絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第三百五話 オペレーション・インフィニティ
崇人は自室のベッドで横になっていた。とはいえ眠ることは無い。とても目が冴えてしまっているからだ。
彼は考えていた。これから自分たちが行う作戦についてだった。先程コルネリアが言っていた『順番』についても考えなくてはならなかった。
「……順番については、この際もうどうだっていいとして……やはり戦い方、か?」
一番の問題としているのは、連携についてだ。結果として崇人とエイミー、それにエイムスは連携をして戦っていくこととなる。
一度しか話したことが無い二人と、そこまでの連携をすることは可能なのだろうか?
恐らく、というよりも確実に不可能だという言葉が来るのは間違いではない。間違いではないかと聞き直してしまうくらいだと言えよう。
「コルネリアは……いったい何を考えているんだ?」
天井を見上げて崇人は小さく呟いた。
インフィニティを手に入れること、それが必ず『人々の解放』につながるのだろうか? 崇人はそれを考えていた。そんなことが出来るとは思わなかった。
まるで、何者かに操られているような……。
「いや、そんなことは無い……と思う」
首を振って、しかし途中でその考えを改める。
「そうだよ、信じてやるのが常ってもんだろ。……コルネリアは僕を助けてくれた。ならば、彼女を助けてやることもまた常」
彼は唯一その部屋にある窓から外を眺めた。
外は赤いモニュメントめいた何かが混在していたが、それだけははっきりと見えた。
沈みゆく太陽。赤々とした夕日が彼の目に飛び込んできた。
「……いい天気だ」
――このまま世界が変わらなければいいのに。平和のままであればいいのに。
彼は思ったが、しかし――世界はそう簡単に変わっちゃくれない。
それを彼は、すぐに実感することとなる。
そして、深夜。
ついにその時がやってきた。
水平線に三機のリリーファー――スメラギ二機とベスパが待機している。後方にはベスパを改良した、ベスパ・ドライ。
「ベスパとこれって何が違うんだ?」
因みにドライにはシズクが乗っている。ポーカーフェイスを貫いていて、このように崇人が呼びかけても反応が無い。
『ドライはベスパを改造したことによって産み出された、二種類目のリリーファーになります。その前にもう一種あったんだけど、改良したせいで今はもう無いとか……』
代わりに答えたのはオペレーターの代理を行っているエイルだった。どうやら普段居るオペレーターは昼間のみの活動らしく、夜間は彼女が担当しているのだという。それを聞いて、崇人はさらに、レーヴの人手不足を痛感する。敵に対抗する手段は揃っていてもそれをサポートする人間が居なければ元も子もない。
「……成る程。もしかして、今僕が使っているタイプから新式とやらにバージョンアップしたのが『ドライ』という考えになるのか?」
『まぁ、そういうことになりますね。それ以外の基本的な性能は、まったくといっていいほどに変わりませんけれど』
「三倍速くなるとかそういうことは……。あ、いや、そもそも赤くなかったか」
『?』
冗談を言おうと思ったが、そもそもその冗談は彼が昔居た世界でしか通用しないものだったことを思い出し、止めた。
『……まぁ、そんなことはどうでもいいの。今回の作戦について簡単に説明するわね。スメラギ二機はこのまま目標に突撃、ベスパはスメラギ二機に追従する形で、インフィニティが格納されている倉庫に向かう。残りは援護射撃、ってところかしら』
エイルの言葉は冷静だった。
的確な判断を下しているのは、恐らくコルネリアの言葉をそのまま伝えているからなのだろう。なぜそう崇人が思ったのかといえば、時折紙を見て読み上げているような、一本調子なところが見られるからだ。
だが、彼が考えるにそれはどうなのだろうか――とも思えた。コルネリアは今回の作戦を、絶対に頑張らねばならないものと位置付けていたはずだった。にもかかわらず、本人が表に出てこないのは些か問題である。
「護身……というわけでも無さそうだな。何というか、いつでも逃げられるようにしている、とか……」
『――午前一時ちょうど。諸君、作戦開始の時間だ』
彼がコルネリアに対し疑心暗鬼な発言をした直後のことであった。
突如スピーカーを通してコルネリアの声が聞こえたのだった。
『作戦は、先程も言った通りこの組織の要となるだろう。インフィニティはそれ程に力強く、繊細だ。インフィニティを持ち帰る必要は無い。インフィニティに来るべき起動従士を乗せるまでで良い。それさえ上手くいけば、あとは何ら問題は無い。インフィニティとはそのように……次元も時間も空間も、何もかも超越していると言えるだろう』
『まさか……! つまり私たちはインフィニティに起動従士を乗せるまでで、あとは必要ないとでも言いたいわけ!?』
コルネリアの言葉に噛み付いてきたのは、ほかでもないエイミーだった。
『別にそんなことは言っていない。あくまでも今回の目的がそれだと言うだけだ。リリーファーも起動従士も、一機一人たりとも犠牲にする気は無い』
『……そう、ならいいのだけれど』
崇人はエイミーの発言にどこか引っかかりを感じたが、しかしそれはただの違和感に過ぎないとして葬り去った。
『……ふむ、一時三分か。少々時間は過ぎてしまったが、何の問題は無い。寧ろ正常とも言えるだろう。なに、数分のミスなんて良くあることだ』
気付けば彼は独りでにリリーファーコントローラを握ろうとしていた。彼女の言葉に乗せられていたのかもしれない。
『さぁ、始めるぞ。インフィニティを在るべき場所に戻すための戦いよ。それは時間がかかるかもしれない。だが、やらなくてはならない。だが、戦わなくてはならない。これにより物語は一つの区切りを迎える。この作戦がどういう結果を得るにしろ、これによりハリー=ティパモール共和国にはダメージを与えることが出来る。諸君、それでは健闘を祈る』
そして。
今ここに『インフィニティ奪還作戦』――またの名をオペレーション・インフィニティ――が、静かに始まるのだった。
◇◇◇
「人間はどの状況下であっても争いを求める。争いを嫌う癖に血腥いことを好きになる。人間は矛盾の塊だよ。……まぁ、だからこそいつになっても監視はやめられないのだけれど」
ソファに横になりながら、帽子屋と呼ばれている男は言った。
帽子屋は正確に言えば男性ではない。さらに言うならば女性でもない。老若男女いずれにも当てはまることは無い。
帽子屋とは、そういう存在だった。
「……十年も世界を遊ばせておいて、その結論がそれかい? だとしたら何だか幼稚な結論だと思うのだけれど」
「ハンプティ・ダンプティか。君も随分と久し振りだ」
ソファの前に立っていたのは白いワンピースを着た少女だった。しかし少女は少女と呼ぶには小さかった。
「……久し振り、ねえ。十年前、君が『種を蒔いたから、暫く世界観測だけに留める』と言った時には驚いたよ。実際にこの十年は観測で済ませたわけだからね。色々なイレギュラーもあっただろうけれど……、結局は君が思い描いた通りに世界は形成された、ということで問題ないのかい?」
ハンプティ・ダンプティの発言に帽子屋はつまらなそうに頷く。水溜まりを踏んだハンプティ・ダンプティの足が汚れる。汚れで染めあがる。
「しかし、まあ……」
「何だい、ハンプティ・ダンプティ。質問があるのならば受け付けよう。何せ君は三年間のコールドスリープにあったからね。その間に何があったか把握しきれていないのだろう?」
「まぁ、そうだね……。ならば、一番に質問したいことがある」
ハンプティ・ダンプティは水溜まりに浸かっている人の頭程の大きさの何かを軽く小突いて、言った。
「君、ここで何をした? この部屋を真っ赤に染め上げる程の血……きっと数え切れない量の人間を『使用』したはずだ」
ハンプティ・ダンプティが小突いたのはほかでもない、人間の頭蓋だったのだ。
――彼らが居る部屋は、壁が白で覆われていたため、通称『白の部屋』と呼ばれていた。
だが、今は違う。その白を完全に赤に染め上げる程の血が床と壁に塗りたくられていた。流石に血の臭いはしなかった。恐らく何かの加工をしたのだろうが、だとしてもこのような部屋で引き続き監視を続ける帽子屋は『異常』だ。
彼は考えていた。これから自分たちが行う作戦についてだった。先程コルネリアが言っていた『順番』についても考えなくてはならなかった。
「……順番については、この際もうどうだっていいとして……やはり戦い方、か?」
一番の問題としているのは、連携についてだ。結果として崇人とエイミー、それにエイムスは連携をして戦っていくこととなる。
一度しか話したことが無い二人と、そこまでの連携をすることは可能なのだろうか?
恐らく、というよりも確実に不可能だという言葉が来るのは間違いではない。間違いではないかと聞き直してしまうくらいだと言えよう。
「コルネリアは……いったい何を考えているんだ?」
天井を見上げて崇人は小さく呟いた。
インフィニティを手に入れること、それが必ず『人々の解放』につながるのだろうか? 崇人はそれを考えていた。そんなことが出来るとは思わなかった。
まるで、何者かに操られているような……。
「いや、そんなことは無い……と思う」
首を振って、しかし途中でその考えを改める。
「そうだよ、信じてやるのが常ってもんだろ。……コルネリアは僕を助けてくれた。ならば、彼女を助けてやることもまた常」
彼は唯一その部屋にある窓から外を眺めた。
外は赤いモニュメントめいた何かが混在していたが、それだけははっきりと見えた。
沈みゆく太陽。赤々とした夕日が彼の目に飛び込んできた。
「……いい天気だ」
――このまま世界が変わらなければいいのに。平和のままであればいいのに。
彼は思ったが、しかし――世界はそう簡単に変わっちゃくれない。
それを彼は、すぐに実感することとなる。
そして、深夜。
ついにその時がやってきた。
水平線に三機のリリーファー――スメラギ二機とベスパが待機している。後方にはベスパを改良した、ベスパ・ドライ。
「ベスパとこれって何が違うんだ?」
因みにドライにはシズクが乗っている。ポーカーフェイスを貫いていて、このように崇人が呼びかけても反応が無い。
『ドライはベスパを改造したことによって産み出された、二種類目のリリーファーになります。その前にもう一種あったんだけど、改良したせいで今はもう無いとか……』
代わりに答えたのはオペレーターの代理を行っているエイルだった。どうやら普段居るオペレーターは昼間のみの活動らしく、夜間は彼女が担当しているのだという。それを聞いて、崇人はさらに、レーヴの人手不足を痛感する。敵に対抗する手段は揃っていてもそれをサポートする人間が居なければ元も子もない。
「……成る程。もしかして、今僕が使っているタイプから新式とやらにバージョンアップしたのが『ドライ』という考えになるのか?」
『まぁ、そういうことになりますね。それ以外の基本的な性能は、まったくといっていいほどに変わりませんけれど』
「三倍速くなるとかそういうことは……。あ、いや、そもそも赤くなかったか」
『?』
冗談を言おうと思ったが、そもそもその冗談は彼が昔居た世界でしか通用しないものだったことを思い出し、止めた。
『……まぁ、そんなことはどうでもいいの。今回の作戦について簡単に説明するわね。スメラギ二機はこのまま目標に突撃、ベスパはスメラギ二機に追従する形で、インフィニティが格納されている倉庫に向かう。残りは援護射撃、ってところかしら』
エイルの言葉は冷静だった。
的確な判断を下しているのは、恐らくコルネリアの言葉をそのまま伝えているからなのだろう。なぜそう崇人が思ったのかといえば、時折紙を見て読み上げているような、一本調子なところが見られるからだ。
だが、彼が考えるにそれはどうなのだろうか――とも思えた。コルネリアは今回の作戦を、絶対に頑張らねばならないものと位置付けていたはずだった。にもかかわらず、本人が表に出てこないのは些か問題である。
「護身……というわけでも無さそうだな。何というか、いつでも逃げられるようにしている、とか……」
『――午前一時ちょうど。諸君、作戦開始の時間だ』
彼がコルネリアに対し疑心暗鬼な発言をした直後のことであった。
突如スピーカーを通してコルネリアの声が聞こえたのだった。
『作戦は、先程も言った通りこの組織の要となるだろう。インフィニティはそれ程に力強く、繊細だ。インフィニティを持ち帰る必要は無い。インフィニティに来るべき起動従士を乗せるまでで良い。それさえ上手くいけば、あとは何ら問題は無い。インフィニティとはそのように……次元も時間も空間も、何もかも超越していると言えるだろう』
『まさか……! つまり私たちはインフィニティに起動従士を乗せるまでで、あとは必要ないとでも言いたいわけ!?』
コルネリアの言葉に噛み付いてきたのは、ほかでもないエイミーだった。
『別にそんなことは言っていない。あくまでも今回の目的がそれだと言うだけだ。リリーファーも起動従士も、一機一人たりとも犠牲にする気は無い』
『……そう、ならいいのだけれど』
崇人はエイミーの発言にどこか引っかかりを感じたが、しかしそれはただの違和感に過ぎないとして葬り去った。
『……ふむ、一時三分か。少々時間は過ぎてしまったが、何の問題は無い。寧ろ正常とも言えるだろう。なに、数分のミスなんて良くあることだ』
気付けば彼は独りでにリリーファーコントローラを握ろうとしていた。彼女の言葉に乗せられていたのかもしれない。
『さぁ、始めるぞ。インフィニティを在るべき場所に戻すための戦いよ。それは時間がかかるかもしれない。だが、やらなくてはならない。だが、戦わなくてはならない。これにより物語は一つの区切りを迎える。この作戦がどういう結果を得るにしろ、これによりハリー=ティパモール共和国にはダメージを与えることが出来る。諸君、それでは健闘を祈る』
そして。
今ここに『インフィニティ奪還作戦』――またの名をオペレーション・インフィニティ――が、静かに始まるのだった。
◇◇◇
「人間はどの状況下であっても争いを求める。争いを嫌う癖に血腥いことを好きになる。人間は矛盾の塊だよ。……まぁ、だからこそいつになっても監視はやめられないのだけれど」
ソファに横になりながら、帽子屋と呼ばれている男は言った。
帽子屋は正確に言えば男性ではない。さらに言うならば女性でもない。老若男女いずれにも当てはまることは無い。
帽子屋とは、そういう存在だった。
「……十年も世界を遊ばせておいて、その結論がそれかい? だとしたら何だか幼稚な結論だと思うのだけれど」
「ハンプティ・ダンプティか。君も随分と久し振りだ」
ソファの前に立っていたのは白いワンピースを着た少女だった。しかし少女は少女と呼ぶには小さかった。
「……久し振り、ねえ。十年前、君が『種を蒔いたから、暫く世界観測だけに留める』と言った時には驚いたよ。実際にこの十年は観測で済ませたわけだからね。色々なイレギュラーもあっただろうけれど……、結局は君が思い描いた通りに世界は形成された、ということで問題ないのかい?」
ハンプティ・ダンプティの発言に帽子屋はつまらなそうに頷く。水溜まりを踏んだハンプティ・ダンプティの足が汚れる。汚れで染めあがる。
「しかし、まあ……」
「何だい、ハンプティ・ダンプティ。質問があるのならば受け付けよう。何せ君は三年間のコールドスリープにあったからね。その間に何があったか把握しきれていないのだろう?」
「まぁ、そうだね……。ならば、一番に質問したいことがある」
ハンプティ・ダンプティは水溜まりに浸かっている人の頭程の大きさの何かを軽く小突いて、言った。
「君、ここで何をした? この部屋を真っ赤に染め上げる程の血……きっと数え切れない量の人間を『使用』したはずだ」
ハンプティ・ダンプティが小突いたのはほかでもない、人間の頭蓋だったのだ。
――彼らが居る部屋は、壁が白で覆われていたため、通称『白の部屋』と呼ばれていた。
だが、今は違う。その白を完全に赤に染め上げる程の血が床と壁に塗りたくられていた。流石に血の臭いはしなかった。恐らく何かの加工をしたのだろうが、だとしてもこのような部屋で引き続き監視を続ける帽子屋は『異常』だ。
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