絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第三百六十五話 扉の向こう
「何……だと?」
クロノス・ダイアスはその言葉を聞いて、床に膝を落とした。
少女はクロノス・ダイアスを見下すように、彼を見つめた。
「あなたの野望、あなたの希望はすべてありません。だってもともと私が仕組んでいましたから。私が操作していたから! あなたは神の力をすべて手に入れた、そうお思いでしょう。けれど、そんなことはありえません! 現に私は神の力を使えているのだから!」
「お前が、クリミアを……?」
「そこまで運命を支配していないですよ。クリミアさんの死は、ほんとうに『不幸』でした。かわいそうだと、私も思っているのですよ? 私は鬼でも悪魔でもなく、カミサマなのですから」
クロノス・ダイアスは立ち上がり、再び同じ目線に合わせる。
神と呼ばれる少女は微笑んで、さらに話を続ける。
「……まだ諦めるつもりはありませんか? まあ、別にいいですけれど。私の見ている未来にはまだ遠いですから。あなたがもっと頑張ってくれないと、そこまで辿り着けませんので」
「でも、お前は……」
「はあ。もう話しすぎましたね。あなたも頑張りました。よく眠りなさい。奥さんと子供がいる、あの世界へ」
そして――クロノス・ダイアスの視界は黒に塗り潰された。
◇◇◇
インフィニティはヘヴンズ・ゲートの前に到着した。
ヘヴンズ・ゲートの周りは、かつては森に覆われていたはずだったが、今は何もなくなっていた。荒野の中にぽつりと扉だけ残っている、少し不思議な様子となっていた。
扉は十年以上前と同じ様子だった。あの時から開けられていないためか、苔がところどころに生えている。
「ここに……何があるというんだ……?」
コルネリアから一応話は聞いていたものの、この場所については全容が解明されていないため、どうすればいいのか解らなかった。
ヘヴンズ・ゲート。
彼にとって、いまだ理解できない場所。
もともと世界に馴染んでいないからかもしれないが、彼にとって不思議な場所――その一つがここだった。
「ここは……いったい……何のための場所なんだ?」
改めて。
彼はこの場所の存在意義を考える。
荒野に浮かぶ、異質な扉。
この空間、この扉はいったいどこに繋がっているのか。
「……ううむ。やっぱり解らない。一体全体、ここはほんとうに何のために必要としているのか。けれど、帽子屋はここを必要としていたはず……。記憶が正しければ、の話だが」
『解析すると、まだ何もないようです。かつてはエネルギーが充填して「反転」していたようですが。今は普通ですね……いや、』
「いや? どういうことだ」
『扉の奥から高エネルギー反応が見えます。もしかして――、いや、これは、リリーファーと同質のエネルギーです』
「なんだと!?」
そして。
フロネシスが言ったと同時に――扉がゆっくりと開かれていく。
◇◇◇
白の部屋で神と呼ばれた少女はテレビでその映像を見ていた。
「どうやら、タカト・オーノは『出会う』ようだね。長かった、というか早かったというか。彼の子供たちも、今や別空間。彼の頼もしい仲間も今やだれもいない。さて、タカト・オーノ、君はどう動くかな?」
テーブルに置かれた冷めきった紅茶と別に、淹れたばかりの温かい紅茶を飲み干して、彼女は頷く。
「世界には犠牲がつきものだ。神が世界を作り、人間はその世界で暮らしていく。……その意味を理解してもらわねば困るのだよ。クロノス・ダイアスも、タカト・オーノも」
◇◇◇
扉がゆっくりと開かれていく。
中は、暗闇だった。暗黒だった。ただ、一面の黒が広がっていた。
「何故、急に扉が――」
『解りません。ですが、これだけははっきりと言えます。この扉は、我々の世界から開けたものではなく、「あちら側」から開けたものであると――』
「あちら側?」
『ええ。おそらく、というかデータから見る推測ですが、この扉は我々の世界と別の世界をつなぐ扉であると推測されます。その扉のむこうには、我々が住む世界とは別の世界が広がっており、おそらく現状はこちら側から望んで開けるのは不可能であると考えられます』
「つまり、向こうからしか開けることのできない、と?」
『ええ。ですが、一度開かれればその間はこちらでも制御は可能だと思われますが』
「……成る程。そして、今からやってくると推測されるのが――」
暗闇だった扉の中から、二つの光が見える。
それがリリーファーの眼であることに気付いた彼は、急いでインフィニティを後退させる。
だが、若干遅かった。命令が遅かったのだ。
刹那、インフィニティの右肩に、その槍が突き刺さる。
「ぐあああっ……!」
肩を抑えながら、必死に反撃を試みる。
まずは刺された槍を抜き、自らの武器とした。
「そんな簡単に、やられてたまるかよ……っ!」
そしてそれをそのまま、相手に突き刺そうとする。
だが、そう簡単に相手もやられるわけではない。
すぐにインフィニティの横に回り、左腕を絡み取った。
「何をする気だ。まさか、インフィニティの腕を文字通り抜き取ろうなんて考えじゃないだろうな……」
彼の考えはすぐに的中した。
敵のリリーファーはインフィニティの腕を引っ張り始める。リリーファーの力なので、その力は相当なものだったが、しかし相手はインフィニティ。そんな簡単に抜けるはずがない。
「フロネシス、エクサ・チャージの準備は?」
『残り二十秒です』
「了解!」
そして彼は右手に持っていた槍を――そのまま相手のリリーファーの左肩、ちょうど関節に当たる部分に突き刺した。
相手も思わず仰け反り、インフィニティから離れようとする。
だが、今度はインフィニティが反撃する番だ。
「逃がさねえよ!」
インフィニティはそのあとを追うようにくっついていく。
そして。
『エクサ・チャージ、準備完了しました。いつでも可能です』
「了解! エクサ・チャージ、そのまま放て!」
そして。
インフィニティはエクサ・チャージをそのリリーファーに打ち放った。
エクサ・チャージはリリーファーに命中し、扉に激突する。衝撃で一瞬だったがリリーファーは気絶していた。――正確に言えば、リリーファーの中の起動従士が気絶しただけに過ぎないのだが。
エクサ・チャージは高電圧の粒子砲だ。だから、仮にそれを耐えたとしても電撃による障害は暫く残る。動きが鈍くなったり違う反応を示したりする可能性だって十分にあり得る。それがエクサ・チャージによる『二次災害』だった。
それでもなお。
相手のリリーファーは戦う姿勢を崩さない。
犬歯をむき出しにし、こちらに敵意を見せる姿勢はまるで野生の獣そのものだった。
「ほんとう、相手のほうはまだまだ戦いたいと思っているらしいな……。帽子屋が言っていた戦いってやつは、これだったのか?」
だとすれば、崇人が負ければこの世界が滅ぶ――ということとなる。
逆に言えば、相手が負ければ相手の世界が――。
「いや――それはあまり考えないほうがいいな。どちらにせよ、今はこの戦いを乗り越えていく必要がある。俺は帽子屋を、あいつに一発入れてやらないと気が済まねえんだよ……!」
そして。
彼は相手に立ち向かう。
相手のリリーファーが走り出したと同時に、彼もそれに立ち向かうべく、走り出していく。
相手のリリーファーは、左手はもう使い物にならず右手だけで攻撃していた。右手はよく見れば(正確に言えば、使えなくなっている左手も一緒だが)爪が尖っており、それだけで武器足りえる。即ち、ほんとうに獣そのものだったのだ。
「これが同じリリーファーかよ……。ほんと、異世界の技術には感心するね、まったく……」
そんな軽口を叩いてみたが、実際にはそんなことを言える余裕など無かった。
クロノス・ダイアスはその言葉を聞いて、床に膝を落とした。
少女はクロノス・ダイアスを見下すように、彼を見つめた。
「あなたの野望、あなたの希望はすべてありません。だってもともと私が仕組んでいましたから。私が操作していたから! あなたは神の力をすべて手に入れた、そうお思いでしょう。けれど、そんなことはありえません! 現に私は神の力を使えているのだから!」
「お前が、クリミアを……?」
「そこまで運命を支配していないですよ。クリミアさんの死は、ほんとうに『不幸』でした。かわいそうだと、私も思っているのですよ? 私は鬼でも悪魔でもなく、カミサマなのですから」
クロノス・ダイアスは立ち上がり、再び同じ目線に合わせる。
神と呼ばれる少女は微笑んで、さらに話を続ける。
「……まだ諦めるつもりはありませんか? まあ、別にいいですけれど。私の見ている未来にはまだ遠いですから。あなたがもっと頑張ってくれないと、そこまで辿り着けませんので」
「でも、お前は……」
「はあ。もう話しすぎましたね。あなたも頑張りました。よく眠りなさい。奥さんと子供がいる、あの世界へ」
そして――クロノス・ダイアスの視界は黒に塗り潰された。
◇◇◇
インフィニティはヘヴンズ・ゲートの前に到着した。
ヘヴンズ・ゲートの周りは、かつては森に覆われていたはずだったが、今は何もなくなっていた。荒野の中にぽつりと扉だけ残っている、少し不思議な様子となっていた。
扉は十年以上前と同じ様子だった。あの時から開けられていないためか、苔がところどころに生えている。
「ここに……何があるというんだ……?」
コルネリアから一応話は聞いていたものの、この場所については全容が解明されていないため、どうすればいいのか解らなかった。
ヘヴンズ・ゲート。
彼にとって、いまだ理解できない場所。
もともと世界に馴染んでいないからかもしれないが、彼にとって不思議な場所――その一つがここだった。
「ここは……いったい……何のための場所なんだ?」
改めて。
彼はこの場所の存在意義を考える。
荒野に浮かぶ、異質な扉。
この空間、この扉はいったいどこに繋がっているのか。
「……ううむ。やっぱり解らない。一体全体、ここはほんとうに何のために必要としているのか。けれど、帽子屋はここを必要としていたはず……。記憶が正しければ、の話だが」
『解析すると、まだ何もないようです。かつてはエネルギーが充填して「反転」していたようですが。今は普通ですね……いや、』
「いや? どういうことだ」
『扉の奥から高エネルギー反応が見えます。もしかして――、いや、これは、リリーファーと同質のエネルギーです』
「なんだと!?」
そして。
フロネシスが言ったと同時に――扉がゆっくりと開かれていく。
◇◇◇
白の部屋で神と呼ばれた少女はテレビでその映像を見ていた。
「どうやら、タカト・オーノは『出会う』ようだね。長かった、というか早かったというか。彼の子供たちも、今や別空間。彼の頼もしい仲間も今やだれもいない。さて、タカト・オーノ、君はどう動くかな?」
テーブルに置かれた冷めきった紅茶と別に、淹れたばかりの温かい紅茶を飲み干して、彼女は頷く。
「世界には犠牲がつきものだ。神が世界を作り、人間はその世界で暮らしていく。……その意味を理解してもらわねば困るのだよ。クロノス・ダイアスも、タカト・オーノも」
◇◇◇
扉がゆっくりと開かれていく。
中は、暗闇だった。暗黒だった。ただ、一面の黒が広がっていた。
「何故、急に扉が――」
『解りません。ですが、これだけははっきりと言えます。この扉は、我々の世界から開けたものではなく、「あちら側」から開けたものであると――』
「あちら側?」
『ええ。おそらく、というかデータから見る推測ですが、この扉は我々の世界と別の世界をつなぐ扉であると推測されます。その扉のむこうには、我々が住む世界とは別の世界が広がっており、おそらく現状はこちら側から望んで開けるのは不可能であると考えられます』
「つまり、向こうからしか開けることのできない、と?」
『ええ。ですが、一度開かれればその間はこちらでも制御は可能だと思われますが』
「……成る程。そして、今からやってくると推測されるのが――」
暗闇だった扉の中から、二つの光が見える。
それがリリーファーの眼であることに気付いた彼は、急いでインフィニティを後退させる。
だが、若干遅かった。命令が遅かったのだ。
刹那、インフィニティの右肩に、その槍が突き刺さる。
「ぐあああっ……!」
肩を抑えながら、必死に反撃を試みる。
まずは刺された槍を抜き、自らの武器とした。
「そんな簡単に、やられてたまるかよ……っ!」
そしてそれをそのまま、相手に突き刺そうとする。
だが、そう簡単に相手もやられるわけではない。
すぐにインフィニティの横に回り、左腕を絡み取った。
「何をする気だ。まさか、インフィニティの腕を文字通り抜き取ろうなんて考えじゃないだろうな……」
彼の考えはすぐに的中した。
敵のリリーファーはインフィニティの腕を引っ張り始める。リリーファーの力なので、その力は相当なものだったが、しかし相手はインフィニティ。そんな簡単に抜けるはずがない。
「フロネシス、エクサ・チャージの準備は?」
『残り二十秒です』
「了解!」
そして彼は右手に持っていた槍を――そのまま相手のリリーファーの左肩、ちょうど関節に当たる部分に突き刺した。
相手も思わず仰け反り、インフィニティから離れようとする。
だが、今度はインフィニティが反撃する番だ。
「逃がさねえよ!」
インフィニティはそのあとを追うようにくっついていく。
そして。
『エクサ・チャージ、準備完了しました。いつでも可能です』
「了解! エクサ・チャージ、そのまま放て!」
そして。
インフィニティはエクサ・チャージをそのリリーファーに打ち放った。
エクサ・チャージはリリーファーに命中し、扉に激突する。衝撃で一瞬だったがリリーファーは気絶していた。――正確に言えば、リリーファーの中の起動従士が気絶しただけに過ぎないのだが。
エクサ・チャージは高電圧の粒子砲だ。だから、仮にそれを耐えたとしても電撃による障害は暫く残る。動きが鈍くなったり違う反応を示したりする可能性だって十分にあり得る。それがエクサ・チャージによる『二次災害』だった。
それでもなお。
相手のリリーファーは戦う姿勢を崩さない。
犬歯をむき出しにし、こちらに敵意を見せる姿勢はまるで野生の獣そのものだった。
「ほんとう、相手のほうはまだまだ戦いたいと思っているらしいな……。帽子屋が言っていた戦いってやつは、これだったのか?」
だとすれば、崇人が負ければこの世界が滅ぶ――ということとなる。
逆に言えば、相手が負ければ相手の世界が――。
「いや――それはあまり考えないほうがいいな。どちらにせよ、今はこの戦いを乗り越えていく必要がある。俺は帽子屋を、あいつに一発入れてやらないと気が済まねえんだよ……!」
そして。
彼は相手に立ち向かう。
相手のリリーファーが走り出したと同時に、彼もそれに立ち向かうべく、走り出していく。
相手のリリーファーは、左手はもう使い物にならず右手だけで攻撃していた。右手はよく見れば(正確に言えば、使えなくなっている左手も一緒だが)爪が尖っており、それだけで武器足りえる。即ち、ほんとうに獣そのものだったのだ。
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