絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第三百四十三話 親子
彼の部屋の扉がノックされたのは、ちょうどその時だった。
「入ってもいいかしら?」
声の主はコルネリアだった。
無言を了承と受け取り、コルネリアは中へと入っていく。
だが、部屋に入っていくのは彼女だけでは無かった。彼女の背後には二人の人間が並んではいって行った。
ダイモスとハルだということに気付くのに、そう時間はかからなかった。
「おい、コルネリア。これはいったい……!」
「私たちがお願いしたのです、コルネリアさんに。タカトさんに……お父さんに会わせてほしい、って」
「そんなことを言われても……僕は……」
おどおどしながら話をする崇人。
それに苛立ちを募らせたのか、コルネリアは崇人の背後に立って、彼の背中を思い切り叩いた。
「痛え!」
「そんなおどおどしていてどうするのよ。あなたの目の前に居るのは、あなたの子供なのよ? 親子水入らず、何でも話を出来る関係じゃないと、ね?」
「……解ったよ」
ここで崇人が一番の年上であると自覚し、自分から引くことを決めた。
それを聞いて、ダイモスとハルの表情が明るくなる。
それを見て、猶更彼は断ることなんて出来なかった。
◇◇◇
とはいえ。
何を話せばいいのだろうか、崇人は思った。
「話す内容と言えば、これといって浮かばない、というのも酷い話だよな……」
崇人は心の中で呟いたつもりだったが、意外にもそういう言葉というのは声に出てしまうものである。
ダイモスとハルが反応したのを見て、漸く自分がその言葉を発言してしまった、ということを理解した。
「あ、いや、別に……。そういうことを思っているわけでは無くて……」
「困惑しているのですよね、しょうがないですよ。気が付けば、自分以外が十年の時を進んでいる。そんなこと、受け入れたくありませんよね。仕方ないことだと思います」
ハルは彼を慰める。
けれど、崇人は俯いたままだった。
「……母さんは、父さんのことを言い出さなかった。最初は、何故かと思った。だから、こちらも聞き出さなかった。きっと言いたくなかったのだろう、と思っていたから。けれど、メリアさんから聞いた話だと、父さんは勇敢な人間だと言っていた。そして、父さんが父さんと聞いたのは、つい此間の話だけれど……。それでも、父さんは父さんと言える。だって、似ているんだもの、俺たちと」
ダイモスの言葉に、思わず彼の目から涙が零れた。
「お、おい……父さん、大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だよ。問題ない。別に、お前たちの言葉が胸に刺さったとかそういうわけではない、そういうわけではないぞ……」
それを見たダイモスが思わず噴き出した。
ハルは疑問に思って、彼に訊ねる。
「どうしたの、ダイモス?」
「いや、もしかしたら怖い人なんじゃないか、って思ったのだけれど……そんなこと杞憂だった。考える必要も無かった。最強のリリーファーの起動従士だからって、そんなことは関係ない。父さんは父さんだ。優しくて、強くて、そして暖かい」
「暖かい?」
「うん。そうだよ。まあ、それについて今語る必要性も無いかもしれないけれど。先ずは、レーヴとハリー傭兵団の会議がうまくいけばいいな、ってことだけを考えているよ」
「……そうだな。ハリー傭兵団、かあ。僕が所属していたころに比べれば、考えられない程の未来になってしまったなあ」
ベッドに腰掛けていた崇人はそのままベッドに寝転がる。
天井を見つめながら、彼は呟く。
「エスティ、アーデルハイト、マーズ……みんな死んでしまった。それが僕には信じられない。あの時の仲間が……友人が……家族が……死んでしまった」
「大丈夫ですよ、父さん」
ハルが彼の元に近付く。
そして、彼の手に触れた。
ハルの手はとても暖かく――とても優しかった。まるでマーズのように。
「……ハル……」
「私は、あなたの味方です。だって、あなたの娘なのですから」
ハルは崇人を抱きしめる。
彼は涙を流していた。普通の親子関係ならば、実の娘にこのようなことを見せるのは醜態だろうか? だが、実際に子供が居なかった彼は、そんなことを考えなかった。ただ、泣きたくなったから泣いた。そして、ハルはそれに応じた。ただそれだけのことだった。
「……父さん」
次に言葉を零したのは、ダイモスだった。
「……ダイモス、だったか?」
こくり、と彼は頷く。
その表情はどこか恥ずかしそうだった。
ダイモスはそのまま下を向いたまま立ち尽くしていた。崇人は何も解らず、ずっと彼を見つめていたが、彼の顔が徐々に赤らめていく以外は何も変わることは無かった。
痺れを切らしたハルは小さく溜息を吐いて、
「父さん。兄さんもどうやら私のように甘えたいらしいですよ?」
それを言われたダイモスは超高速の反応をして、ハルに食い掛かる。
「ちょ、お前! そんなことは……」
「そうなのか?」
身体を起こし、訊ねる崇人。
目をそらし、崇人の問いになかなか答えないダイモスだったが――最終的に、ゆっくりと頷いた。
「なら、最初からそう言えば良かったのに。済まなかったな。父親としての自覚が足りなくて……」
「そ、そんなことは無いよ。父さんは立派だ。たとえ、蔑まれようとも……父さんは父さんだよ」
「そう言ってくれると嬉しいよ、ありがとう」
笑みを浮かべる崇人。
それを見たダイモスは、直視できなかったのか、すぐに横を向く。
その光景を、とても微笑ましいと思ったハルもまた、笑みを浮かべた。
「入ってもいいかしら?」
声の主はコルネリアだった。
無言を了承と受け取り、コルネリアは中へと入っていく。
だが、部屋に入っていくのは彼女だけでは無かった。彼女の背後には二人の人間が並んではいって行った。
ダイモスとハルだということに気付くのに、そう時間はかからなかった。
「おい、コルネリア。これはいったい……!」
「私たちがお願いしたのです、コルネリアさんに。タカトさんに……お父さんに会わせてほしい、って」
「そんなことを言われても……僕は……」
おどおどしながら話をする崇人。
それに苛立ちを募らせたのか、コルネリアは崇人の背後に立って、彼の背中を思い切り叩いた。
「痛え!」
「そんなおどおどしていてどうするのよ。あなたの目の前に居るのは、あなたの子供なのよ? 親子水入らず、何でも話を出来る関係じゃないと、ね?」
「……解ったよ」
ここで崇人が一番の年上であると自覚し、自分から引くことを決めた。
それを聞いて、ダイモスとハルの表情が明るくなる。
それを見て、猶更彼は断ることなんて出来なかった。
◇◇◇
とはいえ。
何を話せばいいのだろうか、崇人は思った。
「話す内容と言えば、これといって浮かばない、というのも酷い話だよな……」
崇人は心の中で呟いたつもりだったが、意外にもそういう言葉というのは声に出てしまうものである。
ダイモスとハルが反応したのを見て、漸く自分がその言葉を発言してしまった、ということを理解した。
「あ、いや、別に……。そういうことを思っているわけでは無くて……」
「困惑しているのですよね、しょうがないですよ。気が付けば、自分以外が十年の時を進んでいる。そんなこと、受け入れたくありませんよね。仕方ないことだと思います」
ハルは彼を慰める。
けれど、崇人は俯いたままだった。
「……母さんは、父さんのことを言い出さなかった。最初は、何故かと思った。だから、こちらも聞き出さなかった。きっと言いたくなかったのだろう、と思っていたから。けれど、メリアさんから聞いた話だと、父さんは勇敢な人間だと言っていた。そして、父さんが父さんと聞いたのは、つい此間の話だけれど……。それでも、父さんは父さんと言える。だって、似ているんだもの、俺たちと」
ダイモスの言葉に、思わず彼の目から涙が零れた。
「お、おい……父さん、大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だよ。問題ない。別に、お前たちの言葉が胸に刺さったとかそういうわけではない、そういうわけではないぞ……」
それを見たダイモスが思わず噴き出した。
ハルは疑問に思って、彼に訊ねる。
「どうしたの、ダイモス?」
「いや、もしかしたら怖い人なんじゃないか、って思ったのだけれど……そんなこと杞憂だった。考える必要も無かった。最強のリリーファーの起動従士だからって、そんなことは関係ない。父さんは父さんだ。優しくて、強くて、そして暖かい」
「暖かい?」
「うん。そうだよ。まあ、それについて今語る必要性も無いかもしれないけれど。先ずは、レーヴとハリー傭兵団の会議がうまくいけばいいな、ってことだけを考えているよ」
「……そうだな。ハリー傭兵団、かあ。僕が所属していたころに比べれば、考えられない程の未来になってしまったなあ」
ベッドに腰掛けていた崇人はそのままベッドに寝転がる。
天井を見つめながら、彼は呟く。
「エスティ、アーデルハイト、マーズ……みんな死んでしまった。それが僕には信じられない。あの時の仲間が……友人が……家族が……死んでしまった」
「大丈夫ですよ、父さん」
ハルが彼の元に近付く。
そして、彼の手に触れた。
ハルの手はとても暖かく――とても優しかった。まるでマーズのように。
「……ハル……」
「私は、あなたの味方です。だって、あなたの娘なのですから」
ハルは崇人を抱きしめる。
彼は涙を流していた。普通の親子関係ならば、実の娘にこのようなことを見せるのは醜態だろうか? だが、実際に子供が居なかった彼は、そんなことを考えなかった。ただ、泣きたくなったから泣いた。そして、ハルはそれに応じた。ただそれだけのことだった。
「……父さん」
次に言葉を零したのは、ダイモスだった。
「……ダイモス、だったか?」
こくり、と彼は頷く。
その表情はどこか恥ずかしそうだった。
ダイモスはそのまま下を向いたまま立ち尽くしていた。崇人は何も解らず、ずっと彼を見つめていたが、彼の顔が徐々に赤らめていく以外は何も変わることは無かった。
痺れを切らしたハルは小さく溜息を吐いて、
「父さん。兄さんもどうやら私のように甘えたいらしいですよ?」
それを言われたダイモスは超高速の反応をして、ハルに食い掛かる。
「ちょ、お前! そんなことは……」
「そうなのか?」
身体を起こし、訊ねる崇人。
目をそらし、崇人の問いになかなか答えないダイモスだったが――最終的に、ゆっくりと頷いた。
「なら、最初からそう言えば良かったのに。済まなかったな。父親としての自覚が足りなくて……」
「そ、そんなことは無いよ。父さんは立派だ。たとえ、蔑まれようとも……父さんは父さんだよ」
「そう言ってくれると嬉しいよ、ありがとう」
笑みを浮かべる崇人。
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