絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第二百七十六話 通路
「まさかこんなところに通路があるとはな……」
マーズは呟きながら通路を進んでいた。今ハリー騎士団はマーズを先頭にし、殿をヴィエンスが務める形で進んでいた。
通路の広さは人一人分、さらにそれから若干の余裕がある。壁はコンクリートで出来ており、とても質素なつくりとなっていた。
「この通路はただの従業員用のそれに見えますけれど……。特に何の問題も無さそうですし」
訊ねたのはコルネリアだった。
彼女の言う通り、ここはただの従業員用通路だった。それ以上でもそれ以下でもない。かといって何も仕掛けが無いかと言われればそれは嘘になる。
「従業員通路として設計されたこの通路……恐らく赤い翼の通用口として使われていた可能性がある」
「どうしてですか」
コルネリアは訊ねた。マーズの言葉に違和を抱いていたわけではない。疑問に思ったというよりもどうしてその結論に至ったのかが気になったのだ。
それに対してマーズは足元を指差す。
「これを見ろ」
そこにあったのは鳥の徽章だった。いや、正確には鳥だったがその翼が炎だった。煌々と燃えていた。
「これは……赤い翼の徽章……!」
コルネリアの言葉にマーズは頷く。
「そうだ。その通りだ。赤い翼の徽章がこんなところに落ちている。罠かもしれないが……だが、彼らがここを使っていた可能性はこれで拭いきれなくなった」
仮に罠であったとしても、それを確認する必要がある。彼女たちはそう考えた。
それは確かに正しいだろう。だが、それと同時に敵に見つかりやすくなる危険性も孕んでいる。
とはいえ彼女たちにとってそんなリスクよりもインフィニティのパイロットを確保することが優先された。そうでないと敵に洗脳などされてしまっては大変なことになってしまうからだ。
仮に洗脳した人間が居たとしたら、その個人或いは集団にとって最強の味方となり得るだろう。なぜなら現時点においてインフィニティは最強のリリーファーなのだから。
「インフィニティが最強のリリーファーたる所以……ですか?」
マーズは歩きながら、団員に訊ねる。
「そりゃ当然でしょう。ほかのリリーファーが持ち合わせない装備ですよ。それを補うためのエネルギー生成もすごいし、それを操縦できるのはタカトだけってのもあれですがね」
言ったのはコルネリアだった。
それはそのとおりだ。インフィニティは最強のリリーファーとして名高いのはほかのリリーファーに装着することの出来ない武器が多数揃っているからである。
その武器さえ使えれば世界を支配することも容易だろう。それ程にインフィニティはリリーファーというカテゴリから既に超越した存在だといえる。
「だからこそ……だからこそ、インフィニティは正しい使い方が出来る人間のもとに無くてはならない。あれがテロリストの手に落ちてしまえば……何が起きるのか容易に考えられる」
殺戮か、破壊か。
少なくともその先に見えるのは良い未来でないことは確かだった。
「とにかく急がなくちゃ……!」
マーズ率いるハリー騎士団の面々はそう言って通路を駆け出していく――。
◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇
「ところで、どうやって世界を破壊するつもりだい?」
「世界を破壊するんじゃないよ。あるべき段階まで下げるんだ。具体的には人間から文明を奪う」
「文明を奪う……それは石器とかを使わせるということか? 人間が初めて火を使うことが出来、喜び、食事を作ることができた時代レベルにまで?」
通路をハンプティ・ダンプティと帽子屋が歩く。ハンプティ・ダンプティといえば未だに少女の姿をしていた。彼女曰く、そのほうが動きやすいのだという。
ハンプティ・ダンプティの問いに帽子屋は微笑む。
「流石にそこまではしないよ。それに、そこまでしてしまったら計画が失敗に終わってしまうだろう?」
「計画というが……まだ具体的な計画の、その凡てを誰も理解していないぞ。凡て帽子屋、君の心の中で留まっている。だから誰も知らないし誰も同調できない。アリスとともに私たちは世界を監視し続けてきた。それにほんの少しの『刺激』をあたえるものとなる……我々はそうなると思ったから、その計画に賛同したのだ。それが実は肩透かしだったとなると……どうなるかは把握しているだろうな?」
「分かっているよ」
帽子屋は深く溜息を一つ。
「だから計画の一端を見せようとしているのだから」
帽子屋は立ち止まる。
そこにあったのは巨大な扉だった。彼らの身体の数倍もある大きさの扉がそこに屹立していた。
その扉には大きくこう書かれていた。
――関係者以外立ち入りを禁ず。
そのとなりには小さく『produceed by Dias and Retenberg』と書かれていた。
「……これはいったい?」
「まあ見ていればわかるよ。それは因みに開発者の名前だ。正確にはあるグループの名前とも言えるがね」
そう言って帽子屋は扉をゆっくりと開けた。
ゆっくりと扉が開く。それをただじっと見つめるハンプティ・ダンプティと帽子屋。
いったいその先に何があるのか。そして彼は何を考えているのかこれといって掴めないところが、帽子屋にはあった。そう思っていたハンプティ・ダンプティは帽子屋を今ひとつ信用していなかった。
彼に対して抱いていたのは、圧倒的恐怖。
シリーズの中堅の立ち位置という彼だが、既に二体のシリーズを『破壊』している。彼はシリーズの中にいてシリーズを存続させようとしていないのではないか。そう思うくらいだ。
だからこそ、彼には疑念を抱いているのだ。いつ反逆を為出かすか解らない。だが、反逆をした時、ハンプティ・ダンプティはそれに抗うことが出来るのか、アリスを守ることが出来るのか……そう考えると圧倒的不利であることは明らかだった。
帽子屋の凡てを手に入れることは無理でも、彼の戦力は把握しておかねばならない。だからこそ、常にハンプティ・ダンプティは帽子屋とともにいるのだ。
「ほら、開いたぞ……」
帽子屋はそう言って中へ入っていく。それを聞いたハンプティ・ダンプティも一歩遅れて彼の跡を追った。
中は広かった。ドーナツ状の床を彼らは歩いた。壁にも模様があるのだが、ハンプティ・ダンプティはそれよりも別のものに惹きつけられた。
そこにあったのは大きなガラス管だった。ガラス管の中には緑色の液体が満たされており、そして、そこに居たのは――。
「これは……人間?」
巨大な女性が、一糸まとわぬ姿で浮かんでいた。
「人間じゃあない。これもリリーファーだよ」
そう言う帽子屋にハンプティ・ダンプティは首を傾げる。
「……何を言っている、帽子屋? あそこにいるのは確かに人間のメス……『女性』だろう。リリーファーはもっと機械的だし直線的なフォルムを……」
「直線的なフォルムをしていないと、それはリリーファーじゃないのか?」
帽子屋の問いにハンプティ・ダンプティは何も答えられない。
そのとおり、リリーファーの定義など誰も決められない。だから、直線的なフォルムで無かったとしても、それが機械的なフォルムでなかったとしても、人間的フォルムであったとしても、リリーファーと定義されればそれはリリーファーだった。
帽子屋は恍惚とした表情で女性――否、リリーファーを眺める。
「ここまでに恐ろしい程時間がかかった。年月というのは過ぎるのが速い。特に自分に興味のある事柄を延々とやっている場合は、ね」
「帽子屋、おまえはいったい……何がしたいんだ。世界をある段階まで昇華させる、と言ったが……」
「いや、違う。文明をあるレベルまで落とすんだ。そこまで落とせば誰も僕の計画を無視することなどできなくなる。人間は再び……神を崇敬するようになるんだ」
「帽子屋……おまえ、まさか……!」
ハンプティ・ダンプティは気付いた。
今まで帽子屋が言わなかった、計画の裏側に。
「……神を作るつもりなのか!!」
ハンプティ・ダンプティは帽子屋に対し、そう激昂した。
マーズは呟きながら通路を進んでいた。今ハリー騎士団はマーズを先頭にし、殿をヴィエンスが務める形で進んでいた。
通路の広さは人一人分、さらにそれから若干の余裕がある。壁はコンクリートで出来ており、とても質素なつくりとなっていた。
「この通路はただの従業員用のそれに見えますけれど……。特に何の問題も無さそうですし」
訊ねたのはコルネリアだった。
彼女の言う通り、ここはただの従業員用通路だった。それ以上でもそれ以下でもない。かといって何も仕掛けが無いかと言われればそれは嘘になる。
「従業員通路として設計されたこの通路……恐らく赤い翼の通用口として使われていた可能性がある」
「どうしてですか」
コルネリアは訊ねた。マーズの言葉に違和を抱いていたわけではない。疑問に思ったというよりもどうしてその結論に至ったのかが気になったのだ。
それに対してマーズは足元を指差す。
「これを見ろ」
そこにあったのは鳥の徽章だった。いや、正確には鳥だったがその翼が炎だった。煌々と燃えていた。
「これは……赤い翼の徽章……!」
コルネリアの言葉にマーズは頷く。
「そうだ。その通りだ。赤い翼の徽章がこんなところに落ちている。罠かもしれないが……だが、彼らがここを使っていた可能性はこれで拭いきれなくなった」
仮に罠であったとしても、それを確認する必要がある。彼女たちはそう考えた。
それは確かに正しいだろう。だが、それと同時に敵に見つかりやすくなる危険性も孕んでいる。
とはいえ彼女たちにとってそんなリスクよりもインフィニティのパイロットを確保することが優先された。そうでないと敵に洗脳などされてしまっては大変なことになってしまうからだ。
仮に洗脳した人間が居たとしたら、その個人或いは集団にとって最強の味方となり得るだろう。なぜなら現時点においてインフィニティは最強のリリーファーなのだから。
「インフィニティが最強のリリーファーたる所以……ですか?」
マーズは歩きながら、団員に訊ねる。
「そりゃ当然でしょう。ほかのリリーファーが持ち合わせない装備ですよ。それを補うためのエネルギー生成もすごいし、それを操縦できるのはタカトだけってのもあれですがね」
言ったのはコルネリアだった。
それはそのとおりだ。インフィニティは最強のリリーファーとして名高いのはほかのリリーファーに装着することの出来ない武器が多数揃っているからである。
その武器さえ使えれば世界を支配することも容易だろう。それ程にインフィニティはリリーファーというカテゴリから既に超越した存在だといえる。
「だからこそ……だからこそ、インフィニティは正しい使い方が出来る人間のもとに無くてはならない。あれがテロリストの手に落ちてしまえば……何が起きるのか容易に考えられる」
殺戮か、破壊か。
少なくともその先に見えるのは良い未来でないことは確かだった。
「とにかく急がなくちゃ……!」
マーズ率いるハリー騎士団の面々はそう言って通路を駆け出していく――。
◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇
「ところで、どうやって世界を破壊するつもりだい?」
「世界を破壊するんじゃないよ。あるべき段階まで下げるんだ。具体的には人間から文明を奪う」
「文明を奪う……それは石器とかを使わせるということか? 人間が初めて火を使うことが出来、喜び、食事を作ることができた時代レベルにまで?」
通路をハンプティ・ダンプティと帽子屋が歩く。ハンプティ・ダンプティといえば未だに少女の姿をしていた。彼女曰く、そのほうが動きやすいのだという。
ハンプティ・ダンプティの問いに帽子屋は微笑む。
「流石にそこまではしないよ。それに、そこまでしてしまったら計画が失敗に終わってしまうだろう?」
「計画というが……まだ具体的な計画の、その凡てを誰も理解していないぞ。凡て帽子屋、君の心の中で留まっている。だから誰も知らないし誰も同調できない。アリスとともに私たちは世界を監視し続けてきた。それにほんの少しの『刺激』をあたえるものとなる……我々はそうなると思ったから、その計画に賛同したのだ。それが実は肩透かしだったとなると……どうなるかは把握しているだろうな?」
「分かっているよ」
帽子屋は深く溜息を一つ。
「だから計画の一端を見せようとしているのだから」
帽子屋は立ち止まる。
そこにあったのは巨大な扉だった。彼らの身体の数倍もある大きさの扉がそこに屹立していた。
その扉には大きくこう書かれていた。
――関係者以外立ち入りを禁ず。
そのとなりには小さく『produceed by Dias and Retenberg』と書かれていた。
「……これはいったい?」
「まあ見ていればわかるよ。それは因みに開発者の名前だ。正確にはあるグループの名前とも言えるがね」
そう言って帽子屋は扉をゆっくりと開けた。
ゆっくりと扉が開く。それをただじっと見つめるハンプティ・ダンプティと帽子屋。
いったいその先に何があるのか。そして彼は何を考えているのかこれといって掴めないところが、帽子屋にはあった。そう思っていたハンプティ・ダンプティは帽子屋を今ひとつ信用していなかった。
彼に対して抱いていたのは、圧倒的恐怖。
シリーズの中堅の立ち位置という彼だが、既に二体のシリーズを『破壊』している。彼はシリーズの中にいてシリーズを存続させようとしていないのではないか。そう思うくらいだ。
だからこそ、彼には疑念を抱いているのだ。いつ反逆を為出かすか解らない。だが、反逆をした時、ハンプティ・ダンプティはそれに抗うことが出来るのか、アリスを守ることが出来るのか……そう考えると圧倒的不利であることは明らかだった。
帽子屋の凡てを手に入れることは無理でも、彼の戦力は把握しておかねばならない。だからこそ、常にハンプティ・ダンプティは帽子屋とともにいるのだ。
「ほら、開いたぞ……」
帽子屋はそう言って中へ入っていく。それを聞いたハンプティ・ダンプティも一歩遅れて彼の跡を追った。
中は広かった。ドーナツ状の床を彼らは歩いた。壁にも模様があるのだが、ハンプティ・ダンプティはそれよりも別のものに惹きつけられた。
そこにあったのは大きなガラス管だった。ガラス管の中には緑色の液体が満たされており、そして、そこに居たのは――。
「これは……人間?」
巨大な女性が、一糸まとわぬ姿で浮かんでいた。
「人間じゃあない。これもリリーファーだよ」
そう言う帽子屋にハンプティ・ダンプティは首を傾げる。
「……何を言っている、帽子屋? あそこにいるのは確かに人間のメス……『女性』だろう。リリーファーはもっと機械的だし直線的なフォルムを……」
「直線的なフォルムをしていないと、それはリリーファーじゃないのか?」
帽子屋の問いにハンプティ・ダンプティは何も答えられない。
そのとおり、リリーファーの定義など誰も決められない。だから、直線的なフォルムで無かったとしても、それが機械的なフォルムでなかったとしても、人間的フォルムであったとしても、リリーファーと定義されればそれはリリーファーだった。
帽子屋は恍惚とした表情で女性――否、リリーファーを眺める。
「ここまでに恐ろしい程時間がかかった。年月というのは過ぎるのが速い。特に自分に興味のある事柄を延々とやっている場合は、ね」
「帽子屋、おまえはいったい……何がしたいんだ。世界をある段階まで昇華させる、と言ったが……」
「いや、違う。文明をあるレベルまで落とすんだ。そこまで落とせば誰も僕の計画を無視することなどできなくなる。人間は再び……神を崇敬するようになるんだ」
「帽子屋……おまえ、まさか……!」
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