フィアちゃんとボーパルががんばる短編集始めました

テトメト@2巻発売中!

異世界でサモナー始めました 5


「”装備品はメニューから装備しないと意味が無いぞ!”」
「「「「・・・はぃ?」」」」

えっと・・・ちょっと何言ってるか分かんないです・・・

「・・・まぁ、そんな事をNPCおまえたちに言ってもしょうがないんだがな」
「ふ、ふん!何を意味の分からない事を・・・まぁいいですわ。どうやったのかは知りませんが、指輪の力が及ばないのであれば不穏分子として始末するだけですわね。母体は最低1つあれば十分ですもの。それとも苗床としての生存を希望するのでしたら考えてあげてもよろしくてよ?但し喉と手足は潰させていただきますけどね」

「ギャハハ!おいおい嬢ちゃんよぉ。姫さんの言う通りにした方が身の為だぜぇ~?なにせ命は大切にしなくちゃいけねえと母ちゃんが言ってたからなぁ!ギャハハハハ!」
「ほざけ変態が。な~にが命は大切に~だ。投降を促すのはお前の趣味だろうが。嗜虐趣味で幼女趣味とか救いようがねえぞ」
「ノコノコとこんな所まで付いてきている俺達が言えた義理ではないがな」

下を向いて項垂れていた私の体をユウちゃんが持ち上げてくれて、再び見えるようになった部屋の中の様子は最悪の一途を辿っていました。
お姫様と一緒に入ってきた3人の男の人が、腰の剣を抜いて私達の方へ構えています。
正確には身動きの取れるユウちゃんへと刃先が向けられているのでしょうが、生まれて初めて見た真剣・・・人を殺す為の道具・・・・・・・・を突きつけられた私は体の自由が奪われていなければガタガタと震えて、悲鳴を上げる事しか出来なかったでしょう。

「・・・あらぁ?そこのあなた・・・確か鑑定持ちだったわね。いいわぁその表情。そっちのキツネさんはさっきから意味の分からない事をぶつぶつ呟くだけで怖がってもくれませんもの。”鑑定の使用と会話を許可します”とっても愉快な絶望のお顔を私にもっと見せて頂戴?」
「ぁっ・・・っはぁ!はぁ・・・はぁ・・・」

剣を向けられて真っ青になっている私を見たお姫様が予想外のユウちゃんの言動に取り乱されている様子から一転。非常に愉快そうな愉悦の表情を浮かべて、私の拘束を一部解除してくれました。
これは・・・チャンスです。明らかに罠だと分かっていてもチャンスであるのも間違いありません。ここで私が鑑定でこの男の人達の弱点を調べて、ユウちゃんに伝えることができればもしかしたら何とかなるかも知れないのですから!

「っ!鑑、定!」

男の人達はお姫様の意思を尊重しているからか、剣を抜いてニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながらこちらを眺めているだけで襲い掛かってこようともせず、全員が私の視界に入っているため鑑定も問題なく全員にかけられました。
これで持っているスキルもステータスも私には丸分かりです。位置的にユウちゃんは鑑定できませんでしたが、同じ勇者なのですから普通の人よりもステータスは高いはずです。後は鑑定した結果をユウちゃんに伝えて、弱い人から倒してもらえば―――

「―――ぁ・・・あ、あぁ・・・」
「あんらぁ~?どうされましたの?お顔が真っ青を通り越して真っ白になってますわよ?」
「くくっ、そりゃしゃーないぜ姫様。俺達3人。いや、姫様含めて4人のステータスを見ちまったんだからよぉ」

ゲラゲラと下品に笑う男たちに反応を返すことも出来ず、現れたステータスをから目を逸らす事もできない私はそれを確かな事実として認識するしかありません。

ドエス 近衛騎士
Lv 5
体力 3
筋力 4
敏捷 3
器用 2
魔力 1
精神 1

スキル
剣術 

リコン 近衛騎士
Lv 5
体力 3
筋力 3
敏捷 4
器用 3
魔力 2
精神 1

スキル
剣術 

レイマ 近衛騎士
Lv 5
体力 3
筋力 4
敏捷 4
器用 1
魔力 1
精神 1

スキル
剣術 

ビチア・テウマ 王姫
Lv 5
体力 2
筋力 1
敏捷 2
器用 3
魔力 4
精神 2

スキル
闇魔法

全員が最高レベルのレベル5。しかも最高値であるステータス5こそいないものの全員がステータス4を持っていて、それも筋力や敏捷、魔力なんていった攻撃力に直結しているようなステータスばっかり。しかも持っているスキルも男の人は全員が剣術持ちで、お姫様は闇魔法持ち・・・

「む、むりです・・・ゆ、ユウちゃん。1人で勝てる相手じゃ・・・」

「~~~『サモン・ボーパル』」

絶望に歪んだ視界の中で、意味の分からない言語をブツブツと呟いていたユウちゃんが最後に聞き取る事の出来る単語を呟いて呟きを止めました。
・・・聞き取る事は出来たのですが、これに一体何の意味が・・・

「くっ、なに!?」
「「「め、めがぁ~!」」」

浮かび上がる4つのステータスと舌なめずりをする男の人達。絶望しか映さなかった私の視界に突然眩い光が出現しました。クルクルと回る円形の光はアニメやマンガで見たことのある魔法陣の様で、この部屋にいる全員が注目するなか、床に記されたその魔法陣からぴょこんと1つの小さな影が跳び出してきました。

「1人で勝てないなら1人じゃなければいいんだろう?時間稼ぎご苦労さまだ、ソラ」
「きゅい?」

輝く魔法陣から出てきたのは一羽のウサギさんでした。雪の様に真っ白な体のそのウサギさんは、ここが何処なのか確かめるようにキョロキョロと辺りを見渡していて、その度に頭のてっぺんから生えているウサミミと、背中に背負っているハンマーのウサミミの飾りがぴょこぴょこと跳ねています。

「「「「「・・・え?」」」」」

そのあまりに場違いなかわいらしいウサギさんの登場にユウちゃん以外の全員から困惑の声が上がりました。
・・・でも、たぶん。私とお姫様達のあげた困惑の意味合いはぜんぜん違うはずです。

「よし、ボーパル。向こうにいる4人はみんな敵だ。でもあの女の人は持ってる指輪が欲しいから殺さないようにお願いね。男の方はってよし」
「きゅい!」

「「「ぷっ、ギャハハハハハハハ!」」」

ユウちゃんとボーパルちゃん?のやり取りに近衛騎士の男の人がお腹を抱えて大爆笑しています。お姫様も男の人達の後ろでユウちゃんとボーパルちゃんを見下すように冷たく嗤っていますが、私にはとても笑えません・・・笑うことなど、できません。

「ひぃ~、腹痛い!未知の魔法だから何が出てくるのかと警戒したら・・・ぷっ。ず、随分とかわいらしいペットでちゅね~、くくっ」
「くはっ、し、しかもなんだって?そのうさちゃんに俺達を倒せって・・・?そ、そいつぁ酷ってもんだぜお嬢ちゃ、ぶふ~!」
「は~っはっはっは!なんなら1発だけ攻撃を受けてやってもいいぞぉ~?天下の近衛騎士団がウサギ如きに不覚をとったとあっちゃぁ名折れだからなぁ!くくっ、ほぉ~ら。俺のほっぺたがあいてるよぉ~。いつでもかかっておい「きゅい!」で―――」

・・・それがその男の人の最後の言葉になりました。
その瞬間は速すぎて目で捉えることも出来ず、私に認識できたのは結果だけ。

”男の人の頭があった位置に何も無く、そのすぐ傍で回し蹴りを放った体勢で滞空しているウサギさんがいる”という結果だけでした。

「こ、っの!よくもドエスを!!」
「きゅい!」

あまりにもあっさりと人が死んだ姿に呆然とするしかない私と違い、いち早く立ち直った近衛騎士の人が、持っている剣を着地した直後のボーパルちゃんに振り下ろします。
それに対してボーパルちゃんは、背負っているウサミミハンマーを素早く構えて振り下ろされる剣を迎え撃ち・・・

「ははっ・・・なんだよそれ」

ボーパルちゃんの真上で交差した剣とウサミミハンマーの衝突は、一瞬の停滞の後に近衛騎士の人が振り下ろした剣が剣先から持ち手の端まで全て同時に亀裂が走り、目に見えない小さな粒子となるまで砕け散って消滅するという結果で終わりました。
握っていた剣が突然消えて無くなった両手をグッパーしながら、近衛騎士の人が呆然と呟いた言葉は、しかし消滅した剣へと向けられた物で無い事は明らかです。

なぜなら、その近衛騎士の人の視線の先は、消えた剣があった位置でも、跳躍しながらハンマーを大きく振りかぶるボーパルちゃんでもなく、今さっきボーパルちゃんに頭を消し飛ばされて死んだ人の遺体へと・・・いえ、遺体があったはず・・・・・の場所へと向けられていたのですから。
確かに首の無い遺体があったはずその場には血の一滴も、髪の毛の1本すらも残されておらず、その人が居たという証は。確かにここに存在していたという証明の全てがハンマーと交差して消えた剣と同じく、小さな小さな粒子となって空中に溶けて消えてしまっていました。

「は、はは・・・バケモ―――」
「きゅい!」

空中でクルリと一回転した勢いを乗せて振り下ろされたハンマーは、呆然と立ちすくむ近衛騎士の人の脳天をしっかりと捕らえ、一切減速することなくハンマーが床を叩いて轟音を立てた頃には2人目の近衛騎士の人も粒子となって消滅した後でした。

「きゅいぃ・・・」
「ひぃ!や、やめろ!来るな!嫌だ!消えたくない!消滅は嫌だ!!がぁぁぁああああ!!!」

大きく陥没した地面からハンマーを引き抜いたボーパルちゃんが、真っ赤な瞳で最後の近衛騎士の人を見据えると最後の近衛騎士の人は剣などとっくに放り投げ、胎児の様に身を縮こまらせながらガクガクと震えて怯えるばかりの状態でした。
そんな状態の近衛騎士の人を見たボーパルちゃんは、動かないのなら都合がいいとばかりに近衛騎士の人の頭をプチッと潰して・・・間違えました。ブチャっと潰して粒子に変えてしまいました。近衛騎士の人の垂れ流した様々な物やその匂いも、手放していて離れた所にあった剣も同時に消えて、この場には最初から私達とお姫様しか居なかったかの様に静寂が戻ってきました・・・

「きゅい!」
「さっすがボーパル!よくがんばったな~。偉いぞ~」

ついさっきまでの虐殺などまるで無かったかのようにユウちゃんに顔を擦りつけるボーパルちゃんをユウちゃんが労っている。
それだけを切り取れば平和な和やかなシーンなのですが、さきほどまでのシーンが強烈すぎてとても和やかな気分にはなれませんね・・・

「わ、わたしの騎士が・・・な、なんなの・・・そいつは一体なんなのよぉぉぉおおおおおお!!」

ペタンと冷たい床に女の子座りをして、スカートの下に水溜りを広げるお姫様が半狂乱になりながらヒステリックに叫んだ相手はボーパルちゃんでもユウちゃんでも無く私でした。
あれだけの事をしたボーパルちゃんや、そのボーパルちゃんを従え、この惨事に動じもしないユウちゃんには怖くて話しかけられなかったのでしょう。
ですが、私に聞かれても困ります・・・ただ、1つ言える事は私が鑑定で見たこのステータスは決して表示バグや誤りなどでは無かったという事位でしょう・・・

ボーパル 月兎
Lv42
体力 20
筋力 70
敏捷 68
器用 15
魔力 20
精神 20

スキル 
月光合成  槌術 ボーパル流格闘術 空間察知 ダッシュ 壁面走行 空中機動 月光走行 未来予測 回復魔法 幻惑耐性 混乱耐性 暗中模索 環境適応

こんなの・・・勝てる訳が無いです・・・

「・・・さて、姫さんよ。俺の言いたい事は分かるか?」

一頻りボーパルちゃんを労ったのか、お姫様に向き直ったユウちゃんが足元に転がっていたユウちゃんが外した隷属の指輪をお姫様の方に蹴り飛ばしながら問いかけます。
ユウちゃんが蹴った指輪はお姫様の大胆に開かれている胸の谷間にスポッと入りました。ナイスシュートです。

「・・・なによ」
「姫さんの付けてる主人の指輪を俺に寄越せ。んで、代わりにその指輪を付けろ。そうしたら今は・・殺さないでおいてやる」

・・・私に奴隷になれと言うの!?と騒ぎ立てるお姫様の説得は、ボーパルちゃんがお姫様の真横で素振りをして、床に大穴を開けるとあっさり解決しました。

ユウちゃん・・・助けてくれたのは凄く嬉しかったですがちょっとやりすぎです・・・


「その他」の人気作品

コメント

コメントを書く