絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第三百六十六話 救うもの、壊すもの
軽口を叩いている間も、敵の猛攻はとどまるところを知らない。実際問題、そんなことを言っている暇があるならば反抗に転じるのが一番なのだが――。
(正直、そんなことをしているほど余裕がないからここまで拮抗しているのだけれどね)
誰に言うでもなく、彼はそう思った。
実際問題、彼は思っていたはずだった。少し戦っただけでわかる――相手と自分では場数が違うということ。相手と剣を交えたのが僅か一分ほどしかないというのにそれが解ってしまう。なんというか、経験の差が違うといえばいいのだろうか――。
『マスター、気を抜いている暇はありません!!』
「解っているよ!」
ガキン、ガキンとそれぞれの武器がぶつかり合う音がする。正確に言えばインフィニティには剣のような武器が無いため、コルネリアのリリーファーから拝借したナイフしかないのだが。
だが、ないよりはマシだ。実際問題、有ったほうがいいだろうと思い持ち出してきたが――これが思った以上に功を奏した。
「ほんと……まさかこんなことになるとは!」
ガキン、ガキン……ガキン!
一瞬できた隙をついて、インフィニティが相手のリリーファーを地面に倒した。
「やった!」
だが。
まだ敵のリリーファーは動いていた。
インフィニティの足を取り、思い切りそれを引っ張った。
当然、それに気づかなかった崇人は態勢を崩して――そのまま尻餅をついた。
「くっ!」
『マスター、攻撃、来ます!』
「単語区切りに言わなくても、解っているよ!」
崇人は唸りながら、思い切りリリーファーコントローラを握りしめる。彼自身の握力で、それが握りつぶされそうなほどの圧力がリリーファーコントローラにかかり、少し軋む。
でも、彼はやめない。攻撃をやめない。戦いをやめない。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
そして、インフィニティは自らの拳で――リリーファーを殴り倒した。
◇◇◇
「ほう! さすがはインフィニティ! まさか、ブレイカーを殴り倒すとはね! いやあ、伊達に君が開発したインフィニティではないねえ?」
白いワンピースを着た少女はソファに座っている帽子屋に声をかける。
帽子屋は少女の声を無視して、モニターを見つめていた。
くい、と少女は手首を捻る。
同時に帽子屋の腕がぽきり、と音を立てて折れた。
「ぐう……!」
「私の話を無視するからだよ、クロノス・ダイアス。君は立派な商人だ。この世界を見守るための、証人となってもらうよ」
「商いをしろ、と?」
「ふざけるのも大概にしろ」
「間違えたのは君のほうだがね、カミサマ?」
それを言うと、白いワンピースの少女は舌打ちをした。
仕方がないことではあるが、舌打ちされた原因を作ったのは明らかに神のほうであったから、別に彼は反省することなんてしなかった。
「……話を戻そうか。あのインフィニティ、伊達に『最強』を名乗る機械ではないね?」
「機械ではない。リリーファーだ。かつては災害救助支援ロボットとして開発された」
「ああ、そうだったね。けれど、実際にインフィニティがその役割として使われたわけではないだろう?」
「確かに、そうだ。だが、インフィニティはインフィニティとしての役割を持っていた。災害救助支援ロボットという、当初のインフィニティの目的とは違う、まったく別の……」
「ほう? 何だったかな、ここは少し思い出すという形を踏まえて、私に話してもらえないか?」
「知っているくせに、あえて話を聞こうなんて変わっている。さすがは神といったところか」
「今度は左腕を折るぞ」
悪戯をするかのように笑みを浮かべた神を見て首を横に振る。
「解った、解ったよ。だから勘弁してくれ。両手まで折られてしまうとすぐに回復することもできない。なかなか難しい身体をしているからね、シリーズというのは」
「それは私の範疇にはない。君自身の考えだろう。だが、……まあ、いい。インフィニティは災害救助支援ロボットとして開発されたリリーファー本来の目的とは違う、そう言ったな。さて、それはなぜだ?」
「当時、世界でもっとも影響力を持っていた国の存在があった。その国は我々の国に対して、こう命令した。『クリーンな戦争をするために、武器を開発せよ』と」
「ほう。そうだったな。そうだった」
「そして我々は武器を開発した。――とはいえ、我々の国は、戦争という単語にはあまりにも過敏に反応する勢力があった。どこの国でもあったかもしれないが、我々の国は一番ひどかったといえるだろう。法律があったから仕方ないことかもしれないのだが、そうだとしてもひどすぎた。我々の国は、今思えばほかの国と比べればそこがうっとうしく感じるのかもしれないな……」
「寄り道はしなくていい。端的に結果だけ述べてくれ」
「……わかった」
クロノス・ダイアスは頷き、話を続ける。
「結果として、僕たちは開発を決定。秘密裏にあるロボットを開発した。救うものと名付けたリリーファーなのに、破壊するものを作ったわけだ。我々はそれを『破壊者』、ブレイカーと呼んだ」
「ブレイカー、成る程、成る程ね。あなたが仕組んだバトルロワイヤルにはあなたが開発したものどうしが戦っている、と。そういうことね?」
こくり、と頷くクロノス・ダイアス。
クロノス・ダイアスはさらに話を続ける。
「ブレイカーはインフィニティとは違う、しかしながらリリーファーと同じような機械だった。武器も性能が大きく異なるからね。そうして、大量のリリーファーを手に入れたその国家は、それを利用して『クリーンな戦争』を実現したわけだ。大量の死骸を、戦場に撒き散らすことになったとしても」
「だが、その独占的状況も長くは続かなかった……と」
「ほかの国もブレイカーに似たロボットの開発に移ったためだ。同時に我々は彼の国に協力したということで世界中からの批判を受け孤立してしまった。だから、属州にならざるを得なかった。多くの反対意見があったが、我々の国が生き延びていくには、それしか方法が無かった」
「ブレイカーどうしによる『クリーンな戦争』、そして、新しい時代の戦争。まるで今の時代のようだが?」
「……人間は何度も歴史を繰り返す、ということだろう。かつての旧時代でも、何度も文明の興隆と滅亡を繰り返していったようだ。今思えば、仮に我々の介入が無かったにしてもこうなるのは織り込み済みだったのかもしれない。あるいは、これが人類の文明のメカニズムに組み込まれていた可能性だってあり得る」
「人間のメカニズムは、たまに我々をも裏切ることがある。作った存在ですら、それは解らないものだよ。だが、それが面白い。それがいいのだよ。人間は。だからこそこういうことをしがいがある、というもの」
「だが、ほんとうにこれでいいのだろうか――」
そう言ったクロノス・ダイアスに、意外だ、という反応を示す少女。
「驚いた。まさか君がそういう反応を示すとはね。まだ人間の心が残っていた、とでも言うべきか?」
「なんとでも言え。今はタカト・オーノのほうに心情が傾いているとでも言えばいいだろう。この世界で一番つらい思いをしているのは彼だったからな」
「突然異世界に飛ばされ、クラスメイトは目の前で死に、自分のせいでカタストロフィを起こされたと批判され、初めて体を重ねた、愛する女性を守ることすら出来ず、目の前で死んだはずのクラスメイトは人間じゃなくなっていて、しかも目の前で死ぬ――か。確かに、羅列してみれば最低な人生を送っているようだ。私だったら耐えられないね。こんな人生」
「……私がそう導いたのだから、彼の行為に同情することなど出来ないかもしれないが……、だが、彼は私の計画の最大の被害者ともいえる。そうだろう?」
「ああ、そうだ。だが、それがどうした? お前の野望、私の野望。それぞれ結果は異なるかもしれないが、そのためにはどんな犠牲をも払うのだろう? まあ、私としては楽しければそれで構わないのだが……」
少女はそう言ってテーブルに置かれていた紅茶をすすった。紅茶はもうすっかりと冷めきっており、それを口につけた瞬間、少し目を細めた。
(正直、そんなことをしているほど余裕がないからここまで拮抗しているのだけれどね)
誰に言うでもなく、彼はそう思った。
実際問題、彼は思っていたはずだった。少し戦っただけでわかる――相手と自分では場数が違うということ。相手と剣を交えたのが僅か一分ほどしかないというのにそれが解ってしまう。なんというか、経験の差が違うといえばいいのだろうか――。
『マスター、気を抜いている暇はありません!!』
「解っているよ!」
ガキン、ガキンとそれぞれの武器がぶつかり合う音がする。正確に言えばインフィニティには剣のような武器が無いため、コルネリアのリリーファーから拝借したナイフしかないのだが。
だが、ないよりはマシだ。実際問題、有ったほうがいいだろうと思い持ち出してきたが――これが思った以上に功を奏した。
「ほんと……まさかこんなことになるとは!」
ガキン、ガキン……ガキン!
一瞬できた隙をついて、インフィニティが相手のリリーファーを地面に倒した。
「やった!」
だが。
まだ敵のリリーファーは動いていた。
インフィニティの足を取り、思い切りそれを引っ張った。
当然、それに気づかなかった崇人は態勢を崩して――そのまま尻餅をついた。
「くっ!」
『マスター、攻撃、来ます!』
「単語区切りに言わなくても、解っているよ!」
崇人は唸りながら、思い切りリリーファーコントローラを握りしめる。彼自身の握力で、それが握りつぶされそうなほどの圧力がリリーファーコントローラにかかり、少し軋む。
でも、彼はやめない。攻撃をやめない。戦いをやめない。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
そして、インフィニティは自らの拳で――リリーファーを殴り倒した。
◇◇◇
「ほう! さすがはインフィニティ! まさか、ブレイカーを殴り倒すとはね! いやあ、伊達に君が開発したインフィニティではないねえ?」
白いワンピースを着た少女はソファに座っている帽子屋に声をかける。
帽子屋は少女の声を無視して、モニターを見つめていた。
くい、と少女は手首を捻る。
同時に帽子屋の腕がぽきり、と音を立てて折れた。
「ぐう……!」
「私の話を無視するからだよ、クロノス・ダイアス。君は立派な商人だ。この世界を見守るための、証人となってもらうよ」
「商いをしろ、と?」
「ふざけるのも大概にしろ」
「間違えたのは君のほうだがね、カミサマ?」
それを言うと、白いワンピースの少女は舌打ちをした。
仕方がないことではあるが、舌打ちされた原因を作ったのは明らかに神のほうであったから、別に彼は反省することなんてしなかった。
「……話を戻そうか。あのインフィニティ、伊達に『最強』を名乗る機械ではないね?」
「機械ではない。リリーファーだ。かつては災害救助支援ロボットとして開発された」
「ああ、そうだったね。けれど、実際にインフィニティがその役割として使われたわけではないだろう?」
「確かに、そうだ。だが、インフィニティはインフィニティとしての役割を持っていた。災害救助支援ロボットという、当初のインフィニティの目的とは違う、まったく別の……」
「ほう? 何だったかな、ここは少し思い出すという形を踏まえて、私に話してもらえないか?」
「知っているくせに、あえて話を聞こうなんて変わっている。さすがは神といったところか」
「今度は左腕を折るぞ」
悪戯をするかのように笑みを浮かべた神を見て首を横に振る。
「解った、解ったよ。だから勘弁してくれ。両手まで折られてしまうとすぐに回復することもできない。なかなか難しい身体をしているからね、シリーズというのは」
「それは私の範疇にはない。君自身の考えだろう。だが、……まあ、いい。インフィニティは災害救助支援ロボットとして開発されたリリーファー本来の目的とは違う、そう言ったな。さて、それはなぜだ?」
「当時、世界でもっとも影響力を持っていた国の存在があった。その国は我々の国に対して、こう命令した。『クリーンな戦争をするために、武器を開発せよ』と」
「ほう。そうだったな。そうだった」
「そして我々は武器を開発した。――とはいえ、我々の国は、戦争という単語にはあまりにも過敏に反応する勢力があった。どこの国でもあったかもしれないが、我々の国は一番ひどかったといえるだろう。法律があったから仕方ないことかもしれないのだが、そうだとしてもひどすぎた。我々の国は、今思えばほかの国と比べればそこがうっとうしく感じるのかもしれないな……」
「寄り道はしなくていい。端的に結果だけ述べてくれ」
「……わかった」
クロノス・ダイアスは頷き、話を続ける。
「結果として、僕たちは開発を決定。秘密裏にあるロボットを開発した。救うものと名付けたリリーファーなのに、破壊するものを作ったわけだ。我々はそれを『破壊者』、ブレイカーと呼んだ」
「ブレイカー、成る程、成る程ね。あなたが仕組んだバトルロワイヤルにはあなたが開発したものどうしが戦っている、と。そういうことね?」
こくり、と頷くクロノス・ダイアス。
クロノス・ダイアスはさらに話を続ける。
「ブレイカーはインフィニティとは違う、しかしながらリリーファーと同じような機械だった。武器も性能が大きく異なるからね。そうして、大量のリリーファーを手に入れたその国家は、それを利用して『クリーンな戦争』を実現したわけだ。大量の死骸を、戦場に撒き散らすことになったとしても」
「だが、その独占的状況も長くは続かなかった……と」
「ほかの国もブレイカーに似たロボットの開発に移ったためだ。同時に我々は彼の国に協力したということで世界中からの批判を受け孤立してしまった。だから、属州にならざるを得なかった。多くの反対意見があったが、我々の国が生き延びていくには、それしか方法が無かった」
「ブレイカーどうしによる『クリーンな戦争』、そして、新しい時代の戦争。まるで今の時代のようだが?」
「……人間は何度も歴史を繰り返す、ということだろう。かつての旧時代でも、何度も文明の興隆と滅亡を繰り返していったようだ。今思えば、仮に我々の介入が無かったにしてもこうなるのは織り込み済みだったのかもしれない。あるいは、これが人類の文明のメカニズムに組み込まれていた可能性だってあり得る」
「人間のメカニズムは、たまに我々をも裏切ることがある。作った存在ですら、それは解らないものだよ。だが、それが面白い。それがいいのだよ。人間は。だからこそこういうことをしがいがある、というもの」
「だが、ほんとうにこれでいいのだろうか――」
そう言ったクロノス・ダイアスに、意外だ、という反応を示す少女。
「驚いた。まさか君がそういう反応を示すとはね。まだ人間の心が残っていた、とでも言うべきか?」
「なんとでも言え。今はタカト・オーノのほうに心情が傾いているとでも言えばいいだろう。この世界で一番つらい思いをしているのは彼だったからな」
「突然異世界に飛ばされ、クラスメイトは目の前で死に、自分のせいでカタストロフィを起こされたと批判され、初めて体を重ねた、愛する女性を守ることすら出来ず、目の前で死んだはずのクラスメイトは人間じゃなくなっていて、しかも目の前で死ぬ――か。確かに、羅列してみれば最低な人生を送っているようだ。私だったら耐えられないね。こんな人生」
「……私がそう導いたのだから、彼の行為に同情することなど出来ないかもしれないが……、だが、彼は私の計画の最大の被害者ともいえる。そうだろう?」
「ああ、そうだ。だが、それがどうした? お前の野望、私の野望。それぞれ結果は異なるかもしれないが、そのためにはどんな犠牲をも払うのだろう? まあ、私としては楽しければそれで構わないのだが……」
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