魔法少女はロジカルでマジカルに

チョーカー

ラストバトル その③

 僕は思い出していた。過去にも、三角絞めをかけられていた事を―――
 その時は、光人形ではなく、生身の尾形真理だったなぁ。
  僕の頭部は、光人形の股でしっかりと固定されているため、顔を上げて真理の表情を見ることができない。果たして、彼女は、どんな表情を浮かべているのだろうか?
 蔑み?哀れみ?悲しみ?気になってしかたがない。
 幸いにも、光人形の三角締めは極まっていない。
 僕の首筋と光人形の太もも。僕は、その隙間に自由が利く左腕を滑り込まし、頚動脈が締め上げられるのを防いでいる。脱出は―――可能だ。
 光人形の下腹部に体重をかけ、頭部を預ける。
 これで相対的に下半身は軽くなった。
 両膝は地面についた状態。これをゆっくりと微調整し、足を立たせる。
 僕の右腕は、光人形の両手によって伸ばされている。
 右手に向け、左手を伸ばし、右手の手首を掴む。
 ここまでくれば、真理にだって僕の目的がわかるはずだ。
 けれども、光人形は動きをみせない。いや、動けないのだろう。
 これから僕が仕掛ける技から逃れるためには、三角締めを自ら解かなければならない。
 その瞬間、必ず大きな隙ができてしまう。
 仮にこの戦いがリング上の格闘技であれば、試合が終わりかねないほどの大きな隙。
 だったら、僕が仕掛けてくる技を避けずに受けるのも選択肢としてはありだ。
 呼吸を整え、心を決め
 両足に力を入れ―――
 腰に力を入れ―――
 腕に力を入れ―――
 光人形を一気に持ち上げる。
 バスター。寝技の状態から、相手を持ち上げ地面にたたきつける行為をバスターと言う。
 そして、僕は―――それを実行した。
 確かに伝わる衝撃。僕と光人形の体重が重力で加速して、地面に衝突する感覚。
 それでも光人形は三角締めを解かない。
 もう一度、同じ手順で光人形を持ち上げ、地面にたたき付ける。
 3回目。ようやく、光人形のロックが外れる。
 僕は素早く、掴まれている右腕を引き抜き、体を起こす。
 そのまま、強引に締め付けてくる光人形の股から脱出。
 後方、一気に距離を取り、真理のほうを見る。
 互いに見詰め合う。 自分の呼吸の荒さに気がつく。
 バスターのスタミナ消費量は尋常ではない。
 それを三連続。息も上がるはずだ。
 僕、天王寺類。彼女、尾形真理。
 しばらく見つめ合い・・・・・・
 ほとんど、同時に笑い声が漏れた。

 嗚呼、なんていう茶番だ。
 重力のコントロールが可能な光人形と寝技の攻防?
 そんなこと、できるわけがない。
 わかっている。わかっているよ。彼女が望んでいる事は・・・・・・。

 「提案がある」
 僕は乱れた呼吸をそのままに話かける。
 「何かしら?」
 彼女は平然と答える。
 「君の中では魔が暴走している。今は、君が君でいられているわけだけれども、それが暴発して、君が暴走する可能性がある。だから、君は僕と一緒に帰れない。そういう事でいいのかい?」
 「いえ、細かい事を指摘すれば、いろいろを間違っているわね。けど―――そういう認識でもいいわね」
 「なるほど・・・・・・」と僕は一呼吸置く。
 「じゃ、君の中にある魔を祓ったら解決するのかい?」
 「・・・・・・祓えるの?」
 「僕が祓うんじゃない。君が祓うんだ」
 僕は掌を彼女に向ける。そして、意識を集中。
 僕の他者を理解しようとする魔法。
 この世界〈ニホン〉の大気に放出されている魔力の流れがわかる。
 それをコントロールする。こちら側の住民達が無意識化で行う、魔力の強化。
 幾度となく、反復させる魔力の微調整。
 そして出来上がった物は・・・・・・
 「それは?」と真理が聞いてくる。
 「僕が持つ、君へのイメージ。それを受け取ってもらいたい」

 僕が魔法を使用し、理解したもの。それは僕の心そのもの。
 魔を持って魔を祓う。そんなシンプルな儀式ではある。
 あるものの―――
 「つまり、これは愛の告白のようなものね」
 真理は、あっさりと、僕が行う行為の本質を口にした。
 僕はテレながらも「うん、愛の告白だよ」と正直に言う。
 「それは、受け取って答えないといけないわね」
 彼女は笑った。
 真理は両手を広げる。僕は、真理の所まで歩く。

 「僕、君の事が好きなんだ」

 掌に圧縮させた魔力を、そっと真理の額に当てた。

 

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