絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第三百五十二話 異次元戦闘(後編)
しかしながら――唐突に、相手のリリーファーが行動を停止した。
項垂れた様子でリリーファーは停止し、そのまま動かなくなってしまったのだ。
一撃剣で攻撃を加えたものの反応を示すことなく、そのまま屹立した形となっている。
「……何だ、これは……?」
『どうやら内部エネルギーが尽きたのだろう。相手のリリーファーは、余程時間に余裕が無かったように見える。戦闘も、どちらかといえば先走っている戦法に見えただろう? きっと、それが原因だろうな』
気付けばブレイカーの隣には黒い球体――ハンプティ・ダンプティが浮かんでいた。
「ハンプティ・ダンプティ……。これはいったいどういうこと?」
『リリーファーを与えられた世界では、それを改良する。当然のことだろう? お告げが嘘か本当か解らないとはいえ、少なくとも一定割合の人間はそれを信じているわけだ。それを信じる人間からすれば来るべき時に備えて改良しておく方が望ましい。もっというなら、リリーファーを解析出来たほうがいい。だが、それを出来る技術が乏しい世界では? リリーファーを修理することすら難しい世界では? 簡単にリリーファーは壊れてしまう。幾らリリーファーが進んだ科学技術の賜物であったとしても、定期的なメンテナンスをしないといずれ壊れてしまうのは当然のことだからな』
「……つまり、これは『技術力の差』ということか?」
何も言わなかったから肯定と見たマーズは、剣を仕舞った。とはいえ、鞘を持っているわけもないので、そのまま剣を地面に突き刺すだけだった。突き刺したと同時に、剣はホログラムめいて光の破片となって消えていった。
黒い球体はブレイカーの前に移動し、訊ねる。
『どうしたんだい? 君は、このリリーファーを破壊しなくてはいけないのだよ?』
「……何ですって?」
ハンプティ・ダンプティの言葉を聞いて、マーズは言葉を失った。
一体全体何を言っているのか、彼女には解らなかった。
ハンプティ・ダンプティの話は続く。
『何を言っているのか解らないようだから、改めて説明するけれど、別の世界からやってくる「刺客」が必ず倒さなくてはいけない。倒すというのは、もちろん生命活動を停止させるという意味だ』
「……生命活動を停止。成る程、二つもリリーファーがあってはならない、ということ?」
『正確に言えば、「戦闘者」が二人も居てはならない、ってこと。二人も居るとそれだけでルール違反に繋がってしまうからね』
「ルール違反、って……。ルールを決めたのはあなたたちでしょう?」
マーズの問いに、ハンプティ・ダンプティは何も答えない。
それを見て、溜息を吐くマーズ。
「まあ、いいわ。助けてくれるのでしょうね? これを勝ち抜けば、私をもとの世界に戻してくれる?」
『確証は出来ないが、検討はしよう』
ハンプティ・ダンプティから出されたのは、曖昧な結論だった。
当然、そのような答えで納得できるわけもなく、
「何よ、それ。それで私が納得できるとでも思っているの? 返しなさい、確実に」
『とはいえ、我々も君をこの世界へ飛ばした意味も解らなければ返す方法もはっきりとはわかっていない。正確に言えば、あの世界の帽子屋は何を考えているか解らないのだよ。一度、耳にしたことがあるが、あいつの考えはきっとあの世界のシリーズですら理解できるか危うい』
あの世界のシリーズ。
それは、帽子屋以外に居る――例えばハンプティ・ダンプティとか、バンダースナッチだとかを指しているのだろうか。
マーズは考えようとしたが、あいにく彼女にも時間は無かった。
「……約束して。私を元の世界に戻す、と。それさえしてくれるのならば、私はこのバトル・ロワイヤルを勝ち残ってやる、絶対に」
『ああ、解った。……約束しよう』
そうして、黒い球体、ハンプティ・ダンプティは姿を消した。
彼女は再び、停止してしまったリリーファーと対面する。
既に動かなくなってしまったそれに敵対する意志を示す必要は無いのだが――、彼女が元の世界に戻る為、そして『戦闘者』を一人に規定するためには致し方ないことであった。未だあまりルールを理解できていない彼女が言うのもどうかと思うが、今の彼女にとってこのリリーファーを破壊することが、元の世界に戻る一番の近道であると言えるだろう。
「先ずは……コックピットから」
そして。
彼女は、ブレイカーは、その拳を振り上げて――胸部、ちょうどコックピットのあるあたりを殴りつけた。
音も無く崩れ去ったコックピットを守る胸部装甲。そして、その奥に広がっているのは、赤い球体だった。それこそがコックピットであり、それを守る最後の砦である。
「これの中に、起動従士が……このリリーファーを操る人間が居るということね」
ブレイカーは右手を振り上げる。
すると彼女が念じた通りに、右手にはあるものが握られていた。
ライフルにも似た銃だった。その銃身は長く、砲口は太い。この銃から放たれる弾丸が、仮にゼロ距離でコックピットに放たれれば木端微塵と化すだろう。
「現に、そんな事例もあったからな。リリーファーを破壊するならば、リリーファーを操縦する人間のいるコックピットを破壊すればいい……そう言われている程だ。ま、それは非道だと言われて暗黙の了解で廃止されてしまったものだが、実際はこっちの方が手っ取り早い」
マーズはそんな独り言を呟きながら、ライフルを構えた。
ゼロ距離で、その砲口を、コックピットを守る赤い壁に着ける。
これから逃れる術など、たった一つの手段を除いて、無い。だが、その手段はその搭乗者の人命をも失うため、元も子もない手段だ。だから、マーズはそのような手段など起きるはずがない。――一種の慢心に近いものだが、彼女はそう感じていた。
実際、そうだった。
彼女がライフルの砲口を壁に装着して、それからその手段を取るような痕跡が見られなかった。
一つの覚悟を決めているのかもしれない。そう思うと、マーズは一つ溜息を吐いた。
「ならばこちらも……覚悟をもって決めてあげないとね。覚悟には覚悟をもって立ち向かう。それが起動従士同士の戦いに必要なマナーってものよ」
そして、彼女はその引き金を――ゆっくりと引いた。
刹那、コックピットを弾丸が撃ち抜いた。
赤い血が、コックピット内部を埋め尽くすように塗り潰されていく。
完全にリリーファーは行動を停止し、それを見て起動従士が死んだことを確認した。
何とも呆気ない、戦いの最後だった。
◇◇◇
「……さて、改めて話をさせてもらうわよ、ハンプティ・ダンプティ」
戦闘が終わり、彼女はブレイカーを降りていた。
瓦礫の中、この街が意外と寒いことに気付いた彼女は、手頃な大きさの缶を見つけそこに火をつけていた。
そして彼女が念じるようにハンプティ・ダンプティを呼び出すと、彼女の予想通り目の前にそれが現れたのである。
『さっきは申し訳なかったね。ところで、どこまで話したかな。僕もあまり覚えていないのだよ。申し訳ないね、話の途中で無理矢理区切られるとどうもダメで』
「申し訳なかった……なんて本当に思っているのかしらね? 私はその胡散臭い言葉がどうも気にかかるのだけれど」
『別に君を騙すつもりなど無かった。本当はルールや必要なことまで凡て話して改めて君に頼む予定だった。ほんとうだ、嘘じゃない。信じてくれ』
「信じてくれ……ねえ。ところで、あなたの話は途中だったわよね? それを先ず伝えて頂戴。そちらの手の内が解らないと、こちらも行動することが出来ない」
『つまりこちらを信じてくれる、ということだね?』
「信じる、信じないという話ではない。先ずは情報を共有する、ただそれだけのこと」
マーズの言葉を、ハンプティ・ダンプティにとって良い感触であったと思ったのか、ハンプティ・ダンプティは話を始める。
『それでは話を始めよう。僕の記憶が正しければ、世界を減らすルールについて、そこから話せばいいのかな?』
「ええ、そうね。だけれど、今までのやり取りで何となく解ってきているけれど」
それを聞いて、ハンプティ・ダンプティは少しマーズの方に近付く。
後退しようにも、マーズはコンクリート柱の一部を椅子として使いそれに腰かけているので、後退しようがなかった。
項垂れた様子でリリーファーは停止し、そのまま動かなくなってしまったのだ。
一撃剣で攻撃を加えたものの反応を示すことなく、そのまま屹立した形となっている。
「……何だ、これは……?」
『どうやら内部エネルギーが尽きたのだろう。相手のリリーファーは、余程時間に余裕が無かったように見える。戦闘も、どちらかといえば先走っている戦法に見えただろう? きっと、それが原因だろうな』
気付けばブレイカーの隣には黒い球体――ハンプティ・ダンプティが浮かんでいた。
「ハンプティ・ダンプティ……。これはいったいどういうこと?」
『リリーファーを与えられた世界では、それを改良する。当然のことだろう? お告げが嘘か本当か解らないとはいえ、少なくとも一定割合の人間はそれを信じているわけだ。それを信じる人間からすれば来るべき時に備えて改良しておく方が望ましい。もっというなら、リリーファーを解析出来たほうがいい。だが、それを出来る技術が乏しい世界では? リリーファーを修理することすら難しい世界では? 簡単にリリーファーは壊れてしまう。幾らリリーファーが進んだ科学技術の賜物であったとしても、定期的なメンテナンスをしないといずれ壊れてしまうのは当然のことだからな』
「……つまり、これは『技術力の差』ということか?」
何も言わなかったから肯定と見たマーズは、剣を仕舞った。とはいえ、鞘を持っているわけもないので、そのまま剣を地面に突き刺すだけだった。突き刺したと同時に、剣はホログラムめいて光の破片となって消えていった。
黒い球体はブレイカーの前に移動し、訊ねる。
『どうしたんだい? 君は、このリリーファーを破壊しなくてはいけないのだよ?』
「……何ですって?」
ハンプティ・ダンプティの言葉を聞いて、マーズは言葉を失った。
一体全体何を言っているのか、彼女には解らなかった。
ハンプティ・ダンプティの話は続く。
『何を言っているのか解らないようだから、改めて説明するけれど、別の世界からやってくる「刺客」が必ず倒さなくてはいけない。倒すというのは、もちろん生命活動を停止させるという意味だ』
「……生命活動を停止。成る程、二つもリリーファーがあってはならない、ということ?」
『正確に言えば、「戦闘者」が二人も居てはならない、ってこと。二人も居るとそれだけでルール違反に繋がってしまうからね』
「ルール違反、って……。ルールを決めたのはあなたたちでしょう?」
マーズの問いに、ハンプティ・ダンプティは何も答えない。
それを見て、溜息を吐くマーズ。
「まあ、いいわ。助けてくれるのでしょうね? これを勝ち抜けば、私をもとの世界に戻してくれる?」
『確証は出来ないが、検討はしよう』
ハンプティ・ダンプティから出されたのは、曖昧な結論だった。
当然、そのような答えで納得できるわけもなく、
「何よ、それ。それで私が納得できるとでも思っているの? 返しなさい、確実に」
『とはいえ、我々も君をこの世界へ飛ばした意味も解らなければ返す方法もはっきりとはわかっていない。正確に言えば、あの世界の帽子屋は何を考えているか解らないのだよ。一度、耳にしたことがあるが、あいつの考えはきっとあの世界のシリーズですら理解できるか危うい』
あの世界のシリーズ。
それは、帽子屋以外に居る――例えばハンプティ・ダンプティとか、バンダースナッチだとかを指しているのだろうか。
マーズは考えようとしたが、あいにく彼女にも時間は無かった。
「……約束して。私を元の世界に戻す、と。それさえしてくれるのならば、私はこのバトル・ロワイヤルを勝ち残ってやる、絶対に」
『ああ、解った。……約束しよう』
そうして、黒い球体、ハンプティ・ダンプティは姿を消した。
彼女は再び、停止してしまったリリーファーと対面する。
既に動かなくなってしまったそれに敵対する意志を示す必要は無いのだが――、彼女が元の世界に戻る為、そして『戦闘者』を一人に規定するためには致し方ないことであった。未だあまりルールを理解できていない彼女が言うのもどうかと思うが、今の彼女にとってこのリリーファーを破壊することが、元の世界に戻る一番の近道であると言えるだろう。
「先ずは……コックピットから」
そして。
彼女は、ブレイカーは、その拳を振り上げて――胸部、ちょうどコックピットのあるあたりを殴りつけた。
音も無く崩れ去ったコックピットを守る胸部装甲。そして、その奥に広がっているのは、赤い球体だった。それこそがコックピットであり、それを守る最後の砦である。
「これの中に、起動従士が……このリリーファーを操る人間が居るということね」
ブレイカーは右手を振り上げる。
すると彼女が念じた通りに、右手にはあるものが握られていた。
ライフルにも似た銃だった。その銃身は長く、砲口は太い。この銃から放たれる弾丸が、仮にゼロ距離でコックピットに放たれれば木端微塵と化すだろう。
「現に、そんな事例もあったからな。リリーファーを破壊するならば、リリーファーを操縦する人間のいるコックピットを破壊すればいい……そう言われている程だ。ま、それは非道だと言われて暗黙の了解で廃止されてしまったものだが、実際はこっちの方が手っ取り早い」
マーズはそんな独り言を呟きながら、ライフルを構えた。
ゼロ距離で、その砲口を、コックピットを守る赤い壁に着ける。
これから逃れる術など、たった一つの手段を除いて、無い。だが、その手段はその搭乗者の人命をも失うため、元も子もない手段だ。だから、マーズはそのような手段など起きるはずがない。――一種の慢心に近いものだが、彼女はそう感じていた。
実際、そうだった。
彼女がライフルの砲口を壁に装着して、それからその手段を取るような痕跡が見られなかった。
一つの覚悟を決めているのかもしれない。そう思うと、マーズは一つ溜息を吐いた。
「ならばこちらも……覚悟をもって決めてあげないとね。覚悟には覚悟をもって立ち向かう。それが起動従士同士の戦いに必要なマナーってものよ」
そして、彼女はその引き金を――ゆっくりと引いた。
刹那、コックピットを弾丸が撃ち抜いた。
赤い血が、コックピット内部を埋め尽くすように塗り潰されていく。
完全にリリーファーは行動を停止し、それを見て起動従士が死んだことを確認した。
何とも呆気ない、戦いの最後だった。
◇◇◇
「……さて、改めて話をさせてもらうわよ、ハンプティ・ダンプティ」
戦闘が終わり、彼女はブレイカーを降りていた。
瓦礫の中、この街が意外と寒いことに気付いた彼女は、手頃な大きさの缶を見つけそこに火をつけていた。
そして彼女が念じるようにハンプティ・ダンプティを呼び出すと、彼女の予想通り目の前にそれが現れたのである。
『さっきは申し訳なかったね。ところで、どこまで話したかな。僕もあまり覚えていないのだよ。申し訳ないね、話の途中で無理矢理区切られるとどうもダメで』
「申し訳なかった……なんて本当に思っているのかしらね? 私はその胡散臭い言葉がどうも気にかかるのだけれど」
『別に君を騙すつもりなど無かった。本当はルールや必要なことまで凡て話して改めて君に頼む予定だった。ほんとうだ、嘘じゃない。信じてくれ』
「信じてくれ……ねえ。ところで、あなたの話は途中だったわよね? それを先ず伝えて頂戴。そちらの手の内が解らないと、こちらも行動することが出来ない」
『つまりこちらを信じてくれる、ということだね?』
「信じる、信じないという話ではない。先ずは情報を共有する、ただそれだけのこと」
マーズの言葉を、ハンプティ・ダンプティにとって良い感触であったと思ったのか、ハンプティ・ダンプティは話を始める。
『それでは話を始めよう。僕の記憶が正しければ、世界を減らすルールについて、そこから話せばいいのかな?』
「ええ、そうね。だけれど、今までのやり取りで何となく解ってきているけれど」
それを聞いて、ハンプティ・ダンプティは少しマーズの方に近付く。
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