絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第三百二十二話 破壊者
月から降りてきたリリーファー、その名をツクヨミと言った。
例外世代と称されるべきそれは、この世界にあるリリーファー、どれもが当てはまらない。例外世代と呼ばれるべきには、理由があるわけだ。
例外世代――何世代も飛躍している技術を持ち合わせたリリーファー。インフィニティもそれに相当する。
ツクヨミも例外世代に設定される。それは後に、メリアのようなリリーファーを研究する科学者が設定したためである。
そして、そのツクヨミは。
世界中の様々な人間が伝説上の産物としてしか知らなかった。
ツクヨミの性能について、或いは様態について。詳しく知らなかった。憶測でしか物事を語ることが出来ないからこそ、それを、理解することには時間がかかるということを。
ツクヨミはリリーファーだ。
ほんとうにリリーファーであるのか――そう考える人間も少なからずいたわけになるが。
◇◇◇
ツクヨミが降下する。
白いカラーリングのリリーファー、その頭部には薄膜で形作られた輪が作られていた。
それを見て、まるで天使だと思う人もいることだろう。
しかし、それと違って。
どうしてこのリリーファーは空から降りてきたのか、ということも疑問に浮かぶことだろう。
このリリーファーが何か変えてくれるだろうか――人々はツクヨミの出現によって戦況が変わることを期待していた。
だが、それは杞憂だった。
リリーファーは常に進歩を続けている――過去にそれを発表した学者もいた。
その事実は、案外本当なのかもしれない。
「あのリリーファーは……、インフィニティとはまた別物なのか?」
崇人はフロネシスに訊ねる。
フロネシスは一瞬の猶予を置いて、言った。
『あのリリーファーは今までの世代とは別物であると思われます。なぜならば今までの世代に見られていた特徴の凡てが一致しません。……ですが、あれはリリーファーであり、今までの世代とは合致しない「まったくの別物」と言えるでしょう』
「まったくの別物?」
フロネシスは続ける。
『ええ。なぜなら、あのリリーファーにはインフィニティと同じ装備が見受けられます。コイルガンではない、独特のコイルガン「エクサ・チャージ」が一緒ですから』
「……何だと?」
それを聞いて崇人は驚いた。
空からやってきたリリーファーが、インフィニティと同じ装備を持っている。
そんなことが有り得るのだろうか。
当然、理解できない。
『インフィニティとは異なるリリーファーではありますが、そのリリーファーはインフィニティとの共通点を多く抱えています。これは可能性の問題でありますが……インフィニティとあのリリーファーは、同じ時代に製造されたものなのではないでしょうか』
「同時代に、製造された……? インフィニティと同じ性能のリリーファーが居る、と……いうのか?」
『そういうことになるのでしょう。インフィニティと同じ性能のリリーファーがあるとは、はっきり言って知り得なかったことですが』
フロネシスは製造と同時に設定されたから、インフィニティと同時代に作られたというあのリリーファーのことを知らないのだろう。
いや、それとも。
作為的にフロネシスのプログラムが書き換えられているからではないだろうか?
インフィニティと同じ性能のリリーファーを、インフィニティの起動従士が知る必要の無いように――。
「いや、それは考え過ぎか」
崇人はそこまで考えたが、思考を停止させた。
『ともかく、あのリリーファーはインフィニティと同じタイプの兵器を持っているといえます。ですから、世代としてはインフィニティと同じ世代になるかと』
「インフィニティと同じ世代って存在するのか? 第一世代よりも古い、というわけでも無いだろうが……」
『強いて言うならば、「例外世代」とでも言うべきでしょうか。その世代には、今までのリリーファーの規格をはるかに上回る性能ばかりですから』
例外世代。
リリーファーの規格をはるかに上回る性能。
そうならば、どうしてそれを開発した人間は、その世代をスタンダードとしなかったのか。
理由は単純明快。
その世代をスタンダードとするには科学技術の成長がそれからも見込めないためである。
イレギュラーな世代をスタンダードとしてそれを根底としたことで、次の世代は、それよりも進化した世代となる。それが実現できないことを科学者は嫌った。――だから、インフィニティを例外世代と設定したのだろう。
例外世代は一機だけしか存在しえない。
そんな歴史がこの世界には蔓延っていた。
だが、今は違う。
目の前にあるのは、インフィニティとは違う、別の『例外世代』。
「リリーファーには、勿論人が乗り込んでいるんだよな?」
『スキャンいたしますか?』
「当然だ」
少しして、インフィニティのスキャンが完了する。
『スキャニング完了しました。リリーファーには人が乗り込んでいます。性別までは把握できています。確認いたしますか?』
「ああ、頼む」
『性別は男性です。……おそらくですが』
「おそらく?」
フロネシスの言葉の澱みを、崇人は見逃さなかった。
『ええ、確実に、とは言えないのが残念なことではあるのですが、男性であるか女性であるかと言われれば、男性の方が可能性としては高いものとなります』
「何というか、不確実性があるものを言われても……まあ、いいか。仕方ないことだ」
インフィニティは起動する。
先ずはそのリリーファーを、敵か味方か判断しなくてはならない。
そして、インフィニティはゆっくりと動き始めた。
◇◇◇
ヴィエンスは反応に困っていた。
突如空から出現したリリーファーを、どう対処すればいいのか。
リリーファーを倒すにはただ攻撃すればいい。リリーファーの装甲は無敵ではないのだから。
ただ、空から降りてきた謎のリリーファーにもそれが適用されるのか――それが問題だった。
「空からリリーファーが降りてくる……。そんな冗談、聞いたことも見たことも無い。そんなリリーファーにどう対応すればいいというんだ?」
ヴィエンスは自問自答する。
だがその答えは出るはずもない。
ヴィエンスは考える。
答えが出ないからと言って、行動しないわけではない。行動しなくてはならないのだ。
行動しなくてはならないが、具体的な案が出てこない。
それがヴィエンスの現状だった。
「どうすれば……」
悩んでいる場合では無い。
早急にあのリリーファーが敵か味方かを問う必要がある。
そのためには――。
「さあ、行くぞ。ヴィエンス・ゲーニック。お前が恐れていてどうする。お前は国を、人を守るんだろうが!!」
ヴィエンス・ゲーニックはリリーファーコントローラを握って、目を瞑る。
グリーングリーンニュンパイは動き出す。
空から落下してきたリリーファー――ツクヨミを、敵か味方か判断する、そのために。
◇◇◇
リリーファーが着陸する。
それによって、すべての戦闘が停止する。
戦闘だけでは無い。戦闘を目視していた人々も、その利益を楽しみにしていた人々も、だ。
だが、一番驚いているのはほかでもない、フィアットだろう。
「何故だ! なぜあのリリーファーが空からやってきた! あのリリーファーは……記録によれば封印されていたはずだったのに!!」
フィアットはそう言って、机を叩く。
「あのリリーファーは、それ程までにすごいものなのですか」
訊ねたのはクライムだった。
クライムの話にフィアットは小さく舌打ちする。
「ああ、その通りだ。あのリリーファーの名前はツクヨミ。かつてインフィニティと同じ時代に開発された、インフィニティと対をなすリリーファーだよ……。リリーファーが『救済』を示す言葉ならば、ツクヨミはその反対……、そうだね、『破壊者』とでも言えばいいか。その攻撃手段を、すべての破壊に専念するために開発された、超弩級人造人型兵器だよ」
例外世代と称されるべきそれは、この世界にあるリリーファー、どれもが当てはまらない。例外世代と呼ばれるべきには、理由があるわけだ。
例外世代――何世代も飛躍している技術を持ち合わせたリリーファー。インフィニティもそれに相当する。
ツクヨミも例外世代に設定される。それは後に、メリアのようなリリーファーを研究する科学者が設定したためである。
そして、そのツクヨミは。
世界中の様々な人間が伝説上の産物としてしか知らなかった。
ツクヨミの性能について、或いは様態について。詳しく知らなかった。憶測でしか物事を語ることが出来ないからこそ、それを、理解することには時間がかかるということを。
ツクヨミはリリーファーだ。
ほんとうにリリーファーであるのか――そう考える人間も少なからずいたわけになるが。
◇◇◇
ツクヨミが降下する。
白いカラーリングのリリーファー、その頭部には薄膜で形作られた輪が作られていた。
それを見て、まるで天使だと思う人もいることだろう。
しかし、それと違って。
どうしてこのリリーファーは空から降りてきたのか、ということも疑問に浮かぶことだろう。
このリリーファーが何か変えてくれるだろうか――人々はツクヨミの出現によって戦況が変わることを期待していた。
だが、それは杞憂だった。
リリーファーは常に進歩を続けている――過去にそれを発表した学者もいた。
その事実は、案外本当なのかもしれない。
「あのリリーファーは……、インフィニティとはまた別物なのか?」
崇人はフロネシスに訊ねる。
フロネシスは一瞬の猶予を置いて、言った。
『あのリリーファーは今までの世代とは別物であると思われます。なぜならば今までの世代に見られていた特徴の凡てが一致しません。……ですが、あれはリリーファーであり、今までの世代とは合致しない「まったくの別物」と言えるでしょう』
「まったくの別物?」
フロネシスは続ける。
『ええ。なぜなら、あのリリーファーにはインフィニティと同じ装備が見受けられます。コイルガンではない、独特のコイルガン「エクサ・チャージ」が一緒ですから』
「……何だと?」
それを聞いて崇人は驚いた。
空からやってきたリリーファーが、インフィニティと同じ装備を持っている。
そんなことが有り得るのだろうか。
当然、理解できない。
『インフィニティとは異なるリリーファーではありますが、そのリリーファーはインフィニティとの共通点を多く抱えています。これは可能性の問題でありますが……インフィニティとあのリリーファーは、同じ時代に製造されたものなのではないでしょうか』
「同時代に、製造された……? インフィニティと同じ性能のリリーファーが居る、と……いうのか?」
『そういうことになるのでしょう。インフィニティと同じ性能のリリーファーがあるとは、はっきり言って知り得なかったことですが』
フロネシスは製造と同時に設定されたから、インフィニティと同時代に作られたというあのリリーファーのことを知らないのだろう。
いや、それとも。
作為的にフロネシスのプログラムが書き換えられているからではないだろうか?
インフィニティと同じ性能のリリーファーを、インフィニティの起動従士が知る必要の無いように――。
「いや、それは考え過ぎか」
崇人はそこまで考えたが、思考を停止させた。
『ともかく、あのリリーファーはインフィニティと同じタイプの兵器を持っているといえます。ですから、世代としてはインフィニティと同じ世代になるかと』
「インフィニティと同じ世代って存在するのか? 第一世代よりも古い、というわけでも無いだろうが……」
『強いて言うならば、「例外世代」とでも言うべきでしょうか。その世代には、今までのリリーファーの規格をはるかに上回る性能ばかりですから』
例外世代。
リリーファーの規格をはるかに上回る性能。
そうならば、どうしてそれを開発した人間は、その世代をスタンダードとしなかったのか。
理由は単純明快。
その世代をスタンダードとするには科学技術の成長がそれからも見込めないためである。
イレギュラーな世代をスタンダードとしてそれを根底としたことで、次の世代は、それよりも進化した世代となる。それが実現できないことを科学者は嫌った。――だから、インフィニティを例外世代と設定したのだろう。
例外世代は一機だけしか存在しえない。
そんな歴史がこの世界には蔓延っていた。
だが、今は違う。
目の前にあるのは、インフィニティとは違う、別の『例外世代』。
「リリーファーには、勿論人が乗り込んでいるんだよな?」
『スキャンいたしますか?』
「当然だ」
少しして、インフィニティのスキャンが完了する。
『スキャニング完了しました。リリーファーには人が乗り込んでいます。性別までは把握できています。確認いたしますか?』
「ああ、頼む」
『性別は男性です。……おそらくですが』
「おそらく?」
フロネシスの言葉の澱みを、崇人は見逃さなかった。
『ええ、確実に、とは言えないのが残念なことではあるのですが、男性であるか女性であるかと言われれば、男性の方が可能性としては高いものとなります』
「何というか、不確実性があるものを言われても……まあ、いいか。仕方ないことだ」
インフィニティは起動する。
先ずはそのリリーファーを、敵か味方か判断しなくてはならない。
そして、インフィニティはゆっくりと動き始めた。
◇◇◇
ヴィエンスは反応に困っていた。
突如空から出現したリリーファーを、どう対処すればいいのか。
リリーファーを倒すにはただ攻撃すればいい。リリーファーの装甲は無敵ではないのだから。
ただ、空から降りてきた謎のリリーファーにもそれが適用されるのか――それが問題だった。
「空からリリーファーが降りてくる……。そんな冗談、聞いたことも見たことも無い。そんなリリーファーにどう対応すればいいというんだ?」
ヴィエンスは自問自答する。
だがその答えは出るはずもない。
ヴィエンスは考える。
答えが出ないからと言って、行動しないわけではない。行動しなくてはならないのだ。
行動しなくてはならないが、具体的な案が出てこない。
それがヴィエンスの現状だった。
「どうすれば……」
悩んでいる場合では無い。
早急にあのリリーファーが敵か味方かを問う必要がある。
そのためには――。
「さあ、行くぞ。ヴィエンス・ゲーニック。お前が恐れていてどうする。お前は国を、人を守るんだろうが!!」
ヴィエンス・ゲーニックはリリーファーコントローラを握って、目を瞑る。
グリーングリーンニュンパイは動き出す。
空から落下してきたリリーファー――ツクヨミを、敵か味方か判断する、そのために。
◇◇◇
リリーファーが着陸する。
それによって、すべての戦闘が停止する。
戦闘だけでは無い。戦闘を目視していた人々も、その利益を楽しみにしていた人々も、だ。
だが、一番驚いているのはほかでもない、フィアットだろう。
「何故だ! なぜあのリリーファーが空からやってきた! あのリリーファーは……記録によれば封印されていたはずだったのに!!」
フィアットはそう言って、机を叩く。
「あのリリーファーは、それ程までにすごいものなのですか」
訊ねたのはクライムだった。
クライムの話にフィアットは小さく舌打ちする。
「ああ、その通りだ。あのリリーファーの名前はツクヨミ。かつてインフィニティと同じ時代に開発された、インフィニティと対をなすリリーファーだよ……。リリーファーが『救済』を示す言葉ならば、ツクヨミはその反対……、そうだね、『破壊者』とでも言えばいいか。その攻撃手段を、すべての破壊に専念するために開発された、超弩級人造人型兵器だよ」
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