絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第三百二十八話 実戦演習(後編)
「エネルギーが尽きる前に基地でも見つけることが出来ればいいのだが……。そうもいかないだろうね。どうすればいいだろうか……」
リリーファーは自発的にエネルギーを生み出すことの出来る『インフィニティ』などを除いて、エネルギーを生み出すことは出来ない。
そのため、リリーファーはエネルギーを定期的に供給する必要がある。
その供給源の一つが基地に備え付けてある電源装置である。電源装置の仕組みは旧時代にあったものをそのまま流用しており、根幹のシステムはブラックボックスとなっている。ブラックボックスとなったものをそのままラトロ――リリーファー応用技術研究機構が増幅システムを付属させたことで現在の電源装置の形となった。
現在の世代で使われている電源装置ははじめの電源装置で生み出すことの出来るエネルギーの十倍に増幅することが出来るシステムとなっている。世代を経る毎にその消費するエネルギーは増加傾向にあったが、第六世代、ひいてはレーヴの使用しているリリーファーはエネルギーを前世代よりも少なく抑えることが出来た。それこそレーヴの研究の賜物と言えるだろう。
『基地でもあればいいんですけどね。恐らくは殆ど、ティパモールのものでしょうけれど』
「そもそもティパモールは基地をつくりたがらなかった。今あるとすれば前世代のリリーファーが充電出来る電源装置がある古いシステムの基地になるだろうが……、しかしあの基地は、大抵破壊したはずだったが……破壊し損ねたものがあるかもしれない。その場合は保全を一切していないから電源装置がそもそも動くかどうか……」
『とにかく、基地を見つければいいんですね。……今は少なくとも基地なんてものは見えませんけど』
「そりゃその通りだ」
ヴィエンスは笑みを浮かべながら、再び視線を前方に集中させた。
――次の瞬間、荒野の中に一つの人工物が見えた。
「……前方三十に人工物! おそらく基地か何かだと思われる!」
『基地、だといいんですけれどね……』
「先ずは肯定的に考えよう! 何でもかんでも否定的に考えてしまえば、結果もそうなってしまう」
不安になるダイモスに声をかけるヴィエンス。
『ダイモス、ヴィエンスさんの言う通りですよ。先ずは、基地かどうかを確認する必要があります。そしてそれが本当に基地であるかどうか……肯定的にみていかないと』
『……そうだな。いろんなことがあって、つい否定的に見てしまっていた。済まなかった』
『別にいいよ、とにかく基地かどうかを判別しないと』
会話を終えて、彼らは基地と思われる人工物へ一歩ずつ近づいていく。
着実に、前へ進んでいく。
◇◇◇
レーヴアジト。その地下にて行われていたエイミーとゲッコウの模擬戦闘は僅か三分で佳境を迎えていた。
「……どういうことなのよ、これ」
その状況にコルネリアは呻いた。
最初の一分間はエイミーの猛攻が続き、ゲッコウは劣勢に立たされていた。それを見て彼女はエイミーの勝利を確信していたとともにゲッコウにはレーヴから出ていってもらう計画を立てていた。
勝負の状態が完全に『ひっくり返った』のは勝負開始から二分後の事である。ゲッコウが今までやられっ放しだったにも関わらず――。
それが起きた決定的な出来事とは何だろうか?
答えは単純明快――。
エイミーの使っているリリーファー、そのコイルガンのエネルギーが尽きた。
電子空間上で、そんなことは有り得ないはずだった。はじめはプログラムのエラーかと彼女は思った。
だが、ドクターはそれを止めなかった。
「ドクター! これは何らかのミスじゃないのか!?」
「ミス? いいや、そんなことは無いね。いひひ、そんなことがあるわけない! 僕が作ったプログラムは完璧だ……。そうだ、完璧なんだよ! それ以上でもそれ以下でもない。イッツコンプリートッ!!」
「……いや、そうなのかもしれないけれど、バグとかあるかもしれないでしょう?」
「いいや、バグなんて無いね! バグがあるとすれば、このコンピュータに映し出されているはずさ! いひひ、どうだい。見てみたまえ! このコンピュータの画面には何も書かれていない! それは即ち、プログラムが何もエラーを起こしていないということさ!」
コルネリアは画面を見つめる。確かにそこには何も書かれていなかった。表示を消しているということも無さそうだ。
……となると。
「ほんとうに……『偶然』エネルギーが尽きたということなの……?」
コルネリアはモニターを見つめる。
突然エネルギーが尽きてしまったリリーファーは、その攻撃手段を一つ失うということである。
だからエイミーは攻撃できなくなった。
その一瞬を突いて、ゲッコウはコイルガンによる猛攻を開始した。
一分間エネルギー最大のコイルガン射撃で攻撃し続けたリリーファーと、一分間一度もコイルガンの攻撃を使っていないリリーファー。
前者であるエイミーからすれば、それは絶望そのものだった。
後者のゲッコウからすれば、それは好機そのものだった。
その偶然によって、形成は逆転。ゲッコウはそのままエイミーの乗るリリーファーをダウンさせた。
ゲッコウのリリーファーはすでに満身創痍だったが、形勢が逆転してエイミーのリリーファーもボロボロになっていく。
Q波によってシンクロしたリリーファーと起動従士は、リリーファーの『痛み』も起動従士に継続される。右腕に攻撃を受けると起動従士の右腕もダメージを受ける。リリーファーの右腕が抜き取られると、『まるで抜き取られたような』錯覚に襲われる。
「がああああああああ!」
右腕を抜き取られ、それを口に頬張るゲッコウのリリーファー。
右腕を抑えながら、呻くエイミー。
「まさか……こんなことになるとは思いもしなかったよ……」
彼女にとってみれば、右手が千切られている錯覚に襲われているのである。
それでも正常な思考を取ることが出来るのは、彼女が起動従士として訓練と教育を受けているからなのだろう。
(右腕を取られてしまえば……リリーファーを動かすことが難しい。Q波によるシンクロは、利き腕というのが非常に重要になる。それを抜き取るとは……)
エイミーは考える。
起動従士の不安が、そのままリリーファーの動きに直結する。
即ち今の状況は最悪。
「最悪だな……」
モニターを通して二人の戦闘を見ていたエイムスは溜息を吐いた。
このままではエイミーが負けてしまう。それは彼女のプライドが許さない――そう思っていたからだ。
彼女のプライドが破壊されてしまえば、何があるか解らない。
無論それまでの人間と言われてしまえばそれまでなのだが、人間のプライドは脆く醜いものなのだ。それをエイムスはよく知り、理解していた。そういうつもりだった。
「コルネリアさん、もう戦闘は終わりだ。このままじゃ彼女のプライドが――」
「エイムス」
エイムスの言葉にコルネリアは短く答える。
「エイムス、お前の言い分も解る。しかし、ここであきらめるならばエイミーには起動従士の座を降りてもらう。彼女にはそれ程の『看板』を背負っているのだから」
「そうかもしれない……。だが!」
「そこまで言うのなら、君にも起動従士の座を降りてもらうが? はっきり言って、ツクヨミと呼ばれるあのリリーファーを失うのは惜しい。あれを失わないために君たちを失うのならば、それすらも仕方ない」
「……そこまで言うのかよ」
エイムスは立ち上がり、椅子を乱暴に蹴り上げる。
「そこまで言うんだったら、僕は降りる。今すぐここを出ていってやる」
「構わないよ。ただしその場合リリーファーには一切乗ることが出来ない。それでもいいのならね」
「いいよ。リリーファーに乗らなければ、平和な日常を送ることが出来る。寧ろ清々した。このまま模擬戦を終了次第、僕とエイミーはここから出ていくよ」
それを聞いてコルネリアは溜息を吐き、首を横に振る。
「それは構わないよ。君たちの選択ならばね」
リリーファーは自発的にエネルギーを生み出すことの出来る『インフィニティ』などを除いて、エネルギーを生み出すことは出来ない。
そのため、リリーファーはエネルギーを定期的に供給する必要がある。
その供給源の一つが基地に備え付けてある電源装置である。電源装置の仕組みは旧時代にあったものをそのまま流用しており、根幹のシステムはブラックボックスとなっている。ブラックボックスとなったものをそのままラトロ――リリーファー応用技術研究機構が増幅システムを付属させたことで現在の電源装置の形となった。
現在の世代で使われている電源装置ははじめの電源装置で生み出すことの出来るエネルギーの十倍に増幅することが出来るシステムとなっている。世代を経る毎にその消費するエネルギーは増加傾向にあったが、第六世代、ひいてはレーヴの使用しているリリーファーはエネルギーを前世代よりも少なく抑えることが出来た。それこそレーヴの研究の賜物と言えるだろう。
『基地でもあればいいんですけどね。恐らくは殆ど、ティパモールのものでしょうけれど』
「そもそもティパモールは基地をつくりたがらなかった。今あるとすれば前世代のリリーファーが充電出来る電源装置がある古いシステムの基地になるだろうが……、しかしあの基地は、大抵破壊したはずだったが……破壊し損ねたものがあるかもしれない。その場合は保全を一切していないから電源装置がそもそも動くかどうか……」
『とにかく、基地を見つければいいんですね。……今は少なくとも基地なんてものは見えませんけど』
「そりゃその通りだ」
ヴィエンスは笑みを浮かべながら、再び視線を前方に集中させた。
――次の瞬間、荒野の中に一つの人工物が見えた。
「……前方三十に人工物! おそらく基地か何かだと思われる!」
『基地、だといいんですけれどね……』
「先ずは肯定的に考えよう! 何でもかんでも否定的に考えてしまえば、結果もそうなってしまう」
不安になるダイモスに声をかけるヴィエンス。
『ダイモス、ヴィエンスさんの言う通りですよ。先ずは、基地かどうかを確認する必要があります。そしてそれが本当に基地であるかどうか……肯定的にみていかないと』
『……そうだな。いろんなことがあって、つい否定的に見てしまっていた。済まなかった』
『別にいいよ、とにかく基地かどうかを判別しないと』
会話を終えて、彼らは基地と思われる人工物へ一歩ずつ近づいていく。
着実に、前へ進んでいく。
◇◇◇
レーヴアジト。その地下にて行われていたエイミーとゲッコウの模擬戦闘は僅か三分で佳境を迎えていた。
「……どういうことなのよ、これ」
その状況にコルネリアは呻いた。
最初の一分間はエイミーの猛攻が続き、ゲッコウは劣勢に立たされていた。それを見て彼女はエイミーの勝利を確信していたとともにゲッコウにはレーヴから出ていってもらう計画を立てていた。
勝負の状態が完全に『ひっくり返った』のは勝負開始から二分後の事である。ゲッコウが今までやられっ放しだったにも関わらず――。
それが起きた決定的な出来事とは何だろうか?
答えは単純明快――。
エイミーの使っているリリーファー、そのコイルガンのエネルギーが尽きた。
電子空間上で、そんなことは有り得ないはずだった。はじめはプログラムのエラーかと彼女は思った。
だが、ドクターはそれを止めなかった。
「ドクター! これは何らかのミスじゃないのか!?」
「ミス? いいや、そんなことは無いね。いひひ、そんなことがあるわけない! 僕が作ったプログラムは完璧だ……。そうだ、完璧なんだよ! それ以上でもそれ以下でもない。イッツコンプリートッ!!」
「……いや、そうなのかもしれないけれど、バグとかあるかもしれないでしょう?」
「いいや、バグなんて無いね! バグがあるとすれば、このコンピュータに映し出されているはずさ! いひひ、どうだい。見てみたまえ! このコンピュータの画面には何も書かれていない! それは即ち、プログラムが何もエラーを起こしていないということさ!」
コルネリアは画面を見つめる。確かにそこには何も書かれていなかった。表示を消しているということも無さそうだ。
……となると。
「ほんとうに……『偶然』エネルギーが尽きたということなの……?」
コルネリアはモニターを見つめる。
突然エネルギーが尽きてしまったリリーファーは、その攻撃手段を一つ失うということである。
だからエイミーは攻撃できなくなった。
その一瞬を突いて、ゲッコウはコイルガンによる猛攻を開始した。
一分間エネルギー最大のコイルガン射撃で攻撃し続けたリリーファーと、一分間一度もコイルガンの攻撃を使っていないリリーファー。
前者であるエイミーからすれば、それは絶望そのものだった。
後者のゲッコウからすれば、それは好機そのものだった。
その偶然によって、形成は逆転。ゲッコウはそのままエイミーの乗るリリーファーをダウンさせた。
ゲッコウのリリーファーはすでに満身創痍だったが、形勢が逆転してエイミーのリリーファーもボロボロになっていく。
Q波によってシンクロしたリリーファーと起動従士は、リリーファーの『痛み』も起動従士に継続される。右腕に攻撃を受けると起動従士の右腕もダメージを受ける。リリーファーの右腕が抜き取られると、『まるで抜き取られたような』錯覚に襲われる。
「がああああああああ!」
右腕を抜き取られ、それを口に頬張るゲッコウのリリーファー。
右腕を抑えながら、呻くエイミー。
「まさか……こんなことになるとは思いもしなかったよ……」
彼女にとってみれば、右手が千切られている錯覚に襲われているのである。
それでも正常な思考を取ることが出来るのは、彼女が起動従士として訓練と教育を受けているからなのだろう。
(右腕を取られてしまえば……リリーファーを動かすことが難しい。Q波によるシンクロは、利き腕というのが非常に重要になる。それを抜き取るとは……)
エイミーは考える。
起動従士の不安が、そのままリリーファーの動きに直結する。
即ち今の状況は最悪。
「最悪だな……」
モニターを通して二人の戦闘を見ていたエイムスは溜息を吐いた。
このままではエイミーが負けてしまう。それは彼女のプライドが許さない――そう思っていたからだ。
彼女のプライドが破壊されてしまえば、何があるか解らない。
無論それまでの人間と言われてしまえばそれまでなのだが、人間のプライドは脆く醜いものなのだ。それをエイムスはよく知り、理解していた。そういうつもりだった。
「コルネリアさん、もう戦闘は終わりだ。このままじゃ彼女のプライドが――」
「エイムス」
エイムスの言葉にコルネリアは短く答える。
「エイムス、お前の言い分も解る。しかし、ここであきらめるならばエイミーには起動従士の座を降りてもらう。彼女にはそれ程の『看板』を背負っているのだから」
「そうかもしれない……。だが!」
「そこまで言うのなら、君にも起動従士の座を降りてもらうが? はっきり言って、ツクヨミと呼ばれるあのリリーファーを失うのは惜しい。あれを失わないために君たちを失うのならば、それすらも仕方ない」
「……そこまで言うのかよ」
エイムスは立ち上がり、椅子を乱暴に蹴り上げる。
「そこまで言うんだったら、僕は降りる。今すぐここを出ていってやる」
「構わないよ。ただしその場合リリーファーには一切乗ることが出来ない。それでもいいのならね」
「いいよ。リリーファーに乗らなければ、平和な日常を送ることが出来る。寧ろ清々した。このまま模擬戦を終了次第、僕とエイミーはここから出ていくよ」
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