絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第三百六話 第三勢力(前編)
「なぁ……帽子屋。君は私が三年間コールドスリープになっていたその間、いったい何をしていたんだ?」
「シリーズを『破壊』し過ぎた。だから監視の目が足りなくなったのだよ。そもそもの話になるが、破壊したシリーズはあまり監視に関与していなかったから、破壊してもしなくても、いずれはこれをしなくてはならないと思っていた」
ハンプティ・ダンプティは自らが蹴り上げたもの、即ち人間の頭蓋を見つめる。
「……これは、もう一つのシリーズを作ろうとした、その残骸……」
「いいや、シリーズの複製には失敗した。コアがもう新鮮ではなかったこともあったし、定義が非常に難しいのだよね。複製ということは、未だ存在しているものをも複製してしまう可能性としては捨てきれない。まぁ、そのまま完成しない可能性だって有り得るからね」
帽子屋の言動はハンプティ・ダンプティには理解出来ないものだった。理解は出来なかったが、ハンプティ・ダンプティは一つだけ理解することが出来た。
それは帽子屋が『正常』の範疇から逸脱している――狂っているということだ。何十年とこの部屋で監視し続けてきたが、やはり帽子屋は頭の螺子が数本抜けてしまっているのではないか――そう思う、或いはそう思ったほうが納得出来る機会がとても多い。
しかしながら、そうであったとしてもそれがシリーズに不必要であることとは直結しない。帽子屋は既にシリーズの中核を担っている。だから否定することや批判することは出来たとしても、シリーズから追放することは――最早現時点では不可能であった。
「……聞いているかい?」
それを聞いてハンプティ・ダンプティは我に返る。ハンプティ・ダンプティの表情を見て、帽子屋は笑みを浮かべる。まるで、そんなこと解っているとでも言いたげだった。
ハンプティ・ダンプティは数瞬だけ考え、そして頷いた。
「……だがシリーズとは似て非なる、まったく新しい存在を産み出すことは出来た」
「……………………え?」
帽子屋の言葉にハンプティ・ダンプティの目が点になった。それくらい、驚きを隠せ無いと言ってもあいだろう。
帽子屋の話は続く
。
「はっきり言って自分がこのようなものを生み出すためか、上手く世界の次元が一致しないのだよ。シリーズではなく、新たな章として生み出した。それは世界の変異に反映されることもないまま、特異点を生み出す。こっちがどう考えでもってイレギュラーなものだよ。レギュラーに拘る時代は、案外とうの昔に消えてしまったのかもしれない」
「ちょっと待て、いったいお前は何を言っている……?」
ハンプティ・ダンプティの問いを無視して、帽子屋の話は続く。
それは非条理も不具合も、何もかも包容したような、そんな優しい笑顔に包まれていた。
「僕はね、ハンプティ・ダンプティ? 世界を変えてしまいたいのだよ。そのためには、シリーズではない別の何かを生み出し、世界のコードを書き換えなければならない。それは話を聞いただけで億劫だろう?」
「世界を変える、ね……。今日日、普通の子供ですら言わないぞ?」
「子供が言うのは世界征服の範疇だろう? はっきり言ってそんな範疇、埒外に居ることが常識の僕には何の関係も無いよ。勿論のこと、それはハンプティ・ダンプティも例外では無い」
「世界を変えること……その歪みが起こり始めている。なんてことは言わないよな?」
ぴくり、と帽子屋の眉が微かに揺れる。
そして。
「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!」
何かの堰が壊れたかのように。
帽子屋は突然として笑い出した。
その原因が何であるのかハンプティ・ダンプティには解らない。いや、その理由が解る存在など、たったの一つを除いて――居るはずがなかった。
◇◇◇
インフィニティ奪還作戦は恐ろしい程、スムーズに進んでいった。理由は解らない。しかしそれはレーヴにとって好機でもあったし、油断を招いたともいえる。
そしてその結果は――思ったよりあっさりと訪れる。
『タカト! 急いでインフィニティに乗り込んで!!』
「ダメよ、タカト! インフィニティに乗り込んでしまえば、そのまま世界は……どうなるのか解っているの!?」
コックピット内部のスピーカーを通して聞こえる声はコルネリアのものだ。
対してインフィニティが格納されている倉庫から、ガラスを伝って聞こえるのはマーズのものだった。
インフィニティが格納されている倉庫まで強引に突入し、崇人がインフィニティに乗り込む。
そこまでが作戦の概要である。即ち、今はその作戦の最終段階――ほぼ完成の状態まで来ていた。
にもかかわらず、彼は悩んでいた。
本当に今、インフィニティに乗ってもいいのだろうか、ということについてだ。もしかしたら悩みではなく焦りかもしれない。十年の過去を埋めるために、彼は話を聞きたかった。そして話をしてくれたのはマーズではなくコルネリアだった。
今思えば、どうしてマーズは話をしたくなかったのだろうか? 出来事を手っ取り早く説明したいのならば、何もかも含めて説明してしまえば良かったはずだ。しかし彼女はその話をするどころか、崇人を幽閉し、自らと会う機会を減らした。
それは裏を返せば、いいことだけ言って都合の悪いことは抹消する――そのようにも感じ取ることは出来る。
しかし、マーズは違うのでは無いか。崇人は今頃になって思い始めた。マーズはほんとうに、崇人のことを思って言わなかっただけなのではないか、と。
「タカト! お願いだから……、お願いだからインフィニティには乗らないで!」
『タカト、君が悩む気持ちも解る。だが今は私に従ってくれ。インフィニティに、乗ってくれ……!』
各々が相反する要求を崇人に迫る。
しかし崇人の身体は一つしかない。それは当然だ。だから彼が従うことが出来るのも二人のうち何れかと言える。
「どうすりゃいいんだよ、俺は……!」
崇人は葛藤していた。自分が何をすればいいのか解らなかった。
だが、彼の選択は――彼自身が選択することは出来なかった。
『……ったく、何を考えているんだ。インフィニティに乗るか、乗らないか。そんな単純な二択だぞ? 男ならさっさと決めちまえ』
「はあ……? というかお前はいったい何者だよ」
刹那、彼の身体が彼の意識と相反して、ゆっくりと動き出した。足を使って、歩いていたのだ。
「お、おい! どういうことだよ、これは!?」
『いいから黙って歩け。……それとも、引きちぎられたいのか? 身体の動きと抵抗しようとする精神は、その力を強めれば身体が真っ二つになる。これに対抗する術など考えないで、素直に従うことだね』
崇人の身体は何者かに操られていた。だが、それは誰にも解ることなど無い。
彼は真っ直ぐインフィニティに向かっていた。コックピットは既に開かれている。
「インフィニティにはフロネシスがあったはずだ……。どうやってロックを解除した?」
『そりゃ言えないな。ま、強いて言うなら「情報通」が居る……ということくらいか?』
情報通。
それもただの情報通だというわけではない。この世界に精通する、特別な存在だった。
そして彼は見えざる手によって、彼は強制的にインフィニティのコックピットに放り込まれた。
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