フィアちゃんとボーパルががんばる短編集始めました

テトメト@2巻発売中!

異世界でサモナー始めました 1


「ふぁ~・・・ねむ・・・」

夏休みのど真ん中のとある日。まだまだ寝たりねえとぼんやりする頭と、寝すぎ特有のだるさのせめぎあいはどうやら肉体が勝った様で、布団に包まりながらゴロゴロとのた打ち回っても一向に眠気はやってこない。

「しゃぁ~なし。起きるかぁ・・・」

布団と戯れている間にすっかり頭の方も覚醒した俺は邪魔な布団を蹴り飛ばしてベットから離脱する。
真冬のお布団も魔性のアイテムだが、真夏にガンガンに冷房を効かせた部屋でのお布団も同じぐらいの凶悪性を持っていると自負している。そのお布団から自力で脱出できた俺はやはり選ばれし者だったのか・・・と脳内で世迷言を呟きつつパジャマを着替える。
ちなみに魔性布団は魅了と睡眠の呪い付きだ。なにその凶悪なコンボ。確実に封殺にきてますわ~。

「腹減った・・・けど何も無いんだろうなぁ・・・」

うちの親は休みの間は料理を休むからなぁ。もしかしたら翼が何か作ってるかもだが・・・作ってる可能性的にも味的にも絶望的だから諦めよう。カップ麺ぐらいならあるだろうが・・・それぐらいなら食べなくてもいいや。人間1、2食抜いたぐらいじゃ死なんって。

「んじゃ、今日も行きますか!」

まぁ、行くとは言っても外に出る訳じゃないけどな。この真夏の炎天下の中わざわざ外に出ようとする人の気が知れん。修行でもしてるのかもしくはドMなのか・・・
そのどちらでも無い俺は冷房の効いたこの部屋から出る気は無い!・・・まぁ、トイレや飯の時は出るけどね。

という訳で食料の調達を諦めた俺はちゃっちゃとファンタジーワールドオンラインの起動準備を整える。
『世界初のVRMMO!』なんて言うチープな売り文句が付いているこのゲームだが”新ハードにありがちなスペックだけ使い切った内容が薄っぺらいゲームだろう”と言う発売前の評価を大きく覆し、高いリアリティと自由度の高さ。本当の人間と区別のつかない高度なAIに、未だ果てが見えないマップの広大さから圧倒的な評価を得ている。
そんなFWOで俺は”サモナー”をやっていて・・・いや、これは今はいいか。

「ダイブイン!」

お決まりのキーワードを叫んでFWOへとログインする。実際は起動ボタンを押して姿勢を整えながら1分待てばログイン出来るから叫ぶ必要は一切無いんだがノリだな。

さて今日は何をしよっかなぁ。確か昨日はレン君とミヤヒナが新しい服を沢山作ったからってシルフとリアさんと手を組んで俺を着せ替え人形にしてきたんだよなぁ。今付けている服がその時の防御力ほぼ0の装備のままだろうから忘れない内に着替えないと・・・

(な、なんだ!?)

五感が久遠寺 祐リアルのからだからカットされてゲームのアバターユウに接続されるまでの僅かな時間に今日の予定を考えていた俺の体が僅かに何かに引っ張られた。
いや、引っ張られる様な体に接続されてないから体を引っ張られるという表現はおかしいが、そういう風に感じたんだ。
ゲームのバグか?と思っている間にも俺を引っ張る力はドンドン強くなっていき、すぐにブラックホールにでも吸い込まれているのではと思うほどの圧倒的な引力へと変わった。
本能的な恐怖から必死に手を伸ばそうとするも、そもそも伸ばすための手が無い。ついでに言うなら足も無ければ目も無いし耳も無いので抗う事はおろか、現状を把握する事すら覚束ない。

(し、死ぬ・・・!)

だが、確実に迫り来る終わりを背中・・・の様な気がする部分で感じる俺は、必死に手だと思われる部分を伸ばし・・・

(あっ、、、、)

ほんの少し何かに触れたと思った瞬間に俺の意識は完全に闇に飲み込まれた・・・

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「・・・という夢を見たのさ」

俺復活!
いや、完全に死んだと思ったけど全然そんな事は無かったね。よかったよかった。
・・・大丈夫だよね?一応確認・・・

目を見開いて視界の確認。視界よーし!
目線を下げて手足が付いてるかの確認。手足よーし!
ぺたぺたと体を触って触角の確認。触覚よーし!

リアルには無い長い髪の感触もあり間違いなくユウだが、な~んか見慣れない服着てるな~っと思ったらそう言えば着せ替え人形にされたまんまなんだったな。
防御力がほぼゼロの淡い水色の洋服のまんまだ。ちょっと不安だからさっさと着替えたいんだが・・・

「え・・・えっ?」
「た、たすけぇ!!・・・あれ?」
「はぁ・・・はぁ・・・」

今この場に居るのが俺だけじゃないから流石にストリップショーをするのもなぁ。
つうかここどこ?普通にログインしたらフェアリーガーデンのマイホームに出るはずなんだけど、明らかに違うんだけど。
壁も天井も床も冷たい石造りで、窓一つ無い。どっかの地下室なのかな?なんでまたこんなところに・・・と言いたいところだが、どうせまたなんかのイベントだろう。FWOは急にイベントが発生することが間々あるからなぁ。もう慣れたよ。
んで、この地下室っぽい部屋に居るのは全部で10人ちょっとだな。
部屋の中央に居るのは俺を含めて4人。俺以外の3人は黒髪黒目で顔立ちも日本人っぽいから多分プレイヤーだな。
俺の正面。唯一の出入り口付近にいるのがロリ顔巨乳のフリフリドレスを着たお嬢様っぽい人とおじいさん。後は壁の付近に等間隔に並んでる全身甲冑だな。一見ただの置物だけど、多分中身入りだろう。じゃないと配置する意味無いし。

流石にこれだけの人数の前で突然ストリップをするのもなぁ。まぁ、着替えはメニューからポチポチっとしたら終わるから気にする事も無いんだけどな。あ、聴覚よーし!メニューよーし!

「姫様。勇者召喚無事完了致しました」
「よくやったわ爺。これで我らが王国がこの大陸の覇者となるのも時間の問題と言うわけね」

俺と他3人を囲う様に焚かれた4つの篝火だけが光源のこの部屋にしわがれた声と若い女の子の声が響く。
・・・どうでもいいけど、換気してない部屋で火を焚くなよ。酸欠で死ぬぞ。このゲームそこらへん割と作りこんであるんだからな。

「その通りでございます。伝承によれば勇者の力は万人にも値すると言われております。彼の者らならば戦場でその力を存分に揮ってくれることでしょう。そうでなければ生贄にした連中が無駄になってしまいます」
「ふん。平民なんてほっといても勝手に増えるんだから気にする必要も無いでしょう。それよりも爺。確か伝承では召喚される勇者は1人では無かったかしら?」

「・・・はて。彼の者ら全てが勇者なのか、1人が勇者なのか、4人に勇者の力が分けられているのか・・・それは現時点では判別つきませぬ」
「ふんっ。まぁ、使えるなら何でもいいわ。ただ指輪を複数用意しておいたのは幸いだったわね。折角呼び出したのに指輪が足りないから殺すだなんてもったいないもの」

あ~、はいはい。なるほど。大体分かった。そういうイベントね。勇者になって魔王を倒す・・・じゃないな。目の前のお姫様に協力して大陸を統一すればクリアか?結構長期なイベントなのかな?
というか姫さんさっきから「クックック・・・」ってすんげぇ悪役みたいな含み笑いしてるんだけど、”夜目”の効果で見える姫さんの表情が慈愛すら感じ取れる微笑みから一切動いてねぇ。ポーカーフェイス完璧すぎんだろ。

「あの・・・えっと・・・ここはどこなんでしょう・・私は・・・」
「ね、ねぇキミ!こ、ここは!?トラックは・・・!?」
「アタシに聞かないでよ!!アタシだって訳分かんないんだから!・・・ぐすっ」

俺以外の3人も状況が飲み込めてきたのか逆に混乱してきてる。
初々しいのぉ~。3人ともFWO初心者なのかな?着ている服も、防具としての性能よりも見た目重視の私服っぽいのだしな。まぁ、俺みたいにたまたま今着てるのが弱いだけで、ガチ装備がストレージに入ってるのかもだけどな。
ちなみに俺以外の3人は男1人に女の子2人だ。
男の方は何かスポーツでもやっているのか適度に引き締まっている体をしており、爽やか系のイケメンだな。見るからにリア充っぽい。爆発すればいいのに。
女の子の1人は勝気そうなツリ目の子だ。シャツとホットパンツにブーツを装備していて、キャラデザと相まってボーイッシュな印象を受ける子だな。大胆にさらされた腕と足は程よく引き締まり、健康的に日焼けしている。こっちもコミュ力高そうだな~。基本コミュ症(自称)の俺的にはあんまり関わりたく無いタイプです。まる。
もう1人の女の子は反対に大人しい印象を受ける子だな。イケメンと勝気が言い合ってる間に入れずにあぅあぅしてる。その気持ちはよくわかるぞ。コミュ力高い人同士が喋ってると会話に切れ目が無いから入れないよな。分かる分かる。
ちなみにこっちの子の恰好はカーディガンとスカートだな。袖余りのカーディガンが手首をちょっと隠してるのがかわいい。いいなあの服。誰が作ったんだろう。このイベントが終わったら紹介してもらおう。

「姫様・・・」
「はいはい。もう少し勇者の醜態を見ていたい気もするけど、このままじゃ会話も出来ないものね。さっさと指輪を嵌めさせてしまいましょう」

そういった姫さんがわざとらしくコツコツと靴音を立てながら篝火の明りの内側に入ってくる。
うん。やっぱり姫さん性格悪くね?とても協力NPCだとは思えないんだけど。むしろコイツ敵じゃね?あれ?ここで姫さん倒してハッピーエンド?いやいや、いくらなんでもそれは無いか。

「・・・とりあえず簡単な男から落としましょうか。女はその後ね」

俺達のすぐ目の前までやってきた姫さんがニッコリと聖女の様に微笑みながらなんか黒いこと言ってる。
夜目が無くても視認できるようになった姫さんは俺と・・・というかこの篝火内に居る4人全員と同じで高校生ぐらいの年で、女性としての美しさの中にどこか完成されていない未成熟さが見え隠れしている。

薄暗い石作りの部屋に全く似合わない白とピンクを基調としたふりふりドレスも目を引くが、それ以上に目を引くのが、生まれてから一度も切ってないんじゃないかと言うほどにボリュームたっぷりの髪と、髪に負けず劣らずボリューム満点の胸だろう。大胆にも胸の上半分程を全てさらけ出しているドレスは姫さんが一歩歩く度に躍動する胸が飛び出さないように必死に押さえているようだが、今にも生地の悲鳴が聞こえてきそうだ。
・・・多分あのドレスも歩き方もわざとやってるな。姫さんがあんなのでこの国は大丈夫なのか?まぁ、姫さんが王を継ぐわけじゃ無いならいい・・・のか?やっぱりダメな気がするのだが・・・

そして俺の隣でさっきまで取り乱していたイケメンが姫さんの美貌と笑顔にやられて頬を赤く染めている。おいイケメン。趣味悪いぞ。いくら見てくれが良くてもあれは無いわ~。

「えっと・・・指輪・・・かな?」

イケメンを完全にロックオンした姫さんがぐいぐい近づいてきて懐・・・というか胸の谷間から取り出した小さな箱をイケメンに差し出して蓋を開くと5つの同じ意匠の指輪が入っていた。
・・・付けろと?怪しすぎてお断りしたいんだが?

「これよね・・・」
「あっ・・・」

と思っていたら、姫さんが箱に入っている指輪の1つを手にとって自分の指に嵌めた。
何したいのこの姫さん。私はこんなに指輪を持ってますよ~って自慢したいの?あ、違う?怪しくないですよアピール?いや、どうみても怪しいんですけど。完全に安全なのを選んで付けてたじゃん。怪しさしかないじゃん。

「えっと、付けたけど・・・」

そして疑いもなく付けちゃうイケメン君。ピュアなのかな?もしくはただのおバカさんなのか・・・

「やっとお話出来ますね。私の勇者様・・・」
「えっ!?キミ、言葉がっ!!」

両膝を床に付き、両手を胸の前で組んで両腕で胸がこぼれるギリギリまで寄せて上げた姫さんが、潤んだ瞳で少年も下から見上げている。
唯一の明かりである篝火の明かりに弱々しく照らされた姫さんは儚げで、今にも消え去りそうな危うさを見ている俺達に与えてくる。
なんだろう。女優さんなのかな?完全に自分が周囲に与える印象を認識して操作してるよね。最初の姫さんと爺の会話がなかったら俺もコロッと騙されるところだったぜ・・・

・・・なんで聞こえるところでそんな話してたんだろう。あっちもおバカなのかな?

「ね、ねぇ。何の話してるの?あんたにはあの人の言葉が分かるの?」
「あ、あぁ。この指輪を付けたら急に・・・ほら!皆の分もあるから付けてみてよ!」

は?嫌なんですけど?
というか言葉・・・?FWOは全言語自動翻訳機能付きだったはずだけど?実際俺は姫さん達がなに言ってるか分かるし。このイケメン達は自動翻訳をオフにしてるのか?何で?意味わからん。

・・・あ、もしかしてNPC?俺はてっきり俺を含めた4人が今回のイベントの参加プレイヤーかと思ってたが、俺以外は全員NPCの個人クエストだったのか?

・・・考えてみればログインの瞬間に別フィールドに送られるイベントで同時参加は難しいか。うん。俺以外は全員NPCだと考えてこれからは動こう。プレイヤーでもNPCでも基本的に対応は変わらないけど、システムの話をしても頭おかしいんじゃないの?って目で見られるだけだから注意しないとな。

「さっ、あんたもこの指輪を付けなさい」
「・・・ん?あ、いや。俺はいいよ」

俺が考え事をしている間にイケメン以外の女の子2人も指輪を付けたようで、残った指輪を持って勝ち気な女の子が俺へと指輪の乗った手を差し出している。
いやいや、どう見ても怪しすぎるし、翻訳の指輪ならぶっちゃけ要らないから姫さんに返したいんだが。

「゛俺゛・・・?いや、これを付けないと話が進まないでしょ!アタシ達が付けても何ともないんだから早く付ける!」
「えー・・・」

いやいや、今何も無くても後で何かあるかも知れないだろうが。というか絶対何かあるって。怪しすぎるもん。

「ほら、手貸して!」
「あ、ちょっ」

勝ち気な少女が、渋る俺の手を取って無理やり指輪を嵌められた。
いや、本気で抵抗すれば抗うことも出来たかもしれないが、どうもこの指輪を付けるのは強制イベントの気配がするんだよな。
今のところ今回のイベントの趣旨もクリア条件も分かってないからしばらくは流れに任せて情報収集に努めるか。
一先ずの情報源はこの指輪だな。単なる翻訳の指輪ならいいんだが、多分違うんだろうなぁ・・・゛鑑定゛。

【アクセサリー:指】隷属の指輪 レア度?
 防御力+0 重量0 耐久値100
 隷属の術式が組み込まれた指輪
 対応する主人の指輪を装備する者に逆らう事ができなくなる
 主人の指輪を装備する者と同一の言語を話せるようになる
 主人の指輪を装備する者しか装備を解除する事ができない

わ~ぉ・・・

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