尾形真理

　泥のように眠り込んでいた僕は、額に衝撃を受けて椅子から転がり落ちる。
　いきなりの襲撃に対し、素晴く状態を起こして周囲を確認する。
　くすくすと笑い声を殺すクラスメイト達。
　黒板の前に仁王立ちしている担任の小波先生。
　そして、地面に落ちている白い物体。
　僕は、黒板の上に設置されている時計を見て、謎を解き明かした。
　状況から察するに、ホームルーム開始のチャイムがなっても、僕は眠りこけていたらしく、それを見た小波先生のチョークが僕の額を打ち抜いたのだろう。
　我ながら完璧な推理だ。
　さて、僕は小波先生に平謝りしながら席にもどった。

　「やれやれ、それじゃホームルームの前に転校生の紹介をしよう」

　ただでさえ、騒がしいことに定評のあるクラスだが、転校生というイベントに大いに盛り上がり、多くのチョークが宙に舞う事になった。
　死屍累々と化したクラスメイトにより静寂は保たれ、小波先生は廊下で待たせているであろう転校生を呼び入れた。
　その子が教室に入った瞬間、僕は凄まじい光量に襲われた。
　目がくらみ、思わず声が漏れる。

　「おい、どうした？天王寺？」
　「え？」

　小波先生が声をかけてくれた。バカ騒ぎの時とは違い、心配そうな表情だった。
　周囲を確認すると、あの光を見たのは僕だけだったようだ。　あの光は一体なんだったのだろうか？

　「いえ、すいません。なんだか、あまりにも眩しすぎて目が眩んだみたいで・・・・・・」

　なぜか、クラスが静まり返ったと思ったら、次の瞬間に爆発的な歓声が巻き起こった。

　「すげぇ、いきなり転校生に告った！」
　「一目惚れってレベルじゃねぇぞ！」
　「最高にハイ！ってやつだアアアアアハハハハハハハハハハハハーッ」

　遅れながら、自分の言った意味に気がついて後悔しまった。
　そういう意味じゃないのに・・・・・・。

　「尾形真理おがた　まりです。よろしくお願いします」

　転校生の彼女は大人びた雰囲気を身に纏い、凛とした立ち振る舞いをしていた。
　腰まで伸びた黒髪が特徴的で、可愛らしいと言うより美人という表現が似合っている。
　立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花という言葉があるが、彼女を花で例えると何になるのだろうか？
　彼女は教室の後方に、新しく用意された席へ歩き出した。
　途中、僕の席を横切る時、どこか、僕を観察するかのような視線を向けられた気がした。
　確かに、僕の言動は不審なものだった。軽蔑でもされたのか？
　いきなり、告白とも捉えかねない言葉を出してしまったわけで・・・・・・。

　しかし、そんな僕の考えとは別方向に物語は進んでいくのであった。

　

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