絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第三百十四話 言葉
マーズの話は続く。
「先代ヴァリエイブル王は考えました。このリリーファーを使えば最強の国家が誕生すると。確かにその通りだと私も思っていました。数十年という長い間、ヴァリエイブルは他国との戦争の危機に脅かされているから。でも、そう簡単に世界は変わってくれない。だからこそ私たちは今の状態を変えよう。この世界を変えようと考えていました」
次第に、マーズの声を批判していた人間の声が小さくなっていく。
マーズの話を聞こう――そう思う人間が増え始めたのだ。
マーズの話は続く。
「ティパモールで起きた戦乱を覚えていますか。あの時、私たちは戦ったのです。そして、正義のために――タカトは人を殺めました。赤い翼、そのリーダーを」
赤い翼。
それを知らない人間等、ティパモールに居るはずがない。
ティパモールを独立させるために尽力した団体であり、現在はハリー=ティパモール共和国の首脳にまで上り詰めている存在だ。
「赤い翼のリーダーは、インフィニティを使って世界を壊そうとしていたのです。当然それは許されません。この世界の平穏は、私たちが守るのと同時に私たちが壊す可能性だってあるのですから」
世界のため。
そして、自分たちの正義のため。
そのために、人間を殺す。
同じ人間同士で、争う。
それは間違っているのだろうか?
「私たちは『正義』を貫きました。貫くために、或いは、貫いていくために、世界の行われた争いを仲介するために戦いました。それは間違いではない、正しいことだと思っていました。――ですが、あるタイミングでそれは虚構であると思い始めました。それが十年前の『破壊の春風』です」
しん、と静まった。
その中で、物ともせずマーズは話を続ける。
「『破壊の春風』はひどいものでした。しかしながら、それが起きた原因については誰も語りません。語ろうともしません。間違っているわけでもありませんが、少々おかしな話とは思いませんか? 普通、語る人が居てもおかしくはないでしょう、あの災害の後に起きたことを」
確かに、人々は知らない。
あの災害が発生したことと、その被害は知っていても。
その災害が起きたまでの過程は――知る由も無いのだ。
「あの時、ティパモールに程近いコロシアムではある大会が行われていました。今となってはもう行う余裕など無くなってしまいましたが……。その名前を、こう言いました。『全国起動従士選抜選考大会』と」
その名前は聞いたことある人も多いようで、民衆の中で頷く人も出てきている。
それを見てマーズは続ける。
「全国起動従士選抜選考大会は、文字通り起動従士を集めるものです。正確に言えば、起動従士を目指す若者を競わせ、優秀な成績だった若者はそのまま起動従士となるものです。私もそうでした。私もそれによって起動従士に選ばれ、今日まで起動従士として生きてきました」
マーズが起動従士としてリリーファーに乗っていたのは、七年前までのことだ。
それからは慣れない政治の勉強をしていたので、リリーファーで戦うのは後の世代に任せていたのだ。
「大会に参加して起動従士という夢を掴む若者は多かったです。決して少ないとは言えません。あの時も……確か総勢百名近い人間が居たのではないでしょうか。その人間がみな、起動従士になるために努力を重ねてきました。そして、あの舞台……あそこで世界が一旦終わり、今の世界が構築されたと言ってもいいでしょう」
世界は一度終わった。
その言葉にどよめく人もいたが、それでもマーズは無視し続ける。
「今の世界が構築されてしまった原因は、確かにタカトにあります。けれど、この世界がいたるまでの過程の上で……何度も彼は世界を救ってきました。それも、理解してください」
マーズ・リッペンバーはただ前を見ていた。
彼女の強い意志は、この時であっても変わらなかった。
「世界を救ってきた彼を……世界は見捨てるのでしょうか? 見捨てなくてはいけないのでしょうか。そもそも、彼はあの災害を起こしたといえるのでしょうか?」
今度こそ。
民衆のざわつきが大きくなる。それは彼女も理解していたことだ。
「彼は、インフィニティに乗り込んでいました。しかしその時インフィニティには……タカト以外の熱反応があったと言われています。その証拠もきちんと残っています。その証拠を提出すればタカトの無実は証明されます」
その発言は、フィアットにとっても予想外のことだった。
それと同時に、民衆の動揺はピークに達する。
「タカト・オーノは無実です。彼は何もしていません。寧ろ彼も被害者なのです――」
「それではこれより、マーズ・リッペンバーの処刑を執行する!」
痺れを切らした兵士はマーズの身体を抑えつける。そして、強引に断頭台へと運ぶ。
「やめて! まだ話は終わっていない……。まだ話すことがある! 彼の無実を証明しなくてはならないの! たとえ私がここで処刑されたとしても!!」
そして。
マーズ・リッペンバーは力の限り、叫んだ。
「タカト・オーノと『インフィニティ』はこの世界に必要な存在だから……!」
『――間に合ったようだな』
それと同じタイミングだった。
スピーカーを通したような、どこか間延びした音声が広場に響き渡った。
民衆は動揺する。周囲を見渡し、それがどこからのものかを調べる。
見わたすまでも無かった。
なぜなら。
『マーズ・リッペンバー、彼女を救いに来た』
ヴィエンスが乗り込むニュンパイが、広場のすぐ目の前に居たためである。
それを見てフィアットは舌打ちする。
「奴ら……。軍用の特別回線を用いやがった! あれは確か……首都戦争反撃用のものだったはずだ!!」
慌てて立ち上がり、フィアットはどこかへと歩き出す。
「どこへ?」
クライムの言葉に笑みを浮かべる。
「……クライマックスを楽しみに見に行くんだよ。映画だってクライマックスを楽しみにするだろう? それと同じ原理。これからクライマックスだ。どうなるか、楽しみだろう?」
「それは、わたくしも同じでございます」
恭しく頭を下げるクライム。
「そうだろう。ならばついてくるがいい。急がないと間に合わないぞ」
そして――クライムとフィアットはある場所へと向かった。
ヴィエンスの乗り込むグリーングリーンニュンパイは広場を一望するように屹立していた。ニュンパイは現世代である第六世代に比べれば性能は劣る。しかしながら、リリーファーが殆ど存在しない現状では、これでも無いよりはマシの部類に入る。
「どうやら、あっという間に終わる……と思うのだがね」
ヴィエンスはそう言いながらも油断はしない。かつてそれをした結果、窮地に立たされたことが何度もあった。慢心はしてはならない――それが彼の一番の言葉ともいえるだろう。
「さて、それじゃ……急いでマーズを救うことにしましょうかね」
そしてグリーングリーンニュンパイは一歩踏み出した。
『――残念ながら、そう簡単にこちらも奪われては困るのだよ、ヴィエンス・ゲーニックくん?』
声が聞こえた。
それと同時に左半身に熱光線が当たる。
「ぐあああああ……! 敵、やはりね!」
ヴィエンスはこの事態を想定していた。それどころか、リリーファーが警備していることはすでにメリアから入手済みである。彼女の協力さえなければここまでリリーファーを運ぶことも出来なかっただろう。
ヴィエンスはそちらを見る。
そこに立っていたのは――凡てを黒に包んだ、球体。正確に言えば、球体に手足がついている。まるでヒヨコが卵の殻から手足を伸ばしたかのような、そんな感じだった。
『ああ、これに驚いているようだね? 漸く実戦投入することの出来る段階まで到達したからね。少しは試しておかねばならない。クーリングオフよろしく、試用期間は大事だ。そうだろう?』
乗り込んでいたのは、見知らぬ人間だった。
しかし、高圧的な態度はフィアットを想起させる。
「あんたが誰だか知らないが……こっちは人を救わねばならない。彼女は大事な存在だ。ハリー騎士団としても、そして、いつか『アイツ』が帰ってきたときに備えて、彼女はここに居てもらわないと困るんだよ!」
コイルガンにエネルギーを装填するヴィエンス。
徹底抗戦の構えだ。
黒のリリーファーは動かない。
『……実戦投入の耐久テストをしても構わないだろうね。計算上ならばインフィニティの攻撃にも五十五秒までなら耐えうることが出来るらしいが。このリリーファー「ヤタガラス」のテストになることを、誇りに思うがいい』
「吠えていろ」
そして。
ヴィエンスは『ヤタガラス』に向けてコイルガンを撃ち放った。
「先代ヴァリエイブル王は考えました。このリリーファーを使えば最強の国家が誕生すると。確かにその通りだと私も思っていました。数十年という長い間、ヴァリエイブルは他国との戦争の危機に脅かされているから。でも、そう簡単に世界は変わってくれない。だからこそ私たちは今の状態を変えよう。この世界を変えようと考えていました」
次第に、マーズの声を批判していた人間の声が小さくなっていく。
マーズの話を聞こう――そう思う人間が増え始めたのだ。
マーズの話は続く。
「ティパモールで起きた戦乱を覚えていますか。あの時、私たちは戦ったのです。そして、正義のために――タカトは人を殺めました。赤い翼、そのリーダーを」
赤い翼。
それを知らない人間等、ティパモールに居るはずがない。
ティパモールを独立させるために尽力した団体であり、現在はハリー=ティパモール共和国の首脳にまで上り詰めている存在だ。
「赤い翼のリーダーは、インフィニティを使って世界を壊そうとしていたのです。当然それは許されません。この世界の平穏は、私たちが守るのと同時に私たちが壊す可能性だってあるのですから」
世界のため。
そして、自分たちの正義のため。
そのために、人間を殺す。
同じ人間同士で、争う。
それは間違っているのだろうか?
「私たちは『正義』を貫きました。貫くために、或いは、貫いていくために、世界の行われた争いを仲介するために戦いました。それは間違いではない、正しいことだと思っていました。――ですが、あるタイミングでそれは虚構であると思い始めました。それが十年前の『破壊の春風』です」
しん、と静まった。
その中で、物ともせずマーズは話を続ける。
「『破壊の春風』はひどいものでした。しかしながら、それが起きた原因については誰も語りません。語ろうともしません。間違っているわけでもありませんが、少々おかしな話とは思いませんか? 普通、語る人が居てもおかしくはないでしょう、あの災害の後に起きたことを」
確かに、人々は知らない。
あの災害が発生したことと、その被害は知っていても。
その災害が起きたまでの過程は――知る由も無いのだ。
「あの時、ティパモールに程近いコロシアムではある大会が行われていました。今となってはもう行う余裕など無くなってしまいましたが……。その名前を、こう言いました。『全国起動従士選抜選考大会』と」
その名前は聞いたことある人も多いようで、民衆の中で頷く人も出てきている。
それを見てマーズは続ける。
「全国起動従士選抜選考大会は、文字通り起動従士を集めるものです。正確に言えば、起動従士を目指す若者を競わせ、優秀な成績だった若者はそのまま起動従士となるものです。私もそうでした。私もそれによって起動従士に選ばれ、今日まで起動従士として生きてきました」
マーズが起動従士としてリリーファーに乗っていたのは、七年前までのことだ。
それからは慣れない政治の勉強をしていたので、リリーファーで戦うのは後の世代に任せていたのだ。
「大会に参加して起動従士という夢を掴む若者は多かったです。決して少ないとは言えません。あの時も……確か総勢百名近い人間が居たのではないでしょうか。その人間がみな、起動従士になるために努力を重ねてきました。そして、あの舞台……あそこで世界が一旦終わり、今の世界が構築されたと言ってもいいでしょう」
世界は一度終わった。
その言葉にどよめく人もいたが、それでもマーズは無視し続ける。
「今の世界が構築されてしまった原因は、確かにタカトにあります。けれど、この世界がいたるまでの過程の上で……何度も彼は世界を救ってきました。それも、理解してください」
マーズ・リッペンバーはただ前を見ていた。
彼女の強い意志は、この時であっても変わらなかった。
「世界を救ってきた彼を……世界は見捨てるのでしょうか? 見捨てなくてはいけないのでしょうか。そもそも、彼はあの災害を起こしたといえるのでしょうか?」
今度こそ。
民衆のざわつきが大きくなる。それは彼女も理解していたことだ。
「彼は、インフィニティに乗り込んでいました。しかしその時インフィニティには……タカト以外の熱反応があったと言われています。その証拠もきちんと残っています。その証拠を提出すればタカトの無実は証明されます」
その発言は、フィアットにとっても予想外のことだった。
それと同時に、民衆の動揺はピークに達する。
「タカト・オーノは無実です。彼は何もしていません。寧ろ彼も被害者なのです――」
「それではこれより、マーズ・リッペンバーの処刑を執行する!」
痺れを切らした兵士はマーズの身体を抑えつける。そして、強引に断頭台へと運ぶ。
「やめて! まだ話は終わっていない……。まだ話すことがある! 彼の無実を証明しなくてはならないの! たとえ私がここで処刑されたとしても!!」
そして。
マーズ・リッペンバーは力の限り、叫んだ。
「タカト・オーノと『インフィニティ』はこの世界に必要な存在だから……!」
『――間に合ったようだな』
それと同じタイミングだった。
スピーカーを通したような、どこか間延びした音声が広場に響き渡った。
民衆は動揺する。周囲を見渡し、それがどこからのものかを調べる。
見わたすまでも無かった。
なぜなら。
『マーズ・リッペンバー、彼女を救いに来た』
ヴィエンスが乗り込むニュンパイが、広場のすぐ目の前に居たためである。
それを見てフィアットは舌打ちする。
「奴ら……。軍用の特別回線を用いやがった! あれは確か……首都戦争反撃用のものだったはずだ!!」
慌てて立ち上がり、フィアットはどこかへと歩き出す。
「どこへ?」
クライムの言葉に笑みを浮かべる。
「……クライマックスを楽しみに見に行くんだよ。映画だってクライマックスを楽しみにするだろう? それと同じ原理。これからクライマックスだ。どうなるか、楽しみだろう?」
「それは、わたくしも同じでございます」
恭しく頭を下げるクライム。
「そうだろう。ならばついてくるがいい。急がないと間に合わないぞ」
そして――クライムとフィアットはある場所へと向かった。
ヴィエンスの乗り込むグリーングリーンニュンパイは広場を一望するように屹立していた。ニュンパイは現世代である第六世代に比べれば性能は劣る。しかしながら、リリーファーが殆ど存在しない現状では、これでも無いよりはマシの部類に入る。
「どうやら、あっという間に終わる……と思うのだがね」
ヴィエンスはそう言いながらも油断はしない。かつてそれをした結果、窮地に立たされたことが何度もあった。慢心はしてはならない――それが彼の一番の言葉ともいえるだろう。
「さて、それじゃ……急いでマーズを救うことにしましょうかね」
そしてグリーングリーンニュンパイは一歩踏み出した。
『――残念ながら、そう簡単にこちらも奪われては困るのだよ、ヴィエンス・ゲーニックくん?』
声が聞こえた。
それと同時に左半身に熱光線が当たる。
「ぐあああああ……! 敵、やはりね!」
ヴィエンスはこの事態を想定していた。それどころか、リリーファーが警備していることはすでにメリアから入手済みである。彼女の協力さえなければここまでリリーファーを運ぶことも出来なかっただろう。
ヴィエンスはそちらを見る。
そこに立っていたのは――凡てを黒に包んだ、球体。正確に言えば、球体に手足がついている。まるでヒヨコが卵の殻から手足を伸ばしたかのような、そんな感じだった。
『ああ、これに驚いているようだね? 漸く実戦投入することの出来る段階まで到達したからね。少しは試しておかねばならない。クーリングオフよろしく、試用期間は大事だ。そうだろう?』
乗り込んでいたのは、見知らぬ人間だった。
しかし、高圧的な態度はフィアットを想起させる。
「あんたが誰だか知らないが……こっちは人を救わねばならない。彼女は大事な存在だ。ハリー騎士団としても、そして、いつか『アイツ』が帰ってきたときに備えて、彼女はここに居てもらわないと困るんだよ!」
コイルガンにエネルギーを装填するヴィエンス。
徹底抗戦の構えだ。
黒のリリーファーは動かない。
『……実戦投入の耐久テストをしても構わないだろうね。計算上ならばインフィニティの攻撃にも五十五秒までなら耐えうることが出来るらしいが。このリリーファー「ヤタガラス」のテストになることを、誇りに思うがいい』
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