アカシック・アーカイブ

夙多史

FILE-93 観戦席

 場所は変わり、総合魔術学院内――探偵部部室。
 探偵部の会議室となっている教室に設置されていた三十二インチのモニターには、恭弥たちが丁度グラツィアーノのチームをやり過ごした映像が表示されていた。

「ふいぃ~、なんとか大将たちは順調に合流してるな」

 画面を食い入るように見ていた土御門が大きく息を吐いて脱力する。白愛も胸を撫で下ろしたが、すぐに画面に映っていない二人のことを考えたらしく眉を寄せた。

「レティシアさんとフレリアさんが心配ですね」
「それもだが、あいつら五人揃うの早過ぎるだろ。もしかしてバラバラになってんのってこっちだけとかじゃねえだろうな?」
「それはありませんね」

 否定したのは人数分の紅茶を淹れていたアレクだ。彼は白愛たちにティーカップを差し出すと、モニターのリモコンを手に取ってチャンネルを変えた。
 バトルフィールドにはいくつもの投映魔道具が飛び交っている。魔力探知機も搭載しているのか、それらはどこかで戦闘が始まると必ず近くの数機が撮影に向かう。一機一機にチャンネルがあり、視聴者が好きなシーンに切り替えて観戦できるようになっているのだ。

「幽崎様が最初に倒された魔法少女風の参加者は一人でしたし……ふむ、やはりどのチームも仲間との合流に躍起になっているご様子。そうなると、恐らくグラツィアーノ氏が転送術式を書き換えたのでしょう」

 グラツィアーノ・カプアは数秘術を得意としている。数秘術とは世界を『数』で構成されていると見做し、それを操作することで事象の変容を齎す魔術である。相手の魔術を解析することで打ち消したり、効果を変えたり、余裕があれば乗っ取ったりもできてしまう。

「強敵は祓魔師の人たちだけじゃないんですね」
「そりゃあ、こんなバトル大会に出るくらいだもんな。腕に覚えのある奴ばかりだろ」

 ただ恭弥たちが学生離れした実力者というだけだ。あくまで学生の領域という点で見ても、土御門じゃ逆立ちしたって勝てない相手はごまんといるだろう。

「てか、さっきのチャンネルどこだっけ? あり過ぎてわけわかんなくなっちまった」

 偶然恭弥たちを見つけたからそのまま固定していたのだが、メモしてなかったのは痛恨のミスだった。とはいえ、戦闘が終わったから投映魔道具も別の場所に飛び去ったかもしれないが……。

 そうやって土御門がテキトーにチャンネルを変更していると――ガラッ。教室の扉が開き、そこから三人の子供たちが入ってきた。

「こんにちは」
「お邪魔します」
「……(ペコリ)」

 薄赤色の髪をした少年と、白い髪の少女、それと茶髪の無口そうな少女だった。孤児院組織〈世界樹の方舟アーク・セフィラ〉の子供たちだ。
 彼らも大会に出場予定だったのだが、いろいろあって棄権することになった。探偵部とは一応協力関係であり、こうして一緒に観戦する約束をしていたのだ。
 ちょっと遅れたのは、彼らが抱えているレジ袋が原因だろう。中身はコンビニのお菓子や飲み物、露店で売られていたジャンクフードといったところか。あとこの旧学棟の位置がわかりづらいのもある。

「ねえねえ、土御門のお兄さん。黒羽のお兄さんたちって今どうなってる? なんかみんなバラバラになってるみたいだったけど」

 レジ袋を机に置いた少年――フェイが興味津々な様子で訊いてきた。どうやら大会の状況は街中のモニターで確認済みらしい。

「大将と幽崎と静流ちゃんは大丈夫そうだな。さっき合流してた。でもレティシアちゃんとフレリアちゃんがまだだから、心配っちゃ心配だな」

 よりにもよって戦闘力バケモノの三人が最初に揃ってしまうとは……運がいいのか悪いのか。レティシアはともかく、フレリアは果たして単騎で戦えるのか不安である。

「未だに私が転移できないところを見ると、お嬢様は無自覚に余裕ぶっこいていらっしゃいますね。お嬢様にかかれば砂漠のど真ん中だろうと氷山の頂だろうと要塞に変えてしまわれますし、しばらく一人を満喫する気でしょう。三日分の食料を平らげなければいいのですが……」

 アレクが溜息をつきつつ、お客さん三人の分の紅茶を淹れ始める。

「それだけ聞くと一番の大物はフレリアちゃんだよな」
「前から思っていましたけど、才能の無駄遣いと言いますか」

 土御門に釣られて白愛も苦笑した。不思議と彼女がピンチに陥るシーンを想像できないから困る。ある意味で凄い信頼だと土御門は思った。

「あの、レティシアさんは?」

 白髪の少女――リノが小首を僅かに傾げて問う。タロットカードの占術があれば割と安全に合流できそうなレティシアだが、どんな状況になっているのかわからないと流石に安心できない。

「レティシアちゃん、レティシアちゃんは……っと」

 土御門はリモコンでチャンネルを目まぐるしく変える。戦闘を行っていなければ発見できないかもしれないが、画面の端にでも映っていてくれればと注意深く観察する。
 だが、そんなに注意する必要はなかった。

「お、いた」
「せ、戦闘中みたいですよ!」

 東の森林地帯に近い荒野のエリアだ。上級生と思われる黒人の男子生徒に追われているようだが――

「う~ん、ピンチ? ってほどでもないか」

 レティシアは逃げながらなにやら面倒臭そうに喚き散らしていたが、逆にそれが大した危機には見えなかった。

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