絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第三百十三話 断頭台
三日後。
早朝、マーズ・リッペンバーは『彼女』と話をしていた。
「もう、今日でおしまいだね」
その言葉にマーズは頷く。
結局、今日まで誰も来ることは無かった。
彼女を救う必要などない――そう思われたのかもしれない。
「あなたは悪くない。あなたがそれを言っただけだから。……さあ、向かいましょう。もうすぐ、あなたを迎えにやってくる」
「誰が……?」
「マーズ・リッペンバー、外に出ろ」
声が聞こえた。
見ると鉄格子がつけられた扉が開け放たれており、そこから一人の男がマーズを見下していた。
それがかつて彼女の部下であった男であることは、マーズも知っていた。
「……今日、ですか」
「そうだ。今日、お前は処刑される。それは間違っていないことだ。それを受け入れ、処刑される」
「……そうね。私、処刑されるのよね」
どこか遠くを見つめるマーズ。
「怖いか? まあ、今更言っても遅いが」
「遅い、でしょうね。でも、私は後悔していない。たとえタカトとの関係が解って、それが原因で死ぬことになっても……私は後悔しないわ」
「それをどこまで言えるかな」
そして、マーズは外に出され、ある場所へと歩き出した。
それが彼女の最後の地だということを、まだ彼女は理解しなかった。理解したくなかった。言葉では言ったとしても、未だ彼女は願っていたのだ。誰かがきっと助けてくれるだろうということを、未だ望んでいたのだ。
◇◇◇
「作戦会議をする必要は?」
「ないだろ。とにかく、マーズを救う。ただそれだけのことだ」
「もしかしたら軍が居るかもしれないけれどね」
「それは問題ない。すでに軍の人数及びリリーファーの数は把握済みだ。……ハリー騎士団の底力を見せてやろうぜ」
工廠、その奥底。
ニュンパイに乗り込むヴィエンス、ブルースに乗り込むダイモス、リズムに乗り込むハルはそれぞれ行動を示していた。
作戦は簡単だった。――リリーファーを使って、マーズを救出するということ。
それによって、ハリー=ティパモール共和国は崩壊の一途をたどる可能性もあった。
だが、マーズを救うためには仕方ないことだ。それはヴィエンスも理解していた。
マーズ・リッペンバーはこのような場所で死ぬ人間ではない。それはヴィエンスが提唱したことだった。彼が強く提唱しなければここまでの行動をすることは出来なかっただろう。
「……怖いかもしれない。今まで、自分たちが仕えていた、自分たちが家族のように接していた人間たちと戦うことになるのだから。そうなってしまったことを、先ずは謝罪する」
『どうしてヴィエンスさんが謝罪する必要があるんですか?』
訊ねたのはダイモスだった。
ダイモスの話は続く。
『確かにこれは最悪のケースかもしれませんが……そうだとしても、僕がこの選択をしたのは、自分自身の責任によるものです。ですから、責任は自分で取るのがふつうですよ』
「……ダイモス」
『私も一緒です』
その発言はハルからだった。
『私も兄さんの意見に賛成します。母親を……母さんを救うために、出動してはならないのですか。目の前で母さんが殺されてしまうのを、ただ指をくわえて見ていろと言われて……素直に従うはずがありません』
「……そうだな。確かに、それはその通りだ」
その筋が通っているというのも――あいつの子供だからだろうか。
ヴィエンスはそんなことを考えたが、それを口に出すことなどしない。
三人は一歩進む。
その先にあるものが希望なのか、絶望なのか――それは未だ誰にも解らない。
◇◇◇
「いよいよこの時がやってきた」
コルネリアはマイクを通して、四機のリリーファーに告げた。
インフィニティに乗り込んでいるタカト。
アイン――黄色のリリーファーに乗り込んでいるシズク。
スメラギ・アンに乗り込んでいるエイミー。
スメラギ・ドゥに乗り込んでいるエイムス。
これらはレーヴの精鋭と言ってもいい、最強の布陣であった。
「私もあとでベスパに乗り込み直接指示を送る予定なので、そのつもりで」
『ベスパで?』
訊ねたのは崇人だった。
「ええ、ベスパならば私も操縦することが簡単だもの。だったらそれを使ったほうがいいでしょう?」
『まあ、それもそうだが……。でも指揮官というものは安全なところで指示を送るに徹したほうがいいんじゃないのか?』
「それも考えたのだけれど……、でも見てみないとね。何も言えないのよ。見ることで初めて現場の流れが解る……そういうパターンだってよくあるわけ。だったら、私もリリーファーで出撃したほうがいい。もしかしてタカト、私のことを心配しているの?」
『心配していないと言えば、嘘になる。やはり、かつてのチームメイトだったからな』
「……ありがとう、タカト」
突然コルネリアの言った言葉に、崇人は目を丸くする。
『どうしたんだよ、突然。そんなことを言いだして。らしくないぞ』
「いいの。こういう時じゃなければ、言うことも出来ないから」
コルネリアは小さく溜息を吐いて、言った。
「それでは、全員出動! 目標、マーズ・リッペンバー!!」
こうして彼らは行動を開始する。
そのサイドは違うかもしれないが、彼らの目標は一致していた。
マーズ・リッペンバーの救出。
それによって何が起きるのか――世界がどう変わってしまうのか――彼らが知る由も無い。
断頭台。
文字通り、首を切断するための台である。
ステージの上に置かれたそれは、民衆に見える位置に堂々あった。
「ついてこい」
手錠をつけられているマーズはステージの上へと引っ張られる。
同時にステージを見ていた民衆は怒号をまき散らす。何か物をマーズにぶつける人間だっていた。しかしマーズは動じなかった。ぶつけられたものが原因で傷を作り、血を流そうとも。彼女はただステージから民衆を見つめるだけだった。
「……何か言いたい言葉はあるか」
最後にこう告げるのだろう。
マーズは頷いて、一歩前に出る。
マーズ・リッペンバー最後の言葉。
「――みなさんに何を言っても、許してくれるとは思っていません」
一言、それを聞いて民衆の怒号が復活する。
「何を言っているんだ!」
「お前が民衆を裏切ったんだろうが!」
「裏切り者! さっさと処刑されろ!」
不満をまき散らしている。
しかし、それでもマーズは動じない。
「ですが、これだけは伝えたいのです。タカト・オーノについて、そして……あの『十年前』の災害について」
しん、と場が静まった。
同時にそれを上から眺めていたフィアットは笑みを浮かべる。
「タカト・オーノはインフィニティの起動従士です。インフィニティは最強のリリーファーとして謳われ、それを操ることの出来る人間が居ませんでした。しかし、彼が登場したことでこの世界の歴史は大きく動き出したともいえるでしょう」
タカト・オーノの歴史について語るマーズ。
そこで数人の民衆は違和感を抱いた。
「突然、インフィニティに乗ることの出来る人間なんて現れるのかよ!」
「そう。そこは私たちも長年気になっていたところです。……彼は遠い場所からやってきました。異世界人、とでも言えばいいでしょうか」
その言葉にざわつく民衆。
異世界という言葉には、民衆も聞き捨てならないものがあるのだろう。特にこの時代、世界から逃げ出したいと願う人が続出している。そういう人間たちにとって――『異世界』は素敵な響きなのである。
「異世界人である彼は、この世界について何も知りませんでした。まあ、当然ですよね。異世界に住んでいた人間がこの世界の知識を持っていたら逆にそれは不思議ですから」
マーズの話は続く。
人々はマーズの話に取り込まれていった。
「ですからタカトは学校に入ることになりました。リリーファーの技術を学ぶためではなく、この世界について学ぶために……。今は亡き先代ヴァリエイブル国王もそれに賛成していました」
「先代のヴァリエイリブル王が?」
それを聞いてさらにざわつく民衆。
フィアットは徐々にマーズが何をしたいのかが解ってきた。
「成る程ね……」
理解した後、再び笑みを浮かべる。
ワインを啜り、呟く。
「そんな作戦が、ほんとうに成功するとでも思っているのかなあ?」
そしてフィアットは背後に居た兵士に何かを告げる――。
早朝、マーズ・リッペンバーは『彼女』と話をしていた。
「もう、今日でおしまいだね」
その言葉にマーズは頷く。
結局、今日まで誰も来ることは無かった。
彼女を救う必要などない――そう思われたのかもしれない。
「あなたは悪くない。あなたがそれを言っただけだから。……さあ、向かいましょう。もうすぐ、あなたを迎えにやってくる」
「誰が……?」
「マーズ・リッペンバー、外に出ろ」
声が聞こえた。
見ると鉄格子がつけられた扉が開け放たれており、そこから一人の男がマーズを見下していた。
それがかつて彼女の部下であった男であることは、マーズも知っていた。
「……今日、ですか」
「そうだ。今日、お前は処刑される。それは間違っていないことだ。それを受け入れ、処刑される」
「……そうね。私、処刑されるのよね」
どこか遠くを見つめるマーズ。
「怖いか? まあ、今更言っても遅いが」
「遅い、でしょうね。でも、私は後悔していない。たとえタカトとの関係が解って、それが原因で死ぬことになっても……私は後悔しないわ」
「それをどこまで言えるかな」
そして、マーズは外に出され、ある場所へと歩き出した。
それが彼女の最後の地だということを、まだ彼女は理解しなかった。理解したくなかった。言葉では言ったとしても、未だ彼女は願っていたのだ。誰かがきっと助けてくれるだろうということを、未だ望んでいたのだ。
◇◇◇
「作戦会議をする必要は?」
「ないだろ。とにかく、マーズを救う。ただそれだけのことだ」
「もしかしたら軍が居るかもしれないけれどね」
「それは問題ない。すでに軍の人数及びリリーファーの数は把握済みだ。……ハリー騎士団の底力を見せてやろうぜ」
工廠、その奥底。
ニュンパイに乗り込むヴィエンス、ブルースに乗り込むダイモス、リズムに乗り込むハルはそれぞれ行動を示していた。
作戦は簡単だった。――リリーファーを使って、マーズを救出するということ。
それによって、ハリー=ティパモール共和国は崩壊の一途をたどる可能性もあった。
だが、マーズを救うためには仕方ないことだ。それはヴィエンスも理解していた。
マーズ・リッペンバーはこのような場所で死ぬ人間ではない。それはヴィエンスが提唱したことだった。彼が強く提唱しなければここまでの行動をすることは出来なかっただろう。
「……怖いかもしれない。今まで、自分たちが仕えていた、自分たちが家族のように接していた人間たちと戦うことになるのだから。そうなってしまったことを、先ずは謝罪する」
『どうしてヴィエンスさんが謝罪する必要があるんですか?』
訊ねたのはダイモスだった。
ダイモスの話は続く。
『確かにこれは最悪のケースかもしれませんが……そうだとしても、僕がこの選択をしたのは、自分自身の責任によるものです。ですから、責任は自分で取るのがふつうですよ』
「……ダイモス」
『私も一緒です』
その発言はハルからだった。
『私も兄さんの意見に賛成します。母親を……母さんを救うために、出動してはならないのですか。目の前で母さんが殺されてしまうのを、ただ指をくわえて見ていろと言われて……素直に従うはずがありません』
「……そうだな。確かに、それはその通りだ」
その筋が通っているというのも――あいつの子供だからだろうか。
ヴィエンスはそんなことを考えたが、それを口に出すことなどしない。
三人は一歩進む。
その先にあるものが希望なのか、絶望なのか――それは未だ誰にも解らない。
◇◇◇
「いよいよこの時がやってきた」
コルネリアはマイクを通して、四機のリリーファーに告げた。
インフィニティに乗り込んでいるタカト。
アイン――黄色のリリーファーに乗り込んでいるシズク。
スメラギ・アンに乗り込んでいるエイミー。
スメラギ・ドゥに乗り込んでいるエイムス。
これらはレーヴの精鋭と言ってもいい、最強の布陣であった。
「私もあとでベスパに乗り込み直接指示を送る予定なので、そのつもりで」
『ベスパで?』
訊ねたのは崇人だった。
「ええ、ベスパならば私も操縦することが簡単だもの。だったらそれを使ったほうがいいでしょう?」
『まあ、それもそうだが……。でも指揮官というものは安全なところで指示を送るに徹したほうがいいんじゃないのか?』
「それも考えたのだけれど……、でも見てみないとね。何も言えないのよ。見ることで初めて現場の流れが解る……そういうパターンだってよくあるわけ。だったら、私もリリーファーで出撃したほうがいい。もしかしてタカト、私のことを心配しているの?」
『心配していないと言えば、嘘になる。やはり、かつてのチームメイトだったからな』
「……ありがとう、タカト」
突然コルネリアの言った言葉に、崇人は目を丸くする。
『どうしたんだよ、突然。そんなことを言いだして。らしくないぞ』
「いいの。こういう時じゃなければ、言うことも出来ないから」
コルネリアは小さく溜息を吐いて、言った。
「それでは、全員出動! 目標、マーズ・リッペンバー!!」
こうして彼らは行動を開始する。
そのサイドは違うかもしれないが、彼らの目標は一致していた。
マーズ・リッペンバーの救出。
それによって何が起きるのか――世界がどう変わってしまうのか――彼らが知る由も無い。
断頭台。
文字通り、首を切断するための台である。
ステージの上に置かれたそれは、民衆に見える位置に堂々あった。
「ついてこい」
手錠をつけられているマーズはステージの上へと引っ張られる。
同時にステージを見ていた民衆は怒号をまき散らす。何か物をマーズにぶつける人間だっていた。しかしマーズは動じなかった。ぶつけられたものが原因で傷を作り、血を流そうとも。彼女はただステージから民衆を見つめるだけだった。
「……何か言いたい言葉はあるか」
最後にこう告げるのだろう。
マーズは頷いて、一歩前に出る。
マーズ・リッペンバー最後の言葉。
「――みなさんに何を言っても、許してくれるとは思っていません」
一言、それを聞いて民衆の怒号が復活する。
「何を言っているんだ!」
「お前が民衆を裏切ったんだろうが!」
「裏切り者! さっさと処刑されろ!」
不満をまき散らしている。
しかし、それでもマーズは動じない。
「ですが、これだけは伝えたいのです。タカト・オーノについて、そして……あの『十年前』の災害について」
しん、と場が静まった。
同時にそれを上から眺めていたフィアットは笑みを浮かべる。
「タカト・オーノはインフィニティの起動従士です。インフィニティは最強のリリーファーとして謳われ、それを操ることの出来る人間が居ませんでした。しかし、彼が登場したことでこの世界の歴史は大きく動き出したともいえるでしょう」
タカト・オーノの歴史について語るマーズ。
そこで数人の民衆は違和感を抱いた。
「突然、インフィニティに乗ることの出来る人間なんて現れるのかよ!」
「そう。そこは私たちも長年気になっていたところです。……彼は遠い場所からやってきました。異世界人、とでも言えばいいでしょうか」
その言葉にざわつく民衆。
異世界という言葉には、民衆も聞き捨てならないものがあるのだろう。特にこの時代、世界から逃げ出したいと願う人が続出している。そういう人間たちにとって――『異世界』は素敵な響きなのである。
「異世界人である彼は、この世界について何も知りませんでした。まあ、当然ですよね。異世界に住んでいた人間がこの世界の知識を持っていたら逆にそれは不思議ですから」
マーズの話は続く。
人々はマーズの話に取り込まれていった。
「ですからタカトは学校に入ることになりました。リリーファーの技術を学ぶためではなく、この世界について学ぶために……。今は亡き先代ヴァリエイブル国王もそれに賛成していました」
「先代のヴァリエイリブル王が?」
それを聞いてさらにざわつく民衆。
フィアットは徐々にマーズが何をしたいのかが解ってきた。
「成る程ね……」
理解した後、再び笑みを浮かべる。
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