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絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~

巫夏希

第二百五十三話 晩餐会(前編)

 ところ変わって、コロシアム近くのホール。
 午後六時を過ぎて、人々が続々と集まってきていた。人々は皆ドレスやスーツを身につけている。慣れない格好だからかその足取りや動きなどははっきりいって覚束無いものばかりであるが。

「……すっごい人だかりだなあ……。これが大会の晩餐会か……」

 ホールにやってきた崇人は、大勢の人間を見ながら、そう言った。

「タカトさんが選手の頃は無かったんですか?」

 疑問に思ったメルが、崇人に訊ねる。
 崇人は踵を返し、メルの方を向いた。

「僕が選手の頃はそもそも場所が違ったからね。そういう仰々しいものはなかったよ。ただゲストにちょっちえらい人は居た気がするけれど……」
「ペイパス王国の王族、ハリーニャ・エンクロイダーだろう。平和主義者として狙われることも多かった彼女が起動従士を育成する学校同士で争う大会にやってきたのは甚だ疑問だったが」

 メルと崇人の会話に割り込んできたのはファルバートだった。
 崇人はそうそうそれだと言って、さらに付け足す。

「……ということは、ファルバート。君も去年のを見ていたのか?」
「当たり前だ。毎年大会は会場までやってきて見学している。どのような選手がいるかどのような身のこなしかどのような戦闘能力か、毎年毎年違う選手だからな。確認しておかないと気がすまない」
「なるほどね……。まあ、そういうもんだろうな。それもいいだろうし、それが一番だろう」

 崇人はそう言ってあたりを見渡す。あたりには選手ばかりでリーダー格の人間はあまり居ないようだった。
 崇人は知る由もないが、ここに居る人間の大半は選手が占めており、リーダーなどといった役割の人間はここに来ていなかった。

「なんかあれだな……」

 崇人は頭を掻いた。

「僕はあまり出番が無さそうだ」

 そう言って踵を返すと、一路出口へと向かおうとした――その時だった。

「タカトさん、タカト・オーノさんではありませんか……?!」

 声をかけられて、崇人はそちらを振り向いた。
 そこに立っていたのは、青い髪の少年だった。群青色の目は真っ直ぐに崇人の姿を捉えていた。

「……君は?」
「ボクはレオン・グラジュエイトといいます! 東ヴァリエイブル所属の一年です!」

 ぴしっと右手を額の前にもっていき、敬礼をした。しかしながら、彼は自分で東ヴァリエイブルの所属であるといった。対して崇人は中央の所属だから、まったくといっていいほど接点がない。だから敬礼をされても全然意味が理解出来ていなかったのだ。

「えーと……どこかで会った事があるかな?」
「去年の大会を拝見していました。素晴らしいリリーファーさばきに、惚れ惚れしたのを未だに忘れられません」
「去年の……観覧していた、ということか」

 その言葉にレオンは頷く。
 レオンはまっすぐな目で彼を見つめていた。まだ起動従士の『闇』を知らない人間だ。純粋な、無垢な考えで起動従士になりたいと思っている人間だ。
 やろうと思えばそんな人間に引導を渡すことくらい容易にできるだろう。
 だが、崇人は悩んでいた。簡単に、一人の人間の将来を握ってしまっても問題ないのだろうか、ということに。
 レオンはにっこりとした笑顔で、崇人に訊ねる。

「タカトさん、どうしましたか?」

 崇人はそれを聞いて我に返った。

「い、いいや……。なんでもない……。そうか、去年のあの大会を見ていたのか……。テレビでか? それとも会場で?」
「会場でです」
「ということは、赤い翼の……」
「ええ」

 レオンの表情が次第に暗くなる。

「赤い翼が占拠したとき。タカトさんがインフィニティを呼んだとき。凡て目の前でみました」
「……そうか」
「でも、とてもかっこよかったです!」

 レオンは顔をあげて、キラキラとした目で崇人を見つめる。

「とても、とても、とってもよかったです! だから僕はタカトさんみたいな凄腕の起動従士になりたくて、この学校に……!」
「そうか」

 崇人はそう言うと、レオンの頭を撫でた。レオンは今まで会いたかった『憧れ』の存在が触ってくれている、今この状態に恍惚とした表情を浮かべていた。
 崇人は優しげな表情を浮かべて、

「頑張れよ。この大会で実力を示せば、誰だって起動従士になれる。言葉なんていらない。拳、実力だけで決めるんだ。頑張ってここまで這い上がって来い」

 それを聞いてレオンは何度も何度も頷く。

「はい、頑張ります!!」

 そしてレオンは一礼すると、自分の陣営がいる場所へと駆け出していった。
 それを見送って、崇人はぽつり呟いた。

「……平和だなあ……」
「平和というかなんというか。明日からは皆敵……いいや、今からもう敵になっていると言っても過言ではないですよ。だからこの晩餐会は表向きは他校との交流会かもしれませんが、実際は敵の素性を知るための大事なことです」

 言ったのはシルヴィアだった。
 彼女が言葉を告げた、その時だった。

『皆さん、長らくお待たせしました』

 会場が暗転し、ホールの奥にある舞台から声が聞こえた。
 そこに立っていたのはフォーマルスーツに身を包んだ男だった。白い顎髭を生やした男だったが、所作には丁寧なところがみられることから、名家の執事といったほうがいいかもしれない。ともかく、そんな感じの人間が司会よろしく舞台に立って会場に来ている人間の注目を集めていた。
 執事めいた男の話は続く。

「それではこれから、全国起動従士選抜選考大会の晩餐会を行います。先ずは今大会実行委員長からご挨拶があります」

 また長い話を聞かされるのか……選手たちはそう思って途端に表情を歪ませる。
 そんな時だった。執事めいた男の隣に、同じくスーツを着た男がやってきたのは。その男は執事めいた男に耳打ちしていった。

「……えっ、大会委員長が体調不良により欠席?」

 執事めいた男は恐らく隣にいた男から言われた言葉を反芻したのだろう。しかし近くにマイクを置いていたためか、その声はまるまる会場全体に届いてしまった。
 それを聞いてほっと溜息を心の中で吐いた選手はどれくらいいただろうか。きっと過半数は居たに違いない。
 溜息を吐いて、執事めいた男は司会業を続ける。

「……えーと、なんというか、大会委員長が居ないということで、なんとも残念な始まりですが……是非皆さん最後までお楽しみください! 以上です!」

 そして、強引に晩餐会の幕は開かれた。
 晩餐会には豪華な食事がテーブルに並べられた。立食スタイルの晩餐会は会話も程々に盛り上がっていった。

「シルヴィアさんですよね?」

 シルヴィアは食事をしていた。話すのが面倒臭いからだ。いろんな人と交流するのが嫌だったからだ。父親はそれを拒んだが彼女は彼女なりの考えで生きている。
 そんな彼女が、誰かに声をかけられた。
 ここで無視しても良かったのだがそうすると学校全体が悪いイメージを被ってしまうため、彼女は仕方なくそれに従った。

「なんでしょう?」

 そこに立っていたのはシルヴィアよりも背の高い男だった。ぴしっといい立ち方をしていて、学生というよりも軍人といったほうが合っているかもしれない――それくらいに、真っ直ぐな男がそこには立っていた。

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