絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第三百三十六話 目的
もちろん、その日本人――ひいては異世界人というのは崇人自身も含まれているということになるのだが。
「……そもそも、この世界でいうところのカミサマっていったいどんな存在なんだ? ティパモールのティパ神しか詳しい話を聞いたことが無いぞ」
「滅びた宗教の神しか知らないって、あなたもけっこう知識が偏っているわよね……。まあいいわ。私が教えてあげるから、きちんと理解しなさい。一応言っておくけれど、一回しか言わないからね?」
コルネリアに念を押された崇人は、申し訳なさそうに頷く。
それを見たコルネリアは、うんうんと頷いて、話を始めた。
コルネリアの話を簡単にまとめると、このようになる。
かつてこの世界には二つの宗教があった。一つは世界を取りまとめる勢力でもあった法王庁。その法王庁は法王という唯一無二の存在がおり、法王は神の代行者であった。即ち、事実上、法王庁は法王が私物化していた――そういう世論もある程だった。
二つ目はティパモール地区――ひいてはティパモール人が信仰していたティパ神だった。ティパ神はティパモール人の心のよりどころとしてあったもので、さらに言えば、ティパ神のために、と自らの命を顧みず行動した信徒も居るほど、信仰力が強い宗教であった。
ヴァリエイブルがティパモールを滅ぼしたことにより、ティパ神の信仰力は大きく低下。ティパモール人の絶対数の低下に伴い、法王庁の勢力も大きく増加した。
ヴァリエイブルが法王庁の勢力下にあったわけではない。しかしながら、ヴァリエイブルが法王庁に歯向かおうとするほどの反逆心? も無かった。
「……なら、今は法王庁が強い権力を握っているのか? それこそ絶対王政のような」
絶対王政――という単語は崇人が居た世界であった単語であり、この世界には存在しない。この世界の人間にその単語を話しても、頭にハテナマークを浮かべるだけに過ぎない。
コルネリアもその例に漏れず、その意味が理解できなかったのか、首を傾げた。
それを見た崇人は「またやってしまったか」と言わんばかりの表情を浮かべ、頭を掻く。
「ええと、要するに、権力を持った存在が一極集中してしまって、意見が聞き届けられない……ってことだ」
心の中で合っているよな? と付け足して、彼は言った。
コルネリアは手のひらをポンと叩いて、
「ああ、成る程。それならば解る。ゼッタイオウセーなどと言わず、そう言えばよかったのに」
「……悪かったな。つい、前の世界の知識が先に出てしまうんだよ」
崇人はそう言って首を振る。
コルネリアはそれを聞いて溜息を吐く。
「でもここにきて一年以上は経過しているのだから、少しはこの世界の知識を先導してほしいものね」
「皮肉を言っているのかもしれないが、俺は前の世界で三十五年も生きていたんだぞ。一年と三十五年じゃ大違いだ。単純計算で、三十五倍の知識を蓄えたともいえる。その世界の知識が先に出るのは、当然のことだろう?」
コルネリアの小言をそう言って華麗にスルーする崇人。
「……まあ、それはいいのよ。カミサマの話に戻るわね。ヴァリエイブルは表向きには法王庁の味方だったけれど、実際に法王庁を崇敬しているわけではなかったのよ。あくまで、政治的な付き合いだっただけで」
「なんだって?」
「政治的な付き合い、って言ったでしょ。あなたは大事な告白をそれで貫き通す男か?」
「……済まない。コルネリアが何を言っているのか本気で解らない」
崇人が白旗を上げたところで、さらにコルネリアは話を続ける。
「話を戻しましょう。ヴァリエイブルと法王庁は良好関係にあった。お互いの領土を侵攻しない不可侵条約も締結していたくらいにはね。けれど、それも長く続かなかった……。あなたも覚えているでしょう? ヘヴンズ・ゲートの話よ」
ヘヴンズ・ゲート。
法王庁が管轄している謎の門である。名前の通り、天国へとつながると言われているのだが――。
「でも、そんなことは無かった。中から出てきたのはアリスという少女。……いえ、あの中に居たのだから、ただの少女では無いでしょうね。私たちは独自に調査を進めた結果、あのアリスという少女はシリーズの一員であるという考えに至ったけれど」
アリス。
その単語は彼にも聞き覚えがある。
彼の世界での一般的知識において、アリスと帽子屋――この二つの単語が出た時に連想できるものとして『不思議の国のアリス』である。不思議の国のアリスで、帽子屋、即ちマッドハンターが出てきていた。彼の役割がどうだったかは、崇人もうろ覚えであったが、アリスの味方だったことは記憶に残っている。
では、この世界ではどうだろうか?
コルネリアも崇人もその名前を知っている、アーデルハイト・ヴェンバックのことだ。
彼女は最初、普通の少女だったが、ある時彼女はこう言っていた。
――私はアリス。
アリス――アーデルハイトという少女に良くつけられる愛称である。無論、それを知ったのはそれから随分とあとの話になるのだが。
「アリスと聞いて、私たちからすれば、アーデルハイトの存在を思い出す。それは仕方ないこと。あの時彼女はただ血迷ってそう言ったのではないか――そう思っていた。だけれど、この世界がこうなってしまった現状と、あなたがその記憶について曖昧であることを考えると……どうやらそう言えなくなってきた、ってことよ」
「シリーズについては未だ謎が残っているのが現状。だから、それを直ぐに解明しなくてはならない。でも、その解明するまでには時間と情報が足りない。足りな過ぎる。だから私たちも行動しなくてはならない。そう考えるようになった」
「行動?」
「ええ。行動。ハリー騎士団が解散したことは話したわね?」
コクリ。崇人は頷く。
「ハリー騎士団はおそらく……こちらに向かってきていると考えられる。というか、向かってきている。レーヴの監視ロボットがその一団を捉えたからね」
「なんだって、ハリー騎士団がこちらに?」
「正確に言えば、ハリー傭兵団ってところかな? 騎士団という名称は国が定めたものだから」
そんな話は全力でどうでもよかったので、彼はスルーする。
コルネリアもスルーされると思っていたので、落ち込むことなどしないで、さらに話を続ける。
「まあ、そんなことはどうでもいいのよ。核心だけ話しましょう。話が長くなってきて、理解も遅くなってしまうし。知っているかしら、人は二つ以上の要点を長時間覚えられない、ってことを。どうしてか知らないけれど、やっぱり人間も欠陥を持っている、ということになるのよね。面白い生き物よね、人間って」
「いや、人間の生態についてはどうでもいいから……。結論をさっさと言ってくれよ」
崇人はイライラしていた。
コルネリアは崇人がイライラしている様子を見て楽しんでいるようにも見える。
というより、ほんとうに楽しんでいる。
「……それじゃ、伝えてあげましょう。核心を。未だエイミーとエイムスにも話していないのだけれどね……、ハリー騎士団と手を組もうと考えているのよ」
「手を組む、だって?」
崇人は乾いた笑いしか出なかった。
なぜならハリー騎士団は彼を追い出したからだった。そんなところに彼の居場所は無かった。そこと手を組んでも、彼にとってメリットなど無い――そう考えていたからだ。
「まあ、そう怪訝に思うのも当然のことかもしれない。だって君を追い出したのだから。でもね、今は藁をもつかむ気持ちでね。頼れるなら猫の手でも借りたいのさ」
「……どういうことだ。シリーズが何か仕出かすとでも言うのかよ?」
「可能性はゼロでは無いね。寧ろここまで何もしてこないのが珍しいくらいに」
「珍しい、だって?」
「考えてみれば解る話だよ、タカト。仮に私たちを滅ぼすのが目的ならば、十年前に滅ぼしてしまえば良かった。けれど、シリーズは滅ぼすことも無く、十年間復興の時間を与えた。それはなぜ、どうして? 普通ならすぐに滅ぼしてしまっても良かったのではなくて? ……となると、目的は私たち人類を滅ぼすためでは無い、ということになる」
「……そもそも、この世界でいうところのカミサマっていったいどんな存在なんだ? ティパモールのティパ神しか詳しい話を聞いたことが無いぞ」
「滅びた宗教の神しか知らないって、あなたもけっこう知識が偏っているわよね……。まあいいわ。私が教えてあげるから、きちんと理解しなさい。一応言っておくけれど、一回しか言わないからね?」
コルネリアに念を押された崇人は、申し訳なさそうに頷く。
それを見たコルネリアは、うんうんと頷いて、話を始めた。
コルネリアの話を簡単にまとめると、このようになる。
かつてこの世界には二つの宗教があった。一つは世界を取りまとめる勢力でもあった法王庁。その法王庁は法王という唯一無二の存在がおり、法王は神の代行者であった。即ち、事実上、法王庁は法王が私物化していた――そういう世論もある程だった。
二つ目はティパモール地区――ひいてはティパモール人が信仰していたティパ神だった。ティパ神はティパモール人の心のよりどころとしてあったもので、さらに言えば、ティパ神のために、と自らの命を顧みず行動した信徒も居るほど、信仰力が強い宗教であった。
ヴァリエイブルがティパモールを滅ぼしたことにより、ティパ神の信仰力は大きく低下。ティパモール人の絶対数の低下に伴い、法王庁の勢力も大きく増加した。
ヴァリエイブルが法王庁の勢力下にあったわけではない。しかしながら、ヴァリエイブルが法王庁に歯向かおうとするほどの反逆心? も無かった。
「……なら、今は法王庁が強い権力を握っているのか? それこそ絶対王政のような」
絶対王政――という単語は崇人が居た世界であった単語であり、この世界には存在しない。この世界の人間にその単語を話しても、頭にハテナマークを浮かべるだけに過ぎない。
コルネリアもその例に漏れず、その意味が理解できなかったのか、首を傾げた。
それを見た崇人は「またやってしまったか」と言わんばかりの表情を浮かべ、頭を掻く。
「ええと、要するに、権力を持った存在が一極集中してしまって、意見が聞き届けられない……ってことだ」
心の中で合っているよな? と付け足して、彼は言った。
コルネリアは手のひらをポンと叩いて、
「ああ、成る程。それならば解る。ゼッタイオウセーなどと言わず、そう言えばよかったのに」
「……悪かったな。つい、前の世界の知識が先に出てしまうんだよ」
崇人はそう言って首を振る。
コルネリアはそれを聞いて溜息を吐く。
「でもここにきて一年以上は経過しているのだから、少しはこの世界の知識を先導してほしいものね」
「皮肉を言っているのかもしれないが、俺は前の世界で三十五年も生きていたんだぞ。一年と三十五年じゃ大違いだ。単純計算で、三十五倍の知識を蓄えたともいえる。その世界の知識が先に出るのは、当然のことだろう?」
コルネリアの小言をそう言って華麗にスルーする崇人。
「……まあ、それはいいのよ。カミサマの話に戻るわね。ヴァリエイブルは表向きには法王庁の味方だったけれど、実際に法王庁を崇敬しているわけではなかったのよ。あくまで、政治的な付き合いだっただけで」
「なんだって?」
「政治的な付き合い、って言ったでしょ。あなたは大事な告白をそれで貫き通す男か?」
「……済まない。コルネリアが何を言っているのか本気で解らない」
崇人が白旗を上げたところで、さらにコルネリアは話を続ける。
「話を戻しましょう。ヴァリエイブルと法王庁は良好関係にあった。お互いの領土を侵攻しない不可侵条約も締結していたくらいにはね。けれど、それも長く続かなかった……。あなたも覚えているでしょう? ヘヴンズ・ゲートの話よ」
ヘヴンズ・ゲート。
法王庁が管轄している謎の門である。名前の通り、天国へとつながると言われているのだが――。
「でも、そんなことは無かった。中から出てきたのはアリスという少女。……いえ、あの中に居たのだから、ただの少女では無いでしょうね。私たちは独自に調査を進めた結果、あのアリスという少女はシリーズの一員であるという考えに至ったけれど」
アリス。
その単語は彼にも聞き覚えがある。
彼の世界での一般的知識において、アリスと帽子屋――この二つの単語が出た時に連想できるものとして『不思議の国のアリス』である。不思議の国のアリスで、帽子屋、即ちマッドハンターが出てきていた。彼の役割がどうだったかは、崇人もうろ覚えであったが、アリスの味方だったことは記憶に残っている。
では、この世界ではどうだろうか?
コルネリアも崇人もその名前を知っている、アーデルハイト・ヴェンバックのことだ。
彼女は最初、普通の少女だったが、ある時彼女はこう言っていた。
――私はアリス。
アリス――アーデルハイトという少女に良くつけられる愛称である。無論、それを知ったのはそれから随分とあとの話になるのだが。
「アリスと聞いて、私たちからすれば、アーデルハイトの存在を思い出す。それは仕方ないこと。あの時彼女はただ血迷ってそう言ったのではないか――そう思っていた。だけれど、この世界がこうなってしまった現状と、あなたがその記憶について曖昧であることを考えると……どうやらそう言えなくなってきた、ってことよ」
「シリーズについては未だ謎が残っているのが現状。だから、それを直ぐに解明しなくてはならない。でも、その解明するまでには時間と情報が足りない。足りな過ぎる。だから私たちも行動しなくてはならない。そう考えるようになった」
「行動?」
「ええ。行動。ハリー騎士団が解散したことは話したわね?」
コクリ。崇人は頷く。
「ハリー騎士団はおそらく……こちらに向かってきていると考えられる。というか、向かってきている。レーヴの監視ロボットがその一団を捉えたからね」
「なんだって、ハリー騎士団がこちらに?」
「正確に言えば、ハリー傭兵団ってところかな? 騎士団という名称は国が定めたものだから」
そんな話は全力でどうでもよかったので、彼はスルーする。
コルネリアもスルーされると思っていたので、落ち込むことなどしないで、さらに話を続ける。
「まあ、そんなことはどうでもいいのよ。核心だけ話しましょう。話が長くなってきて、理解も遅くなってしまうし。知っているかしら、人は二つ以上の要点を長時間覚えられない、ってことを。どうしてか知らないけれど、やっぱり人間も欠陥を持っている、ということになるのよね。面白い生き物よね、人間って」
「いや、人間の生態についてはどうでもいいから……。結論をさっさと言ってくれよ」
崇人はイライラしていた。
コルネリアは崇人がイライラしている様子を見て楽しんでいるようにも見える。
というより、ほんとうに楽しんでいる。
「……それじゃ、伝えてあげましょう。核心を。未だエイミーとエイムスにも話していないのだけれどね……、ハリー騎士団と手を組もうと考えているのよ」
「手を組む、だって?」
崇人は乾いた笑いしか出なかった。
なぜならハリー騎士団は彼を追い出したからだった。そんなところに彼の居場所は無かった。そこと手を組んでも、彼にとってメリットなど無い――そう考えていたからだ。
「まあ、そう怪訝に思うのも当然のことかもしれない。だって君を追い出したのだから。でもね、今は藁をもつかむ気持ちでね。頼れるなら猫の手でも借りたいのさ」
「……どういうことだ。シリーズが何か仕出かすとでも言うのかよ?」
「可能性はゼロでは無いね。寧ろここまで何もしてこないのが珍しいくらいに」
「珍しい、だって?」
「考えてみれば解る話だよ、タカト。仮に私たちを滅ぼすのが目的ならば、十年前に滅ぼしてしまえば良かった。けれど、シリーズは滅ぼすことも無く、十年間復興の時間を与えた。それはなぜ、どうして? 普通ならすぐに滅ぼしてしまっても良かったのではなくて? ……となると、目的は私たち人類を滅ぼすためでは無い、ということになる」
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