絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第二百五十二話 隠密
「だーかーら! あいつはぜったい怪しいんですよ! 特にリーダー決定戦であっさりと負けてから! 何か裏があるようにしか思えませんっ!」
メルが感嘆符つけまくりの文句を崇人にいうのを、崇人は必死で落ち着かせようとする。
崇人としてもそれは疑問と思うことはなかった。
今、メルにそれを言われるまで。
そう考えると崇人は無能な人間のように思えてしまうが、崇人は人を信じて信じて信じ抜く人間だ――と思えば若干彼に対する情状酌量もあるだろう。
溜息を吐いて、崇人は言った。
「先ずは人を信じるのが大事だろ。信じて信じて信じ抜く。それが僕の取り柄みたいなもんだ。まあ、それを逆手に取られて使われるパターンだってあるかもしれないし、前にあったかもしれないが、今そんなことはどうだっていい。ともかく、僕は信じると決めた。君たちが疑っていようともね」
その言葉にメルやシルヴィアは頷くことしかしなかった。別に彼は彼なりの意見を述べただけだったが、彼女たちからすればただの無能としか思えないのであった。
◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇
その頃。
ほかのメンバーと別れたファルバートは一人コロシアムの近くにある街をぶらついていた。町はまだ昼間だというのに酔っ払いがちらほら見受けられた。
そもそもこの町は酒場が発展している町として国内外で有名である。ビールが名産なため、安く大量にビールが手に入るからかもしれない。ともかく、ビールが美味く、かつ安いということから、この町には酒を飲みにたくさんの人間が朝っぱらから酒場に屯しているのが現状だ。
ファルバートは誘われるようにその場所へと足を踏み入れていた。バー・ローグウェル。場末のバーである。中に入ると寂れた雰囲気が店の中を包み込んでいた。そしてそのカウンターにはその寂れた店に似合う草臥れた格好をした店主がいた。顎鬚を生やし、どちらかといえばファルバートがあまり会うことのないような人種だ。
「ここは子供が来るところじゃねえぜ」
喉を酒に焼かれました、と自分で告白するような嗄れた声で店主は言う。ファルバートに退出を求めたのだ。客がもし居たら、彼の意見に賛同することだろう。
しかし、
「まあ、そう悪いことを言うもんじゃないぜ」
気が付けばそこには一人の男がカウンターにいた。店主はそれに知っていたようだが、まさか彼がそこで助け舟を出すとは思っていなかったのか、目を丸くしていた。
「ちょ、ちょっとあんた……。まさか子供を連れ込むなんて」
「子供を連れ込んだことは悪ぃと思っているよ。だが、ちょっと見逃しちゃあくれないか。俺はこのバーが好きだ。それはこのバーの雰囲気から店主であるあんたさんのことも好きだ。だからここをそういう場所に選んだ。……いろんな『闇』を見てきたあんたなら、その言葉の意味は充分と理解できるだろう?」
それを聞いて店主は頷く。
「あ、ああ。……そいつは有難いね。嬉しいことだよ。そんなにもここを愛してくれているなんて。人が来ないバーだから、そんなことは嬉しいよ」
「人が来ないからこそ、だろ。だからこういう話だってできる。格好のポイントだよ」
「そ、そうかい。そう言ってもらえると嬉しいよ、ザンギさん」
ザンギという男は店主の言葉を聞いて、笑みを浮かべる。
そして店主はもうそれ以上何も言わなくなった。
「ありがとうございます。えーと……」
「ザンギだ。そのまま、ザンギとでも呼べばいい」
「それは駄目だ。年上にはそれなりの礼儀をする必要がある」
ファルバートが言うと、ザンギは舌打ちする。
「最近のガキはきちんと教育がなっているもんで助かるな。……さて、用件を言おう。俺は先ず『シリーズ』とやらの手下だ。だが俺はシリーズが何だか知らないし知る必要もない。知った瞬間に殺されるような悍ましい気配を感じているからな。俺だって命は惜しい。だから、俺にシリーズのことを聞かれても知らねえ。それだけは承知しておいてくれ」
その言葉を聞いてファルバートは頷く。
ザンギは並々に注がれた酒を一口啜る。
「おい、何か飲むものは欲しくないか。話が長いからな、飲み物でも飲みながら話をしたほうがいいだろうよ」
「それじゃ……というか未成年が飲める飲み物って何があるんです?」
「いろいろありますよ。だいたい言ってくれれば作ります」
「……というか、ザンギさんが飲んでる乗ってコーヒー牛乳じゃないんですか?」
ファルバートの言葉を聞いてザンギは豪快に笑った。
「これを見てそんなこというやつは初めてだぁよ! こいつはなカルーアミルクってんだ。カルーアっちゅうコーヒー・リキュールを牛乳で割ったもんだ。確かに味はコーヒー牛乳めいているが、アルコールが入っているしその度数は決して低くないぜ」
「まあ、コーヒー牛乳なら普通に作れますよ……」
店主の言葉を聞いてファルバートは、それじゃコーヒー牛乳で、とだけ言った。店主は頷くと、無言で踵を返しコーヒー牛乳を作り始める。
コーヒー牛乳が出来るまでそう時間はかからなかった。ブラウンの液体がコップに並々まで満たされている。氷がブラウンの液体の隙間から覗き込んでいたり、ミルクがまだ充分に混ざりきっていないのか白線を描いていたりしている。
「はい、コーヒー牛乳お待ちどうさま」
店主から受け渡されたそれを、ファルバートは眺める。ブラウンのキャンバスに描かれた白線と、アクセントと化している氷がとても芸術的だった。飲む前に楽しめるコーヒー牛乳があるのか、彼は知らなかったし、ここで初めて見ることになった。
「それじゃ、俺はもう飲んで半分くらい減っているが」
そう前置きして、ザンギはグラスを持ち上げる。
その行動を見て凡てを察したファルバートはグラスを持ち上げ、そしてお互いのグラスを軽くぶつけた。
そして二人は一気に一口飲んだ。
ファルバートはコーヒー牛乳を喉に流し込んで、一息吐いた。
「外は暑かったからな。とても冷たくて、身に沁みる感じが解るだろう?」
それを聞いてファルバートは頷く。
ザンギも一口飲んで、カルーアミルクの入ったグラスをカウンターに置いた。
「さて……それじゃ本題と行こうか。とはいっても、それほど重要なことでもないんだがな」
そう言ってザンギはポケットから紙を取り出した。
「それは?」
「さあな。俺も解らねえ。見るな、と帽子屋、だっけ? あいつに言われているもんだからな。そいつがいうにはお前が見れば凡て解るとか言ってた。じゃ、そういうことで」
そう言ってザンギは立って、お金をカウンターに置いていった。
「これは俺の分、そしてこの坊主の分だ」
それを受け取って店主はザンギに頭を下げる。
ザンギを見送り、店には店主とファルバートの二人だけになった。
店主はグラスをずっと拭いているだけだ。
ファルバートは大きく深呼吸する。これを開けると、何か自分が戻れなくなるようなそんな気がした。
「どうしたの。さっさと開ければいいじゃない」
気が付けばファルバートのとなりにはあの精霊が座っていた。ちょこんと座って、気が付けばファルバートの飲んでいたコーヒー牛乳に口をつけていた。
「お、おい」
「いいでしょ別に一口くらい。どうせおごりなのはかわりないんだし」
「そ、そうだけど……」
「そんなことより。開けてみれば? きっと重要なことが書いてあるに違いないわよ」
「何で解るんだ」
「精霊だから?」
精霊の適当な言葉を聞いて、ファルバートは決意した。
そして、折りたたまれた紙をゆっくりと広げていく。
広げきると、そこには文章が書かれていた。
――明日午後六時、コロシアム地下倉庫にて待つ。
「ほらほら。なんて書いてあったの? ……うーん、果たし状? デートの約束にしては仰々しいものね」
精霊の少女はぺらぺらと話すが、ファルバートの思考は追いつかなかった。
メルが感嘆符つけまくりの文句を崇人にいうのを、崇人は必死で落ち着かせようとする。
崇人としてもそれは疑問と思うことはなかった。
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そう考えると崇人は無能な人間のように思えてしまうが、崇人は人を信じて信じて信じ抜く人間だ――と思えば若干彼に対する情状酌量もあるだろう。
溜息を吐いて、崇人は言った。
「先ずは人を信じるのが大事だろ。信じて信じて信じ抜く。それが僕の取り柄みたいなもんだ。まあ、それを逆手に取られて使われるパターンだってあるかもしれないし、前にあったかもしれないが、今そんなことはどうだっていい。ともかく、僕は信じると決めた。君たちが疑っていようともね」
その言葉にメルやシルヴィアは頷くことしかしなかった。別に彼は彼なりの意見を述べただけだったが、彼女たちからすればただの無能としか思えないのであった。
◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇
その頃。
ほかのメンバーと別れたファルバートは一人コロシアムの近くにある街をぶらついていた。町はまだ昼間だというのに酔っ払いがちらほら見受けられた。
そもそもこの町は酒場が発展している町として国内外で有名である。ビールが名産なため、安く大量にビールが手に入るからかもしれない。ともかく、ビールが美味く、かつ安いということから、この町には酒を飲みにたくさんの人間が朝っぱらから酒場に屯しているのが現状だ。
ファルバートは誘われるようにその場所へと足を踏み入れていた。バー・ローグウェル。場末のバーである。中に入ると寂れた雰囲気が店の中を包み込んでいた。そしてそのカウンターにはその寂れた店に似合う草臥れた格好をした店主がいた。顎鬚を生やし、どちらかといえばファルバートがあまり会うことのないような人種だ。
「ここは子供が来るところじゃねえぜ」
喉を酒に焼かれました、と自分で告白するような嗄れた声で店主は言う。ファルバートに退出を求めたのだ。客がもし居たら、彼の意見に賛同することだろう。
しかし、
「まあ、そう悪いことを言うもんじゃないぜ」
気が付けばそこには一人の男がカウンターにいた。店主はそれに知っていたようだが、まさか彼がそこで助け舟を出すとは思っていなかったのか、目を丸くしていた。
「ちょ、ちょっとあんた……。まさか子供を連れ込むなんて」
「子供を連れ込んだことは悪ぃと思っているよ。だが、ちょっと見逃しちゃあくれないか。俺はこのバーが好きだ。それはこのバーの雰囲気から店主であるあんたさんのことも好きだ。だからここをそういう場所に選んだ。……いろんな『闇』を見てきたあんたなら、その言葉の意味は充分と理解できるだろう?」
それを聞いて店主は頷く。
「あ、ああ。……そいつは有難いね。嬉しいことだよ。そんなにもここを愛してくれているなんて。人が来ないバーだから、そんなことは嬉しいよ」
「人が来ないからこそ、だろ。だからこういう話だってできる。格好のポイントだよ」
「そ、そうかい。そう言ってもらえると嬉しいよ、ザンギさん」
ザンギという男は店主の言葉を聞いて、笑みを浮かべる。
そして店主はもうそれ以上何も言わなくなった。
「ありがとうございます。えーと……」
「ザンギだ。そのまま、ザンギとでも呼べばいい」
「それは駄目だ。年上にはそれなりの礼儀をする必要がある」
ファルバートが言うと、ザンギは舌打ちする。
「最近のガキはきちんと教育がなっているもんで助かるな。……さて、用件を言おう。俺は先ず『シリーズ』とやらの手下だ。だが俺はシリーズが何だか知らないし知る必要もない。知った瞬間に殺されるような悍ましい気配を感じているからな。俺だって命は惜しい。だから、俺にシリーズのことを聞かれても知らねえ。それだけは承知しておいてくれ」
その言葉を聞いてファルバートは頷く。
ザンギは並々に注がれた酒を一口啜る。
「おい、何か飲むものは欲しくないか。話が長いからな、飲み物でも飲みながら話をしたほうがいいだろうよ」
「それじゃ……というか未成年が飲める飲み物って何があるんです?」
「いろいろありますよ。だいたい言ってくれれば作ります」
「……というか、ザンギさんが飲んでる乗ってコーヒー牛乳じゃないんですか?」
ファルバートの言葉を聞いてザンギは豪快に笑った。
「これを見てそんなこというやつは初めてだぁよ! こいつはなカルーアミルクってんだ。カルーアっちゅうコーヒー・リキュールを牛乳で割ったもんだ。確かに味はコーヒー牛乳めいているが、アルコールが入っているしその度数は決して低くないぜ」
「まあ、コーヒー牛乳なら普通に作れますよ……」
店主の言葉を聞いてファルバートは、それじゃコーヒー牛乳で、とだけ言った。店主は頷くと、無言で踵を返しコーヒー牛乳を作り始める。
コーヒー牛乳が出来るまでそう時間はかからなかった。ブラウンの液体がコップに並々まで満たされている。氷がブラウンの液体の隙間から覗き込んでいたり、ミルクがまだ充分に混ざりきっていないのか白線を描いていたりしている。
「はい、コーヒー牛乳お待ちどうさま」
店主から受け渡されたそれを、ファルバートは眺める。ブラウンのキャンバスに描かれた白線と、アクセントと化している氷がとても芸術的だった。飲む前に楽しめるコーヒー牛乳があるのか、彼は知らなかったし、ここで初めて見ることになった。
「それじゃ、俺はもう飲んで半分くらい減っているが」
そう前置きして、ザンギはグラスを持ち上げる。
その行動を見て凡てを察したファルバートはグラスを持ち上げ、そしてお互いのグラスを軽くぶつけた。
そして二人は一気に一口飲んだ。
ファルバートはコーヒー牛乳を喉に流し込んで、一息吐いた。
「外は暑かったからな。とても冷たくて、身に沁みる感じが解るだろう?」
それを聞いてファルバートは頷く。
ザンギも一口飲んで、カルーアミルクの入ったグラスをカウンターに置いた。
「さて……それじゃ本題と行こうか。とはいっても、それほど重要なことでもないんだがな」
そう言ってザンギはポケットから紙を取り出した。
「それは?」
「さあな。俺も解らねえ。見るな、と帽子屋、だっけ? あいつに言われているもんだからな。そいつがいうにはお前が見れば凡て解るとか言ってた。じゃ、そういうことで」
そう言ってザンギは立って、お金をカウンターに置いていった。
「これは俺の分、そしてこの坊主の分だ」
それを受け取って店主はザンギに頭を下げる。
ザンギを見送り、店には店主とファルバートの二人だけになった。
店主はグラスをずっと拭いているだけだ。
ファルバートは大きく深呼吸する。これを開けると、何か自分が戻れなくなるようなそんな気がした。
「どうしたの。さっさと開ければいいじゃない」
気が付けばファルバートのとなりにはあの精霊が座っていた。ちょこんと座って、気が付けばファルバートの飲んでいたコーヒー牛乳に口をつけていた。
「お、おい」
「いいでしょ別に一口くらい。どうせおごりなのはかわりないんだし」
「そ、そうだけど……」
「そんなことより。開けてみれば? きっと重要なことが書いてあるに違いないわよ」
「何で解るんだ」
「精霊だから?」
精霊の適当な言葉を聞いて、ファルバートは決意した。
そして、折りたたまれた紙をゆっくりと広げていく。
広げきると、そこには文章が書かれていた。
――明日午後六時、コロシアム地下倉庫にて待つ。
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