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絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~

巫夏希

第二百七十九話 胎動Ⅱ

 凡てを無に帰す。
 それはかつて様々な人間が口にしたセリフにも思える。崇人の昔居た世界でもコンピュータゲームの世界で魔王たる存在がそんなことを口にしていた。
 もし、魔王たる存在がこの世界に居るとするならば、魔王はどんな言葉を人類にかけるのだろうか?

「……解りました。凡てを無に帰すため、タカト・オーノ。インフィニティとともに力を使いましょう」

 跪き、言う崇人。
 それを聞いて愉悦の表情を浮かべるヴァルト。

「そうだ。あとは凡て破壊するのみ。破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊する。それ以上の意味を持たない、人間が持つ古来の技術だ。いや、それに関しては技術すら必要としない」
「今回の目的は『破壊』、ただそれだけで宜しいでしょうか」

 ヴァルトは首肯。

「あぁ、上々だよ。計画も滞りなく進んでいる。あとはこのまま世界を破壊するのみ――」
「ならば、時間はあまり多くありません。急いで行いましょう。タカト、インフィニティが到着次第、インフィニティに乗り込み、活動を開始しなさい」

 レシュームの言葉に崇人は頷く。そして、彼は一礼して部屋を出て行った。

「……それにしても、不気味とは思いませんか?」

 訊ねたのはレシュームだった。

「なぜだ?」

 首だけをレシュームのほうに向き、彼は言った。
 レシュームは顎のほうに手を当て、

「なんというか、あまりにも洗脳が効きすぎている気がするのですよ」
「何を言っている。洗脳なんて効きすぎたほうが逆にいいのではないか? それに使いやすい存在ならば死ぬまで使う。それがいい。休暇なんて与えるものか。なぜなら、その行動に意味を持たないからだ。意味を考えないからだ」
「確かに……それはそうですが……」

 熟考するレシュームの頭をぽんぽんと叩くヴァルト。

「安心しろ。あいつは大丈夫だ。仮になにかあったとしても、僕が赤い翼を守る。それだけは、約束しよう」

 ヴァルトの言葉に、レシュームはただ頷くだけだった。


 ◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇


「ああ、こんなところにいらっしゃった!」

 通路を進んでいたマーズたちは、背後から迫ってくる声に気づき足を止めた。
 近づいてくる声はどこか聞き覚えのある声でもあった。
 燕尾服に身を包んだ、執事めいた男性。

「確か……グランドさん?」

 息も絶え絶えに到着したグランドだったが、息を整える暇もなく、言った。

「緊急事態です。急いでコロシアムにお戻りください! 大変なことが起きようとしているみたいなのです」
「……ここで話しなさい」

 マーズの目つきが鋭くなる。
 彼女の言葉を聞いてグランドは頷くと、語り始める。

「現在国がティパモールとこの付近一帯に非常事態宣言を発令しました。それによりこの付近とティパモール近辺の住民の方々は直ちにヴァリス城へ避難する必要が出てきました。しかしながら手が足りずどうすればいいのか我々も困っていたのですが……まもなくイグアス大臣を筆頭に部隊が到着するとのことで」
「ちょっとまて! 部隊? 避難? 非常事態宣言? そんなこと聞いてもいないし、それを発令することの重大なことが起きたというのか!?」
「起きたよ、今ここで」

 声が聞こえた。
 一歩、また一歩とゆっくりこちらに向かってくる。
 そして、漸くその声の主の姿が見えてくる。
 その存在は黒い服を着ていた。しかしそれは恐ろしい程に肌を隠していなかった。豊満な胸が殆ど露わになっていたし、黒い鍔の広いとんがり帽子を被っていた。背中も恐らく殆ど見えているのだろうが、黒いマントでそれは見ることができない。
 笑みを浮かべて――いわゆる『魔女』がそこに立っていた。

「あら……。どうやら、私の聞いていた話とは違ったストーリィになっているみたいね」

 魔女は言った。
 マーズは魔女をにらみつつ、訊ねる。

「どういうこと?」

 魔女は妖艶な笑みを浮かべ、

「私の聞いていた話だとここに、この間戦った少年も来るはずだったのだけれど……ああ、そうだった。少年はさっさと捕まって、今はアインの指示を受けているのだったっけ。私としたことが忘れていた」
「……ということはあなたを倒して先に進めばタカトは居るのよね?」

 マーズは護身用に所持していたナイフを取り出す。
 それを見て魔女は高笑い。

「あなた……魔女にそれで挑むつもり?! 流石に笑っちゃうわ……。馬鹿なんじゃないの?」
「馬鹿かもしれない。でも、私はあなたを倒さねばならない。私たちは! あなたを倒して、タカトに会わねばならない!」
「それもそうよね。インフィニティを悪用されれば世界は滅ぶかもしれない。あの坊ちゃんはそれを思って、あの子を使っているのかもしれないけれど。……はっきり言って私たちにはなんの関係もないわ。シリーズがそう言っているから、指示に従っているというだけ。あの白い箱庭から滅多に登場しなくなったシリーズの代わりに、外の世界で汚れ仕事をするのが私たち『スナーク狩りハント』の仕事なのだから」
「スナーク狩り……」

 マーズは魔女の言葉を反芻する。
 魔女はゆっくりとこちらに近づいてくる。

「……でもそんなこと覚えてなくても別に構わないわよ。だって、あなたたちは――ここで死ぬのだから」

 持っていた杖を、振り翳す。

「――雷の力を、我に与えよ!!」

 雷撃が、電撃が、降りかかる。雷撃はちょうどマーズの一歩前辺りに直撃した。
 冷や汗をかいた彼女だったが、それでも後退することは無かった。

「ヴィエンス、コルネリア、それにリモーナ。あなたたちはグランドさんの指示に従ってさっさと逃げなさい」
「そんな……!」

 マーズの言葉に動揺する一同。
 いち早く行動したのはヴィエンスだった。

「……コルネリア、リモーナ。行こう。助けを待っている人が居る。それを救うのも、俺たち騎士団の役目とは思えないか?」
「救う、騎士団? あんたたち、ほんとに救えると思っているのかしらぁ?」

 おちょくっている。
 魔女は彼らの感情を逆なでしていた。

「何が言いたい!」

 コルネリアは一歩前に出て、魔女に進言する。

「簡単よ。……これからやってくる部隊とやらは民衆を救いに来たのではない。混乱を収束させに来たのよ。そのためならばどんな犠牲も厭わない……。部隊はそう考えている。少なくともそのリーダーを務める、イグアス・リグレーはね」
「イグアス大臣が……!? まさか! そんなこと……」
「有り得ない、って?」

 マーズの言葉に返す魔女。
 彼女の心の隙間に入るように、ねっとりと粘っこく言う。

「……一年前の『赤い翼』の事件。あなたも覚えているでしょう? 事態を収束させるためならばどのような犠牲を払ってでもいい。そんな命令をあなたは受けたはずよ。忘れたとは言わせない。今が平和の世界だからそんなこと忘れてもいい……そんなこと思っていたのかしら? だとしたらその甘い考えは捨てたほうがいいわね。だってこれから始まるのですから。大いなる時代が。人間がどん底まで叩きのめされ、生きていく、そんな『冬』の時代が!」

 冬の時代。
 それは季節的な意味ではなく、また別の意味だということをマーズは理解していた。
 スナーク狩り――ひいてはシリーズが行おうとしているのは、人間世界のリセット。そのために赤い翼を利用し、ひいてはインフィニティをトリガーとしている。

「あなたたち……インフィニティをトリガーにしてまで、何をする気なの!?」
「インフィニティはシリーズによって、いや、正確にはシリーズのひとりによって作られたもの。その時点でシリーズの中にはその計画の根幹となるものが出来上がっていた……そういう仮説があるとしたら?」

 魔女は、言った。
 それは彼女にとって予想外のことだった。
 しかしながら、それによってインフィニティの謎――その一部が解明したようにも思えた。
 インフィニティは今まで誰が開発したのか明らかになっていなかった。正確には大科学者である『O』が開発した――という寓話もあるが、それは所詮寓話に過ぎず、結局のところ誰が開発したのか分からずじまいだった。
 しかし、人間という枠から外れた『シリーズ』が開発したというのなら話は別だ。それならば開発したのがOという不特定な人物であるということも頷ける。

「それじゃOはシリーズの誰かに……」
「オー? ああ、そうだったっけ。人間の世界ではインフィニティを開発したのはオーというアルファベットで書かれている形だったかな。……それは正確には違うんだよ。それは開発者が間違ったと言ってもいいのだけれど、彼の名前がOから始まったというのもあるし、それに関連付けてネーミングしたのもある。……あなたはギリシャ文字というのを聞いたことがあるかしら?」

 ギリシャ文字。
 かつてあった世界は、様々な言語に分かれていた。そしてその大半は淘汰されていった。現在残っているのはマーズたちが普通に使うことのできる、ルシュア語のみとなる。
 ギリシャ文字は特殊な形態にあったと言われているが、文献があまり残っていないからそれが人間に広まっていることはない。

「ギリシャ文字というのは二十六の文字から構成されている。それぞれ小文字と大文字にね。そしてその最後の大文字というのは、俗に『終わり』を意味している……。最終或いは究極とも言われるけれど、結局はその類に入るもの。そしてその文字は、こう読まれる」

 魔女は空に文字を描く。
 人差し指で直線に膨れ上がったものが出来たような、そんな形を描いた。
 文字を描いたあと、魔女は口に手を当て、呟いた。

「――Ωオメガ、とね」

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