第二話

　宇宙暦ＳＥ四五一四年九月十五日。

　四等級艦――重巡航艦――カウンティ級サフォーク型五番艦ＨＭＳ－Ｄ０８０５００５サフォーク５は三ヶ月半にも及ぶ大規模補修を終えた。
　前艦長であるサロメ・モーガン大佐が不名誉な死を迎えた――痴情の縺れを敵国の謀略に利用された上、愛人であった女性士官に殺害された――ため、新任の艦長が着任し、更に副長であったグリフィス・アリンガム少佐も二ヶ月前にスループ艦の艦長となるべく、艦を離れていた。
　更に長期にわたる補修作業のため、一時的に士官の数を減らされていた。そのため、航法長のジュディ・リーヴィス少佐や副戦術士のオードリー・ウィスラー大尉など優秀な士官たちは引き抜かれていき、僅か三ヶ月で士官の半数以上が入れ替わっていた。
　そんな中、大尉に昇進したクリフォード・コリングウッドは副戦術士――戦闘部署の副責任者――に昇格し、艦の中に自分の居場所を構築していく。
　そして、補修作業終了とともに新たな士官が配属され、サフォーク５は再び宇宙そらに戻っていった。

　クリフォードは五日前の九月十日に、ノースブルック伯爵令嬢ヴィヴィアンと正式に婚約を果たした。
　父や弟からの祝福を受け、新たな一歩を踏み出した。

　サフォーク５はキャメロット第五艦隊に復帰し、通常任務に当たっていく。
　周囲からのクリフォードの評価は高く、モーガン艦長がいた頃とは打って変わり、彼は充実した日々を過ごしていった。


　一年後のＳＥ四五一五年九月十日。
　キャメロット星系の首都チャリスにおいて、クリフォードとヴィヴィアンの結婚式が盛大に行われた。
　義父となるウーサー・ノースブルック伯爵はもちろんのこと、クリフォードの元上司、元キャメロット第一艦隊司令エマニュエル・コパーウィートら、多くの政財界の要人たちが出席した。更に王太子エドワードが“お忍び”で祝福に現れるなど、少壮の士官のものとは思えないほど盛大な結婚式となった。
　クリフォードは未だに華やかな世界に馴染まないが、隣に座るヴィヴィアンの幸せそうな顔を見て、自らも幸せを実感していた。

　三ヶ月後の十二月、連邦下院議員であるウーサー・ノースブルック伯爵は内閣改造によって財務卿――財務大臣に相当――に就任することになる。
　野党民主党に近いタブロイド紙などは、クリフォードの人気を巧みに利用して閣僚になったと批判するが、与党保守党の基盤であるキャメロット星系では大きく取り上げられることはなかった。

　クリフォードは自分を追いかけ続けるマスコミに煩わしさを感じるものの、幸せな新婚生活を送っていた。

　その頃、敵国であるゾンファ共和国では大きな事件が進行していた。


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　ＳＥ四五一五年八月二十一日。

　ゾンファ共和国の首都星ゾンファの最深部において、政変が勃発した。
　一年半前、ＳＥ四五一四年五月にターマガント星系を発端とする謀略が失敗に終わり、その失策を見事に収めたのが、軍事委員会の重鎮、穏健派のチェン・トンシュンだった。彼はゾンファ共和国を支配する国家統一党の軍事委員会の長に就任した。
　彼はバランス感覚に優れた有能な政治家であり、軍部の、特に強硬派――対アルビオン戦略において常に戦端を開くことを主張する派閥――と呼ばれる勢力の暴走を抑えるべく、盟友のフー・シャオガン上将――大将に相当――とともに軍の改革を断行しようとしていた。
　それまでの失策により発言力を低下させつつあった強硬派が巻き返しを図る。それも暗殺という強引な手段によって。
　強硬派のティエン・シャオクアンは軍事委員会と公安委員会の双方に影響力を持っていた。彼は公安部に属する秘密警察を使い、チェン委員長を暗殺した。
　あろうことか、政治の中枢、国家統一党本部内において暗殺が行われたのだ。

　異常なまでに愛国心の強い秘密警察の若い職員が、軍事費の削減と汚職軍官僚の追放を強行するチェン委員長にブラスターを撃ち込んだ挙句、「共和国万歳」と叫んで自殺した。
　暗殺当時、チェン委員長の周りには本来必ず複数いるはずの護衛、ＳＰが誰一人いなかった。その不自然な状況は公安委員会の差し金と言う噂が流れ、ティエンはそれを利用し、暗殺の責任を公安委員会の対立勢力に押し付けることに成功する。
　一時的に公安委員会への影響力を強めたティエンは軍部を一気に掌握した。軍部内の穏健派を一掃すると、一気に国家統一党の書記長に就任し、国家元首となった。
　だが、彼の強引な手法は党や議会である国務院内に多くの敵を作ることになった。そのため、彼の政治基盤は非常に脆弱で、早急に何らかの功績を挙げなければ政権を維持することは困難な状況となっていた。

　そんな中、ティエン書記長に対し、接近してきた軍人がいた。その軍人はホアン・ゴングゥル上将といい、ゾンファ星系防衛艦隊の一司令官だった。


　ＳＥ四五一六年二月十日。

　ホアン上将はある計画を書記長に提案する。
　それは自由星系国家連合に属するヤシマへの侵攻作戦だった。

　ホアンの計画は杜撰だったが、ティエンはその計画に魅力を感じた。
　ティエンはホアンに侵攻計画を立案させるとともに、諜報部に対してヤシマへの謀略を行うよう指示した。


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　ＳＥ四五一六年五月。

　自由星系国家連合に属する通商国家ヤシマではあるメディアにおいて、数ヶ月前から親ゾンファ、反アルビオンキャンペーンが行われていた。
　そのメディアは“キョクジツニューズ”グループといい、ことあるごとにヤシマはアルビオンと決別し、ゾンファと友好関係を結ぶべきだと主張していた。
　キョクジツニューズは、ゾンファがイーグン星系――ヤシマから五パーセク（約十六光年）の位置にある星系――の領有権を主張しているのに対し、経済関係強化のため、領有権を放棄し、完全な中立星系とすべきだというものがあった。

『……イーグン星系には資源も無く、航路としてのみ存在価値がある。その星系の領有権を主張するより、平和の宇宙そらとして両国で管理することが、貿易国家としてのヤシマのあるべき姿である。領有権を主張する勢力はいたずらに両国関係に軋轢をもたらし……』

　更には軍備の放棄も主張し始めた。

『……我が国は非武装中立を唱えた平和国家として存続すべきである。平和国家として各国に認知されることにより、外交問題による経済活動の停滞を防ぐことができる……軍事力強化を主張する勢力は各国の良識を過小評価している。非武装国への軍事侵攻は恥ずべきことであり、各国の政治家はそのような愚挙を起こさないよう努力するであろう。つまり、非武装中立は軍事侵攻に対する十分な抑止力となり得るのだ……』

　一部のメディアがキョクジツニューズの主張に対して強硬に反発するが、潤沢な資金力と多くのメディアを支配するキョクジツニューズの主張は日に日に人々の間に浸透していった。
　元々流され易い国民性を持つヤシマ国民はキョクジツニューズの報道が真実であるかのような錯覚を起こしていく。政治家たちもメディアの動向に敏感になり、ゾンファ共和国の野心に気付きながらも批判を口にしなくなっていった。

　そして、親ゾンファの流れができ始めると反アルビオンキャンペーンを展開していく。

『……アルビオン王国とは一体どのような国家なのだろうか。君主制という非民主的な国家が我々とどう向き合うのか。彼らが一度ひとたび牙を剥けば、我が国は“国王陛下”の臣民になり下がってしまうのだ。自由、民主、独立。そのいずれも我々は失うことになる。我々が成すべきことは何か。アルビオンに民主主義を伝えることである……』

　キョクジツニューズの暴走は留まることを知らなかった。彼らは自分たちの主張に反対する政治家、論客たちを次々と攻撃していったのだ。それも悪意に満ちた方法で。
　彼らの取った手段は稚拙な方法だった。発言の一部を繋ぎ合わせ、本人の主張とは違う形に変えて報道したのだ。
　例えば、被害にあった評論家ヨシダ氏の場合、元の発言とは全く違うニュアンスの報道をされたのだ。元の発言は以下のようなものだった。

『……ゾンファ共和国の脅威に対し、我々は“外交交渉という”武器をもって当たらねばならない……彼らには“所謂外交上の”恫喝を行い……』

　この発言をキョクジツニューズの記者は以下のように編集した。

『……ゾンファ共和国の脅威に対し、我々は武器をもって当たらねばならない……彼らには恫喝を行い……』

　その上でヨシダ氏を極右の論客と言うレッテルを張り、ゾンファへの軍事侵攻を煽っていると批判した。当然、氏は反論したが、マスメディアを支配するキョクジツニューズは二年以上その記事の修正を行わなかった。

　ＳＥ四五一九年に公表されたキョクジツニューズに関するデータを紹介する。
　キョクジツニューズの誤報とそれに対する訂正報道に関するデータでは、誤報に対し、訂正報道がなされたのは一パーセントに満たなかったのだ。
　更に顕著なのは司法によって捏造と認定された記事に関しての姿勢だ。彼らは司法による判断に対し、こじつけに近い理由をつけ、一切訂正を行わなかった。
　それに対し、自社の記者が暴行を受けたような事例では、かすり傷程度でも言論への挑戦と銘打って大々的に報道を行っている。更に自らの主張に批判的な論客に対しては報道の自由を脅かす全体主義者というレッテルを貼り、暴行犯との関係を匂わすなど悪意に満ちた報道によって言論界から抹殺していった。

　更にキョクジツニューズは反防衛軍キャンペーンを展開する。
　ヤシマでは徴兵制をとっておらず、防衛軍の将兵はすべて志願兵だ。だが、軍に入るのは兵器に興味がある変わり者か、就職に失敗した者たちと言われ、軍人の社会的地位はそれほど高くない。ヤシマ市民たちの軍の印象は、災害時の救援隊か、大規模な犯罪組織すなわち宇宙海賊などの取締りを行う組織というもので、国を守る名誉ある職と考えるものは少なかった。
　そんな中、キョクジツニューズは防衛軍兵士の犯罪について、通常では考えられないほど大きく報道した。殺人や暴行などの重大犯罪ならいざ知らず、万引き程度の犯罪や交通違反など一般市民であれば地方版にも載らないほどの記事を全国版で大々的に報じたのだ。そして、軍の規律に対し綱紀粛正を訴えるならいざしらず、軍人というだけで人格を否定し、職業軍人を貶めていった。実際のところ、ヤシマ防衛軍の犯罪率は一般市民のそれとほとんど変わらない。更に言えば、キョクジツニューズ関係者の犯罪率は一般市民のそれを大きく上回っていた。キョクジツニューズ社の記者たちは特権意識の塊であり、酒を飲んでの暴行など日常茶飯事だったのだ。
　軍に対する陰湿な報道により、軍人の、特に若い軍人の士気は低下の一途を辿っていく。優秀な者ほど軍を辞めていき、軍隊としての質は低下の一途を辿っていった。


　ＳＥ四五一六年八月。
　キョクジツニューズホールディングスのイムラ社長は、高級ホテルのラウンジにいた。このホテルはキョクジツニューズグループが出資しており、秘密裏の会談を行うためによく利用されていた。
　彼は個室になった一画である人物と面会していた。もし、イムラをよく知るものがその光景を見たら、目を疑っただろう。
　報道部から論説委員を経て社長となったイムラは尊大で誰に対しても頭を下げないと言われていた。だが、そこには揉み手をするようにぺこぺこと頭を下げるイムラの姿があったのだ。
　その面会相手は濃いサングラスと特徴のない髪形の年齢不詳の男で、暗いラウンジの照明ということもあり、目を離せばどのような男だったか全く記憶に残らないような人物だった。

「このホテルでご自由はしておりませんかな。何でも申し付けてください。何と言っても、このホテルは当社の自慢の……」

　饒舌なイムラに対し、面会相手の男は冷ややかにその言葉を遮る。

「防衛長官のヤマモトを失脚させろ。早急に、確実に」

　イムラは一瞬驚きを見せるが、すぐに笑顔を見せ、

「かしこまりました。では、先日お願いした融資の件もご了承いただけるということで……」

「上からの指示は受けている。安心しろ」

　男は汚物でも見るような視線を向けるが、濃いサングラスでそれは隠されていた。
　それだけ言うと、男は静かに立ち去っていった。

　ヤマモトはゾンファの軍事侵攻を最も警戒している政治家だった。軍にも支持者が多く、清廉なイメージと強いメッセージ力で次期首相との声が高い政治家だった。

　三日後、キョクジツニューズのトップニュースにヤマモト長官の収賄に関する記事が踊った。ヤマモトはもちろん与党の幹部たちは懸命に報道を否定したが、次々と証人が現れ、ヤマモトは辞任を余儀なくされる。
　それとともに内閣の支持率も急落した。これもキョクジツニューズの良く使う手法で、世論調査の質問を自分たちの主張に合わせていたのだ。
　一例を示せば、「収賄で辞任した長官を含む現内閣を支持しますか」という質問で、イエスと答えられる者は少ないだろう。更に無作為抽出と謳いながら、アンケート時間を故意に調整し、ヤマモトの支持層である保守系の男性層を排除し、一部の年齢、性別を突出させる手段を取ったのだ。
　このような恣意的な手法を使い、内閣を総辞職に追い込んだ。

　キョクジツニューズのイムラ社長と面談していたサングラスの男はキョクジツニューズグループに属するＫＹ経済研究所の研究員として、本国からの指示をイムラに伝えていく。
　それに従い、ヤシマ政界は大きく混乱していった。

　ヤシマはＳＥ四五一七年末までに二度の総選挙が行われ、一年あまりの間に首相が三度代わった。
　四五一八年に入るとヤシマ国民の政治不信は極限に達していた。
　更に軍部のスキャンダルを執拗に報道し、国民の軍への信頼感を摩滅させていった。

　ＳＥ四五一七年十一月のある日。
　ゾンファ共和国の国民解放軍諜報部に一片の手書きのメモが届けられた。

「紅四号ホアンスーより黒一号ヘイイーへ。日は沈んだ。以上」

　諜報部の責任者はそのメモを持ち、ティエン書記長の執務室に向かった。


　ＳＥ四五一八年二月五日標準時間〇一時三〇分。
　ゾンファ艦隊が突如ヤシマ星系に出現した。
　ゾンファ艦隊は前年十一月二十日にゾンファ星系を進発し、四十五パーセク（約百四十七光年）もの距離を超えてきたのだ。
　ゾンファ艦隊の指揮官はヤシマ侵攻作戦を提案したホアン・ゴングゥル上将だった。彼は“ヤシマ解放艦隊”と名付けられた六個艦隊約三万隻に加え、揚陸部隊約二十万人を含む大規模な占領部隊を率いていた。
　ホアン上将はヤシマ星系のジャンプポイントＪＰ――超光速航行における星系への出入口に当たる宙域――に到着すると、ＪＰ付近の防衛施設を無力化するとともに降伏勧告を行った。

「ヤシマ政府に告ぐ。我が国からの再三に渡る警告を無視し、貴国は我が国の権益を侵すだけでなく、同胞の生命、財産を脅かし続けている……我らゾンファ共和国は祖国及び同胞の生命を守るため、武力による制裁を行うこととした……直ちに全ての武装を解除し、我らヤシマ解放艦隊の管理下に入ることを勧告する。回答期限は二月七日午前零時。それまでに回答無き場合も勧告に従わないものと判断し、武力による制裁を開始する。ヤシマ解放艦隊司令長官ホアン・ゴングゥル」

　こうして、ゾンファ共和国のヤシマ侵攻作戦が開始された。

　ヤシマ政府は混乱の極みにあった。
　極度の政治不信と有能な政治家の排除により、無能で実行力のない政治屋・しか存在しなかったためだ。それでも心ある政治家や官僚たちは事態の収拾を図るべく奔走する。だが、決められない政治家たちにより、時間だけがどんどん浪費されていった。
　一方、ヤシマの防衛軍は何とか秩序を保っていた。二万隻に及ぶ艦艇を集め、決死の覚悟で防衛ラインを形成していく。
　だが、防衛艦隊も一枚岩ではなかった。将官以上の高級軍人の中には政治家とのつながり強いものが多く、徹底抗戦派と無条件降伏派に分かれ、指揮系統が混乱していたのだ。


　二月七日標準時間〇〇時〇〇分。
　ホアン上将の定めた回答期限となったが、ヤシマ側は明確な方針を定めることができず、時間稼ぎを行うため、ホアン上将と交渉しようとした。だが、武断的なホアンはただ一言で斬って捨てた。

「問答無用！」

　この時、ゾンファの侵攻艦隊は首都星第三惑星タカマガハラの二十光分の距離にあった。
　ヤシマ防衛艦隊はここに至り、第三惑星軌道付近での迎撃を決断する。元々首都星周辺には防衛施設である軍事衛星が多数配備されていること、首都星攻略のため敵は必ず減速することなどから、決戦の場としたのだ。
　それに対し、ホアンは不敵な笑みを浮かべながら、「ヤシマ艦隊の墓場が決まった」と呟いたとされる。

　結論から言えば、ゾンファ艦隊の圧勝だった。
　ハードウェアにおいては、ヤシマ軍は個艦の性能で上回るものの、絶対数で三分の二しかなかった。このため、戦後の研究では戦力比が三対四であったと推定されている。
　だが、実戦経験が豊富なゾンファ軍に対し、海賊の取り締まり程度の経験しかないヤシマ軍の練度は低く、推定された戦力比以上の開きがあった。
　猛将タイプのホアン上将は精密さを求めるような作戦は考えず、戦力差に物を言わせてただひたすら押し潰すだけの強引な作戦を断行する。それに対し、机上の作戦を重視するヤシマ側は複雑な艦隊運動で敵を翻弄しようとした。

　そこでヤシマ側の練度の低さが露呈する。
　三万隻が砲列を並べて突撃してくる様は、戦闘指揮所ＣＩＣのスクリーンを通してさえ、ヤシマ将兵の心に恐怖を植えつけていく。このため、囮となるべき戦隊が予定の半分の距離で反転するなど、ヤシマ艦隊司令部の企図した戦術は開戦初期に破綻した。

　後は一方的な蹂躙だった。
　恐慌に陥ったヤシマ艦隊は唯一度の砲撃で瓦解した。ゾンファ艦隊は算を乱して逃げ惑うヤシマ艦隊を半包囲し、次々と殲滅していった。
　唯一、ヤシマ第二艦隊だけが戦闘衛星による支援を巧みに使って抗戦したが、僅か五千隻では戦局を覆すことができず、ゾンファ側に出血を強いるだけに留まった。
　開戦から五時間後、ヤシマ艦隊は“降伏”か“死”の二者択一の選択を迫られる。そんな中、ヤシマ第二艦隊副司令官サイトウ少将は、捲土重来を期してアルビオンに逃走するという大胆な選択を行った。
　艦隊内からも祖国を見捨てることに反対の声が上がったが、サイトウ少将の一言でその流れは変わった。

「必ず借りは返す」

　第二艦隊二千七百隻余に他の艦隊の残存艦艇約三千隻が加わり、アルビオン側のレインボー星系行きジャンプポイントＪＰに向けて脱出を開始した。
　サイトウ少将の巧妙な艦隊指揮により、約五百隻を失うものの、無事レインボー星系に向けて超光速航行に入ることができた。
　こうして、ヤシマ艦隊にとって長く苦しい逃亡生活が始まった。


　二月七日標準時間一二時〇〇分。

　自由星系国家連合の一つ、ヤシマはゾンファ共和国に無条件降伏した。