絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第二百三十九話 交流会Ⅴ
ターム湖の畔にある小さな駅。それがマーズとシルヴィアたちの待ち合わせ場所であった。その駅にはショップもなく、待合室とトイレしかない。しかもその待合室にはエアコンが備わっていないから、暑さをしのぐことは出来ない。精々日光が遮られるくらいだろうから、感覚的には何度か涼しいのだろうが、しかし彼女たちにそれが変わった実感など無かった。
「熱い……この待合室ってエアコンとか扇風機とか、そういう送風機がないのかしら」
「駅事務室に行けばエアコンくらいありそうな気がするけど? だってあそこは精密機械盛りだくさんだし」
メルの返答を聞いてシルヴィアはうんざりしたような感じである一点を指差した。そこは駅事務室――たった今メルが言った場所だ。だが、そこは今シャッターで閉められている。
「何でかは知らないけど、駅事務室は閉まっている。簡易的な機械はあるから駅の業務はそれで何とかなるんだろうけど、それでも何か納得行かないよね。それじゃあ、駅事務室に居る人間の意義はどうなるのかって」
「別に、切符販売が駅事務室の仕事では無いと思うけど?」
メルの言葉にシルヴィアは肩を竦めて、
「きみきみぃ、そんなことを言いたいんじゃないんだよ。業務内容はともかくこんな時間に休んでること。こーれーが、議論の論点、略して議論点だよ」
「なんだかよく解らないけど、キャラクターをつけるのに必死ということでいい?」
メルはシルヴィアの言葉をばっさりと切り捨てて、話を続ける。
「……何だかなあ。最近私に厳しくない? なんというか、適当にあしらっておけば何とかなるとか思ってない?」
「チッ。ばれたか」
「今明らかに舌打ちめいた、いや、確実に舌打ちしたよね!? 絶対にしたよね!!
今のは見過ごせないぞいくら私たちが双子だからといって!! 許せるものと許せない、境界ってものがあるんじゃないかな!?」
「暑苦しいよ、こんな熱い場所でがやがや言ったって意味もなにもない。寧ろ暑さが増すだけ。そんなことして楽しいの?」
「あーもう!」
シルヴィアは頭を掻いた。時折メルはこのように毒を吐く。その相手がシルヴィアのように親族だけにならいいのだが場合によって赤の他人だって吐く。メルの外見は同世代の女子から見ればべっぴんの部類に入るだろうし、現に女友達からもメルが可愛い旨はよく聞いたことがあった。だからこそ、彼女のその毒舌がよく映えて……正確には目立ってしまうのだ。目立たざるを得ないのだ。彼女は才色兼備であるが、その才色兼備が彼女のその悪い癖をさらに増長させるといっても過言ではない。
ともかく、簡単に言えばメルの毒舌はメルの長所をまったくもって生かしきれていない。もっといえば引っ張っているということである。
「……なんというか、あんたほんとそういう性格直さないとお嫁さんにもらってくれる人いないよ?」
「私はシルヴィアといれれば何の問題もないもーん」
そう言ってメルはシルヴィアに抱きついた。
「もう、メル熱いわよ!」
「シルヴィアの身体がつめたいんだもーん」
実際はそんな冷たくなく、寧ろ彼女の方が体温的には暖かいのだが……そんなことはメルにとってどうでも良かったらしい。メルはシルヴィアと居れるだけでただよかったようだった。
「いやあ、待たせたわね!」
そう言って待合室に入ってきたのはマーズだった。マーズは膨大な荷物を持っている設定だったが、しかしながら今彼女にそういう荷物と思われるものはない。どうしたのだろうか、とファルバートは気になって、訊ねる。
「あの、荷物は」
「荷物? ああ、ここにあるわよ」
そう言って出したのはあのがま口だった。マーズは笑みを浮かべてそれを見せたが、しかしそこにいるマーズ以外の人間にはその意味が理解できていなかった。
だから、ファルバートは素直に訊ねた。
「……あの、冗談を言っています? それともふざけています? それともそのどっちもですか?」
「ふざけているつもりは私にはまったくないんだけどなあ……。寧ろこれが何だか気づいてもらわないと困っちゃうよ。これはね」
チッチッチと。マーズは人差し指を揺らす。
「違うんだなあ。これはまったくの別物だよ。ただの財布ではないんだ」
「ただの財布では……ない?」
何を言っているのか解らないのか、ファルバートはマーズの言った言葉を反芻する。
「そうよ。これはただの財布ではないの。これは魔導空間に繋がっている財布。媒介といってもいいでしょうね。それを使うことでたくさんの物品をこの財布という軽いものだけで持っていくことができる。非常に便利なものよ。あ、一応言っておくけど質量保存の法則は考えないでね」
「最後は誰に向けて言ったことなんですか……?」
シルヴィアはマーズの言葉に疑問を抱いて訊ねるが、マーズは「ん? なんでもないよー、ただの独り言だから」と受け流されてしまった。
マーズは財布をポケットに仕舞うと、
「とりあえずあとから追っかけてくる二年生を除くと全員集まった……ということでいいかな?」
「ここからその運動公園に向かうんですか?」
「いい質問だね、シルヴィア。そのとおりだよ。これから運動公園へと向かう。ここは運動公園の名前を冠していないけど……、実はここが最寄駅な訳。ここから歩けばあっという間にパッという間にたどり着くわよ」
マーズの言葉を聞いて、とりあえずシルヴィアたちはそれに従うことにした。目指すは運動公園。その運動公園まで、残りあと少しである。
◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇
崇人とヴィエンスが学校を出たのは、アリシエンスが担当している授業が終了したそのタイミングであった。本当は自習だったためか直ぐに出て行っても良かったのだろうが、結局は課題が終わらなかったためにこの時間まで残ってしまったということだ。
「急いでいかないと。待たせちまってるな」
崇人の言葉にヴィエンスは頷く。
崇人は急いで駅へと向かうため走り出した。
――ちょうどその時だった。
彼の目にある少女の姿が写りこんだのだ。その少女は可憐な少女だった。銀髪で、白いワンピースを着ている。その姿を彼は忘れたわけではなかった。
少女も崇人の方を見ていて、微笑んでいる。
「覚えている?」
その声はとても透き通っていた。そしてその声を聞いて直ぐに記憶が蘇っていく。
ティパモールの、『赤い翼』アジトで出会った少女だ。しかしながら言動がこの前と比べると少しだけ大人びたようにも聞こえる。
「……あの時、姿を消してしまって驚いたんだぞ。いったいどうやってか知らないが、無事だったんだな」
「ええ。だって私は――いや、それは言わないでおいたほうが面白いかも。私はとりあえず『この世界の記憶』を私自身に植え付けなくちゃいけないの。この世界の記憶が植え付けられれば植えつけられるほど、私の身体は精神は成長していく」
とどのつまり。
そこに立っている少女が前会った時より成長しているのはそういう事由から来ているのだという。
だがそれを直ぐに理解できるのは少ないだろう。彼もその例に漏れなかった。
「……世界の記憶を植え付ける。それに何の意味があるんだ? まるで――」
崇人が言おうとしたそれを理解した少女は首を横に振る。言わなくてもいい、ということだろうか。
少女はそれに応えるように口を開ける。
「あなたが考えていること、私に言いたいことはだいたい解っている。だから、それを言わなくていい。記憶を植え付けている、記憶を私の中にコピーして蓄積しているのは……あくまでも私の意志だということを忘れないでいてくれるなら、それでいい。それだけでいい」
「それってつまりどういうことだ――」
「おい。何をぶつぶつ『ひとりで』喋ってるんだ?」
それを聞いて彼は現実に引き戻される。その声の主はヴィエンスだった。それを聞いて彼は振り返る。
ヴィエンスは怪訝な表情を浮かべながら、そこに立っていた。
「いや、ちょっと考え事を……」
直ぐに崇人は戻る。
しかし、もうそこには少女の姿はなかった。
あの少女は、いったい――。崇人は頭脳を回転させるが、しかしその結論がすぐに出ることはなく、結局ヴィエンスとともに駅へ向かうほかなかった。
「熱い……この待合室ってエアコンとか扇風機とか、そういう送風機がないのかしら」
「駅事務室に行けばエアコンくらいありそうな気がするけど? だってあそこは精密機械盛りだくさんだし」
メルの返答を聞いてシルヴィアはうんざりしたような感じである一点を指差した。そこは駅事務室――たった今メルが言った場所だ。だが、そこは今シャッターで閉められている。
「何でかは知らないけど、駅事務室は閉まっている。簡易的な機械はあるから駅の業務はそれで何とかなるんだろうけど、それでも何か納得行かないよね。それじゃあ、駅事務室に居る人間の意義はどうなるのかって」
「別に、切符販売が駅事務室の仕事では無いと思うけど?」
メルの言葉にシルヴィアは肩を竦めて、
「きみきみぃ、そんなことを言いたいんじゃないんだよ。業務内容はともかくこんな時間に休んでること。こーれーが、議論の論点、略して議論点だよ」
「なんだかよく解らないけど、キャラクターをつけるのに必死ということでいい?」
メルはシルヴィアの言葉をばっさりと切り捨てて、話を続ける。
「……何だかなあ。最近私に厳しくない? なんというか、適当にあしらっておけば何とかなるとか思ってない?」
「チッ。ばれたか」
「今明らかに舌打ちめいた、いや、確実に舌打ちしたよね!? 絶対にしたよね!!
今のは見過ごせないぞいくら私たちが双子だからといって!! 許せるものと許せない、境界ってものがあるんじゃないかな!?」
「暑苦しいよ、こんな熱い場所でがやがや言ったって意味もなにもない。寧ろ暑さが増すだけ。そんなことして楽しいの?」
「あーもう!」
シルヴィアは頭を掻いた。時折メルはこのように毒を吐く。その相手がシルヴィアのように親族だけにならいいのだが場合によって赤の他人だって吐く。メルの外見は同世代の女子から見ればべっぴんの部類に入るだろうし、現に女友達からもメルが可愛い旨はよく聞いたことがあった。だからこそ、彼女のその毒舌がよく映えて……正確には目立ってしまうのだ。目立たざるを得ないのだ。彼女は才色兼備であるが、その才色兼備が彼女のその悪い癖をさらに増長させるといっても過言ではない。
ともかく、簡単に言えばメルの毒舌はメルの長所をまったくもって生かしきれていない。もっといえば引っ張っているということである。
「……なんというか、あんたほんとそういう性格直さないとお嫁さんにもらってくれる人いないよ?」
「私はシルヴィアといれれば何の問題もないもーん」
そう言ってメルはシルヴィアに抱きついた。
「もう、メル熱いわよ!」
「シルヴィアの身体がつめたいんだもーん」
実際はそんな冷たくなく、寧ろ彼女の方が体温的には暖かいのだが……そんなことはメルにとってどうでも良かったらしい。メルはシルヴィアと居れるだけでただよかったようだった。
「いやあ、待たせたわね!」
そう言って待合室に入ってきたのはマーズだった。マーズは膨大な荷物を持っている設定だったが、しかしながら今彼女にそういう荷物と思われるものはない。どうしたのだろうか、とファルバートは気になって、訊ねる。
「あの、荷物は」
「荷物? ああ、ここにあるわよ」
そう言って出したのはあのがま口だった。マーズは笑みを浮かべてそれを見せたが、しかしそこにいるマーズ以外の人間にはその意味が理解できていなかった。
だから、ファルバートは素直に訊ねた。
「……あの、冗談を言っています? それともふざけています? それともそのどっちもですか?」
「ふざけているつもりは私にはまったくないんだけどなあ……。寧ろこれが何だか気づいてもらわないと困っちゃうよ。これはね」
チッチッチと。マーズは人差し指を揺らす。
「違うんだなあ。これはまったくの別物だよ。ただの財布ではないんだ」
「ただの財布では……ない?」
何を言っているのか解らないのか、ファルバートはマーズの言った言葉を反芻する。
「そうよ。これはただの財布ではないの。これは魔導空間に繋がっている財布。媒介といってもいいでしょうね。それを使うことでたくさんの物品をこの財布という軽いものだけで持っていくことができる。非常に便利なものよ。あ、一応言っておくけど質量保存の法則は考えないでね」
「最後は誰に向けて言ったことなんですか……?」
シルヴィアはマーズの言葉に疑問を抱いて訊ねるが、マーズは「ん? なんでもないよー、ただの独り言だから」と受け流されてしまった。
マーズは財布をポケットに仕舞うと、
「とりあえずあとから追っかけてくる二年生を除くと全員集まった……ということでいいかな?」
「ここからその運動公園に向かうんですか?」
「いい質問だね、シルヴィア。そのとおりだよ。これから運動公園へと向かう。ここは運動公園の名前を冠していないけど……、実はここが最寄駅な訳。ここから歩けばあっという間にパッという間にたどり着くわよ」
マーズの言葉を聞いて、とりあえずシルヴィアたちはそれに従うことにした。目指すは運動公園。その運動公園まで、残りあと少しである。
◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇
崇人とヴィエンスが学校を出たのは、アリシエンスが担当している授業が終了したそのタイミングであった。本当は自習だったためか直ぐに出て行っても良かったのだろうが、結局は課題が終わらなかったためにこの時間まで残ってしまったということだ。
「急いでいかないと。待たせちまってるな」
崇人の言葉にヴィエンスは頷く。
崇人は急いで駅へと向かうため走り出した。
――ちょうどその時だった。
彼の目にある少女の姿が写りこんだのだ。その少女は可憐な少女だった。銀髪で、白いワンピースを着ている。その姿を彼は忘れたわけではなかった。
少女も崇人の方を見ていて、微笑んでいる。
「覚えている?」
その声はとても透き通っていた。そしてその声を聞いて直ぐに記憶が蘇っていく。
ティパモールの、『赤い翼』アジトで出会った少女だ。しかしながら言動がこの前と比べると少しだけ大人びたようにも聞こえる。
「……あの時、姿を消してしまって驚いたんだぞ。いったいどうやってか知らないが、無事だったんだな」
「ええ。だって私は――いや、それは言わないでおいたほうが面白いかも。私はとりあえず『この世界の記憶』を私自身に植え付けなくちゃいけないの。この世界の記憶が植え付けられれば植えつけられるほど、私の身体は精神は成長していく」
とどのつまり。
そこに立っている少女が前会った時より成長しているのはそういう事由から来ているのだという。
だがそれを直ぐに理解できるのは少ないだろう。彼もその例に漏れなかった。
「……世界の記憶を植え付ける。それに何の意味があるんだ? まるで――」
崇人が言おうとしたそれを理解した少女は首を横に振る。言わなくてもいい、ということだろうか。
少女はそれに応えるように口を開ける。
「あなたが考えていること、私に言いたいことはだいたい解っている。だから、それを言わなくていい。記憶を植え付けている、記憶を私の中にコピーして蓄積しているのは……あくまでも私の意志だということを忘れないでいてくれるなら、それでいい。それだけでいい」
「それってつまりどういうことだ――」
「おい。何をぶつぶつ『ひとりで』喋ってるんだ?」
それを聞いて彼は現実に引き戻される。その声の主はヴィエンスだった。それを聞いて彼は振り返る。
ヴィエンスは怪訝な表情を浮かべながら、そこに立っていた。
「いや、ちょっと考え事を……」
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