絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
エピローグ
それから、一週間の月日が流れた。
町の復興も少しずつではあるが進んでいた。とはいえ、所詮は一週間。月日がかかればかかるほど復興が進むのは当然のことだった。
屋根の上に上り修理をしているダイモス。
「おにいちゃーん!」
ダイモスはそれを聞いて、下を眺める。
そこに立っていたのは、ハルだった。オーバーオールを着て、ぴょんぴょん跳ねている。
「どうした、ハル! まだお昼には早くないか!」
「違うよ! ……まったく、お兄ちゃんったら。今日は何の日か知らないの?」
「今日……ああ! 父さんが『帰る』日だ!」
急いで梯子を下り、ハルの前に立つダイモス。
「もうカントクさんには言ってあるから、急いでいかないと!」
「解った! どこにいけばいいんだ?」
「ええと……城の裏!」
「了解!」
そういって。
二人は城の裏へと向かって、走り出していった。
◇◇◇
城の裏に、一つの門がぽっかりと開いていた。
黒く縁取られたそれの向こうには、白い渦が広がっており、奥にはなにも見えない。
そして崇人が、三十五歳のサラリーマンの姿で立っていた。
「……なんというか、この姿も久しぶりだな」
「十年近くずっと子供の姿だったからね」
「あの魔法が十年以上も続くことが驚きだよ」
そこにはもう、今まで彼とかかわってきた人間が集まっていた。
エスティ・パロングを除いては。
「それにしてもエスティ、遅いなあ……。今日、出発するってことは言ったはずなのに」
「私も言ったんだけどね。どこか行っちゃったのよねえ……」
崇人とマーズはそう言って、外へと繋がる道を眺めていた。
エスティがやってきたのは、それから十分後のことだった。
「えへへ。ごめんね、タカト。遅くなっちゃった」
そういって彼女は、崇人に花束を差し出した。
「……これは、確か、エルリア?」
こくり、と頷くエスティ。
「白は『独立』、赤は『思い出』って意味があるの。白は私たちがタカトから独立することを意味していて、赤は今までの思い出。時々でいいから、この花を見て思い出してほしいの。私たちのことを。この世界のことを」
「……ああ、ありがとう。エスティ。とても嬉しいよ」
そして彼はエスティからの花束を受け取った。
エスティは崇人が顔を近づけたタイミングで――彼の頬に軽く口づけをした。
「そして私からの最後のプレゼントよ」
エスティの顔は真っ赤だった。
ずっと崇人とエスティは見つめていたが、
「ありがとう、エスティ。思い出になったよ」
その言葉を聞いて堪え切れなくなったのか、ギャラリーの後ろに隠れてしまった。
「……さて、名残惜しいけれど、そろそろ行かなくちゃ」
踵を返し、崇人は言った。
「みんな……さよならとか、最後とか言ったけれど、俺的にはその言葉嫌いなんだ。いつ戻ってくるかわからないし。だから――」
再び、踵を返す。
彼の眼からは、涙があふれていた。
そして――ゆっくりと、その言葉を紡いだ。
「さよならは言わない! また、会おう!!」
そして彼は、三度踵を返すと、そのまま渦の中に飛び込んでいった。
◇◇◇
二〇一五年、東京。
大野崇人の部屋はワンルームマンションである。午前八時に外を出るので非常にゆっくりとしたスケジュールとなっているが、最後にしないといけない日課が最近追加された。
テレビの棚の上に置かれている赤い花に水をあげることだ。
彼は白い渦に飛び込んだ後、気づけば次の日の朝を家で迎えていた。
上司はまったくあの時のことを覚えていないらしく、夢なのではないか、と笑われてしまったほどである。
崇人も実際、夢なのではないか――そう思った。
だが、それを夢と思わせなかったのが、最後にエスティが手渡してくれたエルリアの花束だった。ベッドの上に置かれていたそれは、二年経った今でも咲き続け、赤や白の花を咲かせる。
彼はそれを見て、思い出すのである。異世界、クローツでの出来事を。インフィニティの起動従士としてともに仲間と戦った、あの忘れられない日々のことを。
だが、そう思い出に浸っている場合でもない。
人は前に進み続けなければならない。
「行ってきます」
エルリアの花にそう言って、彼は部屋を出ていった。
企業戦士としての、彼の一日が幕を開ける。
町の復興も少しずつではあるが進んでいた。とはいえ、所詮は一週間。月日がかかればかかるほど復興が進むのは当然のことだった。
屋根の上に上り修理をしているダイモス。
「おにいちゃーん!」
ダイモスはそれを聞いて、下を眺める。
そこに立っていたのは、ハルだった。オーバーオールを着て、ぴょんぴょん跳ねている。
「どうした、ハル! まだお昼には早くないか!」
「違うよ! ……まったく、お兄ちゃんったら。今日は何の日か知らないの?」
「今日……ああ! 父さんが『帰る』日だ!」
急いで梯子を下り、ハルの前に立つダイモス。
「もうカントクさんには言ってあるから、急いでいかないと!」
「解った! どこにいけばいいんだ?」
「ええと……城の裏!」
「了解!」
そういって。
二人は城の裏へと向かって、走り出していった。
◇◇◇
城の裏に、一つの門がぽっかりと開いていた。
黒く縁取られたそれの向こうには、白い渦が広がっており、奥にはなにも見えない。
そして崇人が、三十五歳のサラリーマンの姿で立っていた。
「……なんというか、この姿も久しぶりだな」
「十年近くずっと子供の姿だったからね」
「あの魔法が十年以上も続くことが驚きだよ」
そこにはもう、今まで彼とかかわってきた人間が集まっていた。
エスティ・パロングを除いては。
「それにしてもエスティ、遅いなあ……。今日、出発するってことは言ったはずなのに」
「私も言ったんだけどね。どこか行っちゃったのよねえ……」
崇人とマーズはそう言って、外へと繋がる道を眺めていた。
エスティがやってきたのは、それから十分後のことだった。
「えへへ。ごめんね、タカト。遅くなっちゃった」
そういって彼女は、崇人に花束を差し出した。
「……これは、確か、エルリア?」
こくり、と頷くエスティ。
「白は『独立』、赤は『思い出』って意味があるの。白は私たちがタカトから独立することを意味していて、赤は今までの思い出。時々でいいから、この花を見て思い出してほしいの。私たちのことを。この世界のことを」
「……ああ、ありがとう。エスティ。とても嬉しいよ」
そして彼はエスティからの花束を受け取った。
エスティは崇人が顔を近づけたタイミングで――彼の頬に軽く口づけをした。
「そして私からの最後のプレゼントよ」
エスティの顔は真っ赤だった。
ずっと崇人とエスティは見つめていたが、
「ありがとう、エスティ。思い出になったよ」
その言葉を聞いて堪え切れなくなったのか、ギャラリーの後ろに隠れてしまった。
「……さて、名残惜しいけれど、そろそろ行かなくちゃ」
踵を返し、崇人は言った。
「みんな……さよならとか、最後とか言ったけれど、俺的にはその言葉嫌いなんだ。いつ戻ってくるかわからないし。だから――」
再び、踵を返す。
彼の眼からは、涙があふれていた。
そして――ゆっくりと、その言葉を紡いだ。
「さよならは言わない! また、会おう!!」
そして彼は、三度踵を返すと、そのまま渦の中に飛び込んでいった。
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二〇一五年、東京。
大野崇人の部屋はワンルームマンションである。午前八時に外を出るので非常にゆっくりとしたスケジュールとなっているが、最後にしないといけない日課が最近追加された。
テレビの棚の上に置かれている赤い花に水をあげることだ。
彼は白い渦に飛び込んだ後、気づけば次の日の朝を家で迎えていた。
上司はまったくあの時のことを覚えていないらしく、夢なのではないか、と笑われてしまったほどである。
崇人も実際、夢なのではないか――そう思った。
だが、それを夢と思わせなかったのが、最後にエスティが手渡してくれたエルリアの花束だった。ベッドの上に置かれていたそれは、二年経った今でも咲き続け、赤や白の花を咲かせる。
彼はそれを見て、思い出すのである。異世界、クローツでの出来事を。インフィニティの起動従士としてともに仲間と戦った、あの忘れられない日々のことを。
だが、そう思い出に浸っている場合でもない。
人は前に進み続けなければならない。
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