絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第三百一話 シンクロテスト
エイミー・ディクスエッジがリリーファー『スメラギ』のコックピットに腰掛ける。
コックピットはリクライニングシートのような、ゆったりとした空間となっており、それが白いシールドに覆われていた。リクライニングシートの下半分――ちょうど腰付近の部分まではカバーが覆われている。
『スメラギ、レシピエン・システム、リブート』
コックピット内部に声が伝わる。それはコントロールルームのオペレーターの声であった。
「この面倒なやり取り、カットすることとかって出来ないわけ?」
『何を言っているの。確認こそ、大事なのよ。いつ何が起きてもおかしくないし。それに、あなたたちのためでもあるのよ』
すぐにオペレーターからの返事。地獄耳なのだろうか。呟く程度のトーンでしか話をしていないはずだったのに。
「はい、解りました。やればいいんでしょー、やれば」
適当な調子でオペレーターからの話を聞き、エイミーは目を瞑る。
――自分の意識が、落ちていくのを実感した。
否、これは落ちているのではない。リリーファーと同化しているのである。リリーファーと同化することにより、起動従士はリリーファーの性能を引き出す。そうして戦うのが、今のリリーファーのシステムなのであった。
『レシピエン・システム、実行三十パーセント』
死刑宣告のように冷たい声でオペレーターから告げられる。
「まるで死刑宣告よね……」
彼女は口を動かすことなく、言った。これは同化がうまくいっている証拠だと言えよう。
『レシピエン・システム、実行五十パーセント』
徐々に、或いは確実に、システムは実行されていく。
低い、重い音がコックピット内部に響き渡る。あくまでもこのシステムはダミーであり、仮想空間上に行われるテストだが、実際にシステムは動く。リリーファーは実際に動くのだ。
『レシピエン・システム、実行八十パーセント。進行状況、きわめて良好』
「了解。レシピエン・システム良好」
オペレーターの声に従い、彼女は言った。
さらに重い音がコックピット内部に響く。パーセンテージが大きくなるにつれ、その挙動も大きくなるということだ。
『レシピエン・システム――実行百パーセント。完全起動に入ります。以後、シミュレートマシンシステムと連携します――』
そして、彼女の意識は――その後のシステムに飲み込まれていった。
「シンクロテスト、五十七パーセント……かあ」
エイミーはシンクロテストを行った後、廊下を歩いていた。
彼女が言っているのはメリアから言い渡されたシンクロテストの結果であった。はっきり言ってシンクロテストの結果はいいものとは言えなかった。だからこそ、彼女は落ち込んでいたのだ。
基本、シンクロテストにおいて『実戦でも安定して動作できる』限界が五十五パーセント以上。それを考えると一応安定動作の限界よりは高い数値を示しているが、それでもギリギリである。
あれ程、エイムスに大きい口をたたいたというのに――これでは示しがつかない。
エイムスとエイミーはライバル関係にある。とはいえ、別に二人ともお互いにライバルと思っているわけではなく、特にエイミーがエイムスにライバル意識を持っているだけのことである。
「エイムスに……言わなければいい話なのだけれど」
どうせ言われないのだから隠してしまえばいい。
彼女はそう思った。
だから言わないことにしておいた。――それが一番いいと思ったから。
「やあ、エイミー。どうだった、シンクロテストの様子は?」
――そう思ったすぐに、どうして目の前にエイムスが表れたのだろうか。そう考えると彼女は溜息を吐くことしかできなかった。
目の前にエイムスが立っていた。彼の恰好は先ほどのようなパイロット用スーツだった。着替えるものがないわけではないが、いつ何が起きてもおかしくないということで、殆どの時間で起動従士はそのスーツの着用を行っている。義務ではない。あくまでも自主的に行っているのだ。
「……あなたにそれを言う義務でもあるのかしら?」
「あるよ。あれ程自信満々に僕のことを蔑んでいたのだからね。せめて……六割は超えたんだろうね? シンクロパーセンテージを超えて、余裕をもって戦えるのだろうね?」
それを聞いてエイミーは唇を噛んだ。
まさかそんなことを言われるなど思ってもみなかったからだ。
彼の話は続く。
「……まあ、いいや。今回、僕がここにやってきたのは君を呼ぶためだったし」
「私を……呼ぶため?」
首を傾げるエイミー。
その言葉にエイムスは小さく頷いた。
「そう。君を呼ぶため。もっとも、僕も呼ばれているのだけれどね。……二人ともコルネリアさんの部屋に来てくれ、とのことだよ。どうしてコルネリアさんがそんなことを言っているのか、僕にははっきりと解らないけれど」
エイミーとエイムスがコルネリアの部屋にやってきたのはそれから十分後のことだった。
コルネリアの部屋に来るのはこれが初めてではない。それに、彼女から呼び寄せられたということもまた、初めてではないのである。
「エイミー・ディクスエッジ、エイムス・リーバテッド、入ります」
ノックをして、コルネリアの部屋へと入る二人。
そこにはすでに黒いパイロットスーツを着ている女性、コルネリア、そしてエイミーが途中で出会った起動従士が居た。
「……どうやら全員集まったようね。それじゃ、説明を開始するよ。説明、と言っても簡単に言えばこちらにいる起動従士の紹介になるけれど」
そう言ってコルネリアは起動従士――崇人を指した。崇人は突然のことでどう対応すればいいのか解らなかったが、取り敢えず頭を下げた。
「……タカト・オーノだ」
その名前が放たれた瞬間――空気が凍り付いたような感覚に陥った。
当然だろう。彼女たちがその名前を忘れるはずがなかった。
「彼は……まあ、彼のことを知っている人間も少なくないだろう。あの十年前に起きた災害……その元凶とも呼ばれている。だが、彼はそういう存在である前に、起動従士だ。あの最強のリリーファー、インフィニティを使っていた」
「だから、呼び寄せた、と? もしかして政府から奪ってきた重要機密って……」
「そう。彼のことだよ」
それを聞いたエイミーとエイムスは何も言えなかった。
彼らにとって戦力が増えることはとてもうれしい。だが、それ以上に、タカト・オーノはこの世界をここまで破壊せしめた張本人であった。だから、彼らには怒りがあった。
「……はっきり言わせてもらって、その元凶と同僚として戦っていけるとでも? いくらコルネリアさんの指示でもそれは……。ねえ、エイムス?」
「え、僕?」
「そうよ。あんたもここに所属している起動従士なのだから。きちんと答えなさいよ」
「僕は……確かに、あんなことにしてしまった犯人が目の前に居るのはとても憎いですけれど……それ以前に戦力を増強する必要があるのは確かです。だって、いくらリリーファーが六機あるとはいえ、まともに動いているのは起動従士が決まっている三機だけです。これだけではいくらなんでも戦うのは難しいでしょう。ハリー=ティパモール共和国が所有しているリリーファーは我々の数倍とも言われていますから。それを考えると……」
「インフィニティの追加は妥当、ってこと!?」
激昂したのはエイミーだった。彼がまさかそんなことを言い出すとは思いもしなかったのだろう。
コルネリアの話は続く。
「……解った。そこまで言うのならば、こうしよう。どうだ、エイミー。タカトと模擬演習をやってみないか。タカトは旧式のリリーファー、君は新式リリーファーだ。もちろんタカトがインフィニティを連れ戻しても構わないが……。そんなことをするとここの存在がばれてしまうからなあ……。そういうことだからタカト、取り敢えず今回は旧式のベスパで我慢してくれ」
ベスパ。
彼にとってその単語はとても懐かしい響きだった。大会で乗ったことのあるリリーファーだったこともあるし、その後も何度見たことか。
それを聞いた崇人はゆっくりと頷く。
「……タカトはいいと言っている。これで君が勝てばタカトは戦力に入れない。同時にここからも消えてもらう。だが、タカトが勝った場合……戦力に加える。これでいいな?」
「ええ、いいわ。それで十分でしょう」
そして――エイミーと崇人の模擬演習、その約束が取り付けられることとなった。
コックピットはリクライニングシートのような、ゆったりとした空間となっており、それが白いシールドに覆われていた。リクライニングシートの下半分――ちょうど腰付近の部分まではカバーが覆われている。
『スメラギ、レシピエン・システム、リブート』
コックピット内部に声が伝わる。それはコントロールルームのオペレーターの声であった。
「この面倒なやり取り、カットすることとかって出来ないわけ?」
『何を言っているの。確認こそ、大事なのよ。いつ何が起きてもおかしくないし。それに、あなたたちのためでもあるのよ』
すぐにオペレーターからの返事。地獄耳なのだろうか。呟く程度のトーンでしか話をしていないはずだったのに。
「はい、解りました。やればいいんでしょー、やれば」
適当な調子でオペレーターからの話を聞き、エイミーは目を瞑る。
――自分の意識が、落ちていくのを実感した。
否、これは落ちているのではない。リリーファーと同化しているのである。リリーファーと同化することにより、起動従士はリリーファーの性能を引き出す。そうして戦うのが、今のリリーファーのシステムなのであった。
『レシピエン・システム、実行三十パーセント』
死刑宣告のように冷たい声でオペレーターから告げられる。
「まるで死刑宣告よね……」
彼女は口を動かすことなく、言った。これは同化がうまくいっている証拠だと言えよう。
『レシピエン・システム、実行五十パーセント』
徐々に、或いは確実に、システムは実行されていく。
低い、重い音がコックピット内部に響き渡る。あくまでもこのシステムはダミーであり、仮想空間上に行われるテストだが、実際にシステムは動く。リリーファーは実際に動くのだ。
『レシピエン・システム、実行八十パーセント。進行状況、きわめて良好』
「了解。レシピエン・システム良好」
オペレーターの声に従い、彼女は言った。
さらに重い音がコックピット内部に響く。パーセンテージが大きくなるにつれ、その挙動も大きくなるということだ。
『レシピエン・システム――実行百パーセント。完全起動に入ります。以後、シミュレートマシンシステムと連携します――』
そして、彼女の意識は――その後のシステムに飲み込まれていった。
「シンクロテスト、五十七パーセント……かあ」
エイミーはシンクロテストを行った後、廊下を歩いていた。
彼女が言っているのはメリアから言い渡されたシンクロテストの結果であった。はっきり言ってシンクロテストの結果はいいものとは言えなかった。だからこそ、彼女は落ち込んでいたのだ。
基本、シンクロテストにおいて『実戦でも安定して動作できる』限界が五十五パーセント以上。それを考えると一応安定動作の限界よりは高い数値を示しているが、それでもギリギリである。
あれ程、エイムスに大きい口をたたいたというのに――これでは示しがつかない。
エイムスとエイミーはライバル関係にある。とはいえ、別に二人ともお互いにライバルと思っているわけではなく、特にエイミーがエイムスにライバル意識を持っているだけのことである。
「エイムスに……言わなければいい話なのだけれど」
どうせ言われないのだから隠してしまえばいい。
彼女はそう思った。
だから言わないことにしておいた。――それが一番いいと思ったから。
「やあ、エイミー。どうだった、シンクロテストの様子は?」
――そう思ったすぐに、どうして目の前にエイムスが表れたのだろうか。そう考えると彼女は溜息を吐くことしかできなかった。
目の前にエイムスが立っていた。彼の恰好は先ほどのようなパイロット用スーツだった。着替えるものがないわけではないが、いつ何が起きてもおかしくないということで、殆どの時間で起動従士はそのスーツの着用を行っている。義務ではない。あくまでも自主的に行っているのだ。
「……あなたにそれを言う義務でもあるのかしら?」
「あるよ。あれ程自信満々に僕のことを蔑んでいたのだからね。せめて……六割は超えたんだろうね? シンクロパーセンテージを超えて、余裕をもって戦えるのだろうね?」
それを聞いてエイミーは唇を噛んだ。
まさかそんなことを言われるなど思ってもみなかったからだ。
彼の話は続く。
「……まあ、いいや。今回、僕がここにやってきたのは君を呼ぶためだったし」
「私を……呼ぶため?」
首を傾げるエイミー。
その言葉にエイムスは小さく頷いた。
「そう。君を呼ぶため。もっとも、僕も呼ばれているのだけれどね。……二人ともコルネリアさんの部屋に来てくれ、とのことだよ。どうしてコルネリアさんがそんなことを言っているのか、僕にははっきりと解らないけれど」
エイミーとエイムスがコルネリアの部屋にやってきたのはそれから十分後のことだった。
コルネリアの部屋に来るのはこれが初めてではない。それに、彼女から呼び寄せられたということもまた、初めてではないのである。
「エイミー・ディクスエッジ、エイムス・リーバテッド、入ります」
ノックをして、コルネリアの部屋へと入る二人。
そこにはすでに黒いパイロットスーツを着ている女性、コルネリア、そしてエイミーが途中で出会った起動従士が居た。
「……どうやら全員集まったようね。それじゃ、説明を開始するよ。説明、と言っても簡単に言えばこちらにいる起動従士の紹介になるけれど」
そう言ってコルネリアは起動従士――崇人を指した。崇人は突然のことでどう対応すればいいのか解らなかったが、取り敢えず頭を下げた。
「……タカト・オーノだ」
その名前が放たれた瞬間――空気が凍り付いたような感覚に陥った。
当然だろう。彼女たちがその名前を忘れるはずがなかった。
「彼は……まあ、彼のことを知っている人間も少なくないだろう。あの十年前に起きた災害……その元凶とも呼ばれている。だが、彼はそういう存在である前に、起動従士だ。あの最強のリリーファー、インフィニティを使っていた」
「だから、呼び寄せた、と? もしかして政府から奪ってきた重要機密って……」
「そう。彼のことだよ」
それを聞いたエイミーとエイムスは何も言えなかった。
彼らにとって戦力が増えることはとてもうれしい。だが、それ以上に、タカト・オーノはこの世界をここまで破壊せしめた張本人であった。だから、彼らには怒りがあった。
「……はっきり言わせてもらって、その元凶と同僚として戦っていけるとでも? いくらコルネリアさんの指示でもそれは……。ねえ、エイムス?」
「え、僕?」
「そうよ。あんたもここに所属している起動従士なのだから。きちんと答えなさいよ」
「僕は……確かに、あんなことにしてしまった犯人が目の前に居るのはとても憎いですけれど……それ以前に戦力を増強する必要があるのは確かです。だって、いくらリリーファーが六機あるとはいえ、まともに動いているのは起動従士が決まっている三機だけです。これだけではいくらなんでも戦うのは難しいでしょう。ハリー=ティパモール共和国が所有しているリリーファーは我々の数倍とも言われていますから。それを考えると……」
「インフィニティの追加は妥当、ってこと!?」
激昂したのはエイミーだった。彼がまさかそんなことを言い出すとは思いもしなかったのだろう。
コルネリアの話は続く。
「……解った。そこまで言うのならば、こうしよう。どうだ、エイミー。タカトと模擬演習をやってみないか。タカトは旧式のリリーファー、君は新式リリーファーだ。もちろんタカトがインフィニティを連れ戻しても構わないが……。そんなことをするとここの存在がばれてしまうからなあ……。そういうことだからタカト、取り敢えず今回は旧式のベスパで我慢してくれ」
ベスパ。
彼にとってその単語はとても懐かしい響きだった。大会で乗ったことのあるリリーファーだったこともあるし、その後も何度見たことか。
それを聞いた崇人はゆっくりと頷く。
「……タカトはいいと言っている。これで君が勝てばタカトは戦力に入れない。同時にここからも消えてもらう。だが、タカトが勝った場合……戦力に加える。これでいいな?」
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