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絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~

巫夏希

第三百二十九話 セイバー

 旧ハリー騎士団は目視出来た基地らしき構造物へとたどり着いた。
 実際に降りて確認するため、ヴィエンスがリリーファーから降りて地面に降り立った。

「何というか……、こんなところにほんとうに基地があったんだな。しかも十年前の古いタイプのものだ。きっとあの時は戦争続きで自分たちが統治しているぞ、ということを認識させるために設置させたものばかりだろうが……、しかし好都合だ。電源装置さえあればここを改めてハリー騎士団の……いや、今はハリー傭兵団の拠点とすることが出来る」
「これはこれで素晴らしいものだと思うがね。問題は外装だよ、ヴィエンス・ゲーニック」

 基地の屋上は半壊していた。周囲が砂漠に包まれているからか、テーブルは砂埃を被っていた。そのため、メリアは心配していた。ここを掃除することは構わない。しかし機械が長年砂埃を被っていることが問題なのである。

「掃除をすることは別に問題ないだろう? スタッフはそう多くないが、時間はある。そう簡単に攻め入られることも無いだろうから、それについては何の問題も無いだろう」
「そういうことではないのだよ。あそこから急いで逃げ出したから私が持っているのはハードディスクとノートパソコンだけだ。一応凡てのデータを移したからいいものを……、ここにあるものは凡て砂埃を被っている。いや、被っているというよりは浸かっていると言ったほうがいいかもしれないな。それについては、もう使えない。砂を取ったとしても人間の力じゃたかが知れているからな」
「……つまり電源装置も?」
「いや、電源装置は地下に埋まっているだろうから問題は無いだろう。聞いたことがあるのではないかな? 地上にミサイルを撃たれても地下の基地は無事だということを。それくらい強固にしているのだよ。地下にリリーファーを格納しているからこそ、ね」

 メリアは歩いて、唯一無事だった綺麗なテーブルに腰掛け、持っていたノートパソコンを開いた。

「ネット環境は生きているようだな……。ということは、地下に電源が生きている、ということなのか……?」

 ぶつぶつと呟きながら、メリアはノートパソコンのキーボードを用いて何かを打ち込んでいく。それだけではなくトラックパッドを撫でているので何かを確認しているのかもしれない。
 基地の詳細を調査するのはメリアに任せるとして、ヴィエンスは通信を行うことにした。
 通信の相手はダイモスとハル。二人の起動従士に現状報告を行うためだ。

「こちらヴィエンス。現状を報告する。取り敢えずここは基地ということが確認された。基地であるから、リリーファーが格納出来ることも可能なはずだ。今メリアがそれについて調査している。すぐに終わると思うから、そこで待機していること。以上!」

 簡略に説明を済ませ、通信を切るヴィエンス。

「調査終了したよ。取り敢えずここの基地は十年前に作られた旧式のようね。けれど、充電できることも確実。中に入るパスも入手できた」
「リリーファー格納庫へのパスワードも?」

 それを言ったと同時に、何もなかった地面がゆっくりと競り上がっていく。

「何だ!?」
「私がいつ、格納庫へのパスワードを手に入れていない、と言った?」

 メリアは笑みを浮かべながら、地面を眺めていた。
 競り上がった地面はある位置で停止し、それがゆっくりと四つに分かれていく。煙突のように、中心に穴が開いた形となって動いていく。
 数分後、完全に終了したとき、そこにあったのは格納庫への入り口だった。

「……これが格納庫への入り口、か」
「ええ。私は先に地下の方へ向かうから。トラックに乗っているスタッフも。人数が少ないから大変だけれど、それについてはどうにかするしかないでしょうね。まあ、先ずはリリーファーを安全なところに運ばなくちゃいけないから、よろしく」
「了解」

 ヴィエンスは短く答えて、リリーファーに乗り込むため踵を返した。



 リリーファー格納庫にリリーファーを格納し終え、ヴィエンスとダイモス、それにハルは漸く外に出ることが出来た。
 昔から使われていなかったためか、蛍光灯が疎らにしか点いておらず、暗いというイメージがすぐに着いてしまった。

「……それにしても、十年前の基地にしてはよく使えるなあ……」

 ヴィエンスは天井を見つめながら、歩く。

「十年前、ってことは僕とハルが生まれる前のことですよね。その時に作られた最新鋭が未だ通用するというのも、なんというか面白い話ですよ」
「『あれ』があってから寧ろ人類の技術レベルは大きく後退してしまったからな。僅か十年でここまで戻しただけでも素晴らしいことではあるけれどね」
「『あれ』が無ければ今頃第七世代はとっくに生まれていたのでしょうか」
「難しい話だな。実際問題、『あれ』が無ければ十年で一世代以上の進化をすることは無かっただろう。だから、『あれ』が無かったからと言って人類の技術がさらに進歩するかどうかは難しいところになる。メリアならもう少し話が解るかもしれないけれど。何せ僕はただの起動従士だからなあ。しかも時代遅れときた」
「ヴィエンスさんは時代遅れじゃないですよ。未だ現役です」
「嬉しいねえ、そう言ってくれるだけで涙が出るよ」

 涙を拭くような仕草をして、ヴィエンスは言った。
 対してハルは冷淡な様子。

「確かにヴィエンスさんは現役です。ですが、そろそろ私たちに任せていただいてもいいのではないですか?」
「何を言っているんだ。まだ僕はやれるぞ? まだ若い人間には負けないよ」

 とはいえヴィエンスは二十二歳なので全然若い部類に入るのだが――それは今語ることでは無い。
 ヴィエンスとダイモス、それにハルは通路を歩き、リリーファー格納庫を後にする。
 格納庫からの通路は天井がとても高かった。しかし幅は狭く、三人が横並びに歩くとそれだけで殆ど埋ってしまうくらいだ。

「それにしても天井が高いな……。ここはただの基地だったのか?」
「ただの基地じゃないのですか?」
「解らん。どちらにせよ僕たちは十年前の時はヴァリス城の地下にあった基地を利用していたからね。一番使い勝手のいい場所と言えばその通りだ」
「末端の基地、と言えばそれまでですけれど……。環境がまったく違うということですものね」
「ああ。その通りだ」

 ヴィエンスたちは通路を抜けて広い空間に出た。
 中心に高台と椅子、その椅子が向いている方向にはたくさんのパソコンとモニターが置かれている。その逆側にはたくさんの本棚とその中には乱雑に本が並べられている。そこから挙げられる結論は――。

「ここは――コントロールルームか」
「その通り。ここはコントロールルームだよ。やはりこういうところは綺麗にしているようで良かった。砂が一切入っていないだけで機械の摩耗が変わるからな」

 椅子にはメリアが腰掛けていた。

「メリア、もう荷物を入れ終えたのか?」
「未だだ。だが、そのために強力な味方を見つけたよ」
「味方?」

 ヴィエンスはメリアの言葉を反芻する。
 メリアの椅子――その傍らにあるものが置かれていることに気が付いた。
 それはタンクだった。液体燃料などを入れておくドラム缶くらいの大きさだろうか。躯体はシルバー、数本の黒線が引かれている。上部には楕円が二つ横に並んでいる。

「……何だ、これは?」
「私はロボットです」
「……は?」

 それを聞いたヴィエンスは何を言っているのか理解できなかった。

「メリア、悪戯は止せ」
「悪戯? これが悪戯に見えるのかね?」

 メリアが言った瞬間、楕円が赤く光り出した。

「わわっ」

 ハルはあまりに驚いて少し後退ってしまう。
 ヴィエンスも少しだけ慌てていたが、それ以上にそのタンクに対する興味が出てきた。

「……メリア、そのタンクは?」
「タンクではありません。私はロボットです。正確に言えば危険作業補助ロボット、名前はセイバーと言います」
「セイバー? 危険作業補助ロボット?」
「十五年前、人間が行う作業を補助するためにロボットを活用する計画があってね。最終的にそれは頓挫してしまい、人型の小さいロボットを試験運用するところまでは来ていたのだけれど……。結果、これだけになってしまったというわけだ。まさかこんなところで見つかるとは思いもしなかった。私も開発に携わっていたわけではないからね」

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