絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第三百三十二話 ヴィエンス・ゲーニック(後編)
「……すげえ……」
思わず溜息を吐いてしまうほど。
それは彼にとって、惚れ惚れしてしまうほどのものだった。
黒い躯体は太陽の光に照らされている。その巨大な身体がゆっくりと動き出す姿は、まさに圧巻だった。
「信じられねえ……」
まさにその一言が当てはまる。
今目の前に歩いているリリーファーが、見たことのない世代のものなのだから。
「あのリリーファーに乗っているのは、いったい誰だ……?」
もう彼の頭の中には、謎のリリーファー――それしか無かった。
まるでパパラッチのように。
真実を追い求める、だから姿を追いかける。
そこに何があるのか――未だに解らないが。
黒いリリーファーがある場所に静止し、中から誰かが出てきた。
その姿をちょうどヴィエンスは目撃していた。
「……何だ、あのおっさん……」
中に入っていたのは三十歳くらいの黒い服に身を包んだ男だった。
それを見た彼は理解できなかった。
なぜならリリーファーを操縦することが出来るのは、特殊なスーツを着るためである。それに、操縦技術が年々高まっていくため、起動従士としてやっていける限界が二十五歳程度と言われている。どう彼が老け顔と呼ばれても、二十五歳は上回っているであろう彼がそのリリーファーを操縦できるのはおかしな話なのだ――そうヴィエンスは思っていた。
「なんであんなやつが乗ることの出来たんだ……?」
彼は理解できなかった。
そして彼は会いたいと思った。
その起動従士と話したいと思った。
◇◇◇
「……そして次の日、訓練学校で出会ったときは驚いたよ。あの時は三十歳くらいのおっさんだったのに、その時は俺と同じくらいの年齢にしか見えなかったんだから。そして俺とあいつはともに学び始めた。時折変なことがあったよ、あいつはこの世界の常識と思えることを知らないで、こっちが聞いたことのないものばかり話しているのだから。まるで別世界からやってきたのではないか、と疑ってしまうほどにね」
ヴィエンスの一人語りは続いていた。
ヴィエンスの言葉を、ただハルとダイモス、それにメリアが聞いているだけだった。
「……なあ、ヴィエンスさん。質問していいか?」
漸くダイモスが口を開いた。
「どうした、ダイモス?」
「その話って、さっきから聞いている限りだと……『インフィニティ』の起動従士としか思えないのだが」
「ああ、そうだ。今話しているのはインフィニティの起動従士、タカト・オーノについてだよ。彼の話をしている。それには理由がもちろん存在しているのだからね。そうでなければ話すことも無い」
「どうしてだ?」
「それは話を聞いていれば、解る。ええと、どこまで話したかな。そうだ、全国起動従士選抜選考大会か、あれの話をしなくちゃいけないんだな。あれもあれでいろいろ災難だった。俺とあいつ、それに残りの三名はチームを組んだんだよ。今もまだ、鮮明にメンバー構成を覚えている。コルネリア、ヴィーエック、エスティ、タカト、そして俺。そのメンバーで活動した。だが、その時はタカトがマーズたちヴァリエイブル軍と活動して、ティパモールで紛争の後片付けをしていたんだよ。あれは大変だった……」
「紛争の後片付けをしていたのは、ヴィエンスさんも、なのか? 違うんだろ?」
「まあ、違う。だが、いろいろあってね。最終的に大会の戦闘が有効になったのが俺だけだった。だからこそ、大変だった。プレッシャーもあったが、それ以上にどうしてみんな大会に参加しないのかと思ったよ。まさに怒り心頭だ」
ヴィエンスは持っていたコップに入っている水を一口呷る。
因みにそれを持ってきたのはほかでもないセイバーである。セイバーはそういうところも気が利く。恐らくそのようにプログラミングされているのだろう。全体にプログラミングされているから、こちらで設定する必要が無いというのは、彼らにとってとても有難いことであった。
「……話を戻そう。とにかく、それは一番大変だったよ。だが、それがあったからこそ、俺は最終的に騎士団の一員に認められた。ハリー騎士団の誕生、ということだ」
「あの時は結構大変だったな。酷かった。知っているか? 国王と大臣が命名に苦労したこともあったが、あれを作る最大の理由。インフィニティという最強のリリーファーをヴァリエイブルが確保するための騎士団だったんだぞ」
「やはりそうだったか。そうでなければ、俺たちが騎士団を結成出来るわけでは無いからな」
「まあ、そこまで自分を卑下するものではないよ。君たちの実力は当時すごいものだった。もちろん、今でもすごいものだけれどね」
「……話を戻そう。騎士団を結成して、俺たちが最初に行ったミッション。そして一番忘れてはならないこと。カーネルでの戦いだ」
「カーネルか……。あれはほんとうにひどかった。忘れたいものだよ。だけれど、あの出来事は彼の心に永遠に刻みついているのだろうけれど」
「どういうことですか?」
メリアの言葉にハルは訊ねる。
「死んだんだよ」
「……え?」
その一言だけで、何が起きたのかダイモスとハルには理解できた。
死んだ――それは他の一般人というよりも騎士団の人間が死んだということだろう。
「リリーファーに乗る時だった。リリーファーに乗るために、リリーファーから逃げていた。一歩遅かった。遅かったんだよ。俺たちの目の前で、エスティは死んだ……」
エスティという少女。
彼女が死んでしまったということ。
それは彼らが実際に体験したことではないから、衝撃を受けるには乏しいものだった。
だが、実際に体験していれば、おそらく彼らもまた気持ちに押し潰されていただろう。
「エスティ・パロングはとても元気な少女だった。ムードメーカーだったよ。騎士団には必要不可欠な人材だった。だからこそ、彼女を失った時の騎士団はひどいものだったよ」
「雰囲気が、ということですか?」
「いいや、違う。彼が悲しんだんだよ」
彼。
その単語だけで誰だかが理解できる。
「タカト・オーノが……ですか?」
「ああ、そうだ。タカトはエスティのことが好きだった……ようだ。恐らく、あの様子を見ればな。結果として、タカトは壊れた。インフィニティの絶大な力を引き出し、そのままカーネルの作り出した騎士団を殲滅させた。それによってカーネルの事件は解決したが、彼の心が癒されることは無かった。彼は事件後幽閉されたからね。その心が癒されるまでね」
「心が弱かった、ということですか」
「弱かったのかもしれない。だが、それは仕方なかった。彼は強かった。リリーファーを操縦する唯一の人間だった。だから、外すことも出来なかったし、彼はハリー騎士団でも外すに外せない人材となっていたからね」
ヴィエンスの言葉にダイモスたちは頷く。
頷くだけだった。
反論は無かった。
反論をすることが出来なかったのではない。ただ、ヴィエンスの言葉を聞いている態勢を取っているだけだった。
「結果として、彼が復活したのはそれから暫くして、法王庁との戦争に入ってからだった。あの時の衝撃はすごかったよ。ピンチの時に訪れるヒーローとでも言えばいいか。その時に再確認したよ。ああ、あいつはやっぱりすごいやつだったな、ってね」
「それから、どうだったんですか。騎士団の活躍は?」
ダイモスもハルも、気が付けばヴィエンスの昔話に夢中になっていた。
ヴィエンスの話す内容は、凡てが騎士団のことだった。
自分たちに親近感のある内容だったから、集中していたのかもしれない。
「アーデルハイトという少女が居た。彼女もまた、タカトと仲のいい少女だった。他国の人間だったが、ヴァリエイブルとの友好関係を築くためにやってきたのだが、彼女はあることを仕出かした。……何だか、解るか?」
「おい、ヴィエンス。無理なら、言わなくていいんだぞ?」
ヴィエンスは気が付けば涙を流していた。
ダイモスとハル、それにメリアは気付いていた。
だから代表してメリアが言った。――無理ならば言わなくていい、と。
「いや、いいんです。メリアさん。言わせてください。彼らには、ハリー騎士団の凡てを知っていてほしいんです」
そしてヴィエンスは語り始める。
それは彼にとって忘れることの出来ない出来事。
十年前、ある場所で起きた小さなクーデターのことを。
思わず溜息を吐いてしまうほど。
それは彼にとって、惚れ惚れしてしまうほどのものだった。
黒い躯体は太陽の光に照らされている。その巨大な身体がゆっくりと動き出す姿は、まさに圧巻だった。
「信じられねえ……」
まさにその一言が当てはまる。
今目の前に歩いているリリーファーが、見たことのない世代のものなのだから。
「あのリリーファーに乗っているのは、いったい誰だ……?」
もう彼の頭の中には、謎のリリーファー――それしか無かった。
まるでパパラッチのように。
真実を追い求める、だから姿を追いかける。
そこに何があるのか――未だに解らないが。
黒いリリーファーがある場所に静止し、中から誰かが出てきた。
その姿をちょうどヴィエンスは目撃していた。
「……何だ、あのおっさん……」
中に入っていたのは三十歳くらいの黒い服に身を包んだ男だった。
それを見た彼は理解できなかった。
なぜならリリーファーを操縦することが出来るのは、特殊なスーツを着るためである。それに、操縦技術が年々高まっていくため、起動従士としてやっていける限界が二十五歳程度と言われている。どう彼が老け顔と呼ばれても、二十五歳は上回っているであろう彼がそのリリーファーを操縦できるのはおかしな話なのだ――そうヴィエンスは思っていた。
「なんであんなやつが乗ることの出来たんだ……?」
彼は理解できなかった。
そして彼は会いたいと思った。
その起動従士と話したいと思った。
◇◇◇
「……そして次の日、訓練学校で出会ったときは驚いたよ。あの時は三十歳くらいのおっさんだったのに、その時は俺と同じくらいの年齢にしか見えなかったんだから。そして俺とあいつはともに学び始めた。時折変なことがあったよ、あいつはこの世界の常識と思えることを知らないで、こっちが聞いたことのないものばかり話しているのだから。まるで別世界からやってきたのではないか、と疑ってしまうほどにね」
ヴィエンスの一人語りは続いていた。
ヴィエンスの言葉を、ただハルとダイモス、それにメリアが聞いているだけだった。
「……なあ、ヴィエンスさん。質問していいか?」
漸くダイモスが口を開いた。
「どうした、ダイモス?」
「その話って、さっきから聞いている限りだと……『インフィニティ』の起動従士としか思えないのだが」
「ああ、そうだ。今話しているのはインフィニティの起動従士、タカト・オーノについてだよ。彼の話をしている。それには理由がもちろん存在しているのだからね。そうでなければ話すことも無い」
「どうしてだ?」
「それは話を聞いていれば、解る。ええと、どこまで話したかな。そうだ、全国起動従士選抜選考大会か、あれの話をしなくちゃいけないんだな。あれもあれでいろいろ災難だった。俺とあいつ、それに残りの三名はチームを組んだんだよ。今もまだ、鮮明にメンバー構成を覚えている。コルネリア、ヴィーエック、エスティ、タカト、そして俺。そのメンバーで活動した。だが、その時はタカトがマーズたちヴァリエイブル軍と活動して、ティパモールで紛争の後片付けをしていたんだよ。あれは大変だった……」
「紛争の後片付けをしていたのは、ヴィエンスさんも、なのか? 違うんだろ?」
「まあ、違う。だが、いろいろあってね。最終的に大会の戦闘が有効になったのが俺だけだった。だからこそ、大変だった。プレッシャーもあったが、それ以上にどうしてみんな大会に参加しないのかと思ったよ。まさに怒り心頭だ」
ヴィエンスは持っていたコップに入っている水を一口呷る。
因みにそれを持ってきたのはほかでもないセイバーである。セイバーはそういうところも気が利く。恐らくそのようにプログラミングされているのだろう。全体にプログラミングされているから、こちらで設定する必要が無いというのは、彼らにとってとても有難いことであった。
「……話を戻そう。とにかく、それは一番大変だったよ。だが、それがあったからこそ、俺は最終的に騎士団の一員に認められた。ハリー騎士団の誕生、ということだ」
「あの時は結構大変だったな。酷かった。知っているか? 国王と大臣が命名に苦労したこともあったが、あれを作る最大の理由。インフィニティという最強のリリーファーをヴァリエイブルが確保するための騎士団だったんだぞ」
「やはりそうだったか。そうでなければ、俺たちが騎士団を結成出来るわけでは無いからな」
「まあ、そこまで自分を卑下するものではないよ。君たちの実力は当時すごいものだった。もちろん、今でもすごいものだけれどね」
「……話を戻そう。騎士団を結成して、俺たちが最初に行ったミッション。そして一番忘れてはならないこと。カーネルでの戦いだ」
「カーネルか……。あれはほんとうにひどかった。忘れたいものだよ。だけれど、あの出来事は彼の心に永遠に刻みついているのだろうけれど」
「どういうことですか?」
メリアの言葉にハルは訊ねる。
「死んだんだよ」
「……え?」
その一言だけで、何が起きたのかダイモスとハルには理解できた。
死んだ――それは他の一般人というよりも騎士団の人間が死んだということだろう。
「リリーファーに乗る時だった。リリーファーに乗るために、リリーファーから逃げていた。一歩遅かった。遅かったんだよ。俺たちの目の前で、エスティは死んだ……」
エスティという少女。
彼女が死んでしまったということ。
それは彼らが実際に体験したことではないから、衝撃を受けるには乏しいものだった。
だが、実際に体験していれば、おそらく彼らもまた気持ちに押し潰されていただろう。
「エスティ・パロングはとても元気な少女だった。ムードメーカーだったよ。騎士団には必要不可欠な人材だった。だからこそ、彼女を失った時の騎士団はひどいものだったよ」
「雰囲気が、ということですか?」
「いいや、違う。彼が悲しんだんだよ」
彼。
その単語だけで誰だかが理解できる。
「タカト・オーノが……ですか?」
「ああ、そうだ。タカトはエスティのことが好きだった……ようだ。恐らく、あの様子を見ればな。結果として、タカトは壊れた。インフィニティの絶大な力を引き出し、そのままカーネルの作り出した騎士団を殲滅させた。それによってカーネルの事件は解決したが、彼の心が癒されることは無かった。彼は事件後幽閉されたからね。その心が癒されるまでね」
「心が弱かった、ということですか」
「弱かったのかもしれない。だが、それは仕方なかった。彼は強かった。リリーファーを操縦する唯一の人間だった。だから、外すことも出来なかったし、彼はハリー騎士団でも外すに外せない人材となっていたからね」
ヴィエンスの言葉にダイモスたちは頷く。
頷くだけだった。
反論は無かった。
反論をすることが出来なかったのではない。ただ、ヴィエンスの言葉を聞いている態勢を取っているだけだった。
「結果として、彼が復活したのはそれから暫くして、法王庁との戦争に入ってからだった。あの時の衝撃はすごかったよ。ピンチの時に訪れるヒーローとでも言えばいいか。その時に再確認したよ。ああ、あいつはやっぱりすごいやつだったな、ってね」
「それから、どうだったんですか。騎士団の活躍は?」
ダイモスもハルも、気が付けばヴィエンスの昔話に夢中になっていた。
ヴィエンスの話す内容は、凡てが騎士団のことだった。
自分たちに親近感のある内容だったから、集中していたのかもしれない。
「アーデルハイトという少女が居た。彼女もまた、タカトと仲のいい少女だった。他国の人間だったが、ヴァリエイブルとの友好関係を築くためにやってきたのだが、彼女はあることを仕出かした。……何だか、解るか?」
「おい、ヴィエンス。無理なら、言わなくていいんだぞ?」
ヴィエンスは気が付けば涙を流していた。
ダイモスとハル、それにメリアは気付いていた。
だから代表してメリアが言った。――無理ならば言わなくていい、と。
「いや、いいんです。メリアさん。言わせてください。彼らには、ハリー騎士団の凡てを知っていてほしいんです」
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