フィアちゃんとボーパルががんばる短編集始めました

テトメト@2巻発売中!

異世界でサモナー始めました 9


「ふぁ~。ユウちゃんおはよぅ・・・ユウちゃん?」

あれ?ユウちゃんがいません。トイレにでも行ったのでしょうか?
もぞもぞと寝袋とテントから這い出ると、壁の隙間から差し込んだうららかな朝日が部屋を照らして・・・部屋のボロボロさをより強調しています。
このお家は築何十年経っているのでしょうか・・・絶対に建て直した方が良いと思うのですがお金がないのでしょうか?

「あ、おはようソラ」
「ユウちゃんおはよ・・・ぅ?」

あれ?テントから出て服を着替えていたらユウちゃんがテントから出てきました。さっきまでは確実に居なかったと思うのですが・・・まぁ。ユウちゃんですしね。唐突に現れるぐらいじゃもう驚きません。

「服。ありがとぅ。ごさいます」
「ん。気にしなくもいいよ?ワンピースなんて俺着ないし。むしろキツネさん装備以外着ないまである」

ユウちゃんにパジャマ代わりにきていたワンピースを返しました。
滑らかな肌触りの薄い生地で出来たワンピースは着心地も良く、こんなに良い服を着たまま寝袋に包まった所為でシワクチャになってしまってちょっと申し訳なかったのですが・・・シワ1つありませんね。

「そりゃその程度でシワになっちゃったら面倒じゃん?俺なんてここ最近はずっとこの服を着てる着たきりスズメ状態だし、このまんま森に分け入ったり海に出たりしてるけど一切汚れたりシワになったりしてないよ?」
「・・・ちょっと何言ってるか分かんないです」

本日一回目の何言ってるか分かんないです。今日は一体何十回このセリフを言う事になるのでしょうか・・・
それに、よく考えてみればユウちゃんの着ている服は剣で貫かれても穴が開かないんでした。いえ、剣は貫いていたので穴は開いているはずですが、剣を引き抜いたら穴が開いてなかったんです・・・自分で言ってて何言ってるか分かんないです。

「あぁ。おはようございます。今朝食の準備をさせますね」
「・・・あ、いえ。出立の挨拶を・・・あ、あれ~?」

村を出る前に村長さんに一言挨拶をしようと思っていたのに、村長さんを見つけた瞬間に捕まって食堂?リビング?まで連れて行かれてしまいました。
服も食べ物もテントもユウちゃんが謎空間に持ち歩いているらしいのでご馳走になる必要は無いし、どちらかと言えば早く出発して遠くへ逃げたいのですが・・・
・・・ユウちゃんに衣食住どころか私の全てを頼っている現状はなんとかしたいとは思っているのです。思っているのですが・・・安全な場所に着いたらお金を稼ぐ方法を探すことにしましょう。そしてユウちゃんに少しでも恩返しをするんです。

「村の特産のキノコを使ったスープです。お口に合えば良いのですが・・・」

そう言って村長さん自らよそってくれたのは、細く切られたキノコらしきものが浮いているスープでした。
鑑定してみてもキノコのスープとしか書かれていませんが、とりあえず毒は無さそうです。毒キノコでは無いみたいです。

「ん~。いい香りのスープだね。いただきます」
「ぃただきます」

キノコ以外に具が入っていないシンプルなスープですが、ユウちゃんの言う通り良い匂いがします。
なんでしたっけこの匂い。好きな香りではあるんですがなんの匂いだったけ思い出せないです・・・

「あぁ、良かった。実はこのキノコなのですが、村ではよく取れるので子供の頃からみんな美味しく食べるのですが、どうにも村の外の人にはこの独特な香りが苦手な人も多いらしく、ちっとも売れないのです。このキノコ以外に特産と言えるものも無い村にとって特産キノコが外の人に受け入れられないのは寂しくもあり―――」

「「~~~~!!」」

村長さんが何かをずっと喋っていますが、私とユウちゃんはそれどころではありません。
どこかで嗅いだことのある香りのスープだなぁとは思っていましたが、このスープに入っているキノコはアレです!間違いありません!

「しぇ、シェフを呼べー!いや、シェフじゃない。このキノコの販売者を呼べぇい!」
「えぇ!?い、いぇ。この小さな村です。計算が出来るのは私ぐらいなのでキノコの販売も私が行なっておりますが・・・な、なにか。問題がありましたでしょうか・・・?」

突然のユウちゃんの咆哮に村長さんがビクッ!として体を縮めながら「申し訳ありません」と謝っていますがとんでもありません。だってこのキノコはタダのキノコではありません。これは、このキノコは。

「マツタケじゃん!買うよ!むしろ買い占めるよ!在庫を全部もってこ~い!」
「ぜ、全部ですか!?い、いえ。買っていただけるのはこちらとしても助かるのですが・・・在庫全てとなると100本程保管してあるのですが・・・」

「・・・素敵やん?」

マツタケが100本・・・なんと言う事でしょう。それだけで一財産に聞こえます。でも普通は個人で100本も持っていても腐らせてしまうだけですが、ユウちゃんの不思議収納の中では時間が流れないらしいので大丈夫です。
「あったかスープを買ったのに冷めたスープになってたら嫌じゃん?」と説明されたのですが、ちょっと何言ってるか分かんなかったです。分かんなかったけど便利な事は分かったので問題ないです。

「それで?全部でいくらになりそうなの?」

はっ!そうでした。私達はまだこの世界のお金を持っていません。マツタケを買おうにもまずはお金を稼がないと・・・
・・・よく思い出してみたらお城で勇者行為家捜しをして宝物庫やお姫様の部屋を漁って、証拠隠滅に城ごと吹き飛ばした人が知り合いに居ました・・・うん。お金はなんとかなりそうですね。(白目)

「は、はい。特産キノコは1本100Gですので、100本ですと・・・えっと・・・」

1万Gですね。ユウちゃんは1万G持っているのでしょうか・・・

「はぁ?何言ってんの?村長さん俺を試そうとでもしてるの?本当の値段は・・・・・・いくらなのかちゃんと聞かせて欲しいなぁ?」
「ひぃ!す、すみません!1本50Gで結構です!はぃ!」

すっごい直接的に値切ってきました!目を細めて村長さんを睨むユウちゃんからは不機嫌オーラが全開で出ていて、直接睨まれていない私でも体がビクってしちゃいます。直接睨まれている村長さんはドラゴンに睨まれたカエルみたいになってガタガタ震えています。・・・ドラゴンに睨まれているカエルを見たことはありませんが、ステータス差的にはきっと同じぐらいです。

「50Gだぁ?0の数がおかしいんじゃないのか?えぇ?」
「ひ、ひぎぃ!すみませんすみません!で、ですがこ、これ以上はとてもとても!」

哀れ村長さんはドラゴンに踏み潰されたカエルみたいな声を出して更にちっちゃくなっています。
さ、流石に村長さんがかわいそうです・・・私にはユウちゃんのやることを止める権利が無いのは分かっていますが、それでもこれじゃあ値切りでもない唯の恐喝です・・・

「ぁ、ぁの。ぇっとそ、それぐらいで・・・ゎ、わたし村を見てみたいなぁ~って・・・」

む、無理ですぅ!今のユウちゃんに強くなんて言えません!!あぁ!なのに村長さんからすっごい感謝と尊敬の視線を向けられています!まるで勇者を見るような目で見られていますけど人違いです!ヘタレでごめんなさい!

「ん~、それもそっか。これ以上村長と話していても本当の値段を教えてくれなさそうだしなぁ。しょうがないからこっちの言い値で買わせてもらうか。はいよ。数えてくれ」
「は、はぃ・・・」

指を空中でぱっぱと動かして、何処からとも無く小さな袋を取り出したユウちゃんが村長さんの目の前の机にその小袋を投げて寄越すとチャリンと音がしました。
・・・とても硬貨が何百枚も入っているようには見えません。精々50枚ぐらいしか入っていないでしょう。ユウちゃんいくらで買い叩く気なのですか・・・

「ぁ、ぁの。それは流石に・・・」
「こ、これは・・・!」

ユウちゃんを諌めようとした私の言葉を遮って村長さんが大きな声をあげたのでビックリしました。
ビクッとしながら村長さんの方を見ると、その手にはキンピカの綺麗な硬貨が載せられていました。あれがこの世界のお金ですか・・・金貨なんて始めてみました!

「い、1万G硬貨・・・!?そ、それがこんなに!」
「マツタケ1本5000G。100本で50万Gだ。それで良ければウィンドウのOKボタンを押してくれ」

ユウちゃんが村長さんにウィンドウの決定方法を教えていますが、村長さんは自分の手の中にあるお金の重さに手がぷるぷると震えていてそれどころじゃなさそうです。
えっと・・・イマイチこの世界の物価が分からないのでなんともコメントしづらいのですが・・・ユウちゃんはマツタケを安く買うために値切っていたのではなかったのですか?

「な~にを言ってるんだよ。このマツタケには元々1本5000Gの価値があるんだ。それを安く買い叩くなんて事はマツタケの価値を貶める行為なんだぞ?」
「・・・つまり、このマツタケに50万Gの価値があるからそれだけのお金を払ったって事ですか?」

・・・私の方を向いて「あったりまえじゃん!」と叫んで、屈託無く笑うユウちゃんは気づいていません。このお金が哀れみでも施しでも無く。今まで誰も・・・この村の人ですら認めていなかったこの村の特産品のキノコの価値を認め、正当な対価として差し出された物だと知った村長さんが、お金の入った小袋をぎゅっと握り締めながら瞳に光るものを貯めている事を。

「村長さんもこれからはマツタケを100Gなんていうありえない値段で売ったらダメだぞ?100Gで売ったら100Gの価値しかない物になっちゃうんだからな?」
「そう・・・ですね。この村の特産キノコ・・・いえ、”マツタケ”には1本5000Gの価値がある!それを100Gで販売するのはマツタケの価値を。このマツタケに50万Gも払ってくださったあなた様すらを貶める行為に他ならないのですから!」

「お、おぅ・・・なんで急にハッスルしてんのか知らんけど頑張れよ?それじゃあ観光に行くよ~マップ見てたら面白そうなのを発見したんだ~!」
「ぁ。待って・・・」

急に席を外したユウちゃんを慌てて追いかけます。ちらりと様子を伺った村長さんは深く深く頭を下げていました・・・









「・・・で?どうして100Gでいいって言われたのに5000Gで買ったんですか?」
「え?どうしても何も適正価格で買わないと品質落ちるじゃん。どうせ食べるなら美味しいマツタケを食べたいじゃんか。いや~、雑談でリアさんにマツタケの値段を聞いてて良かったぜ~あの村長商人じゃないから交易スキルが無くって適正価格が分からなかったんだな」

「・・・ちょっと何言ってるか分かんないです」

一瞬凄くいい人に見えましたが、ユウちゃんはやっぱりユウちゃんでした。

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