クリフエッジシリーズ第三部:「砲艦戦隊出撃せよ」

愛山雄町

第十六話

 宇宙歴SE四五一八年七月二十四日、標準時間〇九時一○分。
<a href="//7896.mitemin.net/i201969/" target="_blank"><img src="//7896.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i201969/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>

 第二次ジュンツェン会戦と呼ばれる戦闘が始まってから一時間余り、キャメロット第三艦隊所属の砲艦百隻は戦場から逃れようと通常空間用航行機関NSDをフル稼働させていた。しかし、乗組員たちの思いとは裏腹に、商船並みの加速力しか持たない砲艦は二十分間の加速を経ても〇・〇四光速と最大巡航速度の五分の一の速度にしか達していなかった。それでも砲撃を行っていた位置から二十五光秒移動し、敵艦隊主力から攻撃を受ける可能性はなくなっている。
 しかし、彼らの後方にはゾンファの駆逐艦三十隻が迫っていた。

 ゾンファ共和国軍のヤシマ解放・・艦隊司令官ホアン・ゴングゥル上将はアルビオン艦隊の主力を突破した後、残忍な笑みを浮かべながら「逃げ遅れた敵の砲艦を殲滅せよ! 横から撃たれては面倒だからな」と掃討を命じていた。その時の彼の視線の先にはメインスクリーンに映るキャメロット第三艦隊の砲艦戦隊の姿があった。
 第三艦隊以外の砲艦はホアン艦隊が戦列を突破する直前に各艦隊司令部からの命令を受け、艦隊に合流するよう移動を開始していたため、加速性能の低い砲艦ですらアルビオン艦隊本隊の射程内まで移動できており、好戦的なホアンですら無為に駆逐艦やスループ艦を失うとして攻撃を諦めていた。しかし第三艦隊の砲艦戦隊だけは別だった。第三艦隊本隊は司令官リンドグレーン提督の方針に従い、敵艦隊から離れるような機動を行っていたのだ。クリフォードたちはリンドグレーンに見捨てられ、アルビオン艦隊本隊だけでなく第三艦隊本隊とも離れた位置で孤立していたのだ。

 ホアンが言葉にした懸念、側方からの砲撃についてだが、本来考慮する必要はない。これは言った本人も理解している。
 第三艦隊の砲艦は緊急に発進するため主砲用集束コイルを切り離しており、予備のコイルを再装備するまで砲撃は行えない。ホアンはそれを理解した上で、敵主力を突破した高揚感と味方の士気を鼓舞するという理由から、彼らにとって無害な砲艦を血祭りに上げようとしていた。

 第三艦隊の砲艦は弱い魚が群れを作るように固まり、五隻の砲艦支援艦がその群れを守るように最後尾についている。
 彼らを追うホアン艦隊駆逐艦戦隊司令チャン准将はその光景を見て大きく笑い声を上げた。

「敵はこちらの手間を省いてくれるようだぞ! バラバラに逃げられたら面倒だったが、これなら一撃で終わらせられる。全くありがたいことだ!」

 チャンは重巡航艦に匹敵する防御力を持つ砲艦支援艦には多少梃子摺ると考えていたが、砲艦自体は輸送艦を沈めるより容易であると高を括っていた。事実、艦隊随伴型輸送艦の方が防御力は高い。
 チャンは〇・一Cの速度を減速することなく接近し、通過しながら攻撃を加えるつもりでいた。更に反転した後、撃ち漏らした敵を殲滅しながら本隊に合流する戦闘計画を立てていた。

「このまま一気に沈めるぞ! 三光秒以内に入ったところで砲艦支援艦に向けて幽霊ユリンミサイルを発射。その後は主砲を撃ちながら敵の上面を通過する!」

 彼の部下が速度を落とさないと防御スクリーンの能力が落ちると指摘したが、
「なあに、敵には対宙レーザーしかないんだ。それより本隊と早く合流しないと敵との決戦に間に合わなくなる」と取り合わない。
 彼以外の認識も移動する砲艦は標的でしかありえず、全く警戒していなかった。


■■■

 時は四十分遡る、標準時間〇八時三○分。

 第三艦隊第四砲艦戦隊に属する砲艦レディバード125号の戦闘指揮所CICで、クリフォード・コリングウッド少佐はメインスクリーンに映る第三艦隊の転進を見つめていた。そして、その不可解な行動が信じられなかった。

(なぜだ……敵の左翼を突けば三十分もしないうちに殲滅できたはずだ……)

 呆然とする間もなく、艦隊司令部より命令が下る。

「各砲艦戦隊は敵左翼に攻撃を続行せよ」

 その命令に対し、自分たちが捨石にされたことに気づく。

(このままここに留まれば砲艦戦隊は殲滅される……我々は見捨てられたのか……)

 そして、砲艦の乗組員たちも彼と同じ思いだった。CICだけでなく、艦の至るところで艦隊司令部への呪詛にも似た不満がぶちまけられていた。
 クリフォードは彼らに共感するものの、指揮官として「戦闘に集中しろ!」と命じるしかなかった。しかし、一時は口を噤むものの兵たちの不満は燻っている。

「今は敵を叩くことを考えるんだ! ここで不満を言っても敵は見逃してはくれない。敵に一矢報いるんだ。砲艦乗りの意地を見せてやろう!」

 クリフォードの鼓舞に、CIC要員たちは渋々ながら頷く。
 第九艦隊が敵の右翼に浸透していき、第一艦隊が中央突破を図ると、“これで敵を殲滅できる”と楽観的な考えが頭を過り、安堵の息を吐き出す者すらいた。しかし、敵艦隊が本隊の戦列を突破し自分たちの方に向かって進撃してくると、「逃げ切れねぇ」と誰かの呟きに自分たちが置かれた状況を改めて認識させられる。絶望が彼らの心を侵食していく。

 クリフォードも彼らと同じように感じていたが、無理やりそれを締め出し、可能な限り冷静な声で「まだ死ぬと決まったわけじゃない」と諭す。
 しかし、CIC要員たちの目には一万隻近いゾンファ艦隊が加速しながら迫ってくる姿しか見えず、クリフォードの声は彼らの心に届いていなかった。
 それでも機械的に命令に従って、主砲を撃ち続けていた。
 しかし、第四戦隊以外の砲艦は次々と主砲用集束コイルを切り離し、バラバラと転進し始めた。それは秩序だった転進ではなく、恐怖に負けて我先に逃げ出す潰走にしか見えなかった。
 そんな中、第四砲艦戦隊司令エルマー・マイヤーズ中佐から命令が届く。

「転進する。各艦は集束コイルの切り離し後、旗艦に続け」

 その落ち着いた声の命令を聞き、クリフォードは「主兵装操作室の掌砲手ガナーズメイトはコイルを緊急切断後、Dデッキに退避!」と命じた。そして、操舵長コクスンであるレイ・トリンブル一等兵曹に「旗艦に続け! 回避パターンは任せる」と指示を出す。更にヒュアード中尉に旗艦グレイローバー05に回線を開くよう命じた。

 マイヤーズ中佐がスクリーンに現れると、クリフォードは「提案があります」と端的に告げた。マイヤーズは「手短に頼む」と頷く。
「このままバラバラに転進しても敵に殲滅されるだけです」と端的に現状を言い表す。
 マイヤーズは「確かにそうだな」と呟き、「続きを頼む」と先を促した。
「敵は駆逐艦か、スループ艦を派遣してくるでしょう。ですので敵に一泡吹かせるのです。他の戦隊と協力して……」と自らの考えを説明していく。
 クリフォードの提案を受け、マイヤーズは数秒間沈黙する。沈黙の後、「よかろう」と言って小さく頷いた。その目には強い意志が見えたが、僅かに苦渋にも似た表情が垣間見られる。そして、すぐに各戦隊司令に向けて通信を始めた。

 クリフォードは敬礼をもって応えると、すぐに掌砲長であるジーン・コーエン兵曹長と、先任機関士であるレスリー・クーパー一等兵曹に意見を求めた。
 二人から満足いく答えを聞くと、マイクを手に取る。そしてゆっくりとした口調で艦内放送を始めた。

「我々は現在敵から逃れる進路を取っているが、恐らく逃げ切れない……」

 その言葉に落胆の溜息が漏れる。

「しかしチャンスがないわけではない。敵は我々を唯の逃げ惑う羊だと思っている……」

 そこで言葉を切り、強い口調に変えた。

「しかし我々には牙がある! それも強力な牙だ! 敵艦隊は我々を放置しないが、掛かりきりになれるわけではない。つまり敵が派遣してくる駆逐艦もしくはスループ艦を叩きのめすことができれば生き残ることができる! 訓練の時を思い出し、私の命令に冷静に対処してほしい」

 そして、「総員ハードシェルを着用せよ」と命じた。

 ハードシェルは船外活動用防護服の通称であり、宇宙空間での活動及び戦闘を目的とした宇宙服である。ハードシェルは通称の由来である硬質セラミック装甲を備え、パワーアシスト機能と移動用ジェットパックを装備している。更に空気浄化系と酸素ボンベ、摂取用の水分、食料チューブ、排泄機能などを備え、十分に訓練された兵士なら二十四時間以上、一般の兵士でも八時間程度は真空中で活動できる。
 通常着用している簡易宇宙服スペーススーツは数時間程度なら真空中での活動が可能な性能を有し、戦闘による減圧であれば充分耐えられる設計となっている。

 アルビオン王国軍の艦隊運用規程では、戦闘航宙時のおける簡易宇宙服スペーススーツかハードシェルの着用が義務付けられているが、通常の戦闘では取り扱いが簡便なスペーススーツを着用することが慣習となっていた。
 命令を受けたレディバードの乗組員たちはハードシェルに替える理由が分からず首を傾げていた。特に砲艦の狭い艦内では動き辛いハードシェルは行動を阻害する可能性が高く、一部から不満の声が上がった。しかし、士官や准士官たちに命令を遂行するよう一喝されると、不満を押し殺しながら手早く着替えていった。

 この時クリフォードはレディバードが生き残る可能性は極めて低いと考えていた。彼の提案した作戦通りに戦闘が推移したとしても、常識的に考えれば多くの砲艦は沈められ、高い防御力を誇る砲艦支援艦のみが撃沈を免れるだけだろう。
 このため、耐衝撃・耐放射線性能が高いハードシェルの着用をクリフォードは命じたのだ。スペーススーツでは艦の爆発による激しい衝撃や大量の放射線から身体を守ることはできないが、ハードシェルであれば最悪そのまま宇宙空間に投げ出されても、数時間は生存できる可能性がある。

(恐らくこのふねは沈む。そして、部下のほとんどは生き残れないだろう。もちろん私も……それでも生存確率を僅かでも上げることができるなら、どのようなことでもやっておくべきだ。しかし、後で問題になるだろうな。まあ、生き残れたらの話だが……)

 この措置が艦を放棄することを前提にしているとして問題となると考えたが、クリフォードは躊躇うことなく命令を発した。


 標準時間〇九時一○分。

 砲艦乗りたちの思いとは裏腹に、砲艦戦隊はゆっくりとした加速で退避していく。そんな中、ハードシェルを装着したクリフォードが腕組みをしてメインスクリーンを見つめていた。
 CICでは全ての要員がハードシェルを着用しているため、いつも以上に物々しい雰囲気を醸し出している。

「敵駆逐艦戦隊、距離十光秒。このままの速度差でいけば八十秒で敵の射程に入ります」

 戦術士であるマリカ・ヒュアード中尉の陰鬱な声がCICに響く。彼女は二・五テラワットの駆逐艦の主砲三十本が自分の背中に突きつけられているように感じており、処刑台に引き摺られていく死刑囚のような諦めにも似た感情を抱いていたのだ。

「戦隊司令部からの連絡に注意しろ。操舵長コクスン、いつでも回頭できるな」

 クリフォードの問いに操舵長であるレイ・トリンブル一等兵曹が「いつでもいけます、艦長サー!」と陽気な声で答える。
 クリフォードは「了解した。砲艦の一斉回頭など滅多にないからな。ちゃんと敵に向けてくれよ」と彼に合わせたような陽気な声でいい、「掌砲長ガナーも準備はいいな」とコーエンに問い掛ける。
 クリフォードは努めて明るく振舞っているが、心は絶望で押し潰されそうになっていた。

(一撃で三十隻の駆逐艦を沈めることは無理だろう……一隻でも残ったら……いや、今はそれを考える時じゃない……)

「戦隊司令部から回頭のカウントダウンが入っています。通信繋ぎます!」

「一斉回頭まで三十、二十九……」という中性的な人工知能AIの声がCICに響いていく。
「十九、十八……」と続くカウントダウンの中でクリフォードは「敵に一泡拭かせる! 頼んだぞ!」と叫ぶ。
「八、七……三、二、一、一斉回頭、攻撃開始」と攻撃開始を告げられた。
 それに合わせ、クリフォードも同様に「艦首百八十度回頭! 回頭完了次第、主砲発射!」と叫ぶ。CICに「了解しました、艦長アイアイサー!」という声が木霊する。

 メインスクリーンに映る砲艦戦隊のアイコンが一斉に向きを変えた。同じようにレディバードも艦首を敵に向けていく。
 掌砲長が「主砲発射!」と静かに復唱する。
 カウントダウン終了と同時に、三光秒後ろにいた敵駆逐艦三十隻に向け、百隻の砲艦から計二ペタワット(=二兆キロワット)の陽電子が一斉に放たれる。
 肉眼では確認できないが、メインスクリーンに映し出された砲撃の軌跡は、戦闘艦の主砲特有の一条の強い光ではなく、円錐状に広がっていた。
 六秒後、レディバードのメインスクリーンに、次々と火の玉に変わる敵駆逐艦の姿が映し出される。CICに歓声が上がるが、クリフォードはそれを無視して命令を下していく。

「砲撃準備急げ! 運用規程は無視しても構わん! 接近する前に沈めるんだ!」

 今回砲艦戦隊が採った策は集束コイルなしで主砲を放つことだった。集束コイルは加速器を出た粒子の軌道を電磁力によって補正し、直進性を持たせるものだ。この補正がないと射出された陽電子は大きく広がり、戦艦並の射程を得ることができない。
 逆に言えば、射程という因子ファクターを無視できるなら、主砲の発射に集束コイルは必要ないのだ。もちろん、陽電子の密度が下がるため威力も低下するが、最大射程の十分の一程度の近距離であり、かつ防御力の低い駆逐艦が相手であれば十分な破壊力を持つ。
 また、この発散性は高機動かつ低防御の駆逐艦に対しては逆に有利に働く。駆逐艦はその機動力による回避機動によって砲撃を回避するが、集束されていない主砲の砲撃範囲は駆逐艦の回避機動範囲をカバーするほど広い。このため、駆逐艦の回避機動を無効化することができたのだ。

 初撃により半数以上の十六隻の駆逐艦を轟沈した。また、七隻にも深刻なダメージを与え戦列から離脱させている。しかし、戦闘力を完全に失っていない駆逐艦が七隻も残ってしまった。
 ゾンファの駆逐艦戦隊では想定していなかった攻撃と戦隊司令チャン准将の戦死により、一時パニックに陥ったものの、すぐに秩序を取り戻した。僚艦を失った駆逐艦乗りたちは怒りに打ち震えながらも猪突することなく、大きく散開していく。更に自慢の機動力を生かし速度を上げながら懸命な回避機動で翻弄し始めた。
 七隻の駆逐艦は牧羊犬が羊を追うように広く散開する。
 その鋭利な機動は固定目標への砲撃が主である砲艦にとって相性が悪すぎた。戦隊単位で砲撃エリアを定めて攻撃するものの、あっという間に駆逐艦の射程に捕らえられてしまった。

 クリフォードも声を涸らして「加速器の冷却急げ! 炉の調整、まだか!」と叫んでいるが、レディバードは他の艦よりも激しい砲撃を続けていた。
 レディバードに迫る敵はゾンファの標準的な駆逐艦、インセクト級だった。インセクト級は二・五テラワット級の荷電粒子加速砲を有し、掠めるだけで砲艦の脆弱な防御スクリーンを無効化する威力を持っている。また、ステルスミサイルである幽霊ユリンミサイルは、砲艦はおろか重装甲を誇る砲艦支援艦を破壊するほどの攻撃力を秘めている。
 駆逐艦の射程に入ると、砲艦戦隊に被害が出始めた。駆逐艦の二・五テラワット級の主砲は砲艦の脆弱な防御スクリーンを易々と突き破り、必死に反撃する砲艦たちを次々と火の玉に変えていった。また、各戦隊旗艦の砲艦支援艦もユリンミサイルによりダメージを蓄積していく。

 インセクト級駆逐艦の一隻が艦首から死を齎す粒子線を撃ち出しながら螺旋を描くような美しい軌道を描いて接近してくる。その姿は小型の魚の群れに襲い掛かる鮫のようで、砲艦乗りたちにとっては死そのものに見えた。
 クリフォードは死の恐怖と戦いながらも冷静さを保つことに注力する。

(ここで指揮官である私が冷静さを失えば、成す術もなく沈められる。無敵に見えるがこちらの主砲が当たれば一撃で倒せる相手だ。敵もこちらの砲撃を恐れているはずだ……)

操舵長コクスン! カウントダウンに合わせ、二秒間手動マニュアル回避停止せよ! 掌砲長ガナー! 同じく人口知能AIによる自動砲撃を行え!」

 操舵長のトリンブルから「えっ!」という疑問の声が上がるが、クリフォードの「復唱はどうした!」と一喝され、「了解しました、艦長アイアイサー! カウントダウンに合わせ、二秒間手動回避停止します!」と自棄やけ気味に応じる。
 掌砲長のコーエンは内心疑問を覚えるものの、いつも通り「了解しました、艦長アイアイサー」と答え、AIによる自動砲撃の設定を行っていった。
「自動砲撃設定完了しました、艦長サー」というコーエンの女性にしてはやや低い声がCICに響く。
 クリフォードは無駄口を挟むことなく、すぐに命令を発していく。

「了解した。カウントダウン開始、五、四、三、二、一、ゼロ!」

 カウントゼロのタイミングで主砲から陽電子の束が発射された。その陽電子の束はすぐに拡散し始めるが、既に一光秒以下にまで迫った敵駆逐艦を捉えていた。
 敵駆逐艦は回避機動によりその陽電子の塊を回避しようとしたが、投網のように大きく広がった陽電子の束に左舷側を大きく抉られる。そして痙攣するように揺れた後、美しい光を放って爆散した。
 敵駆逐艦が爆散していく映像に砲艦乗りたちの歓声が上がる。

 クリフォードがAIによる全自動砲撃を選択した理由は、敵が接近してきたためだ。AIによる予測は距離が大きいほど、また速度差が大きいほど精度が落ちる。逆に言えば距離が小さければAIの予測は正確になり、命中精度は上がることになる。
 通常の砲撃であればAIの予測が正確でも集束率の高い砲撃が外れる可能性は高い。しかし、現状では主砲の集束率は低く、拡散したビームの攻撃の範囲は広い。
 また、通常の戦闘では操舵手による手動回避機動が加わるため、自艦のAIですら微妙な位置調整が難しいが、自動操縦と自動砲撃を組み合わせることで、AIの予測位置に正確に砲撃を打ち込むことができる。クリフォードはAIにすべてを委ねるという大胆な決断をし、敵に一矢報いたのだ。

 レディバードの活躍はあったものの、アルビオンの砲艦は次々と沈められていった。
 クリフォードの戦闘指揮を見た砲艦戦隊司令マイヤーズ中佐は残りの砲艦に同様の攻撃方法を指示するが、各砲艦の艦長は染み付いた戦闘方法に固執し、手動回避を放棄する策に躊躇する。その間にも次々と僚艦が沈められ、更に逃げることに意識が向いてしまった。
 僅か数分で百隻の砲艦は半数にまで撃ち減らされ、五隻の砲艦支援艦は二隻が行動不能に陥っていた。

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