魔法少女はロジカルでマジカルに

チョーカー

彼女は語る 高らかに語る

 光人形とやらは霧のように消えていく。

 「倒したってことか?」

 その様子を見ていた僕は、光人形が完全に消滅したのを確認して、座り込んだ。
 なんだかんだと言っても、日常生活で命のやり取りを経験したのは初めてだ。
 生き残ったという実感を得て、全身から力が抜けていくような感じだった。
 それから、今まで馬鹿みたいに体を鍛えていたことが無駄ではなかったと噛み締め、歓喜に震えてる自分に気がつく。

 「まさか、本当に私の光人形を撃破するなんてね」

 声の方向、階段の上を見上げると、僕を殺そうとした張本人である尾形真理がいた。
 僕は、警戒心を強め、体を起こす。
 彼女の光人形を倒したからと言って、終わったわけではない。
 まだ、何かを仕掛けてくるかもしれない。

 「警戒しなくても大丈夫よ」

 そう言う彼女の背後に再び、光人形が現れた。

 「本当に戦うつもりなら、最初から全力で叩き潰してたわよ」

 彼女に取って、一連の攻撃は戦いですらなかったのか。

 「君がどう考えての行動だったのか知らないけど、僕にとっては殺されかけたと感じたのが全てだ」
 「私も貴方がどう考えてのか知らないわ。私にとっては私の考えが全てよ」

 なんたる傲慢さ。温厚な僕でも怒髪天を衝くレベルだ。
 でも、ここで癇癪を起こして、また光人形と戦う事態は避けたい。
 イラつきを覚えながらも、深呼吸をしてなんとか落ち着く。

 「それで、なんでこんな真似をしたの?」
 「お手伝いして欲しいことがあるって言ったばかりでしょ?貴方って鶏みたいに記憶が抜け落ちていくわけ?」

 ビキビキと血管が盛り上がる音が聞こえた。
 ブチッと切れる5秒前。
 いや、落ち着くんだ。落ち着いて別のことを考えるんだ。
 パラレルワールドでも記憶力の例えに鶏が使われるんだなぁ・・・・・・。
 よし、落ち着いた。

 「いや、そのお手伝いの内容を聞きたいんだけど?」

 彼女は長考した。まだ、僕の事を値踏みしてる段階なのだろう。
 むしろ、その域に達してないと判断して、解放してくれないかな。
 当然、そんな結果になるはずもなく、彼女は言葉を続けた。

 「こちら側の〈日本〉に来れるのは、あちら側の〈ニホン〉だけ。それは貴方程度でも理解できてるかしら?」

 僕は頷く。一々、言葉にトゲがあるけど、今は黙認しておこう。
 確かに、パラレルワールドを行ったり来たりできるのは、〈日本〉と〈ニホン〉だけ。
 例えば、パラレルワールドにもアメリカに該当する国があるらしいが、その国とアメリカがつながっているいるわけではない。
 あちら側の世界とこちら側の世界。 
 行き来できるのは〈日本〉と〈ニホン〉の国家間のみ。
 それは周知の事実だ。

 「それじゃ、〈ニホン〉政府が〈日本〉に対して攻撃を仕掛けても、あちら側の他国は把握できないってことよね?」

 一瞬、彼女の言う意味が理解しきれず、頭の中で反復させる。
 それは、つまり?

 「そんな馬鹿な。あちら側の〈ニホン〉が戦争を仕掛けようとしてる。そう言うつもりか?」
 「あら?意外と頭の回転は悪くないのね。その通りよ。〈日本〉の物質文化。それを独占できたら、〈ニホン〉は両世界の頂点に君臨することも可能。そして、それを実行しようとしてるのよ」

 国家間の戦争。あまりにも予想を超えた話に衝撃を受ける。 
 そんな僕に彼女は断言する。

 「もう既に、国の軍事に携わる6人の魔法使いが尖兵として送られているわ」
 「尖兵って・・・・・・。既に攻撃目前って事じゃないか」
 「そう、彼らは秘密裏にひっそりと破壊活動を繰り返す。自然現象の天変地異を装い、何度も何度も繰り返す。そして、国力を浪費した〈日本〉政府が異常に気がつく頃には、亀裂から全軍投入して電撃戦を行い、この国の制圧を開始する」

 彼女は、絶望のシナリオを高らかに歌い上げた。

 「どう?貴方は国を守護した英雄になってみるつもりはない?」
 「何を言ってるのか、わからないのだが?」
 「私に協力して、6人の魔法使い・・・・・・。いえ、テロリストを倒して、この国を救ってみませんか?そう言ってるのよ」

 その言葉に、僕の感情は揺さぶられた。

 僕の根源になる『日常における非日常に対する対応力』という言葉。
 それは、テロリストの恐怖から生まれた言葉。
 いや、生き方だと言っても過言ではない。

 僕は階段を登り、彼女に手を差し伸べた。
 彼女は、その行為の意味を理解し、その手を握り返してくれた。

 

「その他」の人気作品

コメント

コメントを書く