E.P.O〜エルフのパパになった俺~

りょう

第30話 家族の形

第30話 家族の形
1
文化祭も無事終わり、本格的に夏休みに突入したというのに、俺の心は全く晴れる事がなかった。原因は勿論あの夜の陽介の言葉。
『身近にいる人の気持ちを理解できないくせに、二人の気持ちを理解できるはずがない』
あの言葉には一体どのような意味が含まれていたのだろうか。
いや、何となくだが俺は陽介の言葉が少し理解できた気がする。俺の身近な人、千代以外でもう一人だけ女性がいる。けれどそれは、確かなものなのかは俺には分からない。
俺はどうすればいいのか分からなくなっていた。
「どうしたの雄一君、元気ないけど」
「え? あ、悪いちょっとな…」
「大丈夫? 最近調子悪そうだけど」
「そうみえるか?」
「うん」
「そうか…」
確かに最近ずっと考えてばかりだから、周りに心配をかけてしまっているのかもしれない。でも誰かに話せるような物ではないし…。
「パパ、大丈夫ですか?」
そんな俺を見てルシアも話しかけてくる。悩みの種はこの姉妹が原因でもあるのだけれど、果たして俺は聞いていいのだろうか?
俺は二人の父親になる資格があるのかって。本当の家族になれるのかって。
「ごめんな二人とも、心配かけて」
「ううん、気にしないで。一緒にいる以上、どうしても無視できなかったから。勿論ローナちゃんも心配してるのよ」
「そっか、悪いなローナも心配かけて」
「べ、別に心配なんかしてないもん」
相変わらずのローナを見て、俺は少しだけ肩の荷が下りたような気がした。
確かにこの二人の父になるのは容易い事ではないし、二人が本当に認めてくれているのか分からない。けれど一つ言えるのは、今こうして四人で他愛のない会話をして、一緒にご飯食べて、一緒に寝たりするだけでも家族なのではないだろうか?
当たり前の事だから忘れていたけれど、誰がどう思おうがこれが家族の形だ。
そう、相手がどう思っているのか分からなくても、家族の形があれば、今の俺は父親に値する。だから今は何も、不安がる必要なんてないんだ。
「そっか、そうだよな」
「どうしたんですかパパ。急に明るくなりましたけど」
「なんでもない」
深く考える必要なんてなかったんだ。答えは至ってシンプルだったんだから。その形を保つ為にも、まずは行動しなくちゃな…。何かいい案は…。
(あ、そうだ。いい事思いついた)
「なあ、俺から一つ提案があるんだけど、皆聞いてくれるか?」
「ん? 何?」
「何でしょうか?」
「文化祭も終わって、本格的に夏休みに入ったんだ。ここいらでちょっと、四人だけで家族旅行に出かけないか?」
「家族旅行ですか?」
「ああ。最近どこにも出かけられてないからな。一泊二日で海に行こう」
『家族旅行』
まずはこれから始めよう。
続く

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