アカシック・アーカイブ
FILE-87 Battle Start!
『さあ始まりました! 今年度の創立魔道祭における目玉イベント『魔術対抗戦』! 今回の対抗戦は一味違う! 腕に覚えのある魔術師たちが、五人一チームとなって最長三日間のサバイバルバトルを繰り広げるのだ! 参加チーム二十四の内、まず初日を生き残れるのは果たして何チームか!』
学院都市中のモニターに映し出されたスタジオで、司会者の生徒がテンション高く魔術対抗戦の開催を宣言した。
そしてルールの説明や参加チームの紹介、どのチームが優勝するか賭けたギャンブルの状況までマシンガンのごとく口を動かして説明していく。その実に楽しそうな様子はモニターから観戦している人々を熱狂させるには充分以上の効果があった。
画面がスタジオから上空の映像に切り替わる。だがそれは学院都市の上空ではない。森があり、山があり、谷があり、荒野や草原や湖まで、様々な地形を含んだ広大なフィールドだった。
『戦場となるのは学院都市外部にある魔術的な保護が施されたフィールドだ! その範囲はなんとこの学院都市とほぼ同じらしい! 川や森には動物も生息しているから、食料が尽きても三日間程度なら自給自足も問題はないぞ!』
フィールドには監視カメラのように無数の投映魔道具が飛び回っている。今モニターに映し出されている景色はその魔道具の一つが捉えている映像だ。
『もしサバイバルに堪えられなくなっても、魔力結晶を失えば都市に強制転移される仕組みだから安心してくれ!』
魔力結晶は破壊されれば即座に転移、奪われた場合は三分間で所有権が移り変わって敗北・転移する。つまり三分以内に取り戻せばセーフであり、魔力結晶を多く所有しているほど生き残り易い。
一人に魔力結晶を集中させて委ねてもいいが、スタートからそうするチームはいないだろう。
対戦フィールドの紹介が終わったところで、各地から光の柱が立ち上った。
『どうやら選手たちの転移が始まったようだ! まずは自陣を固めるか、それともいきなり攻めに出るか。各チームの動向に注目だ! はい、ここでコマーシャル!』
画面がスポーツドリンクのCMに切り替わり、都市中にブーイングが轟いた。
☆★☆
恭弥が転送された場所は深い森の中だった。
――やられた。
視力が回復して周囲を確認した瞬間に悟った。罠か仕様かは置いておき、開幕の状況は想定していた中でも最悪に近い。
恭弥以外に誰もいないのだ。レティシアも、フレリアも、静流も、もちろん幽崎の姿も気配も周囲にはなかった。
チームがどのような形で開幕するかの事前説明はなかった。だが、参加チケットの護符に刻印されていた術式が対象者を一定距離だけスライドさせるように転移させるものだということは、ある程度の魔術師であれば容易に解析できる。だからこそ参加チームのほとんどが一ヶ所に固まっていたのだ。
しかし実際は違った。いや、参加チケットの術式自体はその通りなのだが、転移中の中継地点に別の術式が仕込まれていた。それがフィールド内に参加者をランダムに転移させる術式だ。
――二段構えだったとはな。
恐らく、バラバラになったのは恭弥たちだけではない。中継地点に術式を設置した以上、全てのチームが同じ条件だ。
まずは逸早く一人でも多くの仲間と合流することが求められる。そしてワイアットの手勢はその辺りの対策を行っているだろう。こうしている今も合流されているかもしれない。
だが――恭弥は制服のポケットから貝殻の形をしたバッジを取り出した。
これは同じバッジを持った味方だけ探知する宝貝だ。この宝貝から飛ばされるソナーは味方以外に逆探知されない仕組みになっている。
――王虞淵の読み通りということか。
ふわっと、なにかが体を通過したような微妙な感覚を恭弥は覚えた。
宝貝はまだ発動していない。近くにいた誰かが探知魔術を発動させたのだ。宝貝のソナーを受信した感覚ではなかったので、恐らく一般の参加者だと思われる。
中国マフィア〈蘯漾〉の邸で宝貝を貰っていなければ、恭弥たちも敵に見つかるリスクを承知で自前の探知魔術を使わなくてはならなかっただろう。
――西に五百メートルってところだな。
仕留めに行くか、無視して合流を急ぐか。
それを決めるのは、まずこちらも周囲に味方がいないか探ってから方がいいだろう。探知範囲内にいれば合流し、いなければ先程の探知魔術を使用した一般参加者を合流される前に討つ。
恭弥は宝貝に魔力を込めた。すると貝殻が淡く輝き、探知の仙術が風のように周囲へ広がっていく。
――いた。
反応が一つあった。南西に七百メートル。この宝貝は探知した相手が誰なのかもわかる。探知魔術を使用した一般参加者の方向へと走っている味方は――
――幽崎ッ!
だった。
学院都市中のモニターに映し出されたスタジオで、司会者の生徒がテンション高く魔術対抗戦の開催を宣言した。
そしてルールの説明や参加チームの紹介、どのチームが優勝するか賭けたギャンブルの状況までマシンガンのごとく口を動かして説明していく。その実に楽しそうな様子はモニターから観戦している人々を熱狂させるには充分以上の効果があった。
画面がスタジオから上空の映像に切り替わる。だがそれは学院都市の上空ではない。森があり、山があり、谷があり、荒野や草原や湖まで、様々な地形を含んだ広大なフィールドだった。
『戦場となるのは学院都市外部にある魔術的な保護が施されたフィールドだ! その範囲はなんとこの学院都市とほぼ同じらしい! 川や森には動物も生息しているから、食料が尽きても三日間程度なら自給自足も問題はないぞ!』
フィールドには監視カメラのように無数の投映魔道具が飛び回っている。今モニターに映し出されている景色はその魔道具の一つが捉えている映像だ。
『もしサバイバルに堪えられなくなっても、魔力結晶を失えば都市に強制転移される仕組みだから安心してくれ!』
魔力結晶は破壊されれば即座に転移、奪われた場合は三分間で所有権が移り変わって敗北・転移する。つまり三分以内に取り戻せばセーフであり、魔力結晶を多く所有しているほど生き残り易い。
一人に魔力結晶を集中させて委ねてもいいが、スタートからそうするチームはいないだろう。
対戦フィールドの紹介が終わったところで、各地から光の柱が立ち上った。
『どうやら選手たちの転移が始まったようだ! まずは自陣を固めるか、それともいきなり攻めに出るか。各チームの動向に注目だ! はい、ここでコマーシャル!』
画面がスポーツドリンクのCMに切り替わり、都市中にブーイングが轟いた。
☆★☆
恭弥が転送された場所は深い森の中だった。
――やられた。
視力が回復して周囲を確認した瞬間に悟った。罠か仕様かは置いておき、開幕の状況は想定していた中でも最悪に近い。
恭弥以外に誰もいないのだ。レティシアも、フレリアも、静流も、もちろん幽崎の姿も気配も周囲にはなかった。
チームがどのような形で開幕するかの事前説明はなかった。だが、参加チケットの護符に刻印されていた術式が対象者を一定距離だけスライドさせるように転移させるものだということは、ある程度の魔術師であれば容易に解析できる。だからこそ参加チームのほとんどが一ヶ所に固まっていたのだ。
しかし実際は違った。いや、参加チケットの術式自体はその通りなのだが、転移中の中継地点に別の術式が仕込まれていた。それがフィールド内に参加者をランダムに転移させる術式だ。
――二段構えだったとはな。
恐らく、バラバラになったのは恭弥たちだけではない。中継地点に術式を設置した以上、全てのチームが同じ条件だ。
まずは逸早く一人でも多くの仲間と合流することが求められる。そしてワイアットの手勢はその辺りの対策を行っているだろう。こうしている今も合流されているかもしれない。
だが――恭弥は制服のポケットから貝殻の形をしたバッジを取り出した。
これは同じバッジを持った味方だけ探知する宝貝だ。この宝貝から飛ばされるソナーは味方以外に逆探知されない仕組みになっている。
――王虞淵の読み通りということか。
ふわっと、なにかが体を通過したような微妙な感覚を恭弥は覚えた。
宝貝はまだ発動していない。近くにいた誰かが探知魔術を発動させたのだ。宝貝のソナーを受信した感覚ではなかったので、恐らく一般の参加者だと思われる。
中国マフィア〈蘯漾〉の邸で宝貝を貰っていなければ、恭弥たちも敵に見つかるリスクを承知で自前の探知魔術を使わなくてはならなかっただろう。
――西に五百メートルってところだな。
仕留めに行くか、無視して合流を急ぐか。
それを決めるのは、まずこちらも周囲に味方がいないか探ってから方がいいだろう。探知範囲内にいれば合流し、いなければ先程の探知魔術を使用した一般参加者を合流される前に討つ。
恭弥は宝貝に魔力を込めた。すると貝殻が淡く輝き、探知の仙術が風のように周囲へ広がっていく。
――いた。
反応が一つあった。南西に七百メートル。この宝貝は探知した相手が誰なのかもわかる。探知魔術を使用した一般参加者の方向へと走っている味方は――
――幽崎ッ!
だった。
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