として存在している超常的なモノであったりと様々である。
恭弥はそのいくつかを守護霊として保有している。今回は昔、ロルクに修行と称されてアラスカの奥地に放り込まれた時に懐かれた灰色熊の霊に力を貸してもらった。
「はぁあッ!!」
応戦するため伸びてきた触手を、鋭い爪の形をしたオーラを纏う腕で薙ぎ払う。そして僅かコンマ数秒で肉迫した恭弥の拳が怪物を捉える。
ゴッ!! と。
鈍い音と共に怪物は吹き飛び、その丸い体は壁と激突して跳弾した。
恭弥は飛び上がってタイミングよく怪物を蹴り落とす。床に減り込んだ怪物はなおも触手を伸ばしてくるが、そんなものに捕まる恭弥ではない。
同じように熊爪のオーラで引き裂き、渾身の踵落としを怪物の脳天(?)に叩きつける。
ベゴン!! とさらに床に減り込んだ怪物だったが――
ゔぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!
口もないのに一体どこから叫んでいるのか、底冷えする咆哮を放つと弾かれたように跳躍した。そのまま触手を伸ばして高速回転を始める。
「伏せろ!」
「――ッ!」
恭弥の声にレティシアは反射的に従った。回転する触手が本棚や机を巻き込んで部屋の中をぐちゃぐちゃに掻き乱す。恭弥は姿勢を低くして疾走し、怪物の懐まで攻め込むと身を捻って回し蹴りを放った。
ぶっ飛んだ怪物が壁に叩きつけられる。
今度は跳弾する前に、恭弥は人差し指を向けていた。
「消えろ」
指先から放たれたとてつもない衝撃波が怪物を呑み込み、壁をぶち抜いて建物の外まで吹き飛ばした。
パラパラと、天井から塵が落ちてくる。
「すご……」
一気に静かになった室内で、ぺたんと尻餅をついていたレティシアが呆然とした様子で呟いた。
「黒羽恭弥……予想以上ね。こんなに強いなんて」
そう感嘆するレティシアに、恭弥は怪物がもう襲って来ないと判断してから巨大熊のオーラを解除すると、すっと手を差し伸べた。
「大丈夫か?」
「え、ええ、なんとかね」
「そうか、よかった」
恭弥はレティシアの安否を確認して少し微笑むと、怪物の様子も見るべく外へと駆け出した。
「……」
その背中を目で追うレティシアは――
「やば……やっぱり、『運命の人』……かも」
頬が、僅かに赤く染まっていた。
☆★☆
「おっと、早い早い。もう一体やられたみたいだな」
どこかの学棟の屋根に寝そべっていた幽崎は、召喚した下級悪魔の一体が完全に気配を消失させたことを感じ取った。
「二体目……三体目……ハハッ、この速度は学院側で討伐隊が編成されたわけじゃなさそうだ」
戦闘技能に長けた教師が対応したのか、それとも下級とはいえ悪魔を倒せるほどの魔術師が新入生の中に紛れ込んでいたか、またはその両方か。
「この様子じゃ残り二体も戻って来ねえな。一応情報収集もさせてみたんだが……ま、期待はしてなかったからいいけどよぉ」
ひょいっと体を起こす。
さらにもう一体が倒されたことを感じ取って、幽崎は口の端を嫌らしく吊り上げた。
「いいねぇいいねぇ。楽しくなってきましたよっと! さてそんじゃ、今日はこの辺にして帰って次の遊びでも考えるとすっか」
狂った笑みを浮かべて幽崎は屋根から飛び降りた。五階建ての高さから猫のように軽く着地したところで思い出す。
「あっ、遊び考える前にいろいろ処分しねえといけねえんだった……」
めんどくせーなーと独り言ちつつ、幽崎は自分の部屋のある寮へと帰るのだった。
精魂融合。
ガンドの術者が己の肉体を極限以上に強化するために使う術式。精霊と呼ばれる霊魂と一時的に合体することでその恩恵を得ることができるのだ。
それは動物であったり過去の英雄であったり、初めから霊体として存在している超常的なモノであったりと様々である。
恭弥はそのいくつかを守護霊として保有している。今回は昔、ロルクに修行と称されてアラスカの奥地に放り込まれた時に懐かれた灰色熊の霊に力を貸してもらった。
「はぁあッ!!」
応戦するため伸びてきた触手を、鋭い爪の形をしたオーラを纏う腕で薙ぎ払う。そして僅かコンマ数秒で肉迫した恭弥の拳が怪物を捉える。
ゴッ!! と。
鈍い音と共に怪物は吹き飛び、その丸い体は壁と激突して跳弾した。
恭弥は飛び上がってタイミングよく怪物を蹴り落とす。床に減り込んだ怪物はなおも触手を伸ばしてくるが、そんなものに捕まる恭弥ではない。
同じように熊爪のオーラで引き裂き、渾身の踵落としを怪物の脳天(?)に叩きつける。
ベゴン!! とさらに床に減り込んだ怪物だったが――
ゔぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!
口もないのに一体どこから叫んでいるのか、底冷えする咆哮を放つと弾かれたように跳躍した。そのまま触手を伸ばして高速回転を始める。
「伏せろ!」
「――ッ!」
恭弥の声にレティシアは反射的に従った。回転する触手が本棚や机を巻き込んで部屋の中をぐちゃぐちゃに掻き乱す。恭弥は姿勢を低くして疾走し、怪物の懐まで攻め込むと身を捻って回し蹴りを放った。
ぶっ飛んだ怪物が壁に叩きつけられる。
今度は跳弾する前に、恭弥は人差し指を向けていた。
「消えろ」
指先から放たれたとてつもない衝撃波が怪物を呑み込み、壁をぶち抜いて建物の外まで吹き飛ばした。
パラパラと、天井から塵が落ちてくる。
「すご……」
一気に静かになった室内で、ぺたんと尻餅をついていたレティシアが呆然とした様子で呟いた。
「黒羽恭弥……予想以上ね。こんなに強いなんて」
そう感嘆するレティシアに、恭弥は怪物がもう襲って来ないと判断してから巨大熊のオーラを解除すると、すっと手を差し伸べた。
「大丈夫か?」
「え、ええ、なんとかね」
「そうか、よかった」
恭弥はレティシアの安否を確認して少し微笑むと、怪物の様子も見るべく外へと駆け出した。
「……」
その背中を目で追うレティシアは――
「やば……やっぱり、『運命の人』……かも」
頬が、僅かに赤く染まっていた。
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どこかの学棟の屋根に寝そべっていた幽崎は、召喚した下級悪魔の一体が完全に気配を消失させたことを感じ取った。
「二体目……三体目……ハハッ、この速度は学院側で討伐隊が編成されたわけじゃなさそうだ」
戦闘技能に長けた教師が対応したのか、それとも下級とはいえ悪魔を倒せるほどの魔術師が新入生の中に紛れ込んでいたか、またはその両方か。
「この様子じゃ残り二体も戻って来ねえな。一応情報収集もさせてみたんだが……ま、期待はしてなかったからいいけどよぉ」
ひょいっと体を起こす。
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