魔法少女はロジカルでマジカルに

チョーカー

熱い血潮となりて

 満身創痍の僕に対して、コンカの方はダメージというものがほとんど見て取れない。
 少しばかり不公平だと思った。
 鼻の軟骨や、頬骨の骨折。あと肋骨くらいなら、治るのだろう。
 だが、拳は後遺症が残るだろうな。完全に砕けた両拳を見つめる。
 不思議と不満はあれど、後悔はなかった。
 まだ生まれて、人生の3分の1も生きてはいないが、人生の大一番が今なのだろう。
 再起不能なのは決定的だが、それでも全力で戦えてよかった。

 「そろそろ決着つきそうだね」

 そんな心情を知ってか知らずか、コンカは話しかけてきた。
 少し、名残惜しそうな表情を浮かべてるのは気のせいではあるまい。

 「嗚呼、決着だ」

 僕自身も彼女と同じような表情を浮かべてるのがわかっているからだ。

 「楽しかったね」
 「そうだろ。僕もさ。僕も楽しかった」


 戦いの最中、彼女は宙に浮いたまま挑んできた。しかし、あくまで僕の手の届く範囲内で戦っていた。
 やろうと思えば、僕の攻撃の届かない位置から攻撃を繰り出し続けてる事も出来たはずだ。
 それをやらなかったのは、格闘家としてのプライドなのだろう。
 そんな彼女がここに来て、空へと舞い上がる。
 万全の体勢から万全の一撃を放つため。
 彼女を包む全身の光が収縮。コンカの腕へと集中していく。
 風・・・・・・。 風が集まっていく。
 最初はかすかな風の動き。それが徐々に強くなっている。
 今では、体が吸い寄せられかねないほどの暴風。気を抜くを体を持って行かれそうだ。
 おそらく、あの腕には大型の竜巻ほどのエネルギーが集まっている。
 背筋に寒気が走る。あれを喰らえば、痕跡も残らずに僕の体は消滅してしまのではないか。

 生と死
 僕は生きたいのか?それとも、死にたいのか?
 自分の命を捨てでも彼女に勝ちたのだろうか? がむしゃらに生に執着して勝ちたいのだろうか?
 死に急ぐか。生きながらえるか。
 彼女が振るう一撃は死、そのもの。
 それを向かい打つ僕は何なのか?答えはでない。

 風が止む。
 空高く、上昇した彼女の目線が僕へと突き刺さる。
 来る。最強の一撃が来る。
 一瞬、彼女の体がブレたように見え、彼女の姿が消えた。
 肉眼で捉えられないほどの高速移動。
 1秒に満たない時間が永遠のような長さに感じられる。
 どう生き、どう死ぬのか?
 死中に活を見いだせるか。

 動いた。ほとんど、感と言ってもいいようなタイミングで動いた。
 今までのコンカとの戦いで学んだ、彼女の癖のようなもの。
 それが僕に攻撃のタイミングを教えてくる。
 大きく、体を左へ沈めて回避運動。
 何かが、顔の真横を通過していく。
 頬から肩口にかけて、体が削られていく。 
 そして、僕の拳は不可視の相手にたどり着いていた。

 カウンター・・・・・・。
 大きく避けた動きに合わせ、腕をなぎ払うように振り切った。
 腕を内側へ回転させ、ねじり込む。
 捻りを加えた一撃はコンカの頭部を捉え、確かの手応えと共に彼女の意識を刈り取っていた。
 その一撃は奇しくも、彼女と初めて会った時、彼女と初めて戦った時、彼女が繰り出したロシアンフックと言う技だった。

 急に視界が閉じていく。周囲は見えなくなり、戦った彼女の姿も見えなくなっていく。
 僕の視界に残ったものは、彼女の一撃で削られ、霧状と化した僕の血潮だった。
 それが妙に綺麗で・・・・・・
 綺麗で・・・・・・
 きれいだった。

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