フィアちゃんとボーパルががんばる短編集始めました

テトメト@2巻発売中!

異世界でサモナー始めました 8


「・・・ぁ、ユウちゃん。村が見えてきました。きましたよ?」
「お、そうだな。じゃぁ今日はあそこに泊めさせてもらうことにするか。もうひとふんばりだ。頼むぞイナリ」
「コーン!」

私達が捕らえられていたお城を崩壊させて、恐慌に陥った王都の住人さんたちがぶち抜いた門から悠々と脱出した私達は、街道から外れて人の目が無くなったのを確認してからおっきなキツネさんであるイナリちゃんの背中に乗せてもらい、街道を爆走しています。
前に座っているユウちゃんの腰に手を回してしがみ付きながら走っているのですが、ちょっと怖いです。
バイクや車ほどのスピードは出ていないと思うのですが、前に座っているユウちゃん以外遮る物の何も無い風が私の髪やスカートをバサバサと揺らし、シートベルトも無い状態で上下に跳ねながら走っているのでユウちゃんに捕まる手を少しでも緩めたら吹き飛んでしまいそうなのです。

ユウちゃんは「もし吹き飛んでも捕まえてあげるから大丈夫」と言っていますが、吹き飛んでいる時点でなんにも大丈夫じゃ無いのでしっかり捕まっておきます。
私の腕の中にすっぽり納まる程小さなユウちゃんにしがみつくのはちょっと情けない気もしますが、背に腹は代えられません。ユウちゃんは不安定なイナリちゃんの背中にぴったりと張り付いているように安定感があるのですから捕まらない手は無いのです。
・・・本当になんでこんなに安定しているんでしょう?ステータスの差でしょうか?

「ん~?まぁ、それもあると思うけど、単にまっすぐ走ってるだけだしね。降り注ぐ巨大リンゴを避けながら、鞭の様にしなって襲ってくる枝をいなしつつ、地中から突き刺してくる根っこをかわしながら大木と戦っていた時に比べれば、単に真っ直ぐ走るくらいどうって事ないよ?」
「・・・ちょっと何言ってるか分かんないです」

ユウちゃんは一体今までどんな人生を送ってきたのでしょう?ユウちゃんの過去には不思議がいっぱいです。ユウちゃんの人生を本にして売り出したらベストセラーになりそうなほどバラエティに富んでいます。バラエティに富みすぎて時々ユウちゃんが何言ってるか分かんなくなります。

「カレンちゃん・・・大丈夫かな・・・」
「カレンって言うと・・・あの勝気っ娘でしょ?大丈夫じゃない?指輪は奪ったから強制命令は出来ないし、勇者が半分逃げたから残り半分に逃げられるわけにもいかないから必死で懐柔するだろうし、お城が吹き飛んだから悪巧みする余裕も無いだろうしね~」

・・・ユウちゃんにとっては国家ぐるみどころか世界を股にかけた悪事ですらちょっとした悪巧みぐらいの扱いなんですね・・・まぁ、それを成せるだけの力は既に見せられているので驚きは無く、納得するだけですが。

「でも、お城を壊したのはやっぱりやりすぎじゃ・・・」

今の会話でお城を壊したのはカレンちゃん達のためでもあったことが分かりました。もしかしたら私が気づいていないだけであの行動にはもっと沢山の意味と意義があったのかもしれません。でも、やっぱりやりすぎだと思ってしまうのは私が甘いからでしょうか・・・

「考えが甘いのはソラじゃなくってこの国の上層部でしょ。どう考えても。俺達に手を出したんだから返す手で引っ叩かれるぐらいは当然想定して然るべきなんだよ。撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだってね」

・・・言いたい事は分かりますが、返す手で引っ叩くどころかボッコボコに殴り倒した気がするのは私の気のせいでしょうか?

「道徳的な事を言いたいのならそっちも問題ないよ?だって俺ちっちゃい時に授業で習ったもん。”人の嫌がる事を率先してやりなさい”って」
「・・・ちょっと何言ってるか分かんないです」

確かに私も似たような事を習った覚えがありますが、それは”人に嫌がらせをしなさい”って意味ではなく”大変な仕事は手伝ってあげなさい”って意味だった筈です。ユウちゃんの解釈だと意味が180°変わってしまいます。
・・・まさかユウちゃんの世界だと子供達全員に人に嫌がらせをしなさいと教える訳じゃないですよね?ユウちゃんは今でも小学生か中学生ぐらいなのに、更にちっちゃい時からそんな勉強を教えているだなんて、なんて恐ろしい世界なんでしょう・・・(熱い風評被害)

「よし。村に到着っと。なんというか・・・ボロっちぃ村だな」
「コーン」
「ユウちゃん本当の事でも口に出したら失礼ですよ。それとイナリちゃんはしまってください。村の人がビックリしちゃいます」

月明かりで照らされた村をキョロキョロと見回しているユウちゃんを説得してイナリちゃんを送喚?してもらいました。「村の中は安全エリアだしいっか~」とまたユウちゃんが何言ってるか分かんない事を言っていましたが、考えても分かんないのでスルーして私も村を見回してみます。
明りが乏しいため詳しくは分かりませんが、確かにユウちゃんの言う通りちょっと古ぼけた村のようです。私の腰までも無いような低い柵で申し訳程度に囲まれている村の中に建っている家は全てが木造でちょこっと傾いているような物ばかりです。

「とりあえずどっかその辺にテント張って寝ようか?」
「勝手にテントを張っちゃダメです。宿・・・は無いかもしれないので村長さんのお家を探しましょう」

何かの本で小さな村では村長さんのお家が宿の代わりをしている・・・と読んだ記憶があるような気がします。
どれが村長さんのお家かは暗いせいもありよく分かりませんが、ユウちゃんが奥の方におっきなお家があると教えてくれたのでそっちへ向かいましょう。
・・・村長さんのお家にお風呂はあるでしょうか?実はイナリちゃんに乗っての移動で結構汗をかいてしまってお洋服がベトベトなのです。着替えの服もあるとありがたいのですが・・・

「着替えならここに来る前に押し付けられたのがいっぱい持ってるからあげようか?俺要らないし。というかソラ汗かくのか?凄いな」
「・・・ちょっと何言ってるか分かんないですけど、ユウちゃんは汗をかかないのですか?そっちの方が凄いです」

そう言えば移動中もずっとユウちゃんにしがみ付いていましたが、ユウちゃんから汗の匂いは一切しませんでした。髪も肌もずっとサラサラのすべすべです。羨ましい・・・

「ん。着いたぞ。ここが村長の家じゃないか?村で一番おっきいし。ボロいけど」

たしかにおっきいお家です。これだけおっきければ1部屋ぐらいは貸してくれるかもしれません。

「たのもー!」
「ちょっ!ユウちゃん声が大きいです!それにそれは部屋を貸して貰いにきた時の挨拶ではありません!それでは道場破りです!」

「・・・そういうソラの声の方が俺よりも大きいしセリフも長いんだが?」
「はっ!」

し、失敗しました!ユウちゃんに釣られてつい!はわわわ。どうしましょう。村長さんももう寝てられる筈ですからものすっごい迷惑なお客さんになってしまいました!

「どちらさま・・・でしょうか」
「ひゃぃっ!」

暗闇から突然ぬぅっと現れたやつれた青白い顔の男性に、ビックリして変な声をあげながらユウちゃんの後ろに隠れてしまいました。お、オバ。オバケでしょうか!?異世界では普通にオバケが出歩いていて何物か誰何してくるのでしょうか!?むしろあなたが何者ですかっ!

「えっと。あなたが村長さん?俺達は・・・まぁ、旅の者?かな?んで、用件はこの村に宿屋さんがあれば教えて下さい。無かったら一晩屋根を貸してください」

村長さんでした!村長さん怖いです!あっ、よくみたらお家の扉も開いていました。普通に扉から出てきたんですね。全然気づかなかったです・・・

「旅の方・・・もしかして冒険者の方ですか?」
「冒険者?いや、冒険者では無いよ。ただ、モンスターを倒して剥ぎ取ったドロップ品を売って生計を立てている者だね」

ユウちゃんが冒険者では無いと言った途端暗い表情になりいっそうホラー度が上がった村長さんですが、続く言葉を聞いてなにやらキョトンとした表情になっています。

「・・・それを冒険者と呼ぶのでは無いですか?」
「え?そうなの?じゃあ冒険者です」

ユウちゃんの職業が”じゃあ”で決まってしまいました・・・あれ?これもしかして私もユウちゃんと一緒の冒険者仲間になっちゃったパターンですか?ま、まぁ。同じパーティを組んでいますし、今の所はユウちゃんとずっと一緒にいるので仲間で間違いありませんが・・・
ユウちゃんと仲間・・・なんでしょう嬉しい気持ちと同類扱いされる事への複雑な気持ちがいっぺんに押し寄せてきて変な気分です・・・

「おぉ!遂にこの村に冒険者の方が来てくださったのですね!どうぞ奥へ。狭くてボロボロのみすぼらしい家ですが、部屋だけは余っているのでいくらでも使ってください」
「いや、そんなにいっぱいは要らないんだけど・・・」

キョトンとした顔をとびっきりの笑顔に変えてホラー度が下がった村長さんに案内されてギシギシと軋む廊下を渡り、空いている部屋に案内してもらいました。な、なんだか騙しているみたいで気が引けますが、今更私達は冒険者ではありませんと言える空気でもありません・・・

村長さんは初めは2部屋用意してくれようとしたのですが、お願いしてユウちゃんと相部屋にしてもらいました。
やっぱり、暗闇の中で1人の夜はまだ恐ろしいです。どうしてもあの冷たい地下室の恐怖と絶望が這い寄ってくるのと、良い人だとは思うのですが村長さんも男性です。1つ屋根の下は乙女的にも危険です。その点ユウちゃんと一緒なら完璧に安全です。私達の部屋に入り込もうとする男性が居たら空を飛んで粒子になって消えていく事でしょう。

「・・・ところでユウちゃんはどうして部屋の中にテントをたてているのですか?」
「え?だってこの村は安全エリアだけど噴水が無いからここから再開するためにテントで寝なきゃ」

ちょっと何言ってるか分かんないです。
今日だけでというか今夜だけでもう何回この言葉を言ったか分かんないぐらいですが、やっぱり意味が分からないので仕方ないです。
お風呂は・・・もう疲れ切っちゃったので明日でいいです。汗だけ拭っておきましょう。村長さんに貸してもらったお布団はペラッペラのボロボッロだったので、ごめんなさいしてユウちゃんのテントに入れて貰いました。何故かテントの床の方が村長さんのお布団よりも寝心地がいいのです。

汗や汚れでばっちくなった私服は脱いで、ユウちゃんに貸してもらったワンピースに着替えて、同じく貸してもらった寝袋にもぐりこんで寝る事にします。
服も寝袋も私が使った途端に私にピッタリの大きさへと変化しましたが、もう驚くのも疲れてしまいました。この分は明日驚く事にしましょう。

それじゃあユウちゃんおやすみなさい・・・

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