夢見まくら
第十二話 そして動き出す事態
「……ん」
俺は目を覚ました。一瞬自分がどこにいるのかわからなくなったが、すぐに思い出す。テントの中だ。まだ太陽が昇っていないのか、テントの中は薄暗い。
軽く伸びをして起き上がった。軽い二日酔いだろうか、頭が少し重い。
隣を見ると服部が口を開けて爆睡していた。その隣には佐原も見える。まだ寝ているようだ。二条の姿は無い。
欠伸をかみ殺しながらテントの外に出てみる。湖の向こう側に、朱色に輝く太陽が少し顔を出していた。ちょうど朝日が昇ってくる時間のようだ。その光で、湖の水面と芝生についた朝露がキラキラと光っている。
そして、二条がいた。
折りたたみ式の椅子に腰をおろし、紙コップを右手に、湖のほうを眺めている。
その目は妙に寂しげだった。
まるで、とても懐かしいものを見ているかのような……。
「おはよう、海斗」
「あ、ああ。おはよう二条。いい朝だな」
「何だそれ。朝のピロートークのつもりか?」
「何で俺がお前とピロートークしなきゃなんねーんだよ」
わけがわからないよ。
「こうやって自然に囲まれてのんびりしながら、朝日が昇ってくるのを見るのって、貴重な体験だと思わないか、海斗?」
「……まあ、そうだと思うが、いきなりどうした二条君?」
そう言いながら、二条は少し寂しそうだった。
こいつがこんな感傷的な表情を見せるのは珍しい。
「俺さ、昔一時期、離島に住んでたことがあるんだよね」
「へえー」
初耳だ。
「そこで、ほとんど毎日、地平線の向こうから朝日が昇ってくるのを眺めてた。それで今、あの朝日が昔見たのと被って、ちょっとノスタルジってたんだ」
「ノスタルジーは動詞じゃないと思うんだ」
「こまけーこたーいいんだよ」
その後しばらく二条と雑談していたが、寝る時に着ていたシャツがかなり汗臭くなっていたので、二条との会話を適当に切り上げて、さっさと着替えることにした。
◇
テントに戻り、着替えながら夢でお姉さんに言われたことを思い出してみる。
まず、皐月のこと。
お姉さんの話を信じるなら、皐月は今も化物の姿のまま、この世界に生きているという。
化物と言っても、どんな姿をしているのかはさっぱりわからないのだが、こればかりは仕方ないだろう。お姉さんの気持ちもある。
その話を聞くまでは、俺は皐月の幽霊とか、そういったものがあの低反発まくらに取り憑いているのだと思い込んでいた。割と本気で。
というのも、夢以外にも、あの枕を的屋で落として家にお持ち帰りした日から、奇妙……と言うほどのことでもないかもしれないが、少し不思議なことが起こるようになったからだ。
消したはずのゲームが勝手についていたり。
牛乳の減りが少し早いように感じたり。
そんなことが起きるのに、何故か全く怖くはなかったが。……俺が鈍感だからか。
ひょっとすると。
皐月は化物の姿のまま、あの枕の中に入っていて、俺が的屋で落としてからずっと俺の家の中にいたのかもしれない。
お姉さんは、時間の都合上話せなかったようだが、一昨日に引き続き昨日も皐月は夢に出てこなかったのは、皐月が俺の近くにいなかったからかもしれない。
あくまで推測に過ぎないが、そこまで的外れではないような気がする。
そういえば一度、皐月に呼ばれて目が覚めるとまだ午前三時で、皐月に文句を言おうとしたら激しい頭痛と共におぞましい感触の何かが俺の頬に触れた……という夢を見たことがある。
あれは本当に夢だったのか?
お姉さんの話を聞いた今では、どうしても本当にあった出来事にしか思えない。
あと俺のことだ。
お姉さんによると、俺は今日殺されるらしい。
……ここまで落ち着いていられるのは、自分の命が危険にさらされている実感が、まるでないからに他ならない。
何かの間違いなのではないだろうかと思うが、警戒しておくに越したことはない。もちろん服部と佐原と二条の三人は除く。
お姉さんは俺のお友達三人が怪しいと言っていたが、俺はあいつらのことを信頼している。
いや、よく考えると恨みをもたれていて殺されるとも限らない。通り魔とか、無差別殺人鬼に殺されることもあるのだ。世の中何が起こるか分からない。あいつらに殺されるよりこっちのほうがよっぽどありえるのではなかろうか。
とにかく、今日はあまり一人で動き回らないほうがいいだろう。
◇
「佐ぁ原ぁぁぁぁああああああ!!!!!」
着替えを終えて、二条と一緒に朝の牛乳を飲みながら椅子に腰掛けてだらだらしていると、突然服部の叫び声が辺りに響き渡った。非常にうるさいのでやめて欲しい。ご近所からクレームが来るぞ。
「今の、服部か。テントの中から聞こえたよな? 寝起きで機嫌が悪いのか?」
「俺に聞かれてもわかんねぇよ。お前見えるんだから、はいごれーさんにでも聞いてみればいいじゃない」
「んにゃ、距離があるからよくわからん」
そこは、背後霊さんの存在を否定して欲しかった。
それからも、テントの中から何か争うような音と声が聞こえてくる。二条の言うように少し距離があるので、何を言っているのかはよく分からないが。まあ大したことではないだろう。
「大丈夫か、佐原?」
とはいえ、一応声はかけておく。
「だいじょーぶだ」
佐原の返事はすぐに聞こえてきた。
あいつがそう言うなら大丈夫なのだろう。
しばらくすると佐原がテントから出てきた。
「おはよう佐原。何してたんだ? ものすごく楽しそうだったけど」
「おはよう琢、海斗も。いや、全然楽しくねえ。酷い目に遭ったぜ。翔太が寝ぼけて俺に襲いかかってきてさぁ……なんとか撃退したけど。あ、海斗、俺にも牛乳ちょうだい」
言われた俺は佐原に紙コップを渡し、牛乳を注ぎながら言う。
「まだ寝てんのかあいつ。朝弱いタイプだったんだな服部って」
「みたいだな。まだしばらくは起きてこないと思うぞ。……ちょっとトイレ行ってくる」
紙コップに入った牛乳を飲み干した佐原は、そのままトイレに向かった。
佐原を見送った俺は再び椅子に腰掛ける。二条は椅子の上で口から涎を垂らしながら半分寝ている。食べ物の夢でもみているのだろうか。
……だが、俺は何故かさっきまでのように落ち着けない。頭の奥のほうで何かが引っかかっていた。
ふと、昨日、お姉さんに言われた言葉を思い出す。
『私と皐月は、海斗さんの友人の中に、海斗さんに恨みを持つ人物がいると考えています』
『ええ。つまり、海斗さんと一緒にキャンプに来ている、服部さん、佐原さん、二条さんのうちの誰かが――』
刹那、俺の脳裏に恐ろしい考えがよぎった。
「……待てよ」
仮に俺の命を狙う奴がいたとしよう。
そいつが、俺以外の他の人間に危害を加える可能性はないのか?
十分にあるような気がする。
そもそも、俺が狙われているとも限らない。二条や佐原、服部を殺そうとして俺が巻き添えになるという可能性もあるのだ。
つまり、だ。
俺だけが殺されるとは、限らないんじゃないのか?
……服部のさっきの絶叫。
本当に寝ぼけていただけか?
何か、服部が大声で叫ばずにはいられないようなことを、佐原がしでかしたんじゃないのか?
「いやいや、何考えてんだ俺」
考え過ぎだろう。杞憂だ。
大体、佐原と服部は親友と言っていいほど仲がいいのだ。あいつらの仲がこじれるなんて、よっぽどのことがない限りあり得ないと思う。
やっぱり服部が寝ぼけていただけだろう。
……だが、昨日のお姉さんの言葉が頭から離れない。
「……一応、服部の様子を見てくるか」
結局、テントに服部の様子を見に行くことにした。
確認して何事もなければ、それでいい。心配し過ぎだと笑われるだけで終わりだ。
「どこに行くんだ?」
「うぉっ!?」
まだ何も言っていないのに、二条が俺に声をかけてきた。
「寝てたんじゃないのか二条」
「ん? 普通に起きてるぞ」
嘘つけ。さっき涎垂れてたぞ。
とは言っても、今は涎も垂れてないし、普通に目も開いているので黙っておく。
「……ちょっとテントに上着を取りに行くだけだよ」
「それなら、俺の財布も取ってきてくれないか? シャワー浴びたいんだよね」
ここのキャンプ場にも一応シャワーがある。三分百円で。
二条は朝風呂の代わりに、シャワーを浴びて汗を流したいのだろう。
「ああ、わかった。黒いやつだよな?」
「そうそう」
そんな会話をしつつ、平静を装いながらテントに向かう。
「ん?」
テントの入り口の下の方が濡れて黒くなっている。深い緑色のそこが濡れたら、黒っぽい色になるのは自然なことだ。
芝生についていた朝露が、テントに付いたのだろう。
そう結論づけ自分を納得させた俺は、テントの入り口のファスナーを開け、中を確認した。
「うわ……けっこうひどいな」
テントの中はぐちゃぐちゃになっていた。
四人分の寝袋と衣類、その他の小物があちらこちらに散らばり、誰の物が何処にあるのかすぐに判別するのは難しい。
どうやら、服部と佐原は相当暴れたらしい。ちょっとやそっとじゃ、ここまでぐちゃぐちゃになることはないだろう。
そこまで考えて、俺はあることに気付いた。
「あれ? 服部は?」
寝ているはずの服部がいない。
いや、そんなはずはない。服部がテントから出て行っていたとしたら、俺か二条が気付いたはずだ。服部はこのテントから出てはいない。
と、なると……死角とかあったっけ? ……ああ、入り口の真下かな?
俺は入り口の真下に目を向けた。
「ああ、はっと――」
服部、そう言おうとした俺の言葉は途切れた。
果たして、そこに服部は横たわっていた。
夥しい量の血を、頭から流しながら。
俺は目を覚ました。一瞬自分がどこにいるのかわからなくなったが、すぐに思い出す。テントの中だ。まだ太陽が昇っていないのか、テントの中は薄暗い。
軽く伸びをして起き上がった。軽い二日酔いだろうか、頭が少し重い。
隣を見ると服部が口を開けて爆睡していた。その隣には佐原も見える。まだ寝ているようだ。二条の姿は無い。
欠伸をかみ殺しながらテントの外に出てみる。湖の向こう側に、朱色に輝く太陽が少し顔を出していた。ちょうど朝日が昇ってくる時間のようだ。その光で、湖の水面と芝生についた朝露がキラキラと光っている。
そして、二条がいた。
折りたたみ式の椅子に腰をおろし、紙コップを右手に、湖のほうを眺めている。
その目は妙に寂しげだった。
まるで、とても懐かしいものを見ているかのような……。
「おはよう、海斗」
「あ、ああ。おはよう二条。いい朝だな」
「何だそれ。朝のピロートークのつもりか?」
「何で俺がお前とピロートークしなきゃなんねーんだよ」
わけがわからないよ。
「こうやって自然に囲まれてのんびりしながら、朝日が昇ってくるのを見るのって、貴重な体験だと思わないか、海斗?」
「……まあ、そうだと思うが、いきなりどうした二条君?」
そう言いながら、二条は少し寂しそうだった。
こいつがこんな感傷的な表情を見せるのは珍しい。
「俺さ、昔一時期、離島に住んでたことがあるんだよね」
「へえー」
初耳だ。
「そこで、ほとんど毎日、地平線の向こうから朝日が昇ってくるのを眺めてた。それで今、あの朝日が昔見たのと被って、ちょっとノスタルジってたんだ」
「ノスタルジーは動詞じゃないと思うんだ」
「こまけーこたーいいんだよ」
その後しばらく二条と雑談していたが、寝る時に着ていたシャツがかなり汗臭くなっていたので、二条との会話を適当に切り上げて、さっさと着替えることにした。
◇
テントに戻り、着替えながら夢でお姉さんに言われたことを思い出してみる。
まず、皐月のこと。
お姉さんの話を信じるなら、皐月は今も化物の姿のまま、この世界に生きているという。
化物と言っても、どんな姿をしているのかはさっぱりわからないのだが、こればかりは仕方ないだろう。お姉さんの気持ちもある。
その話を聞くまでは、俺は皐月の幽霊とか、そういったものがあの低反発まくらに取り憑いているのだと思い込んでいた。割と本気で。
というのも、夢以外にも、あの枕を的屋で落として家にお持ち帰りした日から、奇妙……と言うほどのことでもないかもしれないが、少し不思議なことが起こるようになったからだ。
消したはずのゲームが勝手についていたり。
牛乳の減りが少し早いように感じたり。
そんなことが起きるのに、何故か全く怖くはなかったが。……俺が鈍感だからか。
ひょっとすると。
皐月は化物の姿のまま、あの枕の中に入っていて、俺が的屋で落としてからずっと俺の家の中にいたのかもしれない。
お姉さんは、時間の都合上話せなかったようだが、一昨日に引き続き昨日も皐月は夢に出てこなかったのは、皐月が俺の近くにいなかったからかもしれない。
あくまで推測に過ぎないが、そこまで的外れではないような気がする。
そういえば一度、皐月に呼ばれて目が覚めるとまだ午前三時で、皐月に文句を言おうとしたら激しい頭痛と共におぞましい感触の何かが俺の頬に触れた……という夢を見たことがある。
あれは本当に夢だったのか?
お姉さんの話を聞いた今では、どうしても本当にあった出来事にしか思えない。
あと俺のことだ。
お姉さんによると、俺は今日殺されるらしい。
……ここまで落ち着いていられるのは、自分の命が危険にさらされている実感が、まるでないからに他ならない。
何かの間違いなのではないだろうかと思うが、警戒しておくに越したことはない。もちろん服部と佐原と二条の三人は除く。
お姉さんは俺のお友達三人が怪しいと言っていたが、俺はあいつらのことを信頼している。
いや、よく考えると恨みをもたれていて殺されるとも限らない。通り魔とか、無差別殺人鬼に殺されることもあるのだ。世の中何が起こるか分からない。あいつらに殺されるよりこっちのほうがよっぽどありえるのではなかろうか。
とにかく、今日はあまり一人で動き回らないほうがいいだろう。
◇
「佐ぁ原ぁぁぁぁああああああ!!!!!」
着替えを終えて、二条と一緒に朝の牛乳を飲みながら椅子に腰掛けてだらだらしていると、突然服部の叫び声が辺りに響き渡った。非常にうるさいのでやめて欲しい。ご近所からクレームが来るぞ。
「今の、服部か。テントの中から聞こえたよな? 寝起きで機嫌が悪いのか?」
「俺に聞かれてもわかんねぇよ。お前見えるんだから、はいごれーさんにでも聞いてみればいいじゃない」
「んにゃ、距離があるからよくわからん」
そこは、背後霊さんの存在を否定して欲しかった。
それからも、テントの中から何か争うような音と声が聞こえてくる。二条の言うように少し距離があるので、何を言っているのかはよく分からないが。まあ大したことではないだろう。
「大丈夫か、佐原?」
とはいえ、一応声はかけておく。
「だいじょーぶだ」
佐原の返事はすぐに聞こえてきた。
あいつがそう言うなら大丈夫なのだろう。
しばらくすると佐原がテントから出てきた。
「おはよう佐原。何してたんだ? ものすごく楽しそうだったけど」
「おはよう琢、海斗も。いや、全然楽しくねえ。酷い目に遭ったぜ。翔太が寝ぼけて俺に襲いかかってきてさぁ……なんとか撃退したけど。あ、海斗、俺にも牛乳ちょうだい」
言われた俺は佐原に紙コップを渡し、牛乳を注ぎながら言う。
「まだ寝てんのかあいつ。朝弱いタイプだったんだな服部って」
「みたいだな。まだしばらくは起きてこないと思うぞ。……ちょっとトイレ行ってくる」
紙コップに入った牛乳を飲み干した佐原は、そのままトイレに向かった。
佐原を見送った俺は再び椅子に腰掛ける。二条は椅子の上で口から涎を垂らしながら半分寝ている。食べ物の夢でもみているのだろうか。
……だが、俺は何故かさっきまでのように落ち着けない。頭の奥のほうで何かが引っかかっていた。
ふと、昨日、お姉さんに言われた言葉を思い出す。
『私と皐月は、海斗さんの友人の中に、海斗さんに恨みを持つ人物がいると考えています』
『ええ。つまり、海斗さんと一緒にキャンプに来ている、服部さん、佐原さん、二条さんのうちの誰かが――』
刹那、俺の脳裏に恐ろしい考えがよぎった。
「……待てよ」
仮に俺の命を狙う奴がいたとしよう。
そいつが、俺以外の他の人間に危害を加える可能性はないのか?
十分にあるような気がする。
そもそも、俺が狙われているとも限らない。二条や佐原、服部を殺そうとして俺が巻き添えになるという可能性もあるのだ。
つまり、だ。
俺だけが殺されるとは、限らないんじゃないのか?
……服部のさっきの絶叫。
本当に寝ぼけていただけか?
何か、服部が大声で叫ばずにはいられないようなことを、佐原がしでかしたんじゃないのか?
「いやいや、何考えてんだ俺」
考え過ぎだろう。杞憂だ。
大体、佐原と服部は親友と言っていいほど仲がいいのだ。あいつらの仲がこじれるなんて、よっぽどのことがない限りあり得ないと思う。
やっぱり服部が寝ぼけていただけだろう。
……だが、昨日のお姉さんの言葉が頭から離れない。
「……一応、服部の様子を見てくるか」
結局、テントに服部の様子を見に行くことにした。
確認して何事もなければ、それでいい。心配し過ぎだと笑われるだけで終わりだ。
「どこに行くんだ?」
「うぉっ!?」
まだ何も言っていないのに、二条が俺に声をかけてきた。
「寝てたんじゃないのか二条」
「ん? 普通に起きてるぞ」
嘘つけ。さっき涎垂れてたぞ。
とは言っても、今は涎も垂れてないし、普通に目も開いているので黙っておく。
「……ちょっとテントに上着を取りに行くだけだよ」
「それなら、俺の財布も取ってきてくれないか? シャワー浴びたいんだよね」
ここのキャンプ場にも一応シャワーがある。三分百円で。
二条は朝風呂の代わりに、シャワーを浴びて汗を流したいのだろう。
「ああ、わかった。黒いやつだよな?」
「そうそう」
そんな会話をしつつ、平静を装いながらテントに向かう。
「ん?」
テントの入り口の下の方が濡れて黒くなっている。深い緑色のそこが濡れたら、黒っぽい色になるのは自然なことだ。
芝生についていた朝露が、テントに付いたのだろう。
そう結論づけ自分を納得させた俺は、テントの入り口のファスナーを開け、中を確認した。
「うわ……けっこうひどいな」
テントの中はぐちゃぐちゃになっていた。
四人分の寝袋と衣類、その他の小物があちらこちらに散らばり、誰の物が何処にあるのかすぐに判別するのは難しい。
どうやら、服部と佐原は相当暴れたらしい。ちょっとやそっとじゃ、ここまでぐちゃぐちゃになることはないだろう。
そこまで考えて、俺はあることに気付いた。
「あれ? 服部は?」
寝ているはずの服部がいない。
いや、そんなはずはない。服部がテントから出て行っていたとしたら、俺か二条が気付いたはずだ。服部はこのテントから出てはいない。
と、なると……死角とかあったっけ? ……ああ、入り口の真下かな?
俺は入り口の真下に目を向けた。
「ああ、はっと――」
服部、そう言おうとした俺の言葉は途切れた。
果たして、そこに服部は横たわっていた。
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