絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第二百四十三話 リーダー決定戦(後編)
「『同調』については幾つか方法がある」
少女の話はそこから始められた。
「だが基本的には起動従士がリリーファーに合わせるのが一般的だし簡単。それ以外の方法は無いわけではないけど、それでもこの方法に比べれば難易度はグンと跳ね上がる」
「御託はどうだっていい。いいからその方法を教えろ」
ファルバートは焦っていた。それはきっとシルヴィアが健闘しているからだろう。ファルバートは契約して多大な力を手にいれた(あくまでもそれは契約の一種に過ぎないのだが)。にもかかわらず、ファルバートが力を発揮出来ないか、或いは――それは彼が出来ることなら考えたくなかったが――シルヴィアが強すぎるか。
この差を埋めるには、さらに何か策を講じる必要がある、というわけだ。
「簡単ですよ、念じればいい。そして、我を忘れる程に……狂えばいい」
「それで同調が完了すると?」
「ええ。ですが『やりすぎ』には注意してくださいね?」
そう言って少女は再び姿を消した。この判断は自分で決めろ――彼女はそう言っているようにも思えた。
同調のメリット、デメリットについて少女から凡て聞いた。あとは彼がどう判断を下すか、だ。
その頃、シルヴィアは違和を抱いていた。今まで攻撃を繰り返していたファルバートが、ここ暫く守りだけなのだ。何か作戦があるのかもしれないが、だとしても不気味だった。
(何を企んでいる、ファルバート……)
彼女は考える。だが、少なくとも今このタイミングが攻撃を行う絶好のチャンスだということは、彼女にだって解っていた。
とはいえ、やはり気になるのはファルバートが攻めから守りに転じたことだ。今の状況でそんなことをする必要などない。特に今は模擬戦だ。彼女たちの魂は『0』と『1』に量子化されたものだ。はっきり言ってただのデータに過ぎない。それはもちろん今彼女たちが戦っているフィールドもリリーファーもだ。
(このまま……攻撃を続けてしまって問題ないだろうか?)
シルヴィアは何か嫌な予感がしていた。それは彼女の経験というよりもただの勘に近い。
このまま攻撃を続けていけばいつかはファルバートの乗るリリーファーは行動不能に至るに違いない。
だがしかし、そうだとしても。
やはりどこか腑に落ちないところなのは事実だ。何が起きるか解らないから……というのもあるし、こうしている間にも相手のペースに乗せられてしまう。
(だったら乗せられる前に、こちらからのせてやってやれば……!)
彼女はそう思って、リリーファーコントローラを強く握る。そしてそのリリーファーはファルバートのリリーファーの方へと駆け出していった。
◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇
ファルバートのリリーファーがゆっくりと姿を現す。
気がつけば彼女たちのリリーファーが戦っている場所には霧が立ち込めてきていた。
「いつの間にこんなに霧が……!」
シルヴィアは独りごちると、改めて発見したリリーファーを見る。
そこにあったのはリリーファーだった。それは間違いなかった。
だが、問題だったのはそのフォルム。頭から角を生やし、丸くなっていた身体は何処と無く角張っているようにも見える。
「おかしいわね……。ファルバートが乗っていたのはわたしと同じ、何の変哲もないそれだったはずなのに……」
そう。
ファルバートとシルヴィアが乗っているリリーファーは何れも標準的に存在しているものだ。
だが、今目の前にあるファルバートのリリーファーは彼女の乗るリリーファーとは違う、別のものだった。そのリリーファーというよりも、そのリリーファーの別のフォルム……という言い方のほうがもしかしたら正しいのかもしれない。
その別フォルムになった、ファルバートのリリーファーは動くことなくただその場に立ち尽くしていた。
「……あれは……ほかのフォルムとして見ていいのかしら? というかあれって若干反則めいた気もするけど」
シルヴィアはそう言いながらも、「ま。別にいいよね」とだけ言って、リリーファーに装備されてある銃を撃ち放った。
◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇
ファルバートは『少女』の言ったとおりに同調を行った。
しかし、同調ははっきり言って失敗に終わった。同調しようとしたが、断られたのだ。
「あらあら。リリーファーからそれを断られるケースなんてあまりにも珍しいことですよ。珍しいケースです。はっきり言って、この学校に通うことが出来ながらもそれが起きるなんておかしな話です。それくらいのこと。なのにあなたはそれが達成できてしまった……。あなたはもしかしたら『悪運』がいいのかもしれないですね」
少女は笑いながら、ファルバートに問いかける。
「何が言いたい……!」
笑みを浮かべてこの状況を喜んでいるように思える少女とは対極的に、ファルバートは憤りを感じていた。
どういうことだ? 同調は誰でもできるんじゃないのか? どうして自分には同調ができないのか? このままでは力及ばずして負けてしまう……ザイデル家の面目が丸潰れになる。また、ゴーファン家に?
彼の頭の中ではずっとそんなことが巡り巡っていた。だが、それからひとつの結論を導くことは非常に困難と化していた。
「……簡単なことです。あなたは同調ができなかった。同調が出来ないということはリリーファーと安定した……そうですね、人間と人間どうしで言えばこの場合は『絆』とでも言うんでしょうかね。それがないってわけです。リリーファーと絆があって、『心』が通じ合っていればこそ、起動従士は起動従士としての真価を発揮するんですよ」
「心……絆……。ふざけるのも大概にしろ! これはロボットだぞ!? そんなものに心だの絆だのあるわけが……」
「それが、あなたの失敗した原因」
そう言って、少女はファルバートの頭を指差した。
「有名な起動従士を父に持つ割にはリリーファーに対する考えがおかしいと思いますがね。少々改めてみる必要があるんじゃないですか?」
「考えがおかしい……? 馬鹿いえ! 僕はザイデル家の長男! リリーファーを操る才能に秀でているのはもはや当然のことだ!」
「慢心、ってやつですかね。そこまできたらなんかもう恥ずかしいとも思わないんですか。慢心は自分を滅しますよ。それくらい理解したほうがいいと思いますがね?」
「あんた……僕の心情を理解している『つもり』なのか知らないが、さっきから言葉が出過ぎなんじゃないのか!」
「言葉が出過ぎ? ああ、もしかしたらそうかもしれませんね。ただ少なくとも私はそんなことを思った覚えなど一度たりともありませんが」
そして。
ファルバートの乗るリリーファーは動かないまま、そのままシルヴィアのリリーファーから放たれた銃弾をモロに受けて、崩れ落ちた。
「なんというか……あまりにもあっさりとした決着だったな。特にファルバート、後半のあれはなんだ? まったく動かないまま、何か独り言のようなことをぶつぶつと。それでリーダーになろうと思ったんだから片腹痛い」
対戦が終わり、シミュレートマシンから出たファルバートとシルヴィアを出迎えたのはマーズだった。先ず彼女は戦闘を終えた二人に慰労の意味を込めて拍手を送ったあと、それぞれに評価を下した。
ファルバートに対する評価は、誰がどう見てもひどいものだった。当然だろう、後半のあれは彼自身以外が見たらただの呟きにしか見えない。恐れをなして動くのをやめた、だけにしか見えないのだから。
マーズはファルバートからシルヴィアの方に視線を移して、
「対して、シルヴィアはよくやったと言える。さすが父親が有名な起動従士だけある。父の名前を語っても申し分ない実力だった。これならシルヴィアを改めてリーダーとして選出しても誰も文句を言う人間もいないだろうな」
「ありがとうございます」
シルヴィアはマーズの評価に顔を赤らめながら、感謝の思いを伝えた。
ファルバートはもう、何も考えたくなかったのか、誰にも挨拶を交わさず、そのままゆっくりと部屋を後にした。
それを見てマーズはただ小さく溜息を吐くだけだった。
少女の話はそこから始められた。
「だが基本的には起動従士がリリーファーに合わせるのが一般的だし簡単。それ以外の方法は無いわけではないけど、それでもこの方法に比べれば難易度はグンと跳ね上がる」
「御託はどうだっていい。いいからその方法を教えろ」
ファルバートは焦っていた。それはきっとシルヴィアが健闘しているからだろう。ファルバートは契約して多大な力を手にいれた(あくまでもそれは契約の一種に過ぎないのだが)。にもかかわらず、ファルバートが力を発揮出来ないか、或いは――それは彼が出来ることなら考えたくなかったが――シルヴィアが強すぎるか。
この差を埋めるには、さらに何か策を講じる必要がある、というわけだ。
「簡単ですよ、念じればいい。そして、我を忘れる程に……狂えばいい」
「それで同調が完了すると?」
「ええ。ですが『やりすぎ』には注意してくださいね?」
そう言って少女は再び姿を消した。この判断は自分で決めろ――彼女はそう言っているようにも思えた。
同調のメリット、デメリットについて少女から凡て聞いた。あとは彼がどう判断を下すか、だ。
その頃、シルヴィアは違和を抱いていた。今まで攻撃を繰り返していたファルバートが、ここ暫く守りだけなのだ。何か作戦があるのかもしれないが、だとしても不気味だった。
(何を企んでいる、ファルバート……)
彼女は考える。だが、少なくとも今このタイミングが攻撃を行う絶好のチャンスだということは、彼女にだって解っていた。
とはいえ、やはり気になるのはファルバートが攻めから守りに転じたことだ。今の状況でそんなことをする必要などない。特に今は模擬戦だ。彼女たちの魂は『0』と『1』に量子化されたものだ。はっきり言ってただのデータに過ぎない。それはもちろん今彼女たちが戦っているフィールドもリリーファーもだ。
(このまま……攻撃を続けてしまって問題ないだろうか?)
シルヴィアは何か嫌な予感がしていた。それは彼女の経験というよりもただの勘に近い。
このまま攻撃を続けていけばいつかはファルバートの乗るリリーファーは行動不能に至るに違いない。
だがしかし、そうだとしても。
やはりどこか腑に落ちないところなのは事実だ。何が起きるか解らないから……というのもあるし、こうしている間にも相手のペースに乗せられてしまう。
(だったら乗せられる前に、こちらからのせてやってやれば……!)
彼女はそう思って、リリーファーコントローラを強く握る。そしてそのリリーファーはファルバートのリリーファーの方へと駆け出していった。
◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇
ファルバートのリリーファーがゆっくりと姿を現す。
気がつけば彼女たちのリリーファーが戦っている場所には霧が立ち込めてきていた。
「いつの間にこんなに霧が……!」
シルヴィアは独りごちると、改めて発見したリリーファーを見る。
そこにあったのはリリーファーだった。それは間違いなかった。
だが、問題だったのはそのフォルム。頭から角を生やし、丸くなっていた身体は何処と無く角張っているようにも見える。
「おかしいわね……。ファルバートが乗っていたのはわたしと同じ、何の変哲もないそれだったはずなのに……」
そう。
ファルバートとシルヴィアが乗っているリリーファーは何れも標準的に存在しているものだ。
だが、今目の前にあるファルバートのリリーファーは彼女の乗るリリーファーとは違う、別のものだった。そのリリーファーというよりも、そのリリーファーの別のフォルム……という言い方のほうがもしかしたら正しいのかもしれない。
その別フォルムになった、ファルバートのリリーファーは動くことなくただその場に立ち尽くしていた。
「……あれは……ほかのフォルムとして見ていいのかしら? というかあれって若干反則めいた気もするけど」
シルヴィアはそう言いながらも、「ま。別にいいよね」とだけ言って、リリーファーに装備されてある銃を撃ち放った。
◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇
ファルバートは『少女』の言ったとおりに同調を行った。
しかし、同調ははっきり言って失敗に終わった。同調しようとしたが、断られたのだ。
「あらあら。リリーファーからそれを断られるケースなんてあまりにも珍しいことですよ。珍しいケースです。はっきり言って、この学校に通うことが出来ながらもそれが起きるなんておかしな話です。それくらいのこと。なのにあなたはそれが達成できてしまった……。あなたはもしかしたら『悪運』がいいのかもしれないですね」
少女は笑いながら、ファルバートに問いかける。
「何が言いたい……!」
笑みを浮かべてこの状況を喜んでいるように思える少女とは対極的に、ファルバートは憤りを感じていた。
どういうことだ? 同調は誰でもできるんじゃないのか? どうして自分には同調ができないのか? このままでは力及ばずして負けてしまう……ザイデル家の面目が丸潰れになる。また、ゴーファン家に?
彼の頭の中ではずっとそんなことが巡り巡っていた。だが、それからひとつの結論を導くことは非常に困難と化していた。
「……簡単なことです。あなたは同調ができなかった。同調が出来ないということはリリーファーと安定した……そうですね、人間と人間どうしで言えばこの場合は『絆』とでも言うんでしょうかね。それがないってわけです。リリーファーと絆があって、『心』が通じ合っていればこそ、起動従士は起動従士としての真価を発揮するんですよ」
「心……絆……。ふざけるのも大概にしろ! これはロボットだぞ!? そんなものに心だの絆だのあるわけが……」
「それが、あなたの失敗した原因」
そう言って、少女はファルバートの頭を指差した。
「有名な起動従士を父に持つ割にはリリーファーに対する考えがおかしいと思いますがね。少々改めてみる必要があるんじゃないですか?」
「考えがおかしい……? 馬鹿いえ! 僕はザイデル家の長男! リリーファーを操る才能に秀でているのはもはや当然のことだ!」
「慢心、ってやつですかね。そこまできたらなんかもう恥ずかしいとも思わないんですか。慢心は自分を滅しますよ。それくらい理解したほうがいいと思いますがね?」
「あんた……僕の心情を理解している『つもり』なのか知らないが、さっきから言葉が出過ぎなんじゃないのか!」
「言葉が出過ぎ? ああ、もしかしたらそうかもしれませんね。ただ少なくとも私はそんなことを思った覚えなど一度たりともありませんが」
そして。
ファルバートの乗るリリーファーは動かないまま、そのままシルヴィアのリリーファーから放たれた銃弾をモロに受けて、崩れ落ちた。
「なんというか……あまりにもあっさりとした決着だったな。特にファルバート、後半のあれはなんだ? まったく動かないまま、何か独り言のようなことをぶつぶつと。それでリーダーになろうと思ったんだから片腹痛い」
対戦が終わり、シミュレートマシンから出たファルバートとシルヴィアを出迎えたのはマーズだった。先ず彼女は戦闘を終えた二人に慰労の意味を込めて拍手を送ったあと、それぞれに評価を下した。
ファルバートに対する評価は、誰がどう見てもひどいものだった。当然だろう、後半のあれは彼自身以外が見たらただの呟きにしか見えない。恐れをなして動くのをやめた、だけにしか見えないのだから。
マーズはファルバートからシルヴィアの方に視線を移して、
「対して、シルヴィアはよくやったと言える。さすが父親が有名な起動従士だけある。父の名前を語っても申し分ない実力だった。これならシルヴィアを改めてリーダーとして選出しても誰も文句を言う人間もいないだろうな」
「ありがとうございます」
シルヴィアはマーズの評価に顔を赤らめながら、感謝の思いを伝えた。
ファルバートはもう、何も考えたくなかったのか、誰にも挨拶を交わさず、そのままゆっくりと部屋を後にした。
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