E.P.O〜エルフのパパになった俺~

りょう

第9話 傷つけたくなくて

   第9話 傷つけたくなくて
1
六月も後半になり、梅雨明けの宣言がでたある日の休日、千代と俺は二人で出かけていた。
「なあ、何でお前の買い物に俺は付き添わなければならないんだ?」
「たまにはいいでしょ? 雄一君が私を置いてけぼりにした罰よ」
「罰ってお前な…」
まあ仕方がない事だとは思ってるけど、これじゃあ完全に俺は荷物持ちだ。休ませてもくれないから、俺の体はボロボロの状態だ。
「そろそろ休まねえか?」
「えー、時間が勿体無いでしょ?」
「充分時間は使っただろ」
「まだまだ足りないのよ」
「俺の体力が足りないわ!」
「お、うまい!」
「茶化すな!」
千代を十分ほど説得し、ようやく休ませてくれる事になった。
どれだけ買い物したかったんだよお前は…。

休憩場所に選んだのは近くの喫茶店。休日の昼だからなのか、カップルが多かった。
「こうして二人で喫茶店に入るとさ」
「ん?」
「私達が付き合い始めた頃を思い出すよね」
「まあそうだな」
俺と千代は高校時代付き合っていたという事もあり、喫茶店には二人でよくお茶していた。
「いっつも雄一君は遅刻してきたもんね」
「仕方ねえだろ。いつも待ち合わせ場所が家から遠いんだから」
「それでも学習すると私は思うんだけどな」
「うっ、それは…」
「ははは、困ってる困ってる」
「からかうなよ」
お互い自分の飲み物に集中してるからか、それからしばらく会話がなくなる。
(付き合っていた頃か…)
確かにあの頃は、俺の人生の中で最高の時間だった。毎日のように千代と会って、デートして、くだらない会話でお互い笑いあって…。時には喧嘩もしたけど、それでもちゃんと仲直りできた。だけど今はどうだろうか? 自分勝手な都合で俺は彼女に別れを告げ、彼女を傷つけたままこっちにやって来た。柚木と陽介と出会って、新しい仲間を作って千代達から距離を置いてしまっていた。申し訳ないと思っているが、自分が選んだ道を今更変える気にはならない。
(俺は間違ってないよな)
2
「ねえ雄一君」
しばらくの沈黙の後、千代が口を開いた。
「何だ?」
「私達、もう一度付き合わない?」
「へ?」
彼女が口にした言葉があまりにも予想外だったので、腑抜けた返事をしてしまう。
「私がここに来た本当の目的は、もう一度雄一君と付き合いたいと思ったからなの。だってあんな別れ方納得できないもの」
「それはそうだけどさ。でも俺は…お前を一度傷つけてしまっている。そんな男にお前と付き合う資格なんてないよ」
本当はもう一度よりを戻したいのが本音なのは分かってる。けど、また彼女を傷つけるのが怖い。俺が進もうとする道は、険しいから誰かと恋愛できる気もしない。
「また傷つけるのが怖いから、そんな答えが出るのね」
「え?」
「あなたはそうやって、怖い事から逃げ続けるのね!」
「なっ!」
                                       続く

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